第25話・思考限界のアブソリュート
先輩と話し合った後、僕たちは一緒に登校して、その後難なく授業は終了した。
当然、その後は――
「……ま、またやるのかい?」
「もちろん。今日こそ、時翠くんから一本取るよ」
彼との模擬戦である。
昨日、20時前後まで続いたことを思い出したのか彼の表情は芳しくない。
その顔を見た僕は時貞くんに小声で話しかける。
「ねえ、やっぱり迷惑なんじゃないかな?明らかに疲れてるし……」
「任せろ、こいつの扱いは心得てる」
そう言って、彼は一歩前に出る。
「オマエ、まさか怖いのか?」
「はっ?」
「そうだよな……ま、疲れてるなら仕方ない。”疲れてる”と負けるからやらないんだよな」
僕ですら気づけるほどのあからさますぎる挑発、こんなの引っかかる奴なんて普通はいないだろう。
「そんなわけないだろ……たとえ、疲れていようと自分に敗北はないさ!槃、さっさと、シンクロナイズを装着しなさい!」
(引っかかったー!?)
何だろう、時貞くんが”ちょうどいい奴”と言った理由が今ならなんとくなくわかる。
間違いなく、彼は僕の特訓相手に適任なんだろう。
(まあ、やってくれるなら僕も全力で行くまでだ)
退学がかかっているのだ。
「頑張るんだぞ、少年」
「……はい!」
片手に怪しいドリンクを携帯して立っている先輩がいることに色々言いたいことはあったが喉の奥に押し込んで仮想コックピットに入った。
「かかって来ると言い、半人前くん」
「半人前?」
「君の呼び名なんて、それで十分さ」
半人前と評価されることを喜ぶべきか、それとも貶されていると受け取るべきか。
相手は相変わらず、アックスをすぐに投げ捨て余裕綽々という感じの構えだ。
昨日とは違うということを思い知らせてやる。
「……はぁっ!!」
装備したメイスと盾を構え、突撃を開始する。
昨日とさほど変わらない見え見えの突進、相手にとってこれを対処するのは容易だろう。
相手の行動は盾目掛けての見え見えの鉄拳攻撃である。
「なっ」
だが、まともに食らわなければどうと言うことはない。
昨日は散々失敗続きだったが、今日になってやっと盾でいなすことに成功した。
(何で、時貞くんが盾の使い方を最初に教えたか今ならわかる……)
もし、盾の練習を最初にしなければ何も始まらなかっただろう。
「ファーストアタックいた……あれ?」
盾で鉄拳をいなせば露わになるのは隙だらけの側面である。
そこに思いっきりメイスを振るったのだが、カスッと空を切るだけだった。
「ファーストアタックはもらっていくね」
「いだぁっ!」
声が聞こえたと同時に背中に鈍い衝撃が走り、再び地面を転がることになる。
「君、盾の扱い方はよかったけどメイスを使うの下手だね……上手な使い手じゃなくてもあれは当てるよ」
「うっ……」
「腰の意識は良いけど、もっとコンパクトに振るんだ。それと、盾からメイスに意識を変える時少しタイムラグがあるよ。それにね……」
何かツボでも押したのかわからないが、昨日とは打って変わってマシンガンのようにアドバイスをしてくれる。
しかも、全部わかりやすいし、僕に足りないことだとわかる。
「あの、何でそんなにアドバイスしてくれるの?昨日は一方的にボコボコにしてきただけなのに」
「……それは、見込みがないなら引き離す。けどね、あるなら全力でサポートする。これが、自分の流儀みたいなものだからだよ」
「みっ見込み!?僕に見込みがあるの……!!」
割と一方的にやられてただけな気がするが、そう思ってくれていたとは思わなかった。
「ゼロじゃないだけさ。ほら、再開するよ。ただでさえ時間がないんだから」
「……うん!」
明らかに格上の実力を持つ彼に認めてもらったことが僕には嬉しかった。
だが、憧れてばかりでもいられないこれからやろうとしているのは僕にとってはジャイアントキリングなのだから。
その後も、特訓は続いた。
最初は、何度も蹴飛ばされ、ぶん殴られ地面を転がった。
しかし、時間が経つにつれ自分が考える動きが体になじみ始めた。
入学してから7日目、退学を懸けた対戦の一日前――
「ふぅ……!」
大きく息を吐きながら、盾を前にメイスを思いっきり振りかぶる形になる。
ここまで、何十合と打ち合いをしてきて未だに今日は一回も地面を転がっていない。
最初は、軽薄そうな態度を崩さなかった彼は今では一言も話さない。
(そこまで大ぶり構えたら盾で受け流されてもすぐに回避出来てしまうのに……?)
だが、槃は間合いに近づいてもその構えを変える素振りは見せない。
本気で振るおうとしている。
その時の時刻は夜の20時を回りかけていた。
両者ともに疲労が蓄積し、集中力は限界を迎えつつあった。
「血迷ったね、槃!!」
「……!!」
まともに命中すればただでは済まない鋼鉄の蹴りが槃を襲う。
だが、その感触は予想外に軽かった。
(蹴ったのは……盾だけ!?)
そう、土壇場で僕は盾を投擲し相手の攻撃を誘発させたのだ。
その結果、隙が生まれる。
だが――
(それなら、その大ぶりは選択ミスだよ。もし、君にこの場でコンパクトな攻撃を選択する集中力があれば攻撃は当たって……!?)
しかし、空中から飛来した物体が彼の動きを止めた。
それは、まさしく訓練の開始直後に時翠自身が投げ捨てたアックスであった。
(そうか、最初に投げてから動いてたのか……!)
「……ここっ!!」
条件がそろった今なら、大ぶりの攻撃だって当たる。
僕は、全力で腰を躍動させながらメイスを振るった。
その先にいる彼の機体はピンポン玉のように吹っ飛び始めて誰かを地に転がすことに成功した。
「……や、やった!」
「はーい、油断したね」
喜びもつかの間、横から声が聞こえてくる。
当然と言えば当然のことだが、僕が一度相手を転がしたからと言って戦いが終わるわけじゃない。
「うごぁっ!?」
再び情けない声を上げて、地面を転がることになるのだった。
***
そして、ついにその日はやって来た。
僕の退学と、大会出場を決定する対戦が始まるのだ。
ここまで色々な人の助けを借りた。
時貞くんに戦いの基礎を教わり、時翠くんからその応用と格上との戦闘方法を、無無先輩からは怪しいドリンクをもらった。
「……それでは、準備は良いですね?」
真剣な表情の過去先生が僕に問いかけてくる。
仮想訓練ルームDには僕と時貞くん、時翠くん、未来さん、無無先輩の4人が応援するために集まってくれた。
「はい」
逃げる気もないし、必要もない。
コンディションも怪しいドリンクのおかげでだいぶいい。
少し副作用が怖いが、先輩曰く――
『大体、多分、きっと……その大丈夫だ……と思う』
とのことだ、もう信じるしかない。
「それで、僕の対戦相手ってどなた何ですか?それっぽい人いませんけど……もしかして、先生とか!?」
まさかの時翠くんとかではないと信じたい。
「違いますよ。しっかりこの後、槃くんを完膚なきまでにぼっこぼこにする生徒に登場してもらいます」
「っ!!」
「それじゃあ、出てきてください」
時貞くんの予想によると推定シンクロ率80台前後の相手が僕の相手になる。
おそらく、知らない人だろうが少し緊張してきた。
怖いけど、きっと今の僕なら勝てる――
「やあ」
扉の向こうから聞こえた声だけで僕の心臓が少し浮いたのがわかった。
それは、他のみんなもそうなのか全員顔を青ざめさせている。
まさに、画風が違うの一言だ。
「自己紹介は……必要ないね。だろ、槃」
「……嘘だろ」
シンクロ率92%、操縦技術は時貞くんより上、状況判断も高い。
ついでに、頭もいい、顔もスタイルも最強
そして、”メサイア”の二つ名を持つ人物。
「何でオマエがそこにいる!天宮城!!」
「それは、ボクこそが槃の退学を懸けた対戦相手だからさ、時貞」
彼女の発言に”絶望”が充満していく
本気で、本気で過去先生は僕を完膚なきまでに叩き潰そうとしている。
「さあ、準備はいいかい、槃?」
その笑みを前にゾッと背中に汗が伝うのがわかった。
うひょー!!評価ポイントが付いたぞ!10ポイントになった!!これで、評価ポイント0脱却!!やったー!!
それにしても、10ポイント入っただけで日間のランキングで58位?くらいに入るなんてどんだけSFの空想科学って過疎ってるんだろう……?




