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決死人機兵装メサイア  作者: うどん米
ディストピア社会主義編
3/16

第3話・魂震のアウェイキング



 9時00分


 ミサイルの発射音が聞こえ始めた頃、工房から通信が入る。


『少年、いい報告と悪い報告。どっちから聞きたい?』

「えっと、じゃあいい方で」


 嫌な予感と共に、操縦桿を握る力が強まる。

 早く地上に行けと、心が早まるのがわかる。


『わかった。まず、迎撃には成功した。これなら、少なくとも学校がテクノイドからの空中爆撃を受けることはないだろう』

「ほっ……」

『だが、悪い報告だ。三機のテクノイドが武装を捨ててミサイルを無理やり突破して降下してきた』


 ちょうどそのタイミングで天井が開きメサイアは地上に出現する。


『つまり、三対一ということだ。初操縦だろうが気合入れるんだ、少年』


 それと同時に対空ミサイルを避けて体育館近くの校庭に降り立った三機のテクノイドと目があった。

 黒いのが二機、一機だけ青みがかった機体がある。


『正体不明のテクノイドを確認!いかがしますか』

『構わん、無視しろ。こうなってしまった以上、強引にでも体育館にいる新入生たちの殲滅を最優先とする』


 向こうが何を話しているかは僕には聞こえない。

 だとしても、アイツらがやって来たことは既に知っている。


 怖い、怖い、これはフィクションじゃない。

 紛れもない殺し合いが今から始まる。


 心臓が早鐘を打つのがわかる。


『……うん?待て、新兵か?まさか、ド素人がテクノイドに乗っているのか?』


 テクノイドを操縦したのなんて入試のシミュレーション以来だった。

 当然、殺し合いなんてしたことはない。


『なら、好都合だ。おい、お前ら先にこいつを倒すぞ』

『『了解』』


 いざ、敵を前にすると僕の体は縛られたように動きを止めてしまった。

 嫌な汗が全身を襲うのがわかる。


『……るんだ!』


 その焦りや恐怖はシンクロナイズを伝わってメサイアへと伝播していく。

 自然と、声も遠くなってきた。


『避けろ少年!!』

「はっ……!」


 戦場での油断はすなわち死となる。

 気づいたときには目の前に敵が迫り、鋼鉄の拳を振りかぶってきていた。


「がっ……」


 テクノイドと連結している僕には機体が受けた衝撃も伝わってくる。

 ただの鉄拳と侮るなかれ敵の質量は人間とは比べ物にならないほど膨大なのだ。


 それが、思いっきり振りかぶってくるとすれば局所的には戦車砲弾並みの威力を持つ。



 機体が揺れ、地面を削りながらもなんとかその場に留まる。

 鈍い衝撃と共に口に溜めていた空気が漏れ出てくる。


『追撃が来るぞ、少年!防御か回避を……!!』


 それと同時に明後日を漂っていた意識が現実に引っ張り起こされる。


 だが、もう遅かった。

 息を整える時間など実戦で敵がくれるはずもなく眼前には鉄拳が迫り、すぐさま世界が揺れた。


 そして、他の二機はそれに呼応するように僕に接近し顔を掴み持ち上げ、思いっきり地面に叩きつけた。


「あ、あ……」


 なすすべがないどころの話じゃない。

 初心者だからでは解決できないほどの実力差がこの三機と僕の間には開いていた。


 動けない


『少年!少年!!返事をするんだ』


 動こうとしないわけじゃない、今の一連の攻防で僕の体は地面に縫い付けられたように動けなくなってしまった。


『倒したか……行くぞ、体育館の天井を破壊しろ』


 指一本も動く様子がないメサイアを見下ろし、襲撃者は体育館に興味を移す。


 未来は変わらなかった。

 こんなの最初から勝てる相手じゃなかった。


 ましてや補欠合格の雑魚である僕にどうにかできるものじゃなかったんだ。


(……いや、まだだ)


 先輩の話が真実なら操縦桿にある赤いボタンを押してトリガーを引けばまたやり直すことができる。


 これを使って今度は別の方法を試せばいい。



(……勿美なみ



 でも、どうしても指先が動かない。

 分かっているからだ、タイムスリップをするってことはこれから起こる惨劇から逃げるということだ。



 ならダメだ――


 僕は、救世主になるために生きているんだから。




 ***




 あたしの隣に座るはずだっためぐるくんがどこかに行ってしまったためそこは空席になってしまった。


 不思議そうに先生は聞いて来たけど、あたしはトイレと適当に誤魔化しておいた。


(それにしても、どこに行ったんだろう?)


 彼がボソッと『僕が救世主になる』って言っていたのは聞こえたけど、意味は分からなかった。


 結局、入学式が始まるギリギリになっても彼が戻ってくることはなかった。


 8時59分――


 だけど、その代わりに聞きなじみのない何かが放たれたような音と共に体育館に警報が木霊する。


 突然の出来事に何が起きたかわからなかった。

 けれど、新入生か、それとも周りにいた先生か誰かが声を上げた。


「テクノイドだ!襲撃だ!!」


 それを聞いたときぞっと血の気が引いたのがわかった。

 それだけじゃない、その叫びと同時に地震と間違うほどの揺れと振動音が耳に入る。


 それによって、不安と恐怖は瞬く間に体育館全体に伝播した。


 叫びを上げる者、出口に向かう者、その場で蹲る者、冷静に判断する者、十人十色の反応を見せたが真の恐怖はすぐそこまで迫ってきていた。



 突如、これまでとは比べ物にならない衝撃が地面を揺らした。

 窓ガラスが割れ、椅子が倒れ、壇上に置かれていた花瓶も倒れる。


 そして、体育館の天井が破壊された。


「……え?」


 この時、この場にいた新入生たちは思い知った。

 自分たちが一体何に乗るのか、そして”それ”が迫る恐怖を身をもって体感した。


(あたし、ここで死ぬんだ……)


 絶望、後悔、焦燥などなどあらゆる感情が喉の奥から這い上がってくるの感じた。


 体育館を破壊しながら現れたテクノイドはその質量に身を任せあたしたちを殺そうと一歩踏み出してくる。


 その時だった――


 眼前まで迫ったその黒い塊の輪郭がぶれた瞬間、入れ替わるように”それ”は現れた。


「白い……テクノイド?」


 穢れを嫌う純白の鎧に身を包んだ騎士があたしたちを守るように三機のテクノイドの前に立ちはだかっていた。




 ***




 鉄拳をうならせ仕返しの一撃を加えたはいいものの、さっきの衝撃がまだ体に残っているからか妙にふらつく。


『よく起きた、少年!間一髪だったぞ』

「はい……」


 現在、僕は満身創痍の体だと言うのに相手はほぼ無傷、状況は最悪と言っていい。


「はぁぁぁぁ!!」


 だが、戦わなければ生き残れない。

 気合を入れ、一歩踏み出し一番近くにいる機体に向かって拳を振りかぶる。


 しかし、僕のとろい拳は易々と躱され、カウンターが腹部へ、追撃が顔面に振りぬかれ僕の機体からだは宙を舞う。


『くっ、少年と敵のシンクロ率はそこまで変わらないはずだが……やはり、戦闘の練度が違いすぎるのか』


 テクノイド同士の戦闘はよっぽどシンクロ率に差がない限り、その技術で勝敗が決まる。


 そして、この場合だとシンクロ率が起動の最低である50%でなおかつ初心者のめぐるは紛れもない最弱である。


「……あ、あ」


 機体は倒れ、再び動けなくなる。

 このような結末は既に決まっていたのかもしれない。



【……………………………】



 51%


『せめて、少年のシンクロ率がもう少しあれば……うん?』


 工房内では、シンクロナイズに繋がれているめぐるの状態は常にモニタリングされている。

 当然、それはシンクロ率も――


 52%


『……上昇している?』


 53%


 次の瞬間、ウィンドウに表示されていた数字がルーレットのように忙しなく変化し始めたのだ。

 そのような光景を彼女は見たことがなかった。


『……何が、起こっている?』


 自分の常識外の出来事が今、まさに起きようとしている。

 そんな予感が彼女にはあった。



 救世主は立ち上がる。

 救うために、自身の今出せる全てを費やして救世主メサイアを立ち上がらせた。


『隊長、白いテクノイドが再び立ち上がりました!!』

『何!?』


 すぐさま、その姿を視認したときその場にいる三人の警戒は引き上げられた。


 ついさっきまでは弱腰の新兵にしか見えなかったその装いが、今ではまるで神とでも相対しているような威圧感があった。


「……まず、二機」


 前列にいた機体テクノイドの首は一瞬で引きちぎられた。


 隣にいたもう一機が反撃に動くもちょうど顎の部分に拳を振りぬかれ機体ごと宙を舞い校庭に叩きつけられた。


『……殺せ!完膚なきまでに、殺せぇぇぇぇ!!』


 隊長と呼ばれた男が叫んだ。

 だが、それを聞く者はもはやこの場にはいなかった。


「あと、一機」


 今なら、何でもできる気がした。

 突然、全身を包むように浸食するようにあふれ出した全能感は限界だった僕の体を躍動させ、力をもたらした。


『少年、君は一体……?』


 一方、工房内では興奮は当に通り過ぎ、彼女の顔には困惑が浮かんでいた。

 その視線の先には彼のシンクロ率が表示されている。


 90%


 シンクロ率というのは高ければ高いほど機体本来の性能を引き出すことができる。

 1%の差でも性能の差というのは顕著に表れる。


『こんなことありえない……あっていいのか!?』


 それゆえに、シンクロ率に大幅な差がある場合はあらゆる技術などを無視するほどの圧倒的な力を振るうことができる。


「……最後だ」

『お前はなんなんだぁ!!』


 相手の最後の抵抗もむなしく、言葉すら彼には届いていない。

 頭は刈られ、機体は地を這う。


 一つわかるのは、もうこいつからは言葉も攻撃も何も行動は起こらないことだけだ。


『作戦完了。お疲れ様、少年。すぐに発進した場所に戻って来てくれ』

「……」

『少年?』


 だが、返事がない。


「……っ、すみません。ちょっと、ぼーっとしてて……えっと、元の場所に戻ればいいんですよね」

『ああ、今日はよく頑張ったな。安心しろ、後始末は私が全てやっておく。今日は休め』

「はい」


 全能感が体から抜けていく、途端に重くなる体を何とか動かし元の場所に戻る。

 まだ、実感はない。


 僕がこんなことできたというのにも驚きだが、あの悲劇を防げたという実感がまだないのだ。


「ありがとー!!」


 手を振っている人がいる。

 それだけじゃない、体育館でちゃんと人が生きて動いている。


「未来さん……ははっ」


 やっと、実感が湧いて来た。

 そうだ、僕は未来を変えることができたんだ。


 この学校を火の海なんかにすることはなかった。

 僕は、彼らの救世主になることができた。




 こうして、僕は無事に工房へ帰還することができた。

 シンクロナイズを脱ぎ、コックピットから出ると笑顔の無無なな先輩が迎えてくれた。


「改めてお疲れ様、少年。どこか、体に異常はないか?」

「あ、はい……すごい疲れていますけど、特に問題はないです」

「そうか、でも些細なことでもいい何かあったら何でも言うんだ、いいね」

「はい」


 だが、とにかく体が重たい。

 例えるなら水泳でめちゃくちゃ泳いだ後、地上に出てきた時くらい重い。


 ともかく、僕はこれで未来を変えることができた。

 だが、これは新たな戦いの始まりの予兆でしかなかった。




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