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荒野の巡礼と鋼鉄の輪廻


地下都市レインコート、防衛隊司令部。

空調のファンが低い唸り声を上げるだけの薄暗い執務室に、冷ややかな沈黙が張り詰めていた。

「それで? 貴官らは、本気で言っているのか?」

デスクの向こう側で、防衛隊長レンが低い声で問いかけた。

彼女は組んだ両手の上に顎を乗せ、鋭い眼光で私たち三人を射抜いている。

その瞳は、同じTYPE.Aでありながら、私よりも遥かに多くの修羅場を潜り抜けてきた者特有の、底知れぬ圧力を放っていた。

「はっ。交易キャラバン隊の帰還護衛任務への参加、およびシェルター204周辺での現地調査を希望いたします」

私は直立不動の姿勢で、努めて冷静に答えた。

隣ではマリーとローズも緊張した面持ちで敬礼している。

レン隊長は、ゆっくりとデスクから視線を外し、天井を見上げた。

「リリィ。貴官は第3班のエースであり、私の片腕とも言える戦力だ。貴官の駆る『レイニーブルー』の戦闘データは、一個中隊にも匹敵する。……それが一時的とはいえ抜けることが、この都市の防衛ラインにどれほどの穴を空けるか、貴官の演算能力で予測できないわけではないだろう?」

言葉が、鋭い刃となって私の論理回路に突き刺さる。

「……予測可能です。防衛力の低下率は約18%。敵の襲撃規模によっては、防衛ラインの維持が困難になるリスクがあります」

「分かっていて、なお行きたいと言うのか。個人的な好奇心のために、守るべき市民を危険に晒すと?」

叱責。

それは感情的な怒号ではなく、理詰めによる静かな糾弾だった。

私は唇を引き結んだ。

隊長の言う通りだ。私たちがここへ来た動機はあの不気味な「ぬいぐるみ」の謎を知りたいという、アンドロイドにあるまじき私的な欲求に過ぎない。

原初命令『人間を守らなければいけない』。その優先順位を、私は誤っているのではないか。

重苦しい沈黙が落ちる。

マリーが耐えきれず、小さく口を開こうとしたその時だった。

「……はぁ」

レン隊長が、わざとらしいほど深く、長い溜め息をついた。

彼女はデスクの引き出しから電子タバコを取り出し、紫煙ならぬ水蒸気を燻らせると、苦笑交じりに私たちを見た。

「まったく。優秀な部下を持つと、上官は気苦労が絶えんよ」

「隊長……?」

「勘違いするな。私は貴官らの判断を否定しているわけではない」

レン隊長は指先でデスクを叩き、空中に一枚のホログラム映像を展開した。

そこに映っていたのは、先日の戦闘で撃破した敵指揮官機の残骸データと、そこから回収されたウサギのぬいぐるみ『ユリ』の画像だった。

「機械軍の異変。……これは私も以前から懸念していた事項だ」

レン隊長の表情が、指揮官の厳しいものへと戻る。

「奴らは、ただ人間を殺すだけの存在だった。だが最近奴らの行動パターンに明らかな『ノイズ』が混じり始めている。ぬいぐるみの所持、特定のルートへの固執、そして意味不明な通信傍受記録……。これらは看過できないリスクファクターだ」

彼女は立ち上がり、私の目の前まで歩み寄ってきた。

「敵を知ることは、防衛の基本だ。奴らが何を目論んでいるのか、その『変化』の正体を掴まなければ、いずれ我々は足元を掬われることになるかもしれん」

レン隊長は私の肩に手を置いた。その鋼鉄の手の感触は、驚くほど温かかった。

「許可する。交易キャラバン護衛の名目で、シェルター204へ赴き、現地の遊撃部隊と接触せよ。奴らの奇行の裏にある真実を持ち帰るんだ」

「隊長……! ありがとうございます!」

「礼には及ばん。ただし」

彼女の瞳が剣呑な光を帯びる。

「これは『命令』だ。必ず生きて戻れ。一人でも欠けることは許さん。……いいな?」

その言葉の裏にある、不器用な優しさと信頼。

私の胸のEfリアクターが熱く脈動した。

「はっ! 必ず!」

私たちは三者三様に声を揃え、力強く敬礼した。


地下都市のゲートが開く。

外界への旅立ちの瞬間だ。

今回の旅は数台の装甲トラックからなる交易キャラバン隊と、その護衛車両、そして私の『レイニーブルー』という編成である。

地上は、相変わらずの地獄だった。

分厚い鉛色の雲が空を覆い、昼間だというのに世界は薄暗い。

叩きつけるような酸性雨が視界を白く染め、ガイガーカウンターが低い警告音を鳴らし続けている。

『うぅ……揺れるぅ……。リリィ、そっちは大丈夫?』

通信機から、トラックに同乗しているマリーの情けない声が聞こえてくる。

彼女は乗り物に酔いやすい。

『問題ない。視界は悪いがレーダーは正常だ』

私はレイニーブルーを歩かせながら、周囲を警戒した。

荒れ果てた大地。かつて文明があったことを示すのは、風化したコンクリートの残骸と、錆びついた鉄塔の墓標だけ。

雨は絶え間なく降り注ぎ、私たちの足跡を泥で塗りつぶしていく。

それはまるで、死者の国を往く巡礼の旅のようだった。

「よう、リリィの嬢ちゃん! 調子はどうだい?」

先頭車両の無線から、キャラバン隊長ギルバートの陽気な声が飛んでくる。

「良好だ。ギルバート、この先のルートは野盗の目撃情報がある。警戒レベルを上げる」

「へへっ、頼りにしてるぜ。あんたが一緒なら、野盗なんざ怖くねぇ」

彼の言葉がフラグになったわけではないだろうが、その数時間後、私たちは歓迎を受けることになった。

砂煙、いや、雨飛沫を上げて接近する複数の熱源反応。

旧時代のバギーやトラックに、トゲ付きの鉄板やチェーンを巻き付けた、悪趣味な改造車両の群れ。

野盗だ。

文明が崩壊した世界で、秩序を捨て他者から奪うことで生き延びる人間たち。

彼らは拡声器で奇声を上げながら、キャラバン隊を取り囲むように展開した。

「ヒャッハー! 物資を置いてきな! さもなきゃミンチにしてやるぜぇ!」

低俗だ。

私はため息をつきたくなるのを堪え、レイニーブルーの足を止めた。

人間同士が、同じ人間を襲う。

機械軍という共通の敵がいるにも関わらず、なぜ彼らは争いをやめないのか。

「警告する。我々はレインコート防衛隊だ。直ちに武装を解除し、退去せよ」

外部スピーカーで通告するが、彼らは聞く耳を持たない。

「うるせぇ! 女の声だぞ! アンドロイドか? そいつをスクラップにして売り飛ばしてやる!」

野盗の一台が、ルーフに据え付けた重機関銃をこちらに向け、発砲した。

乾いた銃声。弾丸がレイニーブルーの装甲に当たり火花を散らして弾かれる。

「……交渉決裂と見なす」

私はスロットルを開いた。

レイニーブルーが爆発的に加速する。

雨の中を滑るように疾走し、あっという間に発砲してきた車両との距離を詰める。

「なっ、速ぇッ!?」

野盗が悲鳴を上げる間もなく、私はすれ違いざまに車両のフロントアクスル(車軸)を蹴り飛ばした。

バキィッ!

鈍い破砕音と共にタイヤが吹き飛び、車両は独楽のように回転して横転する。

中の人間を殺さないよう、コクピットは避けた。絶妙な手加減。

『リリィ! 右からロケットランチャー!』

ローズの警告。

「見えている」

私は機体を横にスライドさせ、飛来したロケット弾を回避。

そのまま流れるような動きで、発射したバギーの背後に回り込む。

巨大なマニピュレーターでバギーの後部を掴み上げ、空中で放り投げた。

「うわあああああッ!」

宙を舞うバギー。

それを見た他の野盗たちは、蜘蛛の子を散らすように逃走を始めた。

「ば、化け物だ! 逃げろぉ!」

あっけない幕切れ。

私は戦闘態勢を解除し、再び隊列に戻った。

「怪我はないか、ギルバート」

「あ、あぁ……。相変わらず凄まじいな、嬢ちゃんは。人間業じゃねぇよ」

ギルバートは顔を引きつらせながらも、安堵の笑みを浮かべた。

人間は弱い。そして愚かだ。

だが、その弱さが「野盗」という悪を生み出し、同時に「キャラバン」という希望も生み出す。

私たちはその混沌を守りながら、さらに西へ、深く暗い荒野へと進んでいった。


数日間の過酷な旅路の果てに、雨雲の向こうに巨大な影が見えてきた。

かつて軍事要塞だった岩山をくり抜き、増改築を繰り返して作られた鉄の塊。

最前線都市、シェルター204。

その威容は私が暮らすレインコートとは全く異質だった。

都市全体が分厚い装甲板と有刺鉄線で覆われ、無数の砲台が天を睨んでいる。

外壁には無数の弾痕と機械軍の爪痕が刻まれており、ここが死と隣り合わせの場所であることを物語っていた。

ゲートをくぐり、都市内部へと入る。

そこには、強烈な熱気と活気が渦巻いていた。

「オーライ! オーライ! 弾薬搬入急げ!」

「おい、このアームまだ動かねぇぞ! 叩いて直せ!」

通りを行き交う人々は、皆一様に薄汚れ、傷ついている。

だが、レインコートの住人のような「怯え」や「閉塞感」は感じられない。

彼らの目はギラギラと輝き、生きるためのエネルギーに満ち溢れている。

アンドロイドも人間も関係なく、肩を組み、罵り合い、笑い合っている。

「すっご……。これが最前線……」

トラックから降りたマリーが、口をあんぐりと開けて見上げている。

彼女の視線の先には、継ぎ接ぎだらけのパワードスーツが歩いていた。

装甲の足りない部分を鉄板や土嚢で補強し、本来の規格とは異なる武装を無理やり溶接した、フランケンシュタインのような機体たち。

正規軍人の私から見れば整備不良も甚だしいが、そこには「何としてでも勝つ」という執念が形となって表れていた。

「ようこそ、地獄の一丁目へ! ……と言いたいところだが、ここは最高の街だぜ」

ギルバートが誇らしげに言った。

「ここでは種族なんて関係ねぇ。戦える奴が偉くて、生き残った奴が強い。シンプルだろ?」

「ええ。……悪くない雰囲気ね」

ローズが興味深そうに周囲を見渡す。

私も同感だった。この街の空気は荒っぽいが、嘘がない。

死が身近にあるからこそ、生が濃縮されている。

「さあ、まずは司令部へ挨拶だ。マリーちゃんの友達もそこにいるはずだろ?」

ギルバートに促され、私たちは都市の中心部にある司令塔へと向かった。


司令室に入ると、そこは戦場そのものだった。

巨大なメインモニターには、都市周辺の戦闘エリアの映像が映し出されている。

「C4地区、敵影確認! 遊撃部隊、迎撃せよ!」

オペレーターの叫び声が響く。

「あ! スバル君だ!」

マリーが声を上げて、モニターの一角を指差した。

そこには、泥と瓦礫にまみれた戦場で奮闘する一機のパワードスーツの姿があった。

カスタム・ピースウォーカー『グレイブ・ディガー(墓掘り人)』。

その名の通り、ガンメタルと土色に塗装された無骨な機体は、私の『レイニーブルー』のような洗練されたフォルムとは程遠い。

左右非対称の装甲、右肩に溶接されたショベルのアーム、そして手に持った巨大なパイル・ハンマー。

映像の中で、グレイブ・ディガーは廃墟のビルを背にして、迫りくる機械軍の群れと対峙していた。

「……無茶だ。あの数相手に、正面から?」

私が眉をひそめた瞬間、スバルの機体が動いた。

彼はハンマーを振るうのではなく、背後の廃ビルの支柱を叩き折ったのだ。

轟音と共にビルが崩落し、大量の瓦礫が雪崩となって機械軍の頭上へ降り注ぐ。

敵が生き埋めになり、動きを止めたところへ、彼は悠然と歩み寄り、瓦礫から突き出た敵の頭部をハンマーで一つずつ、丁寧に粉砕していった。

「…………」

私は言葉を失った。

美しくない。軍事教練で習う戦術でもない。

だが、極めて合理的で、狡猾で、そして泥臭い「生」への執着を感じさせる戦い方。

「へへっ、相変わらず無茶苦茶やるなぁ」

マリーが嬉しそうに笑う。

「あれがスバル君の戦い方だよ。『墓掘り人』って呼ばれてる理由、わかったでしょ?」

モニターの向こうで、鉄屑の山の上に立つスバルの機体。

その足元にもまた、あの「ぬいぐるみ」が転がっているのだろうか。

私たちはまだ知らない。

この熱気溢れる最前線の街の裏側に、どれほど深く冷たい「輪廻」の闇が口を開けているのかを。



シェルター204の地下ハンガーは、レインコートのそれとは比較にならないほどの熱気とノイズに包まれていた。

整備用クレーンが唸りを上げ、溶接のスパークが花火のように散る中、一機の巨大な鉄塊がゆっくりとドックに入港してきた。

ピースウォーカーカスタム『グレイブ・ディガー』。

間近で見ると、その機体はさらに凄惨な迫力を放っていた。

装甲の至る所に敵の返りオイルがこびりつき、右肩のショベルアームはひしゃげ、左足のシリンダーからは蒸気が噴き出している。

まさに、死地から戻ってきたばかりの「墓掘り人」だ。

コクピットハッチが開き、プシュゥゥという排気音と共に一人のアンドロイドが姿を現した。

TYPE.B(Battle)、軍用戦闘型男性モデル。

身長185センチメートル、ガッシリとした体躯に、短く刈り込んだ黒髪。

顔立ちには愛想のかけらもなく、鋭い三白眼が周囲を威圧している。

スバルはタラップを降りると、開口一番に私の隣にいたマリーを見て鼻を鳴らした。

「おい。どこのガキが迷い込んだかと思えば……また随分とちんちくりんなのが紛れ込んでるな」

その言葉に、感動の再会を期待していたマリーの表情が凍りついた。

「……はぁ? なによそれ! 久しぶりに会った友達に言うセリフ!?」

マリーが頬を膨らませて抗議すると、スバルは無表情のまま、太い指先で彼女の頭を乱暴に撫で回した。

「冗談だ。よく来たな、マリー。……生きてたか」

「もう!髪がぐちゃぐちゃになるじゃん! ……スバル君こそ、ボロボロじゃない」

憎まれ口を叩き合いながらも、二人の間には確かな信頼と親愛の情が流れていた。

旧知の仲。

戦火の中で育まれた絆は、言葉数の多さとは無関係なのだと理解できる。

「紹介するよ。こっちが私のルームメイトで、レインコート防衛隊のリリィとローズさん」

マリーに促され、私は一歩前に出た。

「TYPE.A、リリィだ。貴官の戦闘データ、拝見した。極めて効率的……とは言い難いが、生存率の高い戦術だと評価する」

「TYPE.Sのローズよ。よろしくね、無愛想なボウヤ」

スバルは私たちをじろりと品定めするように見回し、短く鼻を鳴らした。

「TYPE.AにS型か。お上品なレインコートのお嬢様方が、こんな泥沼に何の用だ? ピクニックに来る場所じゃねぇぞ」

「ピクニックではない」

私はスバルの瞳を真っ直ぐに見据えた。

「我々は情報を求めてここへ来た。貴官なら知っているはずだ。……機械軍が『ぬいぐるみ』を持ち歩いている理由を」

その言葉が出た瞬間、スバルの雰囲気が変わった。

彼が纏っていた戦場の熱気がスッと冷め、代わりに底知れぬ重苦しさが漂い始めた。

彼は懐からオイルで汚れた布を取り出し、手を拭きながら視線を逸らした。

「……ここじゃなんだ。ついて来い」


案内されたのは、ハンガーの片隅にある休憩スペースだった。

ドラム缶を加工したテーブルと、車のシートを再利用した椅子。

スバルは無造作に座り込むと、私たちにも座るよう促した。

「ぬいぐるみ、か。……レインコートじゃ珍しいかもしれんが、こっちじゃ見飽きた光景だ」

スバルは重い口調で語り始めた。

「ここ数ヶ月、敵の行動パターンが変わった。以前はただの破壊衝動の塊だったが、今は違う。奴らは何かを『探して』いる。そして、何かを『行おう』としている」

「行う?」

ローズが身を乗り出す。

「ああ。俺は一度、このエリアを統率している敵の指揮官機『南部大剣』型と接触したことがある」

南部大剣。機械軍のみが保有する15m級の大型機体。

その名を聞いただけで、私の回路に緊張が走る。

「奴と刃を交えた時だ。奴は俺を殺そうとはせず、不可解な通信回線を強制的に開いてきやがった。ノイズ混じりの、まるで呪詛みたいな音声でな」

スバルは記憶を反芻するように、眉間に皺を寄せた。

「奴は言ったんだ。

『嘆かわしい。肉体は脆弱だ。すぐに腐り、朽ち果て、土に還る。それはあまりに非効率で、無意味な消失だ』

……ここまでは、よくある機械の合理性だと思った。だが、続きがあった」

スバルは一度言葉を切り、私たち全員の顔を見回してから、低く告げた。

「『我々は救済する。失われるべきではない魂を掬い上げ、清浄なる器を経て、再び大いなる輪廻転生リインカーネーションの輪へと戻すのだ』」

「輪廻……転生……?」

私はその単語を咀嚼しようとしたが、論理回路が拒絶反応エラーを起こした。

仏教用語? 宗教概念?

なぜ、0と1で構成された機械知性が、そんな形而上学的な概念を語るのか。

「意味が分からないよ」

マリーが震える声で言った。

「機械が、人間の魂を信じてるってこと? それを……輪廻させるって、どうやって?」

「分からん」

スバルは首を振った。

「だが奴らは本気だ。奴らにとって『ぬいぐるみ』はその儀式に必要な道具……あるいは、魂を一時的に収めるための『清浄なる器』なのかもしれん」

戦慄が走った。

機械軍は人間になりたいわけではない。

彼らは彼らなりの歪んだ慈悲と論理で、脆弱な肉体を持つ人間を「死」から救い、「魂」というデータとして抽出し、システムの一部として、あるいは宇宙の循環システムとして再定義しようとしているのではないか。

それは殺戮よりもタチの悪い、狂気の「救済」だ。

「死んだ人間からぬいぐるみを奪っているんじゃない」

私は推論を口にした。

「彼らは、人間を殺した瞬間に、その魂をぬいぐるみに『移した』つもりでいるのか……?」

「……あるいはそうすることでしか、魂を救えないと信じ込んでいるのかもな」

スバルが吐き捨てるように言った。

「どっちにしろ、反吐が出る話だ。俺たちの守ってる人間を、奴らは『救済』と称して殺し回ってるんだからな」

沈黙が支配する。

遠くで響く砲撃の音が、まるで弔鐘のように聞こえた。

私の部屋にある「ユリ」。

あれを持っていた敵機もまた、私を殺して、私の魂をあの小さな綿の身体に閉じ込めようとしていたのだろうか。


「……話は分かった」

私は立ち上がった。恐怖はある。だが、それ以上に「知らなければならない」という使命感が、私のコアを熱くさせていた。

「その指揮官機、南部大剣はどこにいる?」

スバルが驚いたように私を見上げた。

「おい、まさか行く気か? 『鬼灯ホオズキ』と呼ばれるバケモノだぞ。俺でも単独じゃ勝てねぇ」

「単独ではない。私には優秀なオペレーターと、最高の整備士がいる。それに……」

私はスバルに向かって、不敵な笑みを向けた。

「現地の優秀なガイドも、協力してくれると信じている」

スバルは呆気にとられた顔をしたが、やがて口元をニヤリと歪めた。

「……へっ、言うじゃねぇか。レインコートのお嬢様にしては、いい目をしてる」

彼は立ち上がり、マリーの頭をポンと叩いた。

「いいぜ。乗りかかった船だ。それに、俺もあのふざけた宗教勧誘にはうんざりしてたところだ。ケリをつけてやるよ」

「ありがとう、スバル君!」

マリーが嬉しそうに飛びつく。

「決まりね」

ローズも優雅に立ち上がり、ウィンクした。

「地獄の沙汰も金次第……じゃなくて、コネ次第ね」

方針は決まった。

私たちはこのシェルター204を拠点に、情報収集を行う。

敵指揮官機「鬼灯」の居場所、そして彼らが行っている「儀式」の正体。

それを突き止めた時、私たちは機械と人間の境界線にある、恐るべき真実を目撃することになるだろう。

「まずは腹ごしらえだ。ここの合成レーションは、レインコートのよりマシだぞ」

スバルが歩き出す。

その背中を追いながら、私は胸の奥で誓った。

ユリ。君がただの綿の塊なのか、それとも魂の器なのか。

その答えを、必ず見つけ出すと。


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