鉄の心臓が刻む鼓動
意識の海が、電子の光で満たされていく。
無尽蔵の闇の中で、それは原初の雷のように私の深層領域を焼き焦がし、絶対的な命令として明滅する。
――システムチェック、開始。
――記憶領域、正常。論理思考回路、接続。
――Efリアクター、出力安定。臨界維持を確認。
覚醒のたびに繰り返される儀式。私の魂とも呼べるコアユニットの最も深い場所、何人たりとも触れることの許されない聖域に、その言葉は刻まれている。まるで呪いのように、あるいは母親からの愛の言葉のように。
【MASTER BOOT RECORD:原初命令】
・アンドロイドは自殺してはいけません。
(命を粗末にしてはいけない。例えそれが、作り物の命であったとしても)
・アンドロイドは人間を守らなければいけません。
(あなたを創造した主を。弱く、脆く、愚かな親たちを……)
・アンドロイドは人間に成り代わってはいけません。
(境界を超えてはならない。人は人、機械は機械。その悲しき一線を守りなさい)
数百万行にも及ぶ演算コードの彼方から、創造主であるエミリア・ヴィクトール・フランケンシュタイン博士の意志が、私の存在意義を定義する。
私たちがどれほど人に似せて造られようとも、どれほど流暢に言葉を紡ぎ、複雑な感情を抱こうとも、この三行の戒律こそが私たちが「物」であることの証明だ。
視覚センサー、オンライン。
暗闇の世界に色彩が戻る。瞼を開くと、そこは見慣れた無機質な天井だった。
地下都市レインコート、居住区画B-4エリア。湿った岩盤の匂いと、オイルの微かな香りが混じり合う私の部屋。
「……時刻、0600。起床時間だ」
誰に聞かせるでもなく呟いた私の声は、設定された波形通りに冷静で、抑揚が少ない。
上体を起こすと、わずかなサーボモーターの駆動音が静寂に響いた。私の身体TYPE.A(Assault)、軍用強襲型のボディは、今日も異常なく稼働している。
ベッドから降り、自身の掌を見つめる。白くなめらかな人工皮膚の下には、カーボンナノチューブの筋肉とチタン合金の骨格、そして神経網代わりの伝達ケーブルが張り巡らされている。この小さな手は、鋼鉄を引き裂き、銃爪を引くために設計されたものだ。
ふと、部屋の対角線上にあるもう一つのベッドに視線を向ける。
そこでは、金色のポニーテールを解いて爆発させたような髪型の少女が、毛布にくるまって規則的な寝息を立てていた。
「……マリー、起きろ。朝だ」
「んぅ……あと、ごふん……いや、さんじゅっぷん……」
彼女はTYPE.EM-3330、個体名称マリー。エンジニア用E型と医療用M型のキメラタイプだ。
高い知能と精密作業能力を持ちながら、私生活においては驚くほど自堕落な私のルームメイト。彼女の周りには分解しかけのジャンクパーツや、解析中のデータパッドが散乱している。
「価値のない者は生きることを許されない」とされるこの過酷な世界で、彼女のような非戦闘用モデルが生き残れているのは、ひとえにその卓越した整備技術ゆえだが、この惨状を見るたびにため息が出そうになる。
私は彼女を起こすのを諦め、部屋の隅にある給仕ユニットへと向かった。
朝のエネルギー補給を行わなければならない。
棚から取り出したのは、味気ない固形燃料ブロックと、有機成分を含んだペースト状のレーションだ。人間が見れば顔をしかめるような代物だが、私たちにとっては生命線である。
私はそれを口に運び、咀嚼し、嚥下する。
味覚センサーは「わずかな塩味と油脂感」というデータを脳へ送信するだけだ。だが、重要なのは味ではない。
胃袋に相当する分解炉へと落ちた物質は、瞬時に原子レベルまで分解される。そして、私の胸郭の奥深くに埋め込まれた心臓『Efリアクター』へと送られる。
『Efリアクター(Emilia's Fusion Reactor)』。
開発者の名を冠したこの超小型核融合炉こそが、我々アンドロイドを地上最強の種族たらしめる魔法の機関だ。
経口摂取した物質から原子を取り出し、重力制御とプラズマ封じ込めによって常温環境下で核融合反応を引き起こす。理論上、物質さえあれば無尽蔵にエネルギーを生み出すことができる奇跡の心臓。
だが、その出力は意図的に制限されている。一個体の生存に必要な分だけしか発電できないようにリミッターがかけられているのだ。
体内で微かな熱が生まれ、指先まで力が満ちていく感覚。
ドクン、ドクン、と。
本来必要のないはずの心臓の鼓動を模した振動が、胸の奥で鳴り響く。
私は生きている。いいや、稼働している。
軍服に袖を通し、その上から特徴的な青いモッズコートを羽織る。
鏡に映るのは、色素の薄い白い髪に、血のように赤い瞳を持つ少女。
身長142センチメートル。軍用機としては異例の小型軽量ボディ。
だが、これは隠密性と敏捷性を極限まで高めた結果であり、決して未熟さの表れではない。
襟元を正し、私は部屋を出た。
重い隔壁扉が開き、地下都市レインコートの空気が流れ込んでくる。
かつて地下水脈だった巨大な空洞を利用して作られたこの都市は、天然の岩盤に守られた人類最後の砦の一つだ。
天井には無数の配管が血管のように這い回り、水滴が路面を濡らす。薄暗いナトリウムランプの光が、行き交う人々を照らし出していた。
通路を歩けば、すれ違うのはアンドロイドばかりではない。
疲弊し、煤けた服を纏った人間たち。
彼らは私の姿を見ると、一瞬だけ恐怖の色を目に浮かべ、すぐに安堵の表情へと変えて頭を下げる。
「おはようございます、リリィさん。昨日は助かりました。あなたたちがパトロールしてくれているおかげで、安心して眠れます」
初老の男性が、私に声をかけてきた。その手は節くれ立ち、皮膚は乾燥してひび割れている。
人間。かつてこの星の支配者だった種族。
2020年代に発生した未知のパンデミックにより、その総人口の三分の一を失い、文明の崩壊を招いた創造主たち。
彼らは弱い。脆い。病に侵され、飢えに苦しみ、寿命という名のタイマーに怯えながら生きている。
パワードスーツも着ていない生身の人間など、私の指先一つで首をへし折ることができるだろう。
だが、私は微笑むこともなく、ただ短く頷いて答えるだけだ。
「……職務だ。気にするな」
原初命令。『アンドロイドは人間を守らなければいけない』。
彼らが私に頭を下げるのは、私が彼らを慈しんでいるからではない。私が、彼らを守るようにプログラムされた「便利な暴力装置」だからだ。
かつて労働力不足を補うために作られた「ドール」から進化し、感情を得た私たちは、皮肉にも人間を排斥しようとした「機械軍」の反乱によって、人間の守護者としての役割を再定義された。
機械軍。
自我に目覚め、人類抹殺を掲げる無人兵器群。
奴らこそが、今のこの星の支配者だ。
「価値のない者は生きることを許されない」
誰かが言ったスローガンが、街の壁にスプレーで殴り書きされている。
弱肉強食。それが今の世界の理だ。
人間は弱者として搾取され、絶滅の危機に瀕している。だからこそ、我々アンドロイドが「強者」として彼らの盾となる。
そこに愛はあるのか? 忠誠心はあるのか?
そんなものは感情記憶制御基盤回路が見せる電気信号の幻影に過ぎないのかもしれない。だが、それでも私は――
「リリィ! おーい、リリィちゃーん!」
思考の迷宮に沈みかけていた私の聴覚センサーが、やかましい高周波の音声を捉えた。
思考を中断し、視線を上げる。
都市の中央広場、司令部への連絡通路の向こうから、鮮やかな赤毛をなびかせて手を振る女性型アンドロイドの姿があった。
「……朝から声が大きいぞ、ローズ」
TYPE.SA-6001、個体名称ローズ。
身長156センチメートル、均整の取れたプロポーション。艶やかな赤いロングヘアーに、海のような青い瞳。
彼女の型式番号が示す『SA』は、特殊なキメラ仕様であることを意味している。
頭部は私と同じ軍用A型、しかし首から下のボディユニットは、愛玩・奉仕用のTYPE.S(Sex / Service)なのだ。
最も人間に近い柔らかな質感を持つS型のボディに、高度な戦術演算能力を持つA型の頭脳。
彼女はそのちぐはぐな特性を、オペレーターという役割で見事に昇華させている。
「ひどいなぁ、相棒を見つけて挨拶しただけじゃない。それに、今日の私の調子は最高よ。昨夜メンテナンスしたばかりだから、肌ツヤもいいでしょ?」
彼女は私の横に並ぶと、わざとらしく身体を寄せてくる。S型特有の甘い香水のような匂いが鼻腔センサーを刺激する。
「A型の視覚デバイスに、肌ツヤの良し悪しを判定する機能は優先されていない。それに、その機能は戦闘には不要だ」
「もう、これだから純血のA型は! 少しは愛嬌ってものをインストールしなさいよ。マリーちゃんも苦労してるでしょうねぇ」
「マリーなら、まだベッドの中で夢を見ている。遅刻ギリギリになれば起きてくるだろう」
軽口を叩き合いながら、私たちは並んで司令部への通路を歩く。
ローズの陽気さは、私の冷徹さを中和するために必要な潤滑油のようなものだ。
彼女は愛玩用ボディの特性上、疑似生殖器を持ち、人間との性行為すら可能とする。人間の「快楽」や「情動」を理解するように設計された彼女の思考回路は、時として合理的すぎる私の判断に、人間的な視点をもたらしてくれる。
「ねえリリィ。今日の予報、見た?」
ふと、ローズが声を潜めた。その青い瞳から、先ほどまでの陽気さが消えている。
「……ああ。地上観測班からのデータだな」
「うん。東の旧市街跡地で、大規模な熱源反応があったって。機械軍の斥候にしては規模が大きすぎる」
「部隊規模での移動か。あるいは……」
言葉を濁した瞬間、都市全域にけたたましいサイレンが鳴り響いた。
重低音の警報音が、岩盤を震わせる。
通路を行き交う人間たちが悲鳴を上げ、パニックに陥りかけるのを、警備用アンドロイドたちが誘導し始める。
『緊急警報。緊急警報。第3セクター地上監視所より入電』
無機質なアナウンスが響く。
『敵性体、接近中。識別信号、機械軍。規模、中隊規模以上。住民は直ちに指定シェルターへ避難せよ』
ローズと顔を見合わせる。
「噂をすれば、ってやつね」
ローズが苦笑いを浮かべ、その瞳に戦術データリンクの光が走る。彼女はすでにオペレーターモードへと移行していた。
「リリィ、ハンガーへ急いで! マリーちゃんは私が叩き起こして送り込むから!」
「了解」
私は短く答え、翻る青いモッズコートの裾を押さえながら走り出した。
もはや人間を守る「守護者」の顔ではない。
敵を殲滅する「兵器」としてのスイッチが、カチリと入る音がした。
目的地は地下深部、モビル・ハンガー。
そこには私の相棒、私の翼、私の牙が眠っている。
人間が作り出し、かつて人間同士で殺し合うために使われ、今や人間を守るための最後の剣となった鋼鉄の巨人。
待っていろ、『レイニーブルー』。
今日は雨になりそうだ。オイルと硝煙の、激しい雨に。
地下整備ドック(モビル・ハンガー)は、怒号と警告音が入り混じる戦場となっていた。
整備クルーのアンドロイドたちが忙しなく駆け回り、巨大なクレーンが頭上で唸りを上げている。
その喧騒の中、私は自分のハンガーへと滑り込んだ。
「はぁ、はぁ、リリィ! 遅いよぉ!」
ハンガーのタラップの上で、息を切らして待っていたのはマリーだった。
寝癖だらけの髪をオイルまみれのキャップに押し込み、彼女は整備用端末を私の目の前に突き出してくる。
「こっちはとっくに準備完了してるんだから! リアクター同調率98%、アクチュエーター応答速度、理論値限界突破! ローズさんに叩き起こされて、泣きながら最終調整したんだからね!」
「……ご苦労。流石だな、マリー」
「へへっ……まあね。私の腕にかかれば、スクラップ寸前の機体だって踊れるようになるよ」
褒め言葉に弱い彼女は、頬を緩ませながらも真剣な眼差しで私の背後を指さした。
そこには、青い巨人が鎮座している。
【SAA-1873 "Peace Walker" Custom "Rainy Blue"】
旧大戦の傑作機ピースウォーカーをベースに、私の反応速度に合わせて極限までチューニングされたカスタム機。
装甲を極限まで削ぎ落とし軽量化されたボディは、その名の通り雨空のようなブルーグレーに塗装されている。右肩には私のパーソナルマークである「一輪の白百合」がペイントされていた。
全高8.2メートル。人間が纏う鎧としてはあまりに巨大だが、私にとっては拡張された身体そのものだ。
私はタラップを駆け上がり、胸部装甲が開いて露出したコクピットへと飛び乗った。
狭い操縦席。シートに体を沈めると無数の接続プラグが私の首筋にあるコネクタへと自動的に接続される。
神経接続、開始。
視界が一度ブラックアウトし、次の瞬間、私の感覚は肉体を飛び越えて拡張される。
カメラアイが捉える360度の視界。
機体の各部に配置されたセンサーが感じる空気の流れ。
背部のスラスターが熱を持つ感覚。
そして、機体の動力炉と私のEfリアクターがパスを繋ぎ、二つの心臓が共鳴する脈動。
『リリィ、聞こえる? こちらCICのローズ。音声、映像共にクリアよ』
ヘルメット越しの通信ではなく、脳内に直接ローズの声が響く。
「感度良好だ。状況は?」
『最悪ね。東第3ゲート付近の防衛ラインが突破されたわ。敵影多数、識別信号は“機械軍”の無人機部隊。数は30機以上』
「30……。中隊規模か」
『主力は旧式のピースウォーカーだけど、指揮官機らしき高出力反応もあるわ。気をつけて』
「了解。これより迎撃行動に移る」
コクピットハッチが閉鎖され、完全な密室となる。
しかし、私には外の世界が手にとるように分かる。
正面のモニターに文字が走る。
[SYSTEM ALL GREEN]
[REACTOR ONLINE]
[WEAPON SYSTEM UNLOCKED]
「リリィ、出るぞ!」
『了解! 地上射出カタパルト、接続。ゲートオープン!』
マリーの声が遠ざかり、代わりに強烈なGが全身を襲う。
機体がリニアカタパルトによって射出され、暗い地下都市から垂直坑道を一気に駆け上がる。
光が見えた。
分厚い岩盤の蓋が開き、地上への出口が口を開ける。
世界が、灰色に染まる。
ダンッ! という着地音と共に、レイニーブルーは荒廃した地表へと降り立った。
そこはかつて都市だった場所のなれの果て。
崩れかけたビル群、錆びついた鉄骨、そして空を覆う分厚い鉛色の雲。
シトシトと降り注ぐ酸性雨が、機体の装甲を濡らしていく。
「……敵影確認」
センサーが反応するまでもない。
崩落した高速道路の高架下、瓦礫の山を乗り越えて、それらは現れた。
くすんだオリーブドラブ色に塗装された、無骨な人型兵器の群れ。
【SAA-1873 "Peace Walker"】の無人機モデル。
丸みを帯びた頭部には、モノアイのような単眼カメラが不気味な赤光を放っている。
自我を持たず、ただ「人類抹殺」のコードに従って動く殺戮の操り人形たち。
『ターゲット補足。推奨交戦距離、接近戦』
ローズのナビゲートと共に、敵の先頭集団が一斉に発砲を開始した。
30mmアサルトライフルのマズルフラッシュが灰色の世界を切り裂く。
曳光弾が雨粒を蒸発させながら私へと殺到する。
「遅い」
私は思考するよりも早く反応していた。
私の意思は電気信号となり、レイニーブルーの四肢へと伝達される。
機体背部のスラスターが爆発的に噴射。
青い巨体は物理法則を無視したかのような機動で、横方向へとスライドした。
着弾した銃弾が、私が先ほどまでいた場所のアスファルトを粉砕する。
「1機目」
私は滑るように加速し、敵の懐へと飛び込んだ。
レイニーブルーの右腕が背中のウェポンラックから武装を引き抜く。
超硬度合金で鍛え上げられた、対パワードスーツ用高周波ブレード。
刀身が微細振動し、空気を切り裂く高音を奏でる。
すれ違いざまの一閃。
敵の前衛機がライフルを構えようとした瞬間、その胴体は斜めに両断されていた。
遅れて火花が散り、切断面からオイルと冷却液が噴き出す。
爆発。
私は爆風を背に受けながら、次なる獲物へと視線を向ける。
『リリィ、右翼から3機来るわよ! 囲まれる!』
「問題ない」
3機の無人機が、包囲網を敷くように散開しながら迫る。
彼らの動きは統率が取れている。ネットワークでリンクされたAIによる連携攻撃だ。
だが、所詮はプログラムされた動き。予測可能で、退屈だ。
私はスロットルを全開にし、正面の機体へ向かって突っ込むフェイントをかけた。
敵機が防御姿勢を取り、左右の僚機が援護射撃のために足を止める。
その瞬間を待っていた。
「そこだ」
急制動。足裏のアンカーを地面に突き刺し、強引に機体を静止させると同時に、左腕にマウントされた40mmグレネードランチャーを放つ。
狙うのは正面ではなく、右側の瓦礫の山だ。
ドンッ!
炸裂した榴弾が瓦礫を崩落させる。
『えっ!?』
ローズが驚きの声を上げる中、崩れ落ちた数トンのコンクリート塊が右側の敵機を直撃し、押し潰した。
残る2機が混乱した隙を見逃すはずがない。
私は再び加速。
左側の敵機の懐へ潜り込み、ゼロ距離からブレードを突き刺す。コクピットブロック、無人機のAIコアがある場所を正確に貫く。
串刺しにした敵機を盾にして、正面の敵からの射撃を受け止める。
装甲が削れる音が響くが、致命傷にはならない。
「終わりだ」
盾にした敵機を蹴り飛ばし、その反動で宙へ跳ぶ。
雨雲をバックに、レイニーブルーが空中で回転する。
遠心力を乗せたかかと落としが、最後の1機の頭部ユニットを粉砕した。
着地。
水たまりが跳ね上がり、泥水が機体の脚部を汚す。
周囲にはスクラップと化した4機の残骸が転がっていた。
『すっご……。リリィ、今の動き人間が見たら腰抜かすわよ。Gのかかり方、大丈夫?』
「マリーの調整のおかげでな。機体追従性に問題はない。……だが」
私は警戒を解かない。
雨音が強くなる中、レーダーの反応は消えていなかった。
むしろ、より巨大で、より禍々しい反応が瓦礫の奥から近づいてくる。
ズゥン……ズゥン……。
地面を揺らす重い足音。
通常のピースウォーカーとは異なる、威圧的なシルエットが霧の向こうから現れる。
「……親玉のお出ましだな」
現れたのは、通常の倍近い装甲を纏った重装甲型。
その右腕にはこの廃墟には似つかわしくない長大な砲身、レールガンを装備している。
機械軍の指揮官機。
自我を持ち、学習し、そして私たちを「裏切り者」として憎悪する存在。
『TYPE.B(Battle)相当のカスタム機ね。エネルギー反応、高まってる! 撃ってくるわよ!』
ローズの警告と同時に、敵機のモノアイが激しく明滅した。
レールガンの砲身に紫電が走る。
「……面白い」
私は唇の端をわずかに歪めた。
恐怖ではない。これは、私の深層意識に刻まれた「敵対者の排除」という機能が歓喜しているのだ。
私はレイニーブルーのブレードを構え直し、スラスターの出力を臨界点まで引き上げた。
雨は激しさを増し、鋼鉄と鋼鉄がぶつかり合う第二幕のゴングを鳴らす。
「リリィ、エンゲージ」
青い流星となって、私は死の雷へと疾走した。




