第34話・四苦八苦のデストロイヤー
銃口がこちらに向けられた瞬間、反応を司る電気信号は光速で脳髄を駆け抜けた。
「っ!」
少し指を動かし、手元に盾が無いことに気づき刹那動きが止まった。
その一瞬の判断ミスが致命的な遅れを生んでしまった。
「撃て!!」
その号令と共に構えられたライフルから銃弾が発射される。
当然、廊下のど真ん中に身を隠せる場所などなく容赦なく銃弾は僕を襲う。
だが、今日まで積み重ねた特訓の成果も同時に現れた。
「いっぅ……!」
歯を食いしばりながら、体を屈めなるべく銃弾の当たる場所を少なくしながら必死に廊下の角に滑り込む。
腕と足を何発か撃たれたが掠めた物の方が多い。
(動けなくはない……だけど、痛い)
自然と頬に涙が伝って行ったのがわかる。
しかし、ずっとこの場にいるわけにもいかない。
出血箇所も調べたいが、きっと酷いことになっているだろうから目を逸らした。
「逃がすな!生徒と観客は皆殺しでいい!!」
(何で、生徒と観客にそんな容赦ないんだよッ!!……うん?)
頭の中で奴らに文句を吐きながら、ある違和感にたどり着いた。
(何で、殺す対象を限定する必要があるんだ?)
相手の目的も何もわかったもんじゃない。
だが、この容赦なさからわざわざ生徒と観客と限定する必要性を感じない。
だとすれば、逆に殺してはいけない階級の人間が存在するように見える。
(……先生?)
まさかなと思い首を横に振る。
思考したいが、今の僕にはそう言う精神的余裕はない。
足音も近づいて来た。
「……どこだ!!」
黒いベストを着込み銃を持って行進する集団は廊下の曲がり角に入るも、そこには槃の姿はなかった。
「……はぁはぁ」
そこまで走っていないのにもう息が切れる。
一歩、また一歩と進むごとに熱いところから血が溢れるのが肌でわかった。
「っ、うぅ」
やがて、体は力を失い階段の踊り場で力尽きる。
耳が階段につき、足音が聞こえた。
(助け、て……)
「おい、いたぞ!」
だが、天は僕を見放した。
僕の横たわるこの場に現れたのは、助けなどではなく先ほどとはまた別部隊の三人組の襲撃犯だった。
この後、起こることを察して目を閉じた。
「……お前」
だが、一向にその時はやってこない。
何だろうと、目を開けると何やら僕の顔を確認しているように見える。
「お前、無涅 槃だな」
「……それが、なんだ」
「俺たちのボスからのお達しだ。お前は痛めつけるだけでいいって、良かったな学園長の息子で」
「っ!!」
手の汗と血を握る。
目の前のこいつは何を言っている。
それでは、まるでこの襲撃の原因が僕に関係あるような口ぶりに聞こえる。
「おま、えらは!お前らは、何故こんなことが出来る!!何のためにこんなことをしているんだ!!」
「なぜって?仕方ないからだ。何のために?この国の未来の為さ」
「仕方ない!国の為!これが、こんなのがどこがどうなったら!!……意味が分からない!」
力いっぱい、叫んだ。
だが、次の瞬間には相手に胸倉を掴まれ壁に叩きつけられると同時に口に銃口を突っ込まれる。
「そうだろうな、まだガキのお前にはわかるはずがねえ。だが、この世界には大人になっても現実を理解しない奴がいるんだ」
「もっがうあがうあ!!」
「わかれとは言わない。だが、お前らみたいなガキが戦いを強いられて一体何人死んだと思う」
「……っ」
それは、知っている。
テクノイドに乗るのに最も適した年齢は高校生くらいだ。
そのため、全世界規模で僕と同年代の死亡率は飛躍的に向上した。
「俺たちは、この事件を持って軍拡に慎重な手ぬるい政府に警告する。これ以上、誰も傷つかないために」
「何が傷つかないためだ!!そのために、ここにいる大勢を殺したら本末転倒じゃないか!!」
「そんなこと、とっくにわかってる。だが、刺激が必要なんだ。今だに政治家共は平和だった2026年から何も変わっていない。もう、重税とか社会保険料とか年金問題とか言ってる場合じゃないんだ」
銃を突き付けながら彼は叫ぶ。
彼らがやったことは絶対に許されてはいけないことじゃない。
でも、言っていることとその悲痛に塗れた声が僕を追い詰めていた。
「そのために、俺たちは軍拡を阻む時光を殺し、生徒を襲い。大日本帝国を復活させる!!」
「その、ために……ここを狙ったのか」
大臣は普通、厳重な警備で守られている。
だが、普段とは違う場所なら――裏切り者が潜んでいるような場所ならば。
きっと、容易に手にかけることが出来るだろう。
「そうだ、そして成功した。俺たちは……この国を救う救世主になった」
「救世主……だと!お前らが、お前らのどこが救世主なんだ!!」
壁に押し付けられながらも、目だけは奴らを睨み続ける。
「お前ら以外の救世主だ。このテロが無事成功した今、軍拡は飛躍的に進むだろう。そうすれば、ここ以外の人たちは救われる」
「黙れ、お前らはただのテロリストだっ!!」
むかつく。
そう思ったのは、きっと薄々納得していたからなのかもしれない。
こいつらは殺人を楽しんでいるわけじゃない。
ひたすらに自分の行いが誰かの救いになると信じてこんなことを引き起こしたのだ。
「まあ、理解してもらおうとは思ってない。だが……別に俺はお前を殺さなければいいと言われているだけだ」
「あッ!!」
発砲音が踊り場から階段全体に木霊する。
どくどくと貫かれた足から血が出ているのがわかった。
「邪魔だけはするな。止血すれば、多分死ぬことはない」
「はぁ、はぁ……」
倒れる。
足音が遠くなる。
このまま放っておけばまた奴らは人を殺すだろう。
「……待ちなさい」
それは許せない。
べっとりと手についた血で髪を拭い、邪魔な前髪をどかした。
「あ、なんだ?見逃してやるって……」
自分が銃を持っているからと言って強くなったと慢心してはいけない。
何故なら、人間の体は自分が思っているよりも数倍脆いのだから。
振り向いたときにはもう遅かった。
「黙りなさい」
既に目と鼻先まで迫った槃は引き金に手を懸けた指を思いっきり捻じり折った。
そして、叫びも上げられない間もない間にうちに足を蹴り飛ばされその場に転がされ銃も蹴りはらわれた。
「な、なんだ!!」
「隊長をよくも!!」
隊長と呼ばれた一人がやられ、すぐこちらに銃口を向けてくる。
だが、その行為には何の意味もなかった。
「外れなさい」
銃口を視認。
その角度と引き金のタイミングから銃弾が放たれる地点を逆算する。
体を屈め、連射の一発目を避けたと同時に蛇のような動きで相手の一人の背後に回る。
「や、やめっ……!」
「死になさい」
ぐるん。
兵士の視界が180度回転する。
「あ、あぁぁあぁぁ!?」
首が180度回転して、死んだ仲間を見てもう独りになったテロリストが絶叫する。
もはや、銃の引き金を引く余力も勇気もなく。
ただ、その場で小便を漏らしていた。
「あなたも……」
「やめて、やめてくれぇぇぇぇぇぇ!!」
まるで、親に怒られる子供のような絶叫を上げる。
銃を捨て、その場に蹲り嵐が過ぎ去るのを待った。
「死になさい」
だが、誰よりも冷徹に冷酷に彼は一切の容赦なくその首を捻じった。
【強化…間プログラ…起動】
階段の踊り場での恐怖の一幕はまだ終わらない。
執行者は何の感情も籠っていない表情で、一人だけ生かしておいた隊長と呼ばれた男に詰め寄る。
「答えなさい」
その時の声は、まるで無機質な何かのようだった。
SF書くの飽きたので、今書いてある分で投稿をしばらくやめます。
ごめーん!筆が乗ったらまた書くので気長に待っていてください。




