第26話・希望的観測のヘレシー
祝600PV突破!!
第28話なんて見なかった……いいね
彼女から差し伸べられた手を僕は取らなかった。
「ちょ、ちょっと待って!!」
勢いよく後ろを向き、仲間たちにどうすればいいか作戦をあおる。
「時貞くん……どうすればいいかな?」
「……どうしようもないな」
だが、返って来たのは冷たい現実そのものだった。
それは、他のみんなも同様のようで時翠くんですら顔が暗いままだった。
「せ、先輩はどうですか!何か、方法は……!?」
「……ない」
「な、ないって……」
「科学者が”ない”ものを”ある”と言うわけにはいかないだろう。私も彼女が戦っている所を見たことがある。はっきり言って別次元だ」
別に僕は実際に彼女の戦いを見たことがあるわけじゃない。
だけれど、僕より何倍も凄い人たちが揃いも揃って深刻な顔をしていると胸が痛くなってくる。
「……ちょっと、電話かけてもいいですか?」
「ああ、いいとも」
千時さんの了承をもらって、電話をかける。
1コール、2コール、3コール――
一言目、何を言おうか決まらないまま心臓だけが上下に動いている。
「はーい、もしもし。どうしたの槃?」
「……」
時雨さんの優しい声が聞こえる。
電話をかけたのはこっちなのに、声が出てこなかった。
「槃?どうしたのー?もしかして、あたしの声が聞きたくなったとか?なんてね」
(でも、言うんだ……)
息を吐いた。
緊張で顔が熱くなっているのがわかる。
「ごめん」
「って、そんなわけないよね。それで、本当はどうしたの?」
指先が震える。
「……その、もしかしたら僕も時雨さんも出ていくことになるかもしれない」
「ま、まさかあたしのことがバレちゃった……!?」
「いや、違うよ」
僕が愚かだった。
みんなから鍛えてもらったから彼女には対戦のこととか伝えなくていいだろうと慢心していた。
言いづらいことを話すことから逃げていたんだ。
「全部、話すね」
「うん」
僕は、これまでのことを簡潔に彼女に説明した。
「……ふむふむ、それであたしは何をすればいいの?」
「え?」
「あたしは、テクノイドの操縦はできないし……色仕掛けとか?」
「えっと……僕言ったよね。部屋を追い出されるかもしれないから自分の荷物をまとめたりしててほしいって」
現状、僕と時雨さんは一蓮托生だ。
僕が退学すれば当然あの部屋は引き払われるだろうし、時雨さんも男子寮を追い出されるだろう。
(……気乗りしないけど、和華さんにお願いするか)
あの変態寮長に頼むのは少し抵抗があるが背に腹は変えられない。
「うん、聞いてたよ。でも、まだ負けるって決まったわけじゃないんでしょ?」
「……いや、そうなんだけどね。ほぼ、負けみたいな……そんな感じなんだ」
「何それ、槃は最初から負けるつもりで戦うの?」
「っ……」
僕だって負けたくない。
ていうか、これは負けられない戦いである。
だが、現実は非情である。
「でも、さ……相手めちゃくちゃ強いんだよ。勝てないんだよ。みんなも無理だって言ってる」
「じゃあ、あたしは待ってるよ」
「え……?」
「だって、あたしは槃が負けるなんて思ってないから。それよりも、今日のご飯何食べたい?待ってるから」
溜飲が下がっていく。
現実は非情だけど、僕の周りは無情じゃない。
「……鍋で!」
「うん、それじゃあ作って待ってるね。頑張って、槃」
そう会話を終えて電話を切った。
再び、千時さんと向き合う。
相変わらず手先は冷たいし震えているし心臓はうるさいままだし、怖い。
「やるかい?」
「……やるよ。鍋が待ってるんだ」
でも、僕っぽくなってきた。
ていうか、こういう戦いで有利な状況から始まった試しがない。
一足早く彼女は仮想コックピットに入って行った。
「少年、行けるのか?」
「……わからないです。でも、先輩は僕を信じてくれますか?」
「冷静に考えて勝敗は、ほぼ決した物だと思う。だけど、君が信じて欲しいというなら……私は勝てると信じられるよ」
僕は無言でうなずいた。
他のみんなにも目を合わせて、ただ頷いた。
「時貞くん。行ってくる」
「槃……おう、行ってこい!」
最後に彼と言葉を交わして前に出る。
僕の言葉を裏切らないために、信じてくれる人を報いるために、ここまでの努力を信じるために――僕は挑む。
***
ここまでの一週間で見慣れた空間、そこにぽつんと僕は立っていた。
手によくなじむ盾とメイス――そして、反対側にはアックスを装備した機体が一機
そして、過去先生の声が聞こえてくる。
『今回、審判は私が務めます。一応、言っておきますがジャッジは公正に行いますので心配しないでください』
「だそうだ、安心すると言い。不公平なジャッジはボクも異議を申し立てるつもりさ」
「そこは、心配してないよ」
相手からすれば不公平なジャッジをする理由がない。
むしろ、変なところで理由をつけて対戦を有耶無耶にされた方が困るだろう。
「それと、武器は捨てておくよ。それと、うっかり障害が残ったら困るからね。機体性能も50%下げてもらっている」
「……いい訳は聞かないよ」
「ボクは生きててそれを言ったことがないね」
機体性能が半分と言うことは、シンクロ率50%の僕が操る機体と比べて性能に大きな差はないはずだ。
(これなら、勝ち目がある!)
ハンデでありで勝つなんてダサいかもしれないが、そんなこと考えている場合じゃない。
緊張はしてる、だけど思考は鈍っていない。
『試合開始!!』
戦いの幕が上がった。
先手必勝、守りに入ったら即負けると考えた僕は盾を前方に構えて走り出す。
(そもそも、相手がどういう戦い方をするのかもわからない……まずは盾を使って様子を見る)
「……さて、やるかな」
一歩、相手も踏み出す。
油断はない、相手の行動も武器がないならその分だけ必然的に絞られる。
(何が来る、拳、蹴り……それとも、投げか?)
投げはともかく、他二つは盾で十分防げる。
だからこそ、予備動作を見逃してはいけない。
「ふんっ!」
(拳!!)
予備動作も見逃してない。
軌道も目線の中、地に足はついてるこれなら十分に受け流せる。
(よし、タイミング完璧……?)
妙だ。
盾に走る感覚が弱い。
その瞬間、僕の腹に鈍い衝撃が走った。
「うごはぁっ!?」
「あれ、意外と簡単にフェイントに引っかかったね。でも、受け身はちゃんとしてる。追撃が難しい形だ、成長してるね」
盾で衝撃を逃がしながら、流れで立ち上がり防御の体制に入る。
(……くっそ、最初から引っかけか!)
そもそも話、彼女の予備動作が”完全”に見える時点でおかしかった。
あれは、僕の盾の受け流しを誘う罠だった。
偶然だろうが特にこれまで盾の受け流しでワンチャンを狙っていた僕にはよく効く。
(大丈夫だ。よく分析できてる……次は引っかからない)
と言っても、次も同じ行動をしてくるとは無いだろう。
「それじゃあ、今度はボクから行くよ!」
そして、今度は彼女の方が僕の方に迫ってくる。
だが、僕の間合いには完全に入らず数歩踏み込まなければ攻撃できない位置で止まる。
「さて、これはどうする?」
(……?)
彼女が刻み始める独特なステップ。
ある人が見ればボクサーと、空手と、テコンドーと格闘技の名前が出てくるほどの動き、次の動作が全く読めない。
足音すらほぼしないその動きから僕が理解できたのはそれが洗練されたものであることだけだった。
(わからない……)
思考が止まる――それは、この七日間で考え続けて成長してきた僕にとっては敗北にも近い。
ゆえに――
「……遅い」
こうなることは必然だったのだろう。
機体の性能差はほとんどないというのに、僕の反応は全く間に合わなかった。
あっという間に懐に潜り込まれ盾が吹き飛ばされる。
「……あっ」
思考が追いついたときには、眼前に鉄拳が迫り顎に強烈な一撃が叩き込まれた。
当然、シンクロナイズで連結している僕にもそれ相応のダメージが入る。
同時に手からメイスが離れる。
「っ、あ」
「逃がさないよ……!」
そして、機体が少し空中に跳んだと思えば肩への鈍い衝撃と共に地上に叩き伏せられる。
そのまま、首根っこ掴まれた状態で僕の体は完全に脱力した。
「これで、詰みだね」
「……」
何もさせてもらえなかった。
頼みの盾とメイスを失い、後方に吹っ飛ばされないから体制も立て直せない。
その上、死ぬようなダメージでもないから覚醒も起きない。
(負ける……)
浮かんできたのは、時貞くんたちの顔だった。
申し訳ない、ここまで僕のために付き合ってくれたのに他でもない僕が台無しにしてしまった。
情けない、情けない、情けない――
(……これじゃあ、救世主にもなれない)
負ければ、僕の夢もそこで終わりだ。
ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ。
『そうでしょ、槃ちゃん』
「勿美……」
幻覚が見える。
コックピットの中に彼女がいる。
『まだ、諦めちゃダメだよ。だって、だって槃ちゃんが救世主になれなかったら……』
その時、彼女の姿がドンドン幼い少女に変わっていく――目は黒く、光が見えない。
『なんのために私”達”は死んだの?』
魂が震えだした。
うひょー!評価ポイントが0から10に上がったぜ!!……しばらくは、これでやっていける~!!
しかも、ポイントが入ってランキングに乗ったおかげかPVが増えた気がする……応援ありがとう!!




