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決死人機兵装メサイア  作者: うどん米
ディストピア社会主義編
11/16

第11話・裏切り者のトレース



 裏切り者を見つけるぞと方針は決まったものの、どうやって探すか手段を持っていなかった。


 それこそ、聞き込みで情報を集められたらよかったがどこで地雷を踏むかわかったもんじゃない。

 と言うことで、僕は確実に裏切り者が関与していると疑われる場所に向かっていた。


「……何でついて来てるの?」


 呟きながら振り向くと、そこにはニコニコの時雨さんが立っている。


「あたしは、君を寮にチェックインさせるために来たんだから目を離すわけないだろ」

「でもさ、この先危険なんだよ。時雨さんはすぐに引き返した方が良い」

「危険なら、なおさらダメだよ。君を放っておけない……もし、あたしを無理やり引き返させようとしたら……」

「し、したら?」


 拳で音を鳴らしながら、シャドーボクシングの構えを見せる。


「……一緒に行こうか」

「それならよし。安心して、あたしこれでもめちゃくちゃ強いから」


 その姿を見て想起させたのは前のループで銃を持った兵士に怯まず攻撃を仕掛け、アサルトライフルを奪って迎撃していた彼女の姿だった。


 その時から、下手に抵抗したらやられるという緊張感を実は持っていた。


「よく、本当によく知ってるよ」

「え、なんか言った?」

「ううん、さっさと行こう」




 ***




 工房近くのベンチから歩いて数分の所に”それ”はあった。

『立ち入り禁止』と書かれている看板を無視して僕は入れそうな場所を探す。


「ここって……もしかして、迎撃システムがあるところ!?」

「うん、そうだよ」


 実を言うと、僕が最初に発進したとき少しだがミサイルの出どころが見えていたのだ。

 実際に来てみれば地下に隠されているわけでもなくまさかの野ざらし状態と来た。


(ここの警備システムやっぱりザル過ぎるだろ……)


 元々が戦争を放棄していた日本だからこそ、急速に軍事設備を拡大したことでこういう粗が出ているのかもしれない。


 だとしても、杜撰すぎる気がするが――それこそ、誰かの意図が絡んでいるくらいには



「あった」


 少し探してみればやはりと言うべきか有刺鉄線が破られている個所を一つ見つけた。


「え、何で破られてる所があるの!?」


 驚いた彼女の声を聞き流しながら、その柵の前で立ち止まる。

 少し考えた後、僕は彼女の方に振り向いた。


「……時雨さん。引き返すなら今が最後のチャンスだと思ってる。でも……でも、もしついて来てくれるなら。すごい心強いし、事情も全部話す」

「わかった。行くよ」

「待って、話は全部聞いて……とにかく、これ以上踏み込むのは危険だ。下手をすれば……僕も時雨さんも死ぬだけじゃ済まない。それでも、来てくれる?」

「わかった。行くよ」


 かなり念を押していたはずだが、彼女は全く迷う素振りを見せず答えも変わらない。

 ここまで来ると一周回って怖くなってくる。


 だが、先輩を頼れない今は彼女しか頼れる相手はいない。


「言っとくけど、あたしは本気だよ。ここまで来て引き返したりなんかしない。だから、あたしを信じて全て話して」

「……わかった」


 彼女がそこまで言うならと、僕はこれまでのことを全て話した。



「……作り話?」

「だとしたら……よかったんだけどね」


 まあ、信じろという方が無理な話だ。

 例えばタイムマシンなんて存在があるなんて常識的にありえない。


「でも、信じるよ。だって、君の顔がさっきみたいに嘘を言った気持ち悪い笑顔を張り付けた顔じゃないし」

「き、気持ち悪い……」


 一応、あれでも幼馴染を騙すことには成功していた。

 でも、彼女にそう評されるくらいだったということは相当酷い顔をしていたんだろう。


「そういう事なら、早く行こう。その裏切り者の手がかりがあるかもしれないんだよね」

「うん……まあ、本当にあればいいんだけど」


 裏切り者って要するに敵の工作員スパイである。

 そのため、正直期待しないまま僕は有刺鉄線の中に侵入した。


 鉄線の中は見えていたが、ミサイルの発射口である砲台がそこら中に設置されている。

 実際にこの目で見るのは初めてだが圧倒的な迫力を放っている。


 僕もこんな状況じゃなければウキウキで探索していただろうが、残念なことに気分は一切上がらなかった。



 その上、入ってすぐ僕たちはこの砲台に似合わない物体が取り付けられているのを発見した。


「……っ!」

「しっ」


 つい声を上げようとした瞬間、彼女に口が塞がれる。

 そして、小声で耳元で囁かれる。


「ダメ、盗聴器がどこにあるかわからないんだからさ」

「……り、了解」


 気を引き締めなおし、再び砲台に取り付けられた黒塗りの箱を見る。

 その箱には、赤、青、黄色のケーブルとランプのようなものが光っている。


「しかも、これだけじゃないね……そこら中の砲台に一つ一つ付いてるみたい」

「でも、これって何だろう?」

「ちょっとよく見せて……うーん、うーん?」


 でも、何だか見たことはないけど、見覚えのある不思議な物体だった。

 彼女はそれをまじまじと確認すると、青ざめた顔で僕の方を振り向く。


「……これ、爆弾だ」

「……マジで?」

「マジ、大マジだよ」


 確かに言われてみればアニメとかよく見るフォルムをしている。

 そして、よく思い出してみれば敵が人間だけでなくテクノイドも伴って現れた時、最初不可解な爆発が起きていた。


 あれはてっきり空爆の物かと思っていた真相はこうだったというわけだ。


「……でも、おかしいな」

「おかしい?」

「うん、これだけ小型だと人目につかないように設置することも出来たし、もっと威力のある物を使えば誘爆を狙うことも出来るからね」


 それじゃあ、まるで意図的に見つかるようにしていたみたいだ。

 なおかつ、それほど被害を出さず迎撃システムだけを限定的に破壊することを狙ったということになる。


(……なんだ、この違和感)


 間違いなくこれをやったのは裏切り者だ。

 だが、その手腕があまりにも僕の人物像と一致しない。


「でも、これだけじゃ手がかりにならないね。監視カメラとか確認する?」

「いや、やめておこう。おそらく対策されていると思う」

「そりゃそうだね……あーあ、収穫なしか。裏切り者なんて実はいないとかないよね」


 いや、間違いなく裏切り者はいる。

 僕たちの会話をどこからか盗聴し、襲撃者を送り込むトリガーを引いているやつが


「……これ」


 世界は酷い。

 そのことを僕はこれまでのループで嫌と言うほど教え込まれた。


 だが、その脅威が及ぶのは決して僕たちだけじゃない。

 その裏切り者にだって世界は同様に牙を向く、良くも悪くも平等なのだ。


「ね、ねぇ……それって」

「……」


 思わず口を結んだ。

 よく思い返せば手がかりはいくらでも転がっていた。


 それに気づかなかったのは、いや――気づかないようにしていただけだ。

 だが、ここまで真実を突き付けられれば馬鹿な僕だって気づいてしまう。


「……裏切り者がわかった」


 何だろう、真実にたどり着いたと言うのに僕の気分は全くよくならなかった。





 その後、最後の準備をするからとその場で時雨さんと分かれて僕は寮のチェックインを済ませてから工房に向かった。


「あ、遅かったじゃないか。全く少し出てくると言って一体いつまで待たせるんだい?」

「すみません。少し、用事に出てましてついでに寮のチェックインも済ませてきたんです」

「そうか、それでメサイアについて聞きたいんだったな」

「はい、教えてください」




 ***




『はい、教えてください』


 暗がりの中、椅子に深く腰掛ける人物の耳にインカムからめぐるの声が流れる。


「……なんて、流石に芝居臭かったですかね。録音ですよ」

「誰っ!?」


 だが、その暗がりを照らす者が現れた。

 間違いなく、インカムから聞こえている声の主である無涅むね めぐるが扉の前に立っていた。



「あなたが、裏切り者だったんですね。阿母あぼ 和華わかさん」



 そして、明かりのついた部屋の中で椅子に座っている彼女に僕はそう告げた。


「……」


 僕たちの間に流れる沈黙、思わず息を飲んだ。


「……どうして私だとわかったの?」

「否定はしてくれないんですね」

「する必要がないもの……それで、ほぼ初対面の私の正体を一体どこで知ったのかしら?もしかして、メサイアの実験が成功したの?」


 彼女は嘘をついているような様子はないし、とぼけることもしなかった。

 むしろ、彼女の表情は安堵に近いものとすら思えた。


 そして、裏切り者しか知らないようなことも言った。


「……ええ」

「なら、やっぱりあなたがメサイアのパイロットだったのね」

「だから、僕に持たせた盗聴器から聞いてたんですね」


 最初の謎、メサイアはまだしも僕のことをどこで知ったのか。

 これは、彼女が犯人だと知った時逆算的にどこに盗聴器が仕掛けれているのかはすぐわかった。


「悪いんですけど、この寮の鍵に仕掛けられていた盗聴器を逆探知するために鍵のストラップは壊しました」

「そう、本当に悪い子ね。意外に高いのよ」


 もし、僕が彼女の立場なら盗聴器を仕掛けるなら寮の一部屋ずつに仕掛けるよりも基本的に身から外さないものに着けた方が良い。


 事実、寮をあまり使わない先輩ですら鍵を持っていた。


(まあ、実際に盗聴器の場所に気づいたのは時雨さんだったんだけどね……)


 そして、さらに踏み込む。


「それだけじゃない。あなたは僕との会話で決定的なミスを犯した」

「ミス?」

「この時間の話ではないですけどね」


 襲撃の際、僕は時雨さんに連れられるままに寮まで来た。

 そこで、現実に打ちのめされ、そして時雨さんに慰められた。


「その時の会話で、あなたはこう言った。『救世主……いい夢ね。きっと成れるわ。立派な救世主に』と」

「普通の反応に聞こえるけど……」

「……じゃあ、僕には何になりたいと思いますか?」

「それは、救世主メシアよね。そのためにこの学校に入学したのでしょう」


 そう、普通はそう思ってしまう。

 特に、救世主メシアと呼ばれるテクノイドのパイロットを育てる名門校である国立人機西教育学校では


「ですが、僕の夢は文字通りの救世主。そこに引っかからなかったということはあなたが僕と時貞くんの会話を盗聴していたからに他ならない!!」

「……どうやら、そっち私は尻尾を出しちゃったみたいね」

「でも、それだけじゃない」


 今度、取り出したのは特徴的な色遣いをした小さな布の切れ端だった。


「有刺鉄線は切ったとはいえ着物で破壊工作は流石に辞めた方が良いと思いますよ」

「……あら、どこかで引っかけたと思ったのだけどそこだったのね」


 これが、僕があの場所で見つけた全ての真相に気づくことになった決定的な証拠だ。

 そして、改めて話を終えた後彼女は大きなため息をついた。


「……妹がいるのよ。中国にね」

「人質ですか……」

「ええ、建前上は保護だけどね。大きく齢の離れた妹だし文通でしかやり取りはしていないのだけど」


 想像するのは難しいが中国には国家総動員法がある。

 それが施行されれば軍人も民間人もどこにいるかとか関係なく国が動員することができる。


「狙いはタイムマシンですよね」

「ええ、無視できるものじゃないもの」


 そうだ、どんな兵器よりも時間を操ることができたのならその国はまさに覇者となるだろう。

 それを一番実感しているのは間違いなく僕だ。


「……それで、もしタイムマシンが本当に中国の手に渡ったら」

「そうね、中国は社会主義だから。全ての国で全てが管理される真に平等な社会主義……ディストピアな社会主義にでもなるのかしらね」

「それが、わかってて……なんで!」

「人は善悪だけで動くものじゃないの」


 その言葉の衝撃に何も言えなくなってしまう。


「……そして、私は案外諦めが悪いのよ」


 着物の中から出てくるのは全く似合わない黒い拳銃、それを僕に突きつける。

 その光景に思わず苦悶の表情を浮かべるのであった。



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