第14話・学級序列のショック
暗闇、人目のつかない場所で電話越しに二人の男が話していた。
「……ええ、既に準備は終わっています。ですが、例の事件が起きたのに大会は予定通り行うんですか?」
「ああ、あちら側に相当無理を言って通したがね……無論、君達との繋がりは明かしていないさ」
君達と呼ばれた側は苦笑しながら、相手に尋ねる。
「それでは、学校はこちら側ではないと?」
「そうだ。だから、手早く頼む。成功すれば、あとはこちらがやる」
「心強いですよ。大臣」
大臣と呼ばれた男は焦りながら電話越しに訴える。
「大臣はやめろ。まだ、なってないのだからな」
「承知しました。では、手筈通りに行います」
そう言って、通話が切れる。
大臣と呼ばれた男は笑みを浮かべながら高給そうな椅子に座り込み天を仰いだ。
「ああ……すべては大日本帝国再建のために」
***
4月5日、裏切り者による密告によって引き起こされた大規模なテロ事件。
だが、僕は失敗するたびに何度もタイムリープを繰り返し、やっと今の時間にたどり着くことができた。
誰一人死なない、救済の世界線に――
この事件は、僕の中でディストピア社会主義事件としておこうと思う。
「ぶつぶつと何言ってるの?槃ちゃん」
「え……あ、あぁ口に出てた?」
「うん、ディストピア……何とかって」
4月6日、授業が始まる日。
僕は幼馴染の忘草 勿美と一緒に学校へ登校していた。
そして、どうやら考え事が漏れ出ていたらしい。
「えっと、This is a schoolって言ってたんだよ」
「急に英語!?」
「うん……急に英語を発音したい気分になったんだよね」
「そ、そうなんだ……じゃあ、私ここでね」
適当な誤魔化しも成功したらしく、クラスの違う彼女とはその場で別れた。
そういえば、時貞くんが同じ一学年の人間が初日の大事件で大体半分になったと言っていた。
(……友達100人は作れなさそうだなぁ)
一学年が大体40人と言うことだ。
少子化と言ってもここまで少ないと少しゾっとする。
それよりも問題はクラスメイト達の僕への認識が入学式前にいなくなった人となっている可能性があることだ。
「どうか、忘れてくれてますように……」
意を決して扉を開けた。
「……?」
教室の中は机と椅子が三つずつ。
未来さんと時貞くんが既に座っている。
一歩下がる。
(……1年4組だよな)
確認した後、再び入る。
今度は二人と目が合った。
「おっ、槃じゃねえか!」
「槃くん。おはよう」
「お、おはよう?」
二人に挨拶されると思わず挙動不審になってしまう。
と言うか、時貞くんの話によれば半分になったと言っていたが半分どころではない気がする。
「な、何があったの?」
「言っただろ。半分になったって」
「いやいや!半分どころじゃないよ。減りすぎてスッカスカになってるじゃん!」
もしかして、半分は半分でも全クラス平等にではなく主に4組からいなくなったという事ではないだろうか。
「ま、仕方ねえだろ。それよか、もう先生が来るぞ。さっさと座りな」
「う、うん……」
言われるまま鞄を下ろして、空いている未来さんと時貞くんの間の席に座る。
すると、数分もしないうちに先生が入って来た。
「はーい、おはようございます。ちゃんと全員いますね」
見覚えがある。
あの大きな丸メガネは入学式の日にも来た先生だ。
「私は貴方たちの担任の小鳥遊 過去と言います。テクノイドの授業全般を担当しています……ひとまず、一年間よろしくね」
(うん?)
ひとまずと言ったが、まるで一年間担当しないかもしれない言い草に聞こえた。
その後は、軽い学校の設備の説明をされたが、不思議なことに生徒三人と言う異常事態にも関わらず特に指摘もせずホームルームは終了した。
「それでは最後に質問はありますか?」
「はい!」
「はい、君は無涅 槃くんですね。どうぞ」
「どうして、クラスに3人しかいないんですか!?」
別に3人になって何か問題があるかと言われれば――ないかもしれない。
どうせ友達作り苦手だし
だが、流石に時貞くんの説明だけでは僕は納得できない。
「それは、皆さん転校しちゃったからです。初日の事件で4組から17人、3組と2組から10人ずつ。そして、1組からは3人が転校しました」
「え、えぇぇぇぇ!?」
3組、2組の転校も驚いたが、一番驚いたのは1組が3人だけだということだ。
「な、何で1組と4組でそんなに差があるんですか……?」
「あ、槃くんは外部生でしたね。まず、この学校にパイロット科とエンジニア科があることは知っていますね」
「は、はい」
「パイロット科は操縦を教えて、エンジニア科はテクノイド関連の技術を学びます。操縦できる子もいますけどね」
僕がパイロット科で、無無先輩がエンジニアの生徒だ。
エンジニア科は特徴として制服にギアの模様があしらわれているなど違いはある。
「まず、パイロット科は1組だけです。2、3組はエンジニア科なんです」
「……え?じゃあ、4組は」
「4組、通称”死の組”とも呼ばれる。主に補欠合格者や落ちこぼれで構成されるクラスです」
「あ、え?えぇぇぇぇ!?」
叫んだ直後、時貞くんとの会話が勢いよくフラッシュバックされる。
『あの、白いテクノイドだよ。やっぱり、1、2、3組の誰かが操縦してんのかな?』
あの中に4組が入っていなかった理由がやっとわかった。
よく考えてみればここは救世主を育ている名門校。
シンクロ率50%の僕が合格できたからと言って他の奴と同じレベルとは限らないのだ。
「つ、つまり4組だけ極端に減ったのは元々補欠とか落ちこぼれだったからと言う事ですか!?」
「はい、ですがむしろ賢明だったかもしれませんね」
「え?」
「4組はよく死ぬので」
「よく死ぬ!?」
死の組って比喩じゃなくて文字通りだったという事か。
(凄い淡々と言ってる……)
確かに言われてみれば僕は入学してからもう四回も死んでいる。
これはもしかして4組に入ったことによる呪い的な何かだったのだろうか。
「ええ、訓練中の事故とか急な襲撃に対応できなかったり……あとは原因不明の事故とかですね」
「な、何でよく死ぬってわかってるのに……入学させているんですか?」
「救世主の育成には事故がつきものです。ですが、ここは対中の最前線です。兵を絶やすわけにはいかないんですよ」
つまり、僕たちは予備兵のようなものだったということだ。
そんな、状態になっても強制的に徴兵できないのは日本ならではだろう。
「ま、待ってください。それなら、1組で3人欠けたということは僕たちは1組に上がるという事ですか?」
「いえ、未熟な4組と1組では腕前やシンクロ率に差があるので、カリキュラムが異なるんです。なので、当面は4組で学習してもらいます」
「……」
「その他に質問はありますか?」
二人は全く驚いた様子はない。
どうやらこの事実について知らなかったのは僕だけだったようだ。
まあ、入学できたことに乱舞して入寮日すら知らなかった僕のせいなのだが
「なさそうですね。では、これでホームルームを終了します。1、2時間目は仮想訓練ルームDにて行うので時貞くん。案内をお願いします」
「はい、先生」
ちょうど先生が出て行ったタイミングで終了のチャイムも鳴り、ホームルームは終了した。
「……3人しかいないなら普通教科のカリキュラムは同じでいいのに」
「オマエの言いたいこともわかるが、残念だがオレたち1年生にはテクノイド関連のカリキュラムしかねえぞ」
「え!?」
「そうなの!?」
今度は僕だけじゃなく未来さんも驚いた。
「ほら、これ見てみろ」
彼に渡されたのは、一週間の時間割だった。
二人で見てみると、国語や算数、理科社会などのよく見慣れた教科の代わりに”テクノイド~”とついた科目がずらっと並んでいる。
「普通教科は2年生から学ぶんだ。今は1年生からでも戦力にならないといけねえからな」
「そ、そんなに情勢が悪いってこと……?」
「初日からあんな事件が起きるくらいだぞ。それに、今の政権は軍拡派の声が大きいからな。戦力が欲しいんだ」
確かに、初日どころか二日目にも本来ならヤバい出来事が起きている。
だが、現在の政権も関係しているとは思わなかった。
「く、詳しいね」
「まあな、親父の影響だ」
「親父……もしかして、武者小路くんのお父さんって今の防衛大臣の武者小路 時光さん!?」
彼女が出したその名前はうっすらとだが記憶にあった。
確か、国防の最後の砦とか、最後の良心とか呼ばれていたような気がする。
「……まあな」
少し含みのある言い方だったが、彼の表情は少し誇らしげなものに見えた。
「それより、さっさと行こうぜ。オレが案内しないといけないんだからな」
「う、うん……」
こうして僕たちは準備を整えて初めての授業に向かうのであった。




