第33話・刹那のサイコパス
2044年、4月24日。
10時00分
開会式が始まる時刻になってもホールに槃の姿はなかった。
「……ここどこ!」
地下からは出て、日の光が当たる場所に来たが、肝心のホールにたどり着くことはなかった。
思わずその場で地団太を踏む。
先ほど、僕は地下の廊下で影山さんから道を聞いた。
だが、道を聞き出したまではよかったものの怖すぎて全く耳に入らずその場から離脱してしまったのだ。
「ど、どうしよ……」
百歩、いや千――万歩譲って入学式の日の遅刻はアラームをセットしていたはずのスマホが鳴らなかったことが原因でギリギリいい訳が出来そうだ。
しかし、今回ばかりは格納室を見学したくて時貞くんと未来さんを先に行かせたせいだ。
いい訳の余地もない。
「……って、あれ?」
何となくホールを探そうと窓から外を眺めていると、近くの駐車場に目が止まる。
他の車などとは違い、特にバスに注目しているとそこからぞろぞろと大人たちが降りてきていた。
(団体ツアーってやつ?時貞くんも色々言ってたし、やっぱり人機祭って注目されてるんだなぁ)
そのまま、何となく眺めているとある違和感に気づく。
ツアーだとしたらガイドらしき人が見当たらない。
その上、降りてきた人たちの服装もこれから観戦をするような物には見えない。
(なんだろう?なんていうか……そうだ、防弾チョッキに見えるんだ!!)
遠目だからそう見えるだけかもしれないが、10人以上の大人が全員黒いベストを装着しているのでどうしてもそう見えてしまう。
――きっと彼らが銃っぽいものを持っているのも錯覚のはずだ。
「……トイレ行こ」
少し嫌な汗をかいてしまった僕はリフレッシュついでにトイレに行くことにした。
我ながら、遅刻をして焦っているのだと思う。
だから、変な錯覚をしているのだろう。
(この後、千時さん達と戦うって言うのに……気を引き締め直さないと!)
ただでさえ勝率が薄いのだ。
気まで負けていたらやっていられない。
なので今一度気合を入れなおし、僕は鏡で自分の顔を確認してから外に出た。
10時13分
トイレから出ると、外に遠巻きにいた集団はいなくなっていた。
きっと、今頃観戦席にいるんだろう。
「よし、僕もさっさと行こうか……」
10時14分
「な?」
その時だった。
すぐ近くの建物がドミノのように崩れていった。
ものすごい、爆音に耳を塞ぎ衝撃に備えて咄嗟に体を屈ませる。
「……!?」
数秒、いや数十秒は続いたかと思う衝撃は体を震わせ否が応でも記憶を掘り起こさせた。
追いすがる勢いで窓に近づき外を見る。
「何で、何で……何でこうなるんだよッ!!」
そこら中が燃えていた。
始めてメサイアに乗ってタイムリープをした日を思い出す。
あの日もモニターで見た景色は赤かった。
「あの、建物って……ホールだ」
一度爆発して燃えたからか、僕が目指してた建物はすぐ見つかった。
そして、その被害から見て十中八九爆心地はあそこだった。
「ななせん、ぱい。ときさ、だくん。みらいさ、ん、ちはるさん……なみ……しすいくん」
みんな、みんなあそこにいた。
それどころか、先輩がいなくなったらメサイアの起動コードを打ち込めずタイムリープも出来ない。
その時、燃え落ちたホールから黒い何かが姿を現す。
「テクノイド……!?それも、旧式の」
それは、まさしく僕たちが大会で使うはずのテクノイドが僕たちを殺すために暴れていたのだ。
よく見れば1機だけじゃない。
少し外を覗けば2機、3機とドンドン目に留まった。
(だけど、おかしい。ここは米軍基地の跡地だから警備システムはちゃんとしているってパンフレットに書いてあったのに)
和華さんの時のように迎撃システムが破壊されたような音も聞かなかった。
あのテクノイドが破壊した可能性も十分にあり得るが、だとしたらあれは誰が乗ってるんだ。
「また、いるの?内部に裏切り者が……」
大臣も来るような大会で雑な警備などありえない。
だが、実際にはこうやって襲撃が起きている。
「いたぞ!生徒だ。殺せ!」
その時、廊下の曲がり角から銃を持った集団が現れる。
当然、銃口はすぐに僕の方に向けられた。
***
「あははははははははっ!!」
一方で、この一連の流れを双眼鏡を使って俯瞰して見ているものがいた。
彼女こそ、この学校の学園長の無涅 彼岸その人である。
ついでに、槃の義理の母親でもある。
「い、いや~本当に綺麗な花火が上がったね。ここから血しぶきが見えるくらい派手にやるなんてやる気入ってるね」
「学園長!!」
腹を抱えて椅子から転げ落ちそうになるくらい大笑いしている彼女の所に勢いよく部屋を開けて誰かが入ってくる。
まさしく、怒髪天を突かれた表情をした過去先生であった。
「あー過去先生。見てくださいよ、綺麗な花火が上がっていますから」
「っ!何が、綺麗な花火ですか!!迎撃システムが全て機能しないまま、生徒が……生徒が亡くなっているんですよ!」
「はいはい、そうですね。うるさいですよ」
その瞬間、発砲音と同時に過去先生は静かになった。
「あーあ、死んじゃった。まぁ、死体は再利用できますし大丈夫ですかね」
自分で殺したというのに彼女の反応は酷く淡白だった。
なんてことない事のように死体を見つめ、すぐ視線を事件現場に移した。
「えっと……時光の殺害は多分成功してる。槃の友達は粗方みんな殺せましたね」
淡々と、チェックシートにチェックをつけるように事件を採点する。
「おーテロ成功じゃないですか。ま、私のお膳立てあってこそですけど……これで、この”時間”は終わりですね」
まるで子供のテストに花丸をつける先生のような笑みを浮かべた彼女は、学園長専用の椅子に深く沈み込む。
パソコンを開き、何やら確認しだした。
「まだ、プログラムの完全覚醒は遠いですね。ソウルシンクロナイズもまだ使われていないですし……ま、気長に行きましょう」
その時、再び部屋の扉が勢いよく開かれる。
「おい、時光は殺したぞ」
「ご苦労様です。影山さん。ちなみに、私の救世主は?」
「まだだ、だが時間の問題だろうな」
学園長の前に立つ彼こそ、今回のテロの主犯である影山その人である。
深く顔に刻まれた皺は、これまで彼が歩んできた人生を想起させる。
「そうですか。まあ、救世主の方は出来たらで良いので」
「……俺にはわからない。義理とは言え、そこまで自分の息子に酷い仕打ちを与える必要があるのか?」
「はい?酷い……?どこかですか、私はただ彼に試練を与えているだけです」
満面の笑みで何一つ悪いと思っていない様子で返答する。
それを見て、影山はこの世の物とは思えないほど軽蔑した目で彼女を見下げた。
「むしろ、私は愛しているんですよ。救世主を、正直愛しすぎて下の世話までできますよ。それに、言うじゃないですか可愛い子には旅をさせよって」
「……そうは思わん」
「あはは、互いに息子がいるのに話が合いませんね。あー……あなたは”いた”でしたね」
「殺すぞ」
とてつもない刃のような殺気が彼女に注がれると同時に銃口が向けられる。
そんな状況だというのに、彼女は笑みを一切崩さない。
「できもしなくせに、何言ってるんですか?私を殺したら損をするのはあなたなんですから」
「……ちっ、地獄に落ちて死ね」
「あなたもね。それで、契約内容はそのままでいいんですよね」
空気は最悪。
だが、それでも彼女は彼女のペースで会話を運ぶ。
彼もうまく立ち回ろうとしているが舌戦では明らかに彼女に軍配が上がっていた。
「私は、私の救世主を徹底的にいじめてもらう。あなたは、自分の息子の汚名を注ぐ。これでいいんですよね?」
「ああ」
「全く、物好きもいるもんですよね。親とは言え最悪のテロリストの汚名を何とかしたい人がいるなんて」
「お前にだけは言われたくないなっ!!」
怒りと共に彼の鉄拳が彼女の鼻先を掠めて机を直撃する。
「わかりました。私に任せてください。じゃあ、仕事に言って来てくださーい」
「……死ね」
「酷ーい!」
適当な応答を重ね、去り際にも軽蔑した視線を彼女に向けて影山は部屋を後にした。
「……全く、影山阿歩炉の汚名を注げなんて無茶言いますね。あの子、一体何人殺したと思ってるんですか」
彼女の視線は再び事件現場に注がれていた。
ふっ、総合評価10か……どうやら、ランキングに乗れるのも今週が最後らしい。よい三連休をー!




