第30話・人機祭のリユニオン
結局、あの後一人で色々考えたが答えが出ることはなかった。
そのまま寝て一日無駄にしてやろうと思ったが、寮に向かう足は気づけば踵を返して時貞くんのいる訓練ルームDに帰って来ていた。
「槃?帰ったんじゃねえのか……?」
「いや、やっぱり体が軽くなって来たから居ても立っても居られなくてさ。特訓付き合ってよ」
「そうか……」
嘘は気づかれなかった。
誤魔化すのが上手になっているのかもしれない。
(……本当に、何で来たんだろうね)
自分と言う存在がよくわからない今、居ても立っても居られなくなるのももしかしたら僕の意志ではないのかもしれない。
でも、救世主になるためならここで立ち止まっているわけにはいかない。
「あー二人ともなんでいるの!?」
その時、訓練ルームに甲高い声が響く。
「こっちのセリフだよ。未来さん」
「あ、あたしは……抜け駆けで特訓だよ。二人もそうでしょ!?」
「まあな、槃の問題が何とかなったんだ。ここから先はオレたち全員でレベルアップしていかなくちゃいけねえ」
そう、僕の退学と大会参加の方は何とかなった。
だが、本番の大会はもう約一週間後まで近づているのだ。
「だが、せっかく三人揃ったんだ。大会について軽く説明するぞ」
「いやいや、もう大会も近いのに知らない人なんていないよ!ね、槃くん」
「それを、僕に振る時点で何となくわかっているよね?」
自慢じゃないが、ここまで来るために特訓に必要なこと以外の情報は全てシャットダウンしていた。
結果、大会のことなんて一つもわかっていないのだ。
「ま、説明すんぞ。まず、オレたち1年生が出るのは三人一組で出るチーム対抗の陣地戦だ」
「陣地戦?」
「地形の優位を得ることを目的とした戦い……早い話陣取りゲームだったよね?」
「ああ、その認識で問題ねえ。そして、舞台は海の上だ」
もう、嫌な予感がしてきた。
そもそも、海が舞台なのはこの学校があるのが海に囲まれた沖縄にあるからなのだ。
「ルールは?」
「単純明快、攻めと守りのチームに分かれて攻め側は制限時間内に相手の旗を奪取するか機体を無効化すれば勝ちだ」
「それなら、守り側は制限時間内まで守り切れたら勝ちってこと?」
「ああ、それか相手の機体を無効化するかだな」
何だか単純になって来たぞ。
要するに相手をぶっ飛ばせばいいってことだ。
「ちなみに、相手の機体を無効化すれば攻め側と守り側が変わらずにそのまま勝利になる」
「へえ、それじゃあ話が早いね」
「うん!みんなぶっ飛ばしちゃえばいいってことだよね!!」
綺麗に未来さんと話が合った。
隠密とか集団行動とか自信ないけど、今の僕ならどんな相手でもある程度戦える自信がある。
「……まあ、そんな単純に行けばオレもよかったんだがな」
「ど、どうしたの?もしかして、まだルールがあるとか?」
「いや、ルールはこれだけだ。問題は初戦の相手だな……はあ」
何だろうめちゃくちゃ嫌な予感がする。
彼が底まで悲観する理由、それは一体何故か察せて来てしまう。
「ち、ちなみにお相手は……?」
「ボク達だよ」
「ひぃやぁ!?」
突然、後ろから耳の中に妖艶な色気を持つ声と吐息が入って来た。
めちゃくちゃ情けない声と共に振り向くとそこには見慣れた二人と知らないもう一人が立っていた。
「千時さん!?時翠くんと……誰!?」
「うふふ、忘れちゃったの?あんなに熱い夜を過ごしたのに……」
「そ、そうなの!?」
全く本当に知らない人にとんでもない爆弾を投下されたじたじになってしまう。
その結果、未来さんにあらぬ誤解を与えてしまう。
「違う、違うから本当に誰!?」
「えー本当に忘れちゃったの?お姉さんのこと……」
「お姉さんって……同い年でしょ!?ほ、本当にやめて今ちょっと忘れちゃったとか言われたら本当に忘れてるかなって思っちゃうから……!!」
ただでさえついさっきに自分の記憶の異常に気づいたばかりなので、もしかしたらとどうしても頭の中によぎってしまう。
「ふふっ、冗談よ。千時ちゃんに聞いたら反応が可愛い子って聞いたからからかいたくなったの」
「ち、千時さん!!」
「あはは、ごめんごめん。君の反応があんまりにも純粋でね」
完全にいじられていてる。
「それで……結局、この人は誰なんですか?」
「ああ、紹介するよ。彼女は君と同じ外部生でね。名前は……」
なんてことのない自己紹介、だがそれを聞いたときの僕には条件が揃っていた。
僕は、この時の衝撃を忘れることはないだろう。
「忘草 勿美だ」
「……へ?忘草 勿美?」
「うん、そうだよ。よろしくね、槃ちゃん」
差し出された友好の握手を僕は受け取れなかった。
何度も虚空と彼女の顔を交互に見続けて、現実を認識しようと努めるので精一杯だった。
そして、結局僕の反応は――
「誰?」
「え?」
頭がオーバーヒートして終わるのだった。
その後のことはよく覚えていない。
ただ、完全に頭が沸騰してしまった僕を時貞くんがそっと後方に下がらせて後の話を済ませてくれていたのは見えていた。
結局、あの人は何だったんだろう。
僕の幼馴染とは似ても似つかないし、その割に名前が同じだし僕を呼ぶ名も同じだ。
(いや、他人の空似って奴かな)
そう、済ませるしかなかった。
そして、僕の頭が正常に戻ったのは彼女たち三人が自分の特訓に戻った後だった。
「……と言うわけで、アイツらが相手だ」
「……」
「槃、残念だが降参はできねえ。どうにかしてアイツらをぶっ飛ばすか、一矢報いでもしないと1組には上がれねえ」
何故考えていることが丸わかり何だろうか。
ていうか、一矢なんて本当に報いられる相手なのだろうか。
「ち、ちなみにさ……勝てる?」
「オマエは今から宝くじ買って来て一等を当てられるのか?」
遠回しに無理と言われた。
僕だってわかるよ。
千時さんは覚醒状態で何とか倒したとはいえ、あれは機体性能が下がっていたり武器がないなどハンデがあったからだ。
「勿美……いや、忘草さんって強いの?」
「わかんねえ……だけど、あのメンツに入ってる所を見ると相当な腕だと思うぜ」
「えーあたし達と同じ外部生なのにすごいね」
最後に時翠くんだけど、彼も強い。
僕をハンデアリで何度も転がしてきたし、時貞くんも彼の実力に関しては認めていると思う。
「ちなみにさ、あの三人って集団戦が不得意って可能性は……ない?」
「ないな。忘草はわからんが、天宮城がいる時点で三対一で戦っても多分負ける」
「……結局、そこだよね」
攻め側だろうが守り側だろうが問答無用で僕たち三人の機体が無力化されて敗北と言う結果が頭をよぎり始めて来た。
「じゃ、じゃあ一方的にボコボコにされるしかないのかな……?」
「……いや、そう言うわけじゃない。いつでもどこでも”絶対”はない。活路はある……まあ、ほぼ0だけどな」
「0じゃないなら、あたし頑張るよ。だって、勝てるかもしれないんでしょ!!」
未来さんの言葉に全員が頷く。
そうだ、僕たちはここで諦めるわけにはいかない。
たとえ、相手が最強だろうと挫けていられない。
「よし!じゃあ、こっから特訓するぞ!!対チートチーム相手に一矢報いてやるぞ!!」
「「おー!!」」
こうして、僕たちの特訓の火蓋が切られたのであった。
ほ、本当に何が起こってるの!?




