第32話・現実浸食のインベイジョン
なんかいっぱい読んでくれた人がいるから早いけど投稿しちゃお
時光さんを見送った後、僕たちもそれに続いて地下に入って行った。
そして、自分たちの控室に荷物を置きしばらくは自由時間になった。
と言うことで、早速僕は自分たちが乗るテクノイドを見ようと格納庫に入ってきていた。
「……うわあ」
入る前は心がウキウキしていたのに、いざ入ると口から出た反応はそんなもんだった。
今回、仮想ではなく本当に戦うため実機が使われるのだが自身が持ち込んだものを除き全員が旧式のテクノイドを使っている。
その姿がまさに入学式の日に起きたループで僕をリンチした機体と同じ姿をしていたのだ。
「この機体……いい思い出ないなぁ。って、あれは?」
何となく見上げていると、旧式のテクノイド達の中に一機だけ目立つ色をしている機体を見つける。
それを、僕が良く知ってるデザインだった。
「め、メサイア!?何で、これがここに……!?」
「私が持ってきたのさ」
厄ネタの塊みたいな機体を見つけて驚いていると、後ろから声がかかる。
振り向くとそこには気持ち悪いくらいニコニコの表情をしている無無先輩が立っていた。
「せ、先輩……!?何でここに、ていうかこれ僕乗りませんていうか、乗れないですよ。申請してないんですから」
「安心しろ、ちゃんと私が書き足しておいた」
「私文書偽造じゃないですか!?」
「バレなきゃ犯罪じゃないんだよ」
十中八九僕にバレてはいる。
でも、まあ――おそらく、僕がこういったことをやっても怒らないことが何となくわかっているのだろう。
「……でも、乗らないですよ。乗ったら、入学式で戦ってたことがバレちゃうじゃないですか」
「今更かい?ま、安心すると良い。申請をいじる時、君が乗れる機体はメサイアだけにしておいた」
「一回、怒りますよ!!……ていうか、こんなに機体があるんだからメサイアに乗らなくてもいいんじゃ……」
この格納庫には数えた限りではメサイアも含めて17機も保管されている。
それも、ここは1年生用の格納庫だ一つくらい使っても問題ないように見える。
「乗ってくれないのか……?」
「……っ」
上目遣いが僕に突き刺さる。
ここで、断れば彼女は悲しむだろう。
「乗ります。乗らせてください……」
そう言われたら僕は断れない。
「ありがとう、少年!いやぁ、これでまたデータが取れるよ」
自分で断れない意志のなさに泣きたくなった。
だが、先輩に抱き着かれた上に喜んだ顔を見られたので良しとしよう。
「そうだ少年。もうすぐ、開会式なんだからそろそろ行かなくていいのかい?」
「あっ、そうでした。先輩も一緒に行きましょうよ!」
確かに、少し散策するだけのつもりだったのに時間を使いすぎてしまった。
「いや、私はまだ少しやることがあってね。先に行っててくれ」
「……犯罪はやめてくださいよ?」
「私の信用がないみたいだね。安心しろ、君以外に迷惑はかけないよ」
(なら、いいの……かな?)
いや、良くないとは思うが現状いつ捕まるかわからない先輩の被害を僕だけに納められるならそれも悪くない。
そう、判断した僕は格納庫を足早に出た。
「……さて、行ったかな」
まさか、彼がたまたま格納庫に入り込んでくるとは思わなかった。
彼が、メサイアを見つけてしまった時は冷や冷やしたものだ。
(……申し訳ないことをしたな)
自分で、彼を導いて行こうと考えておきながら結局彼の善意を利用した。
しかし、そうするしかなかったという面もある。
「っしょ、これで後はダウンロードするだけだね」
彼女はメサイアと自身のパソコンを繋ぎ最後の処理を施す。
今まで、私が知れるのは少年の一般的な体内くらいが限界だった。
しかし、祖父が残したシステムをメサイアに施せばさらに奥まで探ることが出来る。
「シンクロナイズを超えるシンクロシステム……『ソウルシンクロナイズ』」
このシステムは私がメサイアの改良をしていた時、偶然祖父のパソコンの中から見つけた物だった。
理論上、これを使えばテクノイドが人間の範疇を超える動きをすることが可能になる。
それを可能にしたのが脳ではなく魂に繋げるシステムだった。
「君の異常性を調べるにはもうこれしかない。すまな……」
一人で謝罪の言葉を呟こうとしたその時だった。
視界の端で黒い影が動いたのがわかった。
「誰だ!……っ」
「……!!」
叫んだ瞬間、黒い影が私に向かって接近する。
そして、反応する間もなく影は私に近づき持っていたパソコンを蹴り飛ばす。
すると、あれよあれよと組み伏せられ地面に叩きつけられる。
「なっ……ぐぅっ!」
「ごめんね。そのシステムは使っちゃいけないの……あたしたちの為にもね」
女の声だった。
だが、どこか聞き覚えがあるような気がする。
(っ、狙いはパソコンか……!)
システムはあの中に入っている。
まだ、データがメサイアに完全に転送されていない。
このままでは、パソコンを奪取か破壊は容易にされてしまうだろう。
「っ、少年!!」
「え、何で?」
力いっぱいに叫んだと同時に組み伏せられていた腕の拘束が緩くなるのがわかる。
その瞬間、体で少しでも反動をつけて襲撃者を押しのけた。
「ふんっぬ!私だって、多少は鍛えてるんだよ!!」
「っ……やられたね」
「ほ、本当に誰だい!?」
やっと、襲撃犯の顔を拝めるかと思ったが完全に黒い布か何かで顔が隠れている。
目だけは見えるがそれだけじゃわからない。
でも、その体つきはどこか見覚えがあった。
その時、廊下の方から誰かの話し声が聞こえた。
「仕方ない……一つ忠告するよ。そのシステムを絶対に使わないで、使ったら最後、手遅れになるかもしれないから」
「手遅れ?」
「あと、ここの学園長に気を付けて……それじゃ」
そう言って黒づくめの女は目にも止まらぬスピードでこの場を去って行った。
「……学園長に気を付けて、か。一体、なんだったんだ」
突然の襲撃、それに呆然としながらもその傍らでメサイアにシステムのダウンロードが完了したという通知がウィンドウに写っていた。
***
「あ、あれ……どっちだっけ?」
先輩と別れて格納室を出た後、僕は地下を走り回っていた。
端的に言うと道に迷っていたのだ。
入学式の日に続いて今日と言う大事な日にも迷うことになるとは思わなかった。
その時、曲がり角の先から長身の男性が歩いてくるのが見えた。
「あの、すみませ……!?」
道を聞こうと彼に近づき話しかけようとしたとき、思わず言葉が止まる。
「なんだい」
頭が真っ白になった。
何故なら、その男の視線があまりにも冷たく、まるで首に銃の先でも突き付けられているような悪寒が襲ってきたからだ。
「……その、道を聞きたいんですけど開会式が行われるホールってどちらでしたっけ?」
だが、一度息を呑んでからは話を始める。
「ホールか……それなら、あっちの道を真っすぐ行って階段を上って右に曲がればすぐにつく」
「あ、ありがとうございます!」
意外に優しく応答してくれてほっと胸をなでおろし、その場を後にしようとする。
「待ってくれ、君の名前は何という?」
その時、彼に呼び止められる。
「えっ、無涅……無涅 槃って言います」
「無涅 槃。そうか、君が……」
何故か、相手は僕のことを知っているような反応を示した。
だが、不思議と憐みを多く含んで目で見られているような気がする。
「私は、影山。よろしく頼む」
「……そ、そうですか。その、失礼します!!」
何だかどこかで聞いたような名前だったが、本当に開会式が始まるまで時間がなかったので僕は足早にその場から走り出した。
「……全く、ここの学園長は正気じゃないな。出来たらとは言っていたが、自分の息子をターゲットの一人にするとはな」
影山と名乗った男は、心の底から同情したような目で槃がいた場所を見つめていた。




