第2話・回帰のリワインド
「あ、あぁぁぁ……!!はぁ、はぁ……」
まるで頭がトンカチでぶん殴られたような衝撃が襲った。
勢いよく布団を押しのけた僕の体にはびっしりと嫌な汗が付着していた。
「ひぃっ、はぁ……な、にが……」
自然と辺りを見渡すと、カレンダーに目が止まる。
そう、今日は4月3日の朝9時で明日が街に待った入学式だ。
「おはよう、槃ちゃん!」
「勿美……?」
呆然としていた僕の部屋に上がり込んできたのは小さいころからの幼馴染であり、友人でもある忘草 勿美であった。
(そうだ、ちょうど昨日も同じように……?)
「どうしたの?何だか顔色が悪いみたいだけど……」
そうだ、昨日も寝起きで気分が良くなかった僕は彼女にこんな感じに顔を覗かれていた。
(昨日……?今日は4月4日で、入学式の日で……遅刻して……僕は、僕はっ……)
「おーい、起きてる?私のこと見えてる~?」
「はっ!!はぁ、はぁ……そうだ、僕は……!!」
点と点が繋がるように、電源をつけるためのスイッチを入れたような衝撃が脳裏をよぎった。
4月4日の記憶、夢というにはあまりにもリアルで、残酷で――
現実というには、あまりにも受け入れられないような情景が一気に入り込んできた。
そして、目の前にいる彼女と視線が合う。
「……いる」
「うん?私は、ずっと槃ちゃんの傍にいるよ?」
「……だよ、ね」
僕は何を考えている。
ここで普通に生きて僕の傍にいる彼女が死ぬわけがない。
あんなのは全部夢だ。
まさか、明日の入学式で学校が襲撃されて一面が火の海になるなんてありえるわけがない。あっていいはずがない。
「大丈夫、大丈夫だよ。槃ちゃん、私はここにいるよ」
「……うん」
涙を流した僕を彼女はそっと泣き止むまで抱きしめてくれた。
だが、それはあの夢の終わり。
鋼鉄の壁に押しつぶされて死んだ瞬間を体に呼び起こさせた。
「そうだ、ごめん。勿美、僕のせいで入寮が遅れて」
「ううん、いいの。私は槃ちゃんと一緒に行けるのが嬉しいから」
そう、本来は国立人機西教育学校は全寮制だ。
しかし、補欠とはいえ無事に合格できたことに受かれていた僕はすっかり忘れてしまっていた。
その結果、入寮が入学式当日となってしまっていたのだ。
「それより、明日は入学式だね。友達、たくさんできるかな?」
「うっ……ま、まあ今はテレビでも見ようよ!」
痛いところを突かれ咄嗟にテレビをつける。
「私は心配だよ。だって、槃ちゃんって私以外に友達いないし……人と話すのもそんなに得意じゃないもんね」
「……が、頑張るよ!!」
『今朝、国立人機西教育学校の近辺で巨大隕石が落下したとの情報が入りました……』
テレビから朝のニュースが流れる。
「えぇ!?何だか怖いね。でも、明日じゃなくてよかったね」
「こんなニュース……」
「槃ちゃん?どうしたの?」
「……ううん、何でもないよ」
違和感はあった。
現実から逃げている感覚はあったがひとまず今日は明日に備えて早く寝た。
***
翌日、僕たちは寝坊なんてするはずもなく始発に乗って学校に到着することができた。
8時15分
集合場所の教室へも周りに同じ新入生がたくさんいたのでついていくことで無事にたどり着くことができた。
そこで、教室が別の勿美とは別れ、集合場所の1年4組に向かうと既に新入生が集まっていた。
だが、もうすでにコミュニティが出来上がっているのかほとんどが固まって喋っている。
「……」
もちろん、ボッチな僕に話しかける勇気など持ち合わせているわけもなく無言で黒板に書かれた自分の席に座った。
(……ごめん、勿美。やっぱり、僕はダメな奴だったよ)
その後、誰と話すこともなく無意味にスマホをいじり時間だけが過ぎていった。
そう、ちょうど夢ではこのくらいの時間で勿美だけを先に行かせたんだ。
それで、赤信号が変わってこんな風にチャイムが鳴ったんだ。
8時30分
すると、扉を開けて先生が入ってくる。
「はーい、全員集まっていますね。これから、入学式が始まるので皆さん廊下に二列で並んでください」
先生がそう言うと、僕たちは次々と廊下に出て整列していく。
他の教室も同様なようで一つの大きな列が廊下に出来上がっていた。
そのまま、流れに任せて僕は体育館に向かって行く。
8時35分
いいのか?
なぜか、心臓がうるさい。
思わず、胸を押さえていると隣を歩いていた女子から声がかかる。
「ねえ、大丈夫?すごく顔色が悪いけど」
「……あ、うん。大丈夫、ありがとう心配してくれて」
「そう、ならいいけど……あたしの名前は稲光 未来って言うのよろしくね」
「あ、えっとその……僕は無涅 槃って言います。稲光さん、よろしくお願いします」
店員さんと勿美以外の人と話すなんて久しぶりだったので緊張のあまり声が上ずってしまう。
「ふふっ、入学式の前だからって緊張しすぎだよ。でも、あたしのことは稲光じゃなくて未来って呼んで欲しいな」
「み、未来……はい、未来さん」
「うん、よろしく槃くん。そういえば、君って内部生?」
内部生、つまり国立人機西教育学校の中等部からの進学組かということだ。
もちろん、僕は内部生ではない。
「いや、違うけど……未来さんは内部生なの?」
「ううん、あたしも外部生でね。教室に入って来た時には内部生で固まってたから知り合いもいないし少し居心地が悪かったんだ」
僕も同じだ。
入って来た瞬間にはもうコミュニティが形成されていたからスマホをいじって時間を潰していた。
「僕も同じ、かな。元々人と話すことが苦手で……良ければ、僕の友達になってくれないかな?」
「うん、いいよ!ていうか、あたしから言おうと思ってたんだけど先に言われちゃったね」
入学式が始まる前に勿美以外に初めてできた友達に興奮しながらも階段を下り体育館へ足を運ぶ。
8時41分
「あ……」
見た、見てしまった、見つけてしまったんだ。
見間違うはずもない、少し寝ぐせのついたぼさぼさ髪の女性。
あれは、夢じゃない。
それを自覚した瞬間、周りの声が聞こえなくなって世界が遠くなった。
「おい、早く前に行けよ」
あれは、現実だ。
具体的な時刻はわからない。
だけど、そう遠くないタイミングでこの学校は何者かの襲撃を受けて火の海に変わるだろう。
「槃くん?どうしたの、早く行かないと」
「……行かないと」
「え?」
それを知っているのは僕だけだ。
予知夢なのか、それとも過去に戻って来たのか理由なんて今はどうでもいい。
「行くんだ……僕が救世主になる」
「槃くん!!」
幻覚だとか、色々な可能性はあるけれど今は居ても立っても居られなかった。
8時45分
僕を呼び止める声を背景に入学式に向かう列から外れ、彼女の元に走りだした。
「先輩!無無先輩!!僕です、槃です!」
「ん……?誰だ、少年」
呼び止め、彼女の名を呼ぶと振り返るが僕の顔を見てピンと来ていない表情をしていた。
「メサイアに乗せてくださいっ」
「……どういうことだ?大体、君はどこでそれを……」
「先輩!!もうすぐ、何者かの襲撃が学校を襲います。時間がないんです!詳しいことは、工房に向かいながら説明します」
先輩の困惑を遮るように僕は言葉続けた。
その表情、その声色、その瞳を彼女はじっと見つめる。
「……冗談には見えないな、わかった。ついてくるんだ、少年」
「はい!」
そう言って、僕は先輩と一緒にあの古ぼけた木造の校舎に向かった。
そして、あの時と同じように校舎の一部屋に入りエレベーターを起動した。
「……なるほど。一応筋は通っているね」
「それじゃあ!」
「ああ、にわかには信じがたいが君の話を信じよう」
僕は走って工房に向かっている途中で経験したことを全て話した。
最初は怪訝そうな顔をしていたが、話が終わるまで黙って聞いてくれた。
「でも、何でこんな予知夢みたいなものを見たんでしょうか……」
「それは予知夢なんてものじゃない。それは、君が確実に体験した出来事だ」
「体験した出来事?」
だが、それではまるで僕が時間を遡って来たと言っているようなものじゃないか。
「端的に言おう、メサイアの正体は……タイムマシンなんだ」
「……は?」
タイムマシン?そんな、まるでファンタジーのような出来事が実際に起こるなんてにわかには信じられない。
だが、僕の全身は確かにその悲劇を覚えている。
そうであると、空想の話ではないと結論を出している。
「私も実際に成功した例を見るのは初めてだが、あのテクノイドが実際に動いたのならそれしか考えられない」
「……」
だとすれば、両脇の金属の板に押しつぶされて死んだことも間違いなく真実ということだ。
起きた時と同じ、濃厚な死の気配と嫌な汗が体を覆い始めた。
「信じられないのも無理はない。タイムスリップに苦痛が伴うことも私は知っている」
「それで、結局どうすればいいんですか。もうすぐ、襲撃者たちは来るんですよ……!!」
「それは、少年。君が一番わかっているだろう」
真っすぐ眼差しは僕に注がれている。
分かっている、どうすればいいかなんてとっくに理解している。
8時50分
だけど、出来るのか――
「やるしかないんだ」
あの悲劇を、この学校で始めてできた友達を勿美を守るためには戦うしかない。
「……僕が救世主になることです」
「そうだ、解決するためには君がメサイアに乗り襲撃者を撃退するしかない」
話している内にエレベーターは工房に到着し扉が開かれる。
あの時と変わらない景色、浮かぶウィンドウ、そして純白の人機兵装がそこにはあった。
「すぐに準備を整える。何、安心しろ学校の迎撃システムをハッキングして襲撃者の数を減らすくらいはして見せるさ」
「それって、犯罪なんじゃ……?」
「学校が襲われるっていうのに作動しないシステムが悪い。おそらく、よっぽどステルス性の高い機体か、老兵だろう」
そうこう話しているとメサイアのコックピットが開かれる。
あの時と同じく足場を使って乗り、頭にシンクロナイズを装着する。
「シンクロ率……50%!?起動ギリギリじゃないか」
「それ、前も言ってましたよ」
時間を遡る前、瓦礫によって下半身が潰されていた彼女も同じことを言っていた。
「そうか。まあ、動くなら構わないさ」
今度は、普通に立って起動パスを入力する。
『コード認証、シンクロ開始……成功しました。メサイア改、起動完了』
「本当に適合していたのか……っと少年、悪い情報だ。レーダーの探知と該当範囲を拡大したところ三機のテクノイドが向かっていることが確認できた」
「三対一ってことですよね」
「ああ、だが……負けない相手じゃない」
負けない相手と言ったことに違和感を覚えたが、前の時間で先輩はメサイアを理論上最強だと言っていた。
シンクロ率が50%しかない僕でも勝てる可能性があるという事だろう。
「来る」
8時59分
「メサイア発進!!」
運命を変える。
今度こそ、誰も死なせないとそう誓ってメサイアは地上へ動き出した。
モチベのために、ブックマークとか感想とか書いて行ってくれ~




