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臆病な調香師は、震える手で物理無双する。~「使えない」と勇者パーティーから追放されたのに、うっかり最強スパイスでドラゴンを挽肉にして、冷血公爵様に溺愛されました~  作者: 月影 朔
第1章:追放と覚醒、そして最強の顧客

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第9話:蘇生した死体が、食堂へダッシュ

「ふぅ……あー、スッキリした」


そう呟いた瞬間、視界がぐらりと揺れた。 スパイスの効果時間が切れたのだ。


「……え?」


ティアの瞳から、獰猛な光が消える。 熱狂が去り、急速に冷たい現実が戻ってくる。


「……あ、あれ? 私、なんで立って……」


ぼんやりと周囲を見渡す。 壁にめり込んだ、黒焦げのリーダー。 床板ごと粉砕され、ピクリとも動かない二人の手下。 そして、半壊したギルドの惨状。


「ひっ!?」


思考が追いついた瞬間、顔から血の気が引いた。


な、なにこれ? 何が起きたの? さっきまでチンピラに絡まれてて、香水瓶を割られて……それで……?


「し、死んでる……!? うそ、私が……やったの……?」


目の前の惨状を見る。 あんなに威勢の良かった三人組が、見るも無惨な姿になっている。 黒焦げで痙攣しているリーダー。首があらぬ方向に曲がっている手下たち。


「う、うわぁぁぁぁ!! ごめんなさいごめんなさい!!」


私はその場に崩れ落ちるようにして、黒焦げの死体(?)に向かって土下座した。


「調子に乗ってごめんなさい! 殺すつもりなんてなかったんです! ちょっと手が滑っただけで! いえ、私が悪いんです! 私ごときが生意気にも反撃なんてしてすみませんんん!!」


額を床にこすりつけ、涙目で謝り倒す。 相手はもう、虫の息なのに。


「ど、どうしよう……! 人殺しなんてしたら、今度こそ処刑されちゃう!」


パニックになりながら、私は腰のポーチをまさぐった。 何か、何か彼らを助ける手段はないか。 普通の回復ポーションじゃ間に合わない。もっと強力な、蘇生レベルの効果があるものじゃなきゃ――。


「あ、あった!」


私の指先が、ある小瓶に触れた。 『復活の乳香リザレクション・フランキンセンス』。 ラインハルト様に使った瀕死の重傷すら瞬時に癒やす、超強力な再生香だ。


「お、お願い、死なないでぇぇぇ!!」


私は泣きながら小瓶の蓋を開け、倒れている三人に向けて中身をぶちまけた。 シュワァァァ……と、甘くスパイシーな煙が立ち上り、彼らを包み込む。


すると。


「……ッ!?」


黒焦げだった皮膚が再生し、曲がった首がボキボキと音を立てて元に戻っていく。 ものの数秒で、彼らの体から傷跡が消え去った。


「よ、よかったぁ……!」


私が安堵の息を吐いた、その時だった。


「「「腹減ったぁぁぁぁぁ!!」」」


三人が同時に跳ね起き、野太い声で絶叫した。 目は血走り、口からはよだれを垂らしている。 『復活の乳香』の副作用だ。細胞の急速再生に使われたエネルギーを補給するため、脳が「飢餓状態」だと誤認しているのだ。


「飯……飯だ……! 肉をよこせぇぇぇ!!」


「そこの食堂だ! 匂いがするぞぉぉぉ!!」


彼らはゾンビ映画のような形相で、ギルド併設の食堂へとダッシュした。 ドカドカとテーブルをひっくり返し、他の冒険者の料理を奪い合い、寸胴鍋に顔を突っ込んでシチューをすする。


「うめぇぇぇ! 足りねぇぇぇ!!」


「もっとだ! もっと食わせろぉぉぉ!!」


食堂は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。


「あわわわ……!」


私は真っ青になった。 死なせなくて済んだのは良かったけれど、これじゃ別の意味で大惨事だ。 ギルドを半壊させた上に、食堂まで壊滅させてしまった。 これはもう、弁償で済むレベルじゃない。


「に、逃げなきゃ……!」


私は震える手で『調香師の戦帯アルケミスト・バンドリア』から一本の小瓶を抜き取った。 『潔癖の石鹸(クリーン・ソープ)』。 証拠隠滅にはこれしかない。


「えいっ」


小瓶の中身を頭からかぶる。


シュワワッ! と白い泡が全身を包み込み、返り血やすす汚れ、そして私の「犯行の痕跡(匂い)」を一瞬で消し去っていく。


「ふぅ……これでなんとか、シラを切れるかも……」


そう思って、こっそり出口へ向かおうとした時だった。


「――待ちたまえ」


背後から、重々しい声が響いた。 ビクリとして振り返ると、そこには厳つい顔をした初老の男性が立っていた。 ギルドマスターだ。


「ひぃっ!? ご、ごめんなさい! 私じゃありません! 私はただ通りすがりの善良な市民で……!」


私は反射的に両手を上げて降参した。 しかし、ギルドマスターの目は、怒っているようには見えなかった。 むしろ、驚愕と称賛の色を帯びていた。


「君……今のを見たぞ」


「え?」


「あのチンピラどもを一瞬で制圧し、瀕死の重傷を瞬時に回復させ、さらに自身の汚れまで浄化するとは……」


ギルドマスターは震える声で続けた。


「完璧だ……! これほどの手際、見たことがない!」


「は、はい……?」


「攻撃、回復、そして衛生管理。全てにおいて超一流だ! 君のような人材を、我々はずっと待っていたんだ!」


ギルドマスターは突然、私の前で膝をつき、深々と頭を下げた。


「頼む! ウチの支部を救ってくれ!」


「ええっ!?」


周囲の冒険者たちもざわめき始める。 「おい、あのギルマスが頭を下げてるぞ?」 「すげぇ……あの子、何者だ?」 「Sランク……いや、それ以上の化け物か?」


勝手な憶測が飛び交い、私の評価がどんどん上がっていく。 違うんです。私はただの臆病な調香師で、今はパニックになってるだけで……!


「あ、あの、私Fランクで登録したばかりで……」


「Fランク? 冗談だろう! その実力なら即Sランク認定でもおかしくない!」


ギルドマスターは私の手を取り、熱っぽく語りかける。


「君には『特別顧問』として、この支部の立て直しに協力してもらいたい! 報酬は弾む! 頼む、断らないでくれ!」


「ひぇぇぇ……!」


断りたい。全力で断りたい。 でも、ギルドマスターの気迫と、周囲の期待に満ちた視線に圧されて、言葉が出てこない。


「……わ、わかりました……」


結局、私は蚊の鳴くような声で承諾するしかなかった。 こうして私は、登録初日にしてギルドの救世主(Sランク扱い)として崇められることになってしまったのだった。


「うぅ……どうしてこうなったのぉ……」


心の中で泣きながら、私は新たなトラブルの予感に震えるのだった。


 ◇◆◇


その夜。 ギルドでの騒動を知ったラインハルト様は、満面の笑みで私を迎えてくれた。


「聞いたよティア。ギルドで大活躍だったそうじゃないか」


「ち、違います! 私はただ、襲われて怖くて……!」


「謙遜しなくていい。君の香りが、悪党どもを浄化し、更生(?)させたのだろう? 素晴らしい慈悲の心だ」


ラインハルト様は私の頭を撫でながら、うっとりと呟いた。


「君の活躍を耳にするたび、私の胸は高鳴るよ。……ああ、早く君だけのものになりたい」


「えっ? 今なんて……?」


「なんでもない。さあ、今日は君の好物を用意させたんだ。たくさん食べてくれ」


そう言って、彼は私をダイニングへエスコートしてくれた。 美味しい食事と、ラインハルト様の甘やかし。 昼間の疲れが癒やされていくのを感じながら、私は「まあ、終わりよければ全て良しか」と楽観的に考えることにした。


まさかその頃、領地の外れにある森で、とんでもない「災厄」が目覚めようとしているとは知らずに。

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