第21話・思考加速のスティミュレーション
入学二日目、負ければ退学の戦いを申し込まれた僕はあの後も時貞くんと訓練を続けていた。
「メイスの振り方はこうだ」
「こ、こう?」
「違う、オマエのは腕だけで振ってる。もっと腰と体全体を使え」
そして、今は前半行った盾の訓練からは打って変わって僕の武装であるメイスを特訓している。
なぜ、メイスなのか?
と言われればその理由はものすごく単純で――
『剣や槍よりも、素人のオマエならこっちの方が扱いやすいからな』
とのことだ。
確かに、剣や槍は刃物な分しっかり振らないと盾に簡単にいなされてしまう。
だが、メイスならテクノイドの力で思いっきり振るえば盾だろうとその衝撃を逃がすことは敵わない。
実際、僕もメイスを扱っていてこの上なくしっくりくる。
(……頭が単純だから?)
何でもかんでも考えるようにしているせいか、こんなことまで考えるようになってしまった。
「ほら、もっと腰を……って、オマエ聞いてないな」
「はっ……い、いや考え事をしていただけで……」
「常に考え続けろとは言ったが、それは他のことと両立するのが前提だ。それくらい、わかるだろ?」
「う、うん」
そうだ、考えるたびに立ち止まっていたら相手にとってはいい的になる。
戦闘中には武器を振るいながら、盾で守りながら相手の動きと自分の動きを考えて組み立てる必要がある。
「ま、言うに易しってやつだな。結局、何回も繰り返さねえとやり方ってのは体に染みつかねえ。ほら、構えな」
「……うん」
僕の装備はメイスと盾、そして彼はアックスのみとなっている。
少し距離を取り、互いに構える。
(どうする?さっきみたいに突撃していっても……いや、待てよ)
よく考えてみたらあの投擲攻撃は割とイチかバチかではないだろうか。
一見、僕の視界を防ぎつつ生まれた隙を刈っていくいい戦法に見える。
ただ、例えば投擲を外しでもしたら彼の武装はなくなる。
(なら、さっきみたいな攻撃を誘発させてアックスを奪った方がいいのか?)
だが、そうこう思考を重ねている内にも彼はこちらに向かって前進している。
アックスは見えないが、おそらく振りかぶって間合いに入った瞬間の僕を切るつもりなんだろう。
「来いよ!」
(そんな単純すぎる戦法で今更やられると思っているのかな……僕って)
こんな見え見えの大ぶり、盾でしのぐ術を覚えた僕にとっては鴨が葱を背負って来るも同義だ。
ならばと、こちらも盾を構えて迫って行く。
(……いや、待てよ)
だが、流石におかしいと考えて足を止める。
流石の時貞くんと言えど僕をここまで侮る理由が見当たらない。
「動いてこないのかよ!」
(……いや、これは罠。間合いに入ったところを……)
相手に挑発に負けず、僕はその間合いには入らないことを決めた。
だが、今度は走り続けていた思考が途中であらぬ道を見つけたように立ち止まった。
(……何でそもそもあんな大ぶりである必要があるんだ?)
大ぶりでも大ぶりすぎる。
それこそ、小型のアックスが隠れてしまうほどに――
「上か!」
「遅いっ!!」
もしやと思って見上げたその瞬間だった。
そこには回転しながら迫ってきていたアックスがあったのだ。
彼の言う通り、本当に気づくのが遅かった。
「ひっ」
反射的に体を屈めることで頭に直撃することは防いだものの、当然その動きは致命的な隙を作り出した。
ゆえに、盾を蹴られ衝撃を逃がしきれず地面を転がるのは必然であった。
「オマエ、最初考え事してただろ」
「う、うん……って、その時に!?」
彼の言う通り僕は最初、彼がどういう動きをするか考えていた。
そして、それを辞めた時には彼はこちらに走り出していた。
(なるほど、僕が考え事をしてよそ見していたタイミングにアックスを上に投擲していたのか……!?)
僕は別によそ見していていたつもりはなかった。
だが、彼の投擲に気づかなかったということは無意識によそ見していたんだろう。
その時、頭に鈍い衝撃が走る。
「ほら、またよそ見をした。言っただろ、考え続けることは他のことと両立させるのが前提だってな」
「う、うん……」
「ほら、立ち上がりな。それが出来るまでビシバシやっていくぞ!」
「はいっ!」
言われてすぐ出来たら苦労はない。
だが、一週間後の試合のために僕はここでへこたれているわけにはいかない。
スパルタ指導は続いていく――
***
時貞くんとの訓練の後、僕たちは二人でベンチで休憩していた。
「君が無涅 槃君かな」
「え?」
すると、僕の名前を誰かが呼んだ。
見上げると、そこには少し短髪のブロンドの髪が目立つ美少年が立っていた。
(また、画風が違う……!?)
少し、その顔に見惚れていると彼が口を開く。
「ああ、ごめんごめん。まずは、自己紹介からだね。自分は1年1組の風祭 時翠だ。よろしく」
「えっと、僕は1年4組の無涅 槃。こっちこそ、よろしく……でも、どうして僕のことを?」
記憶を探るがこんな美少年と出会っていた覚えはないし、名前を名乗った覚えもない。
「実は、時貞に頼まれてきたんだ。君の特訓相手としてね」
「と、時貞くん!?」
「……結局、先生が用意する相手は高くてもシンクロ率80%前後じゃねえかとは思う。だがら、オレばっかりと戦うよりもちょうどいい相手を用意しといたわけだ」
確かに、あの先生が敵を用意するとして僕と同レベルか少し上のシンクロ率の人を指定する可能性は低い。
「ちょどいいは余計じゃないか、時貞」
「うるさい、本当にちょうどいい奴がオマエくらいしかいねえんだよ」
軽口を言い合う二人は、実際そうなんだろうが昔からの旧友のように思えた。
そして、ちょうどいいということは彼はシンクロ率80%前後と言うことだろうか。
「でも、本当にいいの?自分、シンクロ率83%もあるんだけど……うっかり怪我とかさせちゃったら不味くないかな?」
「仮想だぞ。よっぽどが無い限りは怪我なんてない。それに、全力で行った方がいいぞ」
「……へえ、時貞がそう言うってことは見込みはあるんだね」
すると、彼の蛇のような瞳が僕を写す。
その圧力を前に、僕は蛇に睨まれた蛙のように動きを止めてしまう。
「ああ、余裕だと思ってたら足元掬われるかもな」
「ふっ、自分は雑魚をあしらいに来たくらいのつもりだったけど、君にそこまで言われると滾ってくるね」
「ちょ、ちょちょちょ!!時貞くん!!」
明らかに火に油どころかガソリンを注いで爆発させようとしている彼を止めて時翠くんと引き離す。
「な、何言ってるの!?明らかに時翠くんのいう通り雑魚があしらわれるだけだよ!」
シンクロ率83%とか、入学二日目の僕が戦ったらぼっこぼこにやられる未来しか見えない。
「オマエこそ何でそんな弱気になってんだ」
「え……」
「本番もそんな風に思って戦うのか?」
「違う」
負けるとか考えていた思考を急いでふるい落とす。
最初から、負けるつもりで戦っていたら今の僕はここまで来れなかった。
それに、すぐに弱気になる程度の覚悟で退学を懸けたわけじゃない。
「……ごめん。ありがとう、時貞くん。こんなチャンスを用意してくれて……時翠くん」
「何かな?」
「僕は君に挑む。そして、勝ってみ……いや、勝つ」
「そうだ、槃!あのいけ好かないイケメン面に風穴を開けてやれ!」
ちょっとまだ怖いけど、そう言い放った。
すると、彼は得物を見つけた蛇のような笑みを浮かべた。
「いいよ。無涅……いや、槃くん。自分が完膚なきまでに叩き潰してあげよう」
(……やっぱり、ちょっと後悔してきた)
そう言う内心の事情をググっと押し込んで、僕は彼に挑むのであった。




