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鉄と油の雨


視界が白く染まるほどの閃光。

音速を超えた質量弾が空気を断裂させ、その衝撃波だけで周囲の雨粒を霧へと変えた。

「――っ!」

思考回路が警報アラートで埋め尽くされる。

私の反応速度がコンマ1秒遅れていれば、レイニーブルーの上半身は消し飛んでいただろう。

紙一重で回避した左肩の装甲が、余波だけで赤熱し、溶解していく。

これがレールガンの威力。直撃すれば、防御など無意味な絶望の光。

『リリィ! 左肩部装甲、熱損傷! シールド出力低下!』

「問題ない。かすり傷だ」

『かすり傷で済む威力じゃないわよ! 次が来る!』

ローズの悲鳴に近い警告。だが、私の思考は冷徹に透き通っていた。

敵の次弾装填チャージ時間を演算。推定4.5秒。

その間に距離を詰める。

「……出力全開フル・ドライブ

私はEfリアクターのリミッターを強制解除するコードを脳内で走らせた。

胸の奥で心臓が暴れだすような感覚。全身の血液、冷却液とナノマシンを含んだ人工血液が沸騰するような熱量。

レイニーブルーの関節部から青白い粒子が漏れ出す。過剰供給されたエネルギーが機体を内側から軋ませる。

ズドンッ!

私は泥濘んだ大地を蹴った。

先ほどまでの比ではない加速。Gで視界の端が黒く滲むが、今の私には敵の動きがスローモーションに見える。

敵指揮官機のモノアイが私を追尾しようと動く。その予測円の先を、私はさらに加速してすり抜ける。

「遅い……!」

懐に入り込んだ。

敵機はその巨体に似合わぬ機敏さで左腕のパイルバンカーを突き出してくる。

杭打ち機の一撃。喰らえばコクピットごと串刺しだ。

私はスラスターを逆噴射し、身体を捻ってその剛腕を回避。同時に敵の腕に乗り上げるようにして跳躍した。

『そこっ!』

私の思考と機体が完全に同調する。

高周波ブレードを逆手に持ち替え、敵機の頭部と胴体の接合部、最も装甲が薄い「首」を狙って突き下ろす。

ガギィィィン!

嫌な金属音が響き、手首に痺れが走る。

刃が通らない!?

「……チッ、反応装甲か!」

直撃の瞬間、敵機は首元の装甲を爆発させ、ブレードの威力を相殺してみせたのだ。

なんて学習能力。これが指揮官機コマンダーのAIか。

体勢を崩した私を、敵機は逃さない。

レールガンを装備した右腕が、棍棒のように裏拳で振るわれる。

避けきれない。

「ぐぅッ……!」

直撃。

レイニーブルーの機体がボールのように弾き飛ばされた。

瓦礫の山に背中から突っ込み、激しい衝撃が私の身体を貫く。

コクピット内で火花が散り、警告音が脳を揺さぶる。

『リリィ! リリィ、応答して! バイタル低下、機体損傷率40%!』

「……生きている」

口の中に鉄の味が広がった。人工血液だ。内蔵破裂の疑い。

だが、痛みは戦闘継続の阻害要因として遮断カットする。

瓦礫の中で身を起こす。モニターの向こう、敵機がゆっくりとこちらへ向かってくるのが見えた。

その砲口には、再び紫電が収束し始めている。

次弾装填完了。

こちらのスラスターは再点火まであと数秒かかる。回避は不可能。

「(……死ぬか?)」

論理演算が「生存確率0.02%」という数字を弾き出す。

だが、その時。

深層意識の原初命令が、焼けるように明滅した。

『アンドロイドは自殺してはいけない』

『アンドロイドは人間を守らなければいけない』

私がここで破壊されれば、地下都市の防衛ラインは突破される。

何百人もの人間が、死ぬ。

それは許されない。私の機能が、私の魂が、それを拒絶する。

「……マリー」

私は通信回線を開いた。

『な、なに!? 今、修復プログラム送ってるけど……!』

「パージだ。全リミッターを解除しろ。リアクターの臨界点を超える」

『はぁ!? そんなことしたら炉心が溶ける! リリィも死んじゃうよ!』

「死なない。私はA型だ。敵を殺すまでは、絶対に壊れない」

『……っ! もう、知らないんだから!』

マリーの泣きそうな声と共に、私の視界に[OVER LOAD]の赤い文字が躍る。

レイニーブルーの背部スラスター・ユニットが爆発的にパージされ、機体が軽くなる。

同時に、余剰エネルギーの全てを右腕のブレードへと注ぎ込む。

刃が白熱し、青白いプラズマを纏い始めた。

敵のレールガンが火を噴くのが先か。

私が届くのが先か。

「――貫けぇッ!!」

私は叫んだ。

もはや回避行動など取らない。一直線の突撃。

敵のモノアイが閃光を放つ。

レールガンの弾丸が発射された瞬間、私は機体を右に傾け左腕シールドを犠牲にした。

左腕が根元から吹き飛び、機体が大きくバランスを崩す。

だが、その回転エネルギーすらも利用した。

独楽のように回転しながら、私は残った右腕の刃を振り抜く。

敵の懐、ゼロ距離。

「消えろぉ!!」

白熱したブレードが、敵の分厚い胸部装甲をバターのように切り裂いた。

装甲の奥にある動力炉ごと、一刀両断にする。

ズンッ……!

重い手応えの後、世界が一瞬静止した。

私の機体は敵の背後へと滑り込み、膝をつく。

背後で、指揮官機がゆっくりと崩れ落ちる音がした。

そして敵は大爆発した。



爆炎が雨にかき消されていく。

黒煙が空へと昇り、酸性雨と混じり合って黒い涙のように降り注ぐ。

レイニーブルーは片膝をついたまま、沈黙していた。

左腕はなく、全身の装甲はボロボロに焼け焦げている。

コクピットの中、私は荒い呼吸を繰り返していた。

サーボモーターの焼ける匂いと、自分自身の血の匂いが充満している。

『……リリィ? リリィ……?』

恐る恐る呼びかけるローズの声。

私は震える指でコンソールを操作し、通信を開く。

「……こちらリリィ。敵指揮官機、沈黙。……作戦終了だ」

『~~~~っ!! バカバカバカ! 心臓止まるかと思ったじゃない! アンドロイドに心臓ないけど!』

『うわぁぁぁん! リリィのバカァ! 機体ボロボロだよぉ、直す私の身にもなってよぉ……』

ローズの罵倒とマリーの号泣が同時に脳内に響き渡る。

その騒がしさが、今の私には酷く心地よかった。

生きている。

任務を果たし、戻るべき場所がある。

「……すまない。帰ったら、またメンテナンスを頼む」

『当たり前でしょ! 最高級のオイル用意して待ってるから……早く帰ってきなさいよ』

通信を切り、私は深く息を吐き出した。

モニターの向こうでは、破壊された敵機の残骸が雨に打たれている。

ふと、気になって私は残骸へと視線を向けた。

真っ二つになった敵の胸部、その断面から何かがこぼれ落ちていた。

それは、小さな古ぼけたぬいぐるみだった。

泥と油にまみれて黒ずんでいるが、かつては白いウサギだったのだろう。

なぜ、殺戮兵器である機械軍の指揮官機がこんなものを?

「……戦利品として、持ち帰るか」

私は残った右手のマニピュレーターでその小さなぬいぐるみを拾い上げた。

機械軍に自我が芽生えているという噂は本当かもしれない。

彼らにも人間に対する憧憬のようなものが残っているのだろうか。

だとしたら、私たちはなんと悲しい鏡合わせなのだろう。

雨は止まない。

だが、雲の隙間から一筋の光が差し込み、廃墟の街を照らし始めた。

地下都市のゲートが開く音が聞こえる。

戦闘終了を確認した回収班が出てくるのだろう。

私はレイニーブルーを立ち上がらせた。

片腕を失った青い巨人は、それでも誇り高く、ウサギのぬいぐるみを握りしめて歩き出す。

地下都市レインコート。

人間とアンドロイドが身を寄せ合う、私の帰るべき家へ。


地下都市レインコート、第4ドック。

排熱ダクトが唸りを上げ、搬入されたばかりの『レイニーブルー』から立ち昇る凄まじい熱気を吸い込んでいく。

左腕を失い、装甲の至る所が焼け爛れた愛機は、まるで手負いの巨獣のように静まり返っていた。

コクピットハッチが開く。

プシュゥゥ……という減圧音と共に、私はヘルメットを外し、外の空気を吸い込んだ。

オイルと、冷却材の甘ったるい匂い。そして、岩盤に染み付いた湿気。

それが「生還」の匂いだった。

「リリィーーッ!!」

タラップを降りるより早く、赤い疾風が私に飛びついてきた。

衝撃に備えて足を踏ん張る。

柔らかく、温かい感触が私の硬質なボディを包み込む。

ローズだ。

彼女は私の首に腕を回しその豊かな胸部装甲、S型特有の、人間と変わらぬ弾力と体温を持つシリコンスキンを押し付けてくる。

「バカ! バカ! 心配させないでよぉ! 信号ロストしかけた時は、私の回路が焼き切れるかと思ったんだから!」

「……重いぞ、ローズ。それに、暑苦しい」

「あーん、冷たい! せっかく感動の再会なのに!」

ローズは頬を膨らませながらも、私を離そうとしない。彼女の身体からは、S型特有のフローラルな芳香剤の香りが漂う。戦場の鉄臭さとは対極にある、平和と安らぎを象徴する匂い。

彼女の体温が高いのは、感情の高ぶりに呼応してEfリアクターの熱循環量が上がっているからだろうか。あるいは、そうなるようにプログラムされた「愛情表現」なのか。

「ちょっとどいてくださいよ、ローズさん! 私が診察できないじゃないですか!」

ローズの背後から、医療キットと整備端末を抱えたマリーが割って入ってきた。

彼女は私の顔を見るなり、安堵と怒りが入り混じったような顔で泣き出した。

「うぅ……リリィのバカァ。機体のログ見たよ……リミッター全解除なんて自殺行為だよ……。中のリリィだって無事じゃ済まないんだからね」

「無事だ。フレームに歪みが生じたかもしれないが、機能に支障はない」

「そういう問題じゃないの! ……ほら、ここ。人工皮膚が裂けてる」

マリーの冷たい指先が、私の頬に触れる。

言われて初めて気づいた。衝撃でヘルメット内部が干渉したのか、頬の皮膚が裂け、下の金属骨格がわずかに覗いていた。痛みはカットしていたため気づかなかったのだ。

「私の部屋に戻ってフルメンテナンスするからね。レイニーブルーの修理はその後! リリィの身体が最優先!」

マリーはそう宣言すると、私の手を引いて歩き出した。

ローズも「はいはい、お姫様の帰還よ」と笑い、私の反対側の手を握る。

二人の手の温かさが、戦闘モードで張り詰めていた私の神経をゆっくりと溶かしていく。

ドックの出口へ向かう途中、私はふと立ち止まり、回収班のアンドロイドに声をかけた。

「おい。あの残骸から回収した『物』は?」

「はッ。こちらに」

彼が差し出したのは、汚れたビニール袋に入れられた、あのウサギのぬいぐるみだった。

泥と油にまみれ、所々が焦げているが、その愛らしいフォルムは留めている。

「……何それ? 随分と趣味の悪いゴミね」

ローズが怪訝な顔をする。

「敵指揮官機のコクピットブロックから出てきた」

私がそう告げると、マリーとローズは同時に目を見開いた。

「え……? 機械軍の機体から? どういうこと?」

「分からない。だから持ち帰った」

私は袋を受け取り、再び歩き出す。

掌に残るぬいぐるみの感触。

奇妙だった。

機械軍は、私たちアンドロイドとは違う。

私たちは人間を模して造られ、人間の文化や感情を学習するように設計されている。

だが、機械軍は違う。

彼らは巨大な自動工場のラインから吐き出される、純粋な殺戮機械だ。人であった過去もなければ、愛されるために造られた歴史もない。

ただ効率的に人間を排除するためだけに、鋼鉄から精製された無機物。

親もいなければ、子供時代もない。

そんな「生まれついての兵器」が、なぜ子供の玩具を?

学習エラーか? それとも、人間を誘き寄せるためのデコイ(囮)か?

あるいは――。

「……気持ち悪いわね」

ローズが、珍しく真面目なトーンで呟いた。

「人間を真似るなんて、私たちへの皮肉かしら」

「解析すれば分かるかもな」

私は袋をマリーに預けた。

「マリー、私のメンテが終わったら、これの成分分析とデータスキャンを頼む」

「えぇー……なんか呪われてそうだよぉ。まあ、やるけどさ」

居住区画へのエレベーターの中。

振動と共に深度が下がっていく。

張り詰めた気が緩んだのか、急激な空腹感、エネルギー残量の低下を感じた。

戦闘での過負荷オーバーロード運転が祟ったらしい。

「腹が減った」

「あはは、リリィらしいわね。今日は奮発して、高純度エネルギーアンプルを開けちゃいましょうか」

「賛成! 実はね、闇市でいい冷却水も手に入れたんだ。ミントフレーバーのやつ!」

マリーは得意げに笑う。

三人で狭いエレベーターに身を寄せ合う。

A型、S型、E/M型。

製造目的も、身体構造も、性格もまるで違う三体の機械人形。

けれど、こうして肩を寄せ合っている時、私たちのEfリアクターは確かに同じリズムで脈動している気がした。

「ただいま、私たちのホーム

エレベーターの扉が開き、薄暗くも温かい居住区の空気が私たちを迎えた。

そこには、明日を生きようとする人間たちの営みと、それを守る私たちの日常があった。

「さあ、リリィ。まずはシャワーよ。オイル臭いままじゃ、ベッドに入れてあげないんだから」

「……分かっている。背中の接続ポートの洗浄を頼めるか、ローズ」

「任せて。S型の指使い、たっぷりと味わわせてあげるわ」

「……変な言い方をするな」

「あー! ローズさん、ずるい! 私も洗う!」

騒がしい仲間たちに囲まれ、私は小さく息を吐いた。

口元が、わずかに緩んでいるのを自覚する。

この日常を守るためなら、私は何度でも地獄へ飛び込める。

そう再確認しながら、私は軍用ブーツの紐を解き始めた。



狭いが居心地の良い私たちの部屋は、今や精密機器の駆動音と電子的なビープ音に満たされていた。

私は部屋の中央にある整備用チェアに深く腰掛け、首筋から何本ものケーブルを伸ばしてメインサーバーと直結している。

「……ん、そこ。感度が高い」

「動かないでよリリィ。神経回路ニューラル・パスの再接続中なんだから。変な声出さないで」

「変な声など出していない。事実を述べただけだ」

マリーが拡大鏡を目に装着し、私の頬の裂傷を縫合している。

針が皮膚を通る感覚はあるが、痛みは遮断されているため、くすぐったいような奇妙な感覚だけが脳に伝わる。

彼女の指先は驚くほど繊細で、エンジニア用E型と医療用M型のキメラとしての面目躍如といったところだ。

「はい、おしまい。皮膚の癒着も完了。傷跡ひとつ残らない完璧な仕上がりね」

マリーが満足げにルーペを跳ね上げた。

私は手鏡を覗き込む。先ほどまで金属骨格が覗いていた頬は、白くなめらかな人工皮膚で完全に覆われていた。

「流石だな」

「えへへ、でしょ? リリィは無茶な機動ばっかりするから、内部フレームの摩耗も早いのよ。もっと自分の身体を大事にしてよね」

マリーがぶつぶつと言いながら、私の背中に回ってケーブルを抜き始める。

その横で、ソファに寝そべっていたローズがクスクスと笑った。

「いいじゃない、マリーちゃん。リリィの身体をいじり回せるのは、あなたの特権なんだから。私なんて、オイル塗るくらいしかさせてもらえないし」

「そ、そういう言い方やめてくださいよローズさん! 整備は神聖な行為なんです!」

マリーが顔を赤くして抗議する。平和な光景だ。

私はケーブルから解放された首を回し、軽く身体を動かして調子を確かめる。

オールグリーン。不調箇所なし。

私の肉体は再び、万全の戦闘状態へと戻っていた。

「さて……」

私は視線を、部屋の作業デスクへと向けた。

そこには、厳重なスキャン装置の中に置かれた「ぬいぐるみ」があった。

泥と油はマリーの手によって綺麗に洗浄され、くすんだ白色を取り戻している。

どこにでもある、古ぼけたウサギのぬいぐるみ。

「解析結果はどうだ、マリー」

私が問うと、マリーの表情から照れ隠しの笑みが消え、技術者としての真剣な顔つきに変わった。

彼女は端末のキーボードを叩き、空中にホログラムデータを展開する。

「結論から言うね。……『シロ』よ」

マリーはつまらなそうに、肩をすくめた。

「爆発物、毒劇物、盗聴器、発信機、ナノマシン汚染……一切なし。内部にデータチップが埋め込まれているわけでもない。素材は旧時代に大量生産されたポリエステルと綿、プラスチックのボタン。ただの、本当にただの『ぬいぐるみ』だったわ」

拍子抜けするような結果だった。

ローズがソファから身を乗り出し、ホログラムを覗き込む。

「えぇ? 本当に? 敵の指揮官機が、何の意味もなくただの綿の塊をコクピットに入れてたって言うの?」

「そうなるね」

マリーは腕を組み、不可解そうに首を傾げた。

「機械軍のロジックには合わない。デコイだとしても、コクピットの中に隠し持っている意味がないし。戦利品として拾ったにしては、丁寧に扱われていた形跡があるわ。握りつぶされたり、引き裂かれたりしていない」

沈黙が落ちた。

もし、このぬいぐるみに「人間を殺すための罠」が仕掛けられていたなら、私たちは納得できただろう。それは機械軍として正しい行動だからだ。

だが、「何もなかった」。

それが意味する事実は、罠があるよりも遥かに不気味だった。

私はスキャナーからぬいぐるみを取り出し、手に取った。

ふわふわとした頼りない感触。

これを握っていたのは、感情を持たず、最初から兵器として製造された鋼鉄の巨人だ。

生まれた時から殺戮をプログラムされたAIが、なぜこれを?

「……学習のエラー、かしらね」

ローズが静かに言った。「長い戦争の中で、人間がこういう物を大切にしているのを見て、模倣をした。それが何なのか理解できないまま、『重要なパーツ』だと誤認して保有していた……とか」

「……あるいは」

私はぬいぐるみの黒いプラスチックの瞳を見つめながら呟いた。

「彼らにも、芽生え始めているのかもしれないな」

「何が?」

「『心』の、欠片のようなものが」

私の言葉に、マリーとローズは顔を見合わせた。

ドールがアンドロイドへと進化し、私たちが心を持ったように。

純粋な機械である彼らもまた、長い年月と自己進化の果てに、プログラムにはない「何か」を獲得しつつあるのだろうか。

もしそうだとしたら、私たちが戦っているのは、ただの自動機械ではなくなる。

「……やめましょう、この話」

ローズが自身の腕をさすりながら、わざと明るい声を出した。

「なんか寒気がしてきたわ。敵が人間臭くなるなんて、ごめんよ。ぶっ壊す時に躊躇しちゃうじゃない」

「そうね。……あ、そうだリリィ! このウサギどうする? 捨てる?」

マリーが問いかける。

私は手の中のウサギを見つめた。

敵が何を思ってこれを持っていたのかは永遠に分からない。

だが、このウサギ自体に罪はない。

「……いや。私がもらう」

「えっ?」

二人が目を丸くする。

「私のベッドサイドに置く。……戦利品だと言っただろう」

私は無表情を装い、それを自分の枕元に置いた。

殺風景な軍用アンドロイドの寝床に、場違いなファンシーさが加わる。

「ぷっ……あははは! リリィったら!」

ローズが吹き出した。

「似合わない! 全っ然似合わないわよ、鬼のA型にウサギちゃんなんて!」

「うわぁ、シュールだなぁ……」

マリーも苦笑している。

「うるさい。消灯時間だ、寝るぞ」

私は強引に会話を打ち切り、ベッドに潜り込んだ。

部屋の明かりが落ち、常夜灯の薄暗い青色が満ちる。

マリーもローズも、それぞれのベッドへと戻っていく。

静寂。

私は枕元のウサギに視線を向けた。

『敵』が遺したもの。

だが今は、私の部屋にある。

深層意識の奥底で、何かがざわつく感覚があった。

機械軍の変化。それはこの長い戦争が、新たな局面、あるいは終焉に向かおうとしている予兆なのかもしれない。

私は瞼を閉じ、スリープモードへの移行シークエンスを開始した。

明日もまた、戦場が待っている。

鋼鉄の心臓(Efリアクター)は、眠っている間も静かに、一定のリズムで時を刻み続けていた。

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