第29話・自己証明のナッシング
ふっふっふ!
金曜日はPVが増えると聞いて思い切って今日は3話投稿するぞー!!
色々、ありすぎて一言では到底おさまりのつかないことが起きた昨日から一日たった。
今日は休日だ。
「……おはようって、いないんだった」
僕の部屋に時雨さんの姿はない。
と言うのも、あの後やはりと言うべきか彼女をそのまま僕の部屋に置いておくのは問題がある。
そう判断されたので、彼女は昨日のうちに引っ越すことになった。
(今頃は、先輩の部屋か……)
先輩は日常生活のほとんどを工房で過ごしているため、寮の部屋をそのまま貸し出すことにしたのだ。
まあ、最初はあっちから押しかけて来たのが始まりだが寂しくないと言えば嘘になる。
「やっほー!もうご飯できてるよ。さっさと座って食べちゃお」
「うん、って鍋以外も作れたんだ?」
「あたしだって成長するんだよ。って言っても見よう見まねだから美味しいかはわからないけどね」
そう言われて彼女に促されるまま僕はいつもの丸テーブルの前に座る。
そういえば、この丸テーブルも彼女が引っ越すと同時に持って行かれると思っていたが何故か残っている。
「……?」
「槃~醤油とって、あたし目玉焼きには醤油派だから」
「あ、うん……?」
何か違和感があったが、ともかく醤油を取って彼女に渡す。
そして、食卓に並んだ目玉焼きに何もつけず一口食べる。
(美味しい……?)
ちゃんと卵の味を舌は感じ取れた。
昨日、味がしなかったのは気のせいだろうか。
それとも、あの怪しいドリンクの代償だろうか。
(絶対、あのドリンクだな。お腹を壊しただけじゃなく、味覚も破壊するなんて……)
実は、鍋パーティーの後みんなが帰ったタイミングで急に体が腹痛を訴えだし長時間トイレに拘束されることになった。
それが、昨日の夜の間何回も続いたのだ。
「……はあ、ドーピングはもうこりごりだなぁ」
「副作用には気を付けてね。って、ちゃんと言ってたんだけどなぁ」
「回避できないよ……うん?」
もう一度、改めて目をこする。
「……時雨さん!?」
今度こそはっきりと彼女を僕は視認した。
そこにいたのは間違いなく昨日の夜にこの部屋を出て言ったはずの彼女だった。
「どうしたの、急にあたしの名前を叫んで」
「いやいや、こっちのセリフだから!あまりに自然すぎて途中まで気づかなかったよ。なんでいるのさ!?しかも、朝ごはんの準備までして……」
「あはは、あたしもいつまで気づかないかなぁってドキドキしてたよ」
やはり、昨日の激闘の反動が体にまだ残っているらしい。
「それで、何でここにいるの?先輩の部屋行ったよね」
「うん、あたしも最初は無無さんの部屋にいようと思ってたんだけどね。朝になったらやっぱり、槃が心配になって来ちゃった」
「来ちゃったかぁ……それは、嬉しいけど鍵ってどうしたの?回収したよね」
百歩譲っても男子寮の僕の部屋までバレずに来れたのはわかるが、鍵の問題がある。
いくら彼女と言えど何度もマスターキーを盗み出すのは不可能だろう。
「和華さんに言ったらくれたよ。鍵」
(……やっぱり、あの人のこと一回警察に突き出した方がいいかもしれない。世のため人の為にも)
爆弾所持、盗聴、銃刀法違反、住居侵入補助などなど、ここまで来ると叩けば叩くほど罪状が出てきそうで怖い。
ぶっちゃけ、妹さんの問題がなければ問答無用で警察に通報している。
「でも、来なくても僕は大丈夫だよ。時雨さんも毎回部屋に来るの大変だろうしね」
「いいのいいの、あたしは槃にやってあげたくて来てるんだから。大体、槃は家事とか何にもできないのにどうやって生活するのさ」
「……で、出来るようになればいい話だよ!」
彼女の言葉も耳が痛いが、何でもかんでも頼ってばかりではいられない。
ただでさえ、ここでは幼馴染の力も借りられないのだ。
そろそろ、自立するころかもしれない。
「強情だね……なら、あたしを助けるためだと思ってさ。あたしを頼ってよ」
「……う、うぅぅぅぅぅ」
クリティカルヒットだ。
思わず、頭を抱えて悩む、悩む、悩む――
「……いいよ」
「よっし!」
結局、僕はそうやって頼まれた断れない情けない男だ。
相手の思惑も何となくわかっているはずなのに、これでは悩んでいる意味がない。
(ていうか、最初から時雨さんには手の内で踊らされてばかりだな……)
初めて会った時から今の今まで彼女に勝った覚えがない。
まるで、僕のマニュアルでも持っているようだった。
***
朝ごはんを食べた後、今日は休日だというのに僕の足は気づけば行きつけの訓練ルームDに向かっていた。
「あ、槃ちゃん」
「勿美……?」
まるで待ち構えるように彼女は訓練ルームの前のベンチに腰かけていた。
「うっ」
彼女を見ると嫌でも思い出す。
昨日、千時さんとの対戦で見たあの幻覚の彼女を――
「どうしたの、もしかして体調悪い?」
「……大丈夫。そうだ、勿美に聞きたいことがあったんだ」
「うん、何?槃ちゃんの質問なら何でも答えるよ。わからなくても一緒に考えてあげる」
相変わらず優しい。
お言葉に甘えて僕は彼女の横に座った。
「……その、あれ」
僕は果たして何が聞きたかったんだろう。
昨日のことで、何かどうしても聞かなくちゃいけないことがあった気がするが、彼女を前にすると何故か頭の中が真っ白になる。
「どうしたの?」
「いや、聞かなくちゃいけないことがあったんだ。でも、何だか……何だろう。何だっけ」
「……いいよ。待ってるから」
混乱する僕を前にしても彼女は優しい笑みを絶やさない。
そして、必死に頭の中を漁っているとある地点にたどり着く。
「あ、そうだ……勿美って俺に料理作ってくれたことあるよね」
「うん、それがどうしたの?」
「えっと……何作ってくれたんだっけ?」
恥ずかしながら、なぜか俺には記憶がなかった。
なので、恐る恐る彼女に聞いた。
「……パンケーキとかだったかな。ほら、槃ちゃんの親ってあんまり帰ってこなかったからよく二人で作ったよね」
「そっか……そうだね、そういえばそうだったような気がする」
そうだ、彼女の言う通り俺はパンケーキを作っていた。
親がいない日は、お腹が空くからよく勿美が作りに来てくれた。
「そうだよ。全く、槃ちゃんは忘れちゃったの?」
「う、うん……何だか昔のことがよく思い出せないんだ。俺ってもしかして記憶あんまりよくないタイプなのかな……」
「ダメでしょ」
頭を抱えて自虐していると急に彼女から両肩を掴まれる。
強い、強い力だ。
俺でも振り解けそうにない。
「槃ちゃんは『僕』でしょ。『俺』じゃない」
目が合う。
その瞳を僕は覚えている。
あのコックピットの中でも見たブラックホールのように深い闇を瞳に宿した彼女と同じだった。
「……違う」
「違くないよ。槃ちゃんは『僕』でしょ。思い出しちゃダメなんだから」
違和感がある。
無理やり信じ込まされているようなねじ込まれているような異物感が確かにあった。
「……違う!!それは、俺の名前じゃない!!俺は……僕は……」
「おい、槃!」
その時、誰かに肩を掴まれる。
振り向くと、そこには心配そうな表情の時貞くんが立っていた。
「と、時貞くん?」
「どうしたんだよ、槃。急に、何もいねえところに叫んでよ」
「いない?勿美は……!?」
再び、振り向くとそこには彼女の姿はなかった。
おかしい、僕は確かに彼女と話していたはずだ。
しかも、彼の反応から見るに彼女の姿は見えていなかったらしい。
「勿美?誰のことだ……?」
「いや……何でもない。怪しいドリンクの副作用かも……ちょっと、疲れるからもう帰るね」
「お、おう?」
訳が分からなかった。
でも、訳が分からないことだけは頭の中で理解できた。
(……思い出しちゃダメなんだから、か)
薄々、そうなんじゃないかと思っていた。
僕には明らかに過去の記憶が欠落している個所が多い。
それを、自覚してしまった。
「……くそっ!」
だって、僕は自分の通っていた小学校も中学校の場所も名前もそこで出会い育んだ友情の記憶も何一つなかったのだから。
あーあ、今日も憎々しいくらい空が青い。
果たしていつまで毎日投稿を続けられるのだろうか




