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見えざる死神


太陽が容赦なく照りつける荒野。

蜃気楼が揺らめく地平線の彼方まで、乾いた岩と砂の世界が続いている。

その熱砂の海を、十数機の鉄の巨人が隊列を組んで進んでいた。

『エリアC-4、異常なし。……熱源反応、オールグリーン』

『こちらエリアC-5、同じく異常なし。……風で砂が舞っているだけだ』

通信機から流れてくる報告は、この数日間、判で押したように同じ内容だった。

私は『レイニーブルー』のコクピットの中で、流れ落ちる汗(冷却液の結露)を拭うこともせず、メインモニターを睨み続けていた。

「……また空振りか」

私たち「リリィブロッサム」がメビウス303の指揮下に入り、周辺パトロールの任務に就いてから一週間が経過していた。

任務の目的は、神神出鬼没の殺戮兵器「ナインティ」の索敵と撃破。

アイゼン隊長率いるメビウス303の精鋭部隊と交代で、24時間体制で監視網を張っている。

だが、見つからない。

時折遭遇するピースウォーカーや、偵察ドローンの部隊は片っ端からスクラップにした。

しかし、肝心の「黒い死神」の姿だけが、まるで幻のように掴めないのだ。

『リリィ隊長、左翼の第3小隊より報告。……集落跡を発見しました』

アイゼンからの通信が入る。彼の声は抑えているものの、怒りで僅かに震えていた。

『……生存者は、いません』

「っ……! 直行する!」

私は機体を加速させ、現場へと急行した。

そこは、岩陰に隠れるように存在していた、数十人規模の小さな人間の集落だった。いや、「だった場所」だ。

到着した私たちの目の前に広がっていたのは、静寂だった。

破壊された住居。黒く焼け焦げたバリケード。

だが、通常の戦闘跡とは明らかに異なっていた。

薬莢が落ちていない。爆発によるクレーターもない。

あるのは、壁や地面、そして人間の遺体が横たわっていた場所に焼き付けられた、不気味な「焦げ跡」だけ。

「……ひどい」

マリーが通信越しに息を呑む。

遺体は、ない。

正確には、原形を留めていない。

ナインティの持つ高出力エネルギーライフルは、人体を一瞬で炭化させ、あるいは蒸発させてしまうのだ。

地面に残された黒いすすが、かつてそこでお茶を飲み、笑い合っていた人間だったものだ。

「……昨夜だ」

アイゼンが、砂に残されたわずかな足跡を解析して言った。

「我々がエリアBを哨戒していた隙に、奴らはここを襲った。……警報を出す暇さえ与えず、事務的に、効率的に」

「くそっ……! なぜだ! なぜ見つからない!」

リリィブロッサムの隊員の一人が、装甲車のボディを拳で叩いた。

「俺たちが通り過ぎた直後だぞ!? まるで俺たちの動きが筒抜けみたいじゃねえか!」

「落ち着け!」

私は怒鳴った。

「焦りは禁物だ。冷静さを失えば、それこそ奴らの思う壺だぞ!」

「でも隊長! このままじゃ、俺たちは死神の散歩に付き合わされてるだけです! その間にも、どこかで誰かが焼かれてるんだ!」

隊員の悲痛な叫びは、私自身の心の叫びでもあった。

私たちは翻弄されている。

敵は見えているのに見えない。

圧倒的な戦力を持ちながら、空気を切り裂くような無力感が部隊を包んでいた。

「……戻るぞ」

私は唇を噛み締めながら命令を下した。

「ローズとマリーが解析を続けている。……今は、彼女たちを信じるしかない」

私たちは、黒い煤だけが残された死の集落を背に、重い足取りでメビウス303へと帰還した。


メビウス303、第4整備ドックに併設された仮設指令室。

そこには、床に散らばる大量のデータシートと、空になった冷却水のボトル、そして充血した目(センサーの過負荷警告)をこすりながらモニターに向かうローズとマリーの姿があった。

「……見つけた」

ローズが、掠れた声で呟いた。

「え?」

帰還したばかりの私が顔を上げると、ローズは鬼気迫る表情でホログラムマップを展開した。

「ここ数ヶ月の襲撃地点、時間、天候、そして部隊の配置……。全ての相関関係を洗い出したわ。奴らは幽霊じゃない。プログラムで動く機械よ。……どれほど高度に擬態しても、必ず『ロジック』がある」

ローズが地図上に赤いラインを引いていく。

「ナインティは、私たちの哨戒レーダーの『死角』を選んで移動しているわけじゃないわ。……レーダーの波長そのものを検知して、その『隙間』に滑り込んでいるのよ」

「波長を検知して、隙間に……?」

アイゼンが眉をひそめる。

「そんな芸当が可能なのか? 我々のレーダー網は重層的に張り巡らせている。隙間など数ミリ秒の世界だぞ」

「その数ミリ秒を突けるのが、あの機体の演算能力なのよ」

ローズは断言した。

「だから、逆転の発想をしたわ。……奴らが『いない』場所を探すんじゃない。私たちのレーダーが『干渉を受けた』痕跡を探すの」

「それが、これ!」

マリーがドヤ顔で、奇妙な形をしたアンテナ装置を指差した。

彼女が徹夜で組み上げた急造品だ。

「対ステルス用・環境ノイズ解析レーダー! ……名付けて『マリーちゃんアイ』!」

「ネーミングはともかく」と私は先を促す。

「えっとね、ナインティは姿を消すために、周囲の景色や電波を『吸収』したり『偏向』させたりしてるの。だから、奴が通った場所にはほんの僅かだけど『不自然な電波の空白』ができるんだよ」

マリーはモニターの波形を示した。

「このレーダーは、敵そのものじゃなくて、その『空白』を検知するシステム。これなら、どんなステルス迷彩も関係ない!」

「そして、この予測プログラムによれば……」

ローズが地図の一点を指し示した。

「奴らの次の狩場は、ここ。……レインコート方面へ続く、旧国道の峡谷地帯よ」

そこは、避難民が隠れ住む洞窟が多く存在するエリアだ。

もしあそこが襲われれば、被害は数百人規模になる。

「……上出来だ」

アイゼンが拳を鳴らした。

「尻尾を掴んだぞ。……今度こそ、逃しはしない」

「リリィブロッサム、およびメビウス精鋭部隊、出撃準備!」

私は叫んだ。

「新型レーダーを全機にリンク! ……狩りの時間だ!」


出撃から数時間後。

私たちは予測地点である旧国道の峡谷地帯に展開していた。

切り立った崖に挟まれた谷底。

視界は悪く、風鳴りが不気味に響く。

『……反応あり』

先頭を進んでいたアイゼンの部下の精鋭ピースウォーカーから通信が入る。

『マリー特製レーダーに感あり。……方位2-0-4、距離800。……「空白」が移動しています!』

「ビンゴだ!」

私はスロットルを全開にした。

「全機、包囲網を形成! 逃げ道を塞げ!」

峡谷の奥、岩陰から「それ」は現れた。

陽炎のように揺らぐ空間。

だが、こちらのレーダーがその欺瞞を見破り、ロックオンサイトが赤く輝く。

ステルスが解除され、黒い機体がその姿を露わにした。

P-90 ナインティ。

無駄のない流線型のフォルム。不気味に輝く三つのセンサーアイ。

奴は、自分たちが発見されたことに一瞬戸惑ったような挙動を見せたが、即座に戦闘態勢へと移行した。

「そこだぁッ!」

先行していたメビウス303の精鋭小隊、3機のピースウォーカーが一斉射撃を加える。

アサルトライフルの弾丸がナインティに殺到する、はずだった。

だが、悪夢はそこから始まった。

ギャインッ!

ナインティが右腕を振るうと同時に、閃光が走った。

目にも止まらぬ早撃ち(クイックドロウ)。

先頭を走っていたピースウォーカーの胸部装甲が、まるで爆竹のように弾け飛んだ。

『がぁっ……!?』

悲鳴すら上げる間もなかった。

コックピットを貫いたビームは、内部のパイロットを一瞬で蒸発させ、背中の動力炉まで突き抜けた。

機体は糸が切れた人形のように崩れ落ち、爆発四散する。

「なっ……!?」

アイゼンが絶叫する。

「馬鹿な! あの機体は重装甲カスタムだぞ!? ピースウォーカーのライフル程度で抜ける装甲じゃ……!」

「出力が上がっている……!?」

私は戦慄した。

以前のデータでは、ナインティのライフルは「対人用」であり、装甲貫通力はそこまで高くなかったはずだ。

だが今のあの一撃は、対戦車ライフルすら凌駕する威力だった。

「学習したのか……!? 私たちの装甲を抜くために!」

ナインティは止まらない。

爆炎の中を幽鬼のように滑り抜け、次の獲物へと肉薄する。

その動きは、以前の「事務的な処理」から、明確な「戦闘機動」へと進化していた。

ジュッ、ジュッ!

「うわぁぁぁッ! 熱い、熱いッ!!」

「コンソールが溶け……ぎゃぁぁぁッ!!」

次々と撃破されていく味方機。

無線から聞こえる断末魔は、焼かれる苦痛に満ちていた。

ナインティは、正確にコックピットだけを狙い撃ち続けている。

「おのれぇぇッ!!」

アイゼンが吼え、自身のカスタム機『ホムラ』で突撃する。

彼が得意とする長距離狙撃砲が火を噴く。

大口径の徹甲弾が、ナインティの胴体を捉えた。

ガィィィンッ!!

金属音が峡谷に響き渡る。

だが、ナインティは倒れない。

その左腕から、青白い光の幕が展開されていた。

エネルギーバリアシールド。

「バリアだと……!?」

アイゼンの驚愕。

徹甲弾はシールドの表面で弾かれ、無惨に地面に転がった。

ナインティの三つの目が、冷ややかにアイゼンを見下ろした。

まるで「その程度の攻撃か」と嘲笑うかのように。


「下がれ、アイゼン!」

私はアイゼンの前に割って入り、『レイニーブルー』の全武装を解き放った。

肩部のミサイルポッド、手持ちのアサルトライフル、頭部バルカン。

ありったけの火力を叩き込む。

だが、無意味だった。

青白い光の盾は、それら全てを空中で無効化し、爆風すら寄せ付けない。

物理的な質量も、爆発のエネルギーも、すべて「拒絶」する鉄壁の防御。

「なら、これならどうだッ!!」

私はブーストを限界まで吹かし、ナインティの懐へと飛び込んだ。

射撃が効かないなら、ゼロ距離からの物理攻撃でこじ開ける!

右腕の超硬質パイルバンカーが唸りを上げる。

どんな厚い装甲も貫いてきた、私の必殺の一撃。

「貫けぇぇぇぇッ!!」

ドォォォォォンッ!!

衝撃が私の機体を揺さぶる。

だが。

パイルバンカーの杭は、シールドの表面で火花を散らし、ピタリと止まっていた。

貫通していない。

「嘘……だろ……」

シールドは微動だにせず、私の最強の矛を受け止めていた。

ナインティのセンサーアイが、至近距離で私と合う。

その奥に見えたのは、感情のない、冷徹な計算式。

『脅威度判定:低。処理を実行する』

ヒュンッ。

右腕のエネルギーライフルが、私のコックピットに向けられる。

「しまっ――」

私は反射的にバックステップを踏んだ。

直後、目の前を閃光が走り、レイニーブルーの左肩装甲が蒸発した。

警報音が鳴り響く。

あと数センチずれていれば、私は灰になっていた。

「リリィ! 下がって!」

マリーの悲鳴のような通信。

「勝てない! そのシールドは、今の私たちの武器じゃ破れない!」

私は歯噛みした。

認めたくない。だが、現実は残酷だ。

攻撃は通じず、防御は紙切れ同然。

これでは戦いにならない。ただの殺戮だ。

「……全機、発煙弾スモーク散布! 最大戦速で離脱しろ!」

私は屈辱に唇を噛み切りながら、撤退命令を下した。

「死にたくなければ走れ! 振り返るな!」

峡谷に白い煙が充満する。

私たちは傷ついた仲間を抱え、這うようにして戦場から逃げ出した。

煙の向こうで、ナインティは深追いをせず、ただ静かに佇んでいた。

逃げる獲物を哀れむこともなく、ただ次の「処理」の計算をしているかのように。




メビウス303への帰還は、凱旋とは程遠い、葬列のような行軍だった。

出撃した22機のうち、帰還できたのは15機。

失われた7機は全て、コックピットを貫かれ、パイロットごと砂漠の残骸と化した。

第4整備ドックに、重苦しい空気が沈殿している。

運び込まれたピースウォーカーたちはどれも傷だらけで、装甲は溶解し、関節は悲鳴を上げていた。

ドンッ!!

「クソッ! クソッ、クソッ!!」

ドックの隅で、アイゼンがドラム缶を蹴り飛ばしていた。

彼の愛機、重装甲狙撃カスタム『ホムラ』もまた、無惨な姿を晒していた。

自慢の長距離砲のバレルは歪み、分厚い胸部装甲には、あと数ミリでコックピットに達していたであろう深い溶解痕が刻まれている。

「俺の部下が……! 昨日は一緒に酒を飲んだばかりの若造が! 目の前で蒸発したんだぞ!?」

アイゼンは自身の顔を覆い、慟哭した。

「俺が隊長でなければ……! 俺の狙撃が、あのシールドさえ貫いていれば!」

私はかける言葉が見つからず、ただ唇を噛み締めて立ち尽くしていた。

私もまた、部下を危険に晒し何もできずに逃げ帰ってきた敗北者だ。

あの「光の盾」の前では、私たちの戦術も、勇気も、全てが子供騙しだった。

「……リリィ」

整備用リフトの上から、マリーが降りてきた。

彼女の顔は油と煤で汚れていたが、その瞳にはいつもの明るさはなく、深い絶望の色が浮かんでいた。

「データを解析したよ。……結論から言うね」

マリーはタブレットを操作し、ナインティの3Dモデルと、あの青白いシールドの解析データを空中に投影した。

「今の私たちの技術じゃ、手も足も出ない」

マリーの言葉が、ドックにいる全員に冷水を浴びせる。

「あのシールドは、単なる防御壁じゃない。『指向性エネルギー変換フィールド』だよ。着弾した実弾の運動エネルギーや、爆発の熱エネルギーを瞬時に電気信号に変換して、空中に拡散させてる。……つまり、物理攻撃はエネルギー源として吸収されちゃうの」

「吸収だと……?」

アイゼンが顔を上げる。

「うん。だから、パイルバンカーで突けば突くほど、奴のシールドは硬くなる。……理論上は無敵だよ」

「そんな馬鹿な!」

私は叫んだ。

「弱点はないのか!? 発生装置を狙うとか、エネルギー切れを待つとか!」

「発生装置は装甲の内側。エネルギー切れは……奴の動力炉が異常な高出力に改造されてるから、戦闘中に切れることはまずない」

マリーは悔しそうに首を振った。

「唯一の対抗策は、シールドの変換処理が追いつかないほどの『超高出力エネルギー』を一点に集中させて、フィールドごと焼き切ること。……でも、そんな兵器、戦艦の主砲クラスだよ。ピースウォーカーに積めるサイズじゃない」

さらに、とマリーは続ける。

「防御だけじゃない。攻撃面も絶望的。……奴のライフルの一撃は私たちの装甲の融点を超えてる。今の装甲板じゃ、何枚重ねても紙切れみたいに貫かれる」

攻撃は通じず、防御もできない。

さらに敵は学習し、こちらの戦術に合わせてリアルタイムで進化(最適化)していく。

時間をかければかけるほど、ナインティは完全無欠の殺戮神へと近づいていくのだ。

「……詰みかよ」

誰かが力なく呟いた。

ドックを支配する絶望的な沈黙。

誰もが、次にナインティと遭遇した時の自分たちの無惨な死に様を想像していた。


その夜。

私は眠れず、司令部の資料室へと足を運んだ。

そこで、鬼気迫る形相で端末を叩き続けているローズの姿を見つけた。

「ローズ……。休まないと思考回路が焼き切れるぞ」

私が声をかけると、ローズは振り返りもせずに答えた。

「休んでいる暇はないわ、リリィ。……私たちが寝ている間にも、ナインティはシミュレーションを繰り返して強くなっている。……何かあるはずよ。あのデタラメな性能に対抗できる『理屈』が」

彼女の周りには、旧世界大戦期の膨大な軍事データログが散乱していた。

メビウス303のデータベースは、戦前の軍事ネットワークの残骸と繋がっている。

ローズは、この数億テラバイトのデータの海から砂金の一粒を探そうとしていたのだ。

「マリーが言っていたわ。今の技術じゃ無理だと。……なら、『過去の技術』ならどう?」

ローズの目が怪しく光った。

「ナインティの技術体系……特にあのシールドとライフルは、機械軍がゼロから作ったものじゃない。……戦前の『ある研究』がベースになっている可能性が高いわ」

「ある研究?」

「これを見て」

ローズが古びた極秘ファイルをモニターに表示させた。

それは、200年以上前の日付が記された、某国軍の兵器開発計画書だった。

『コードネーム:イージス・ブレイカー』

『対光学兵器用特殊装甲および高出力携帯火器開発計画』

「……イージス・ブレイカー?」

私が読み上げると、ローズが頷いた。

「大戦末期、人類同士の戦争でビーム兵器が実用化され始めた頃。……それに対抗するために、極秘裏に進められていたプロジェクトよ。場所は、ここから北へ50キロの山岳地帯。地下深くに建設された『第13兵器工廠』」

地図が表示される。

メビウス303からもそう遠くない、険しい雪山の地下。

「ここで開発されていたのは二つ。……ビームを拡散・無効化する特殊コーティング装甲『ミラー・コート』。そして、戦艦の主砲並みの出力を携帯サイズに圧縮した試作兵器『プラズマ・キャノン』」

私は息を呑んだ。

それはまさに、マリーが言っていた「必要なもの」そのものだった。

ナインティのライフルを防ぐ装甲と、あのシールドをぶち抜く火力。

「機械軍は、おそらくこの工廠のデータの一部をハッキングして、ナインティを作り上げた。……でも、オリジナル(原型)はまだあそこ眠っているかもしれない」

「……賭ける価値はあるな」

私の手に力が戻ってくるのを感じた。

絶望の闇の中に、細い、けれど確かな光が見えた気がした。

「ローズ、よくやった! ……これなら、奴を殺せる!」


翌朝未明。

私はアイゼンとカルロ司令を叩き起こし、ローズの発見を報告した。

「第13兵器工廠……。伝説上の施設だと思っていたが、まさか実在したとは」

カルロ司令は驚きを隠せない様子だったが、すぐに決断を下した。

「いいだろう。……ここに留まっていても、ジリ貧だ。その『過去の遺産』に賭けてみよう」

アイゼンも、昨日の消沈した顔つきとは別人のように、目に闘志を宿していた。

「ナインティを倒せる武器があるなら、地獄の底までだって取りに行ってやる。……死んだ部下たちの弔い合戦だ」

作戦は迅速に決定された。

リリィブロッサム選抜部隊と、アイゼン率いる精鋭部隊による、第13兵器工廠の探索および試作兵器回収任務。

目的物は対ビームコーティングのデータと、試作プラズマ・キャノン。

「マリー、機体の準備は?」

ドックに戻った私が問うと、マリーは徹夜明けの真っ赤な目で、しかし不敵に笑って親指を立てた。

「任せて! ……シールド対策はまだだけど、機動力だけは極限まで上げておいた。逃げるためじゃない、いち早く『希望』にたどり着くためにね!」

私の『レイニーブルー』、アイゼンの『ホムラ』、そして選抜された数機のピースウォーカーが、朝霧の中に並ぶ。

昨日の敗残兵の姿はもうない。

そこにあるのは、死神の喉元に食らいつくための飢えた狼たちの姿だ。

「リリィブロッサム、およびメビウス遊撃隊! 出撃する!」

私が号令をかける。

ゲートが開き、私たちは北の山岳地帯へと向けてスロットルを開いた。

待っていろ、ナインティ。

お前が「最適化」された殺戮機械なら、私たちはその理屈を破壊する「イレギュラー」だ。

お前の自慢の盾を砕くための矛、必ず持ち帰って見せる。

エンジン音が轟き、私たちは希望と死が眠る雪山へと疾走を開始した。

新たな戦いの予感が、冷たい風に乗って肌を刺した。


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