第22話・純然たる狂気のセイヴァー
祝500pv突破!
仮想訓練ルームが展開され、先ほどと同じように二機のテクノイドが相対する。
時翠くんの方は時貞くんの機体のデータをそのまま使っているため武装はアックスのみだ。
対する僕もそのままの為、盾とメイスを装備している。
だが、彼は無言でアックスを投げ捨てた。
「……なんのつもり?」
「怪我したら困るだろ。まず、君にわからせないといけないからね」
「何を?」
「これから君が戦うことになるのはシンクロ率が相当離れた相手になる。それが一体どういう意味を持つのか。叩き込んであげるってことさ」
舐めている。
彼の言葉を僕はそう受け取った。
「……そう、なら胸を借りるよ!!」
武器を今一度握りなおして、僕は彼に向かって突撃した。
状況は相手は素手、対する僕はメイスを装備している。
生まれるのは決定的なリーチ差だ。
(なら、ある程度近づけばメイスの火力が……)
「遅いね」
思考はそこで断絶した。
なぜなら、僕が間合いに入ろうとしたその瞬間に相手が目にも止まらぬスピードで接近してきたからだ。
「うごっ……!」
眼前まで迫った鉄拳を防ぐ術は今の僕にはなくなすすべなく地面に這いつくばることとなった。
「……なるほど、基礎はできてる。受け身は彼との訓練で自然と身に着けたのか。二日でこれとは異常な成長速度だね」
(な、何が起きたんだ……)
これまで、時貞くんとやり合ってきてもこんなことは一度も起こらなかった、
でも、本当に見覚えがないかと言われればそうではない。
(まるで、十を超えるテクノイドにリンチされた時みたいだ……)
繰り返したループの中で一度だけあった。
あの理不尽展開の時も、こうやって何が起きたかわからないままやられた。
「ほら、まだ立てるだろう。さっさとかかってくると良い。胸は貸してあげる」
「……ふぅ、利子をつけて手痛い返しをしてあげるよ」
でも、起こったこと自体は魔法や手品でも何でもない。
相手が僕の間合いに入って、殴り飛ばしてきただけだ。
今度は盾に身を隠すように前進する。
(予備動作を見逃すな……何か必ず、必ず突破口があるはずだ)
心臓が早まる。
それをグッと胸に力を入れて抑えながら眼光を光らせる。
「だから、前提が違うんだよ」
「え?」
相手の見え見えの動作、拳を引き今にも鉄拳を放とうとしている。
こんなもの、盾で防いで即反撃に移れば済む話だ。
「は?」
だが、そういう話ではなかった。
何故なら、確かに盾で防いだはずの一撃で僕の体は宙を舞い地面に叩きつけられたのだから。
(……なんで、僕は……盾で、防いだ。なんで……)
思考が追いつかない。
これは、目の前で仲間たちがみんな殺された以来だった。
「君は大きな勘違いをしている。シンクロ率と言うのは単に操縦しやすさを示したわけじゃない」
「……っ」
「高ければ高いほど機体の性能を引き出せる。それこそ、君が盾で自分の拳を全く防げず吹っ飛ばされたようにね」
頭のどこかであった驕りが一気に消えていく。
僕はどこかで相手と常に対等な条件で戦っていると思っていた。
確かに、時貞くんとであればほぼ対等と言ってもいい。
(これが……シンクロ率の差!)
ここまで劇的なものなのかと初めてその事実を味わっている。
先生が大会に出ることを止めたわけだ。
「悪いことは言わない。これで、思い知ったのなら本当に死ぬ前に転校するべきだ」
「……まだ、知れてない」
「へぇ……」
何故だろう、機体越しになのに彼の蛇のような目を幻視した。
でも、今度は怯まない。
「時貞くんのようにシンクロ率に差があっても勝つ方法はあるはずだ。諦めるのは、それからでいい」
「……君は知ってるかい?馬鹿は死んでも治らないって言葉」
「馬鹿だからわからない。わからなくたって足は前には進めるぞ!!」
圧倒的な実力差と機体性能差を前にしながらも、僕は再び立ち上がり昨日のぶつかり稽古を思い出しながら向かっていくのだった。
***
その結果と言えば、一言で言えば『惨敗』である。
ぐうの音も出ない。
あのまま、挑戦し続けたのはよかったが同じ絵面が散々続くだけだった。
(まあ、結局時翠くんを根負けさせられたし勝利かな……うん)
時刻が20時を回った頃くらいに、彼の方から待ったがかかって今日の訓練は終了になった。
その代償と言うべきか、体は初日以上にガタガタになって寮に帰るのも一苦労だ。
「やあ、少年」
「……?」
「私だよ。たった二日あっていないだけだというのに忘れてしまったのかい?」
暗闇から呼ばれたと思って振り向く。
確かに、誰かが立っているが僕の脳みそは予想以上に動かなくなっているようだ。
「あ、無無先輩」
「……全く、本当に忘れていたようだな。いや、違うか。正確には疲れすぎているという所か」
「なんで、ここいるの?」
先輩って確か、ほとんどの時間を工房で過ごしているはずじゃないだろうか。
こうやって、外に出ている姿なんて初日しか見たことがない。
「言葉まで幼稚になっているのか。なら、ここに放っておくのもマズいか。仕方ない、私の工房に連れて行くとしよう」
「……だいじょぶ、です。帰れます。帰れます」
「帰れるわけないだろ。ほら、怪しいドリンクもあるから……工房に行くぞー」
なんか嫌な予感がしたので踏みとどまろうとしたが、全く体に力が入らずそのまま彼女に引きずられていくのだった。
そのまま工房に到着した僕は椅子に座らされ、怪しい色をしたドリンクを渡される。
「……何です、これ?」
「飲むと元気になるドリンクだ。快眠効果付きだぞ」
普段の僕なら、こんな物飲むはずがない。
(飲むと元気になるのかぁ……なら、飲んだ方がいいか)
だが、頭が正常に作動していない僕は両手でグラスを口に運んだ。
「ぐっがはぁ!?」
「ほらほら、飲んで飲んで飲んで!!」
あまりの不味さに反射的に噴き出してしまった。
だが、グラスを先輩に掴まれ半強制的に激マズドリンクが口内に押し込まれていく。
結局、何とかドリンクを飲み切るのだった。
「……な、何するんですか!!」
「おっ、元に戻った。成功だね」
「せ、成功じゃないですよ!!あまりにも強引すぎますし、危うく死にかけるところでしたよ!」
確かに、先ほどまで醜態をさらしていた僕とは違って今ははきはきとしている。
むしろ、普段より元気なくらいだ。
「ごめんごめん。どうしても、私以外に実験台が欲しくてね」
「なら、一言言ってください。よっぽどじゃない限りは付き合うので……」
「おお、協力的だね」
「先輩の実験で犠牲になる人を減らすためです」
放っておけばそれこそ、時貞くんが言っていた噂のようなことになりかねない。
「……それは、救世主になるためか?」
「そうですよ?」
目の前で発生しようとしている犠牲を見て見ぬふりはできない。
だからって、先輩の実験を止めれば彼女が良しとはならない。
「言っておくけど、そう言う在り方は酷く……歪だぞ」
「歪?」
「自覚なしか……あれ?そういえば、少年はそこまでして救世主になりたいんだ?」
――これまで、無涅 槃と言う少年の前には多くの試練が立ち塞がった。
それを、乗り越えられたのには積み重ねてきた多数の要因がある。
だが、究極的に乗り越えてこれたのは彼がひとえに救世主と言う夢を追い続けてきたからである。
人は夢を追い求めようする”きっかけ”が誰もしも存在する。
『だが、その日から誓ったんだ……誰も、オレみたいに理不尽に大切な人を奪わせて堪るか!ってな』
例えば、時貞であれば、己の父と味わった悲劇からそれを得ている。
「それは……」
これまでのループで槃は死への恐怖、爆撃を受けたり、人を手にかけてしまったり、本当に辛い目にあってきた。
当然、それらを乗り越えられる相応の理由が存在するはずなのだ――いや、存在しなくてはならない。
「救世主になりたいからです」
「……は?」
酷く歪な者を見た。
彼女には無涅 槃と言う人間の在り方が理解できなかった。
目の前の彼の姿が人間のはずなのに、瞳の奥は機械のようにすら見えた。
「だ、大丈夫ですか!?調子悪いなら、僕が担いで行きますよ」
そんな彼女の反応を見て、淡々とそうするべきと思っているように彼女を心配していた。
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