表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
臆病な調香師は、震える手で物理無双する。~「使えない」と勇者パーティーから追放されたのに、うっかり最強スパイスでドラゴンを挽肉にして、冷血公爵様に溺愛されました~  作者: 月影 朔
第1章:追放と覚醒、そして最強の顧客

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/18

第6話:辺境のフレグランス・ライフ始動

ラインハルト様から「何をしててもいい」というお言葉をいただき、さらに専用の工房まで与えられた私は、まるで夢の中にいるような気分だった。


これまでは「副作用のない100点満点のポーション」しか作れず、いつもビクビクしていた。 少しでもミスをすれば、勇者アレクに怒鳴られる日々。 自分の作りたいものなんて、何一つ作れなかった。


けれど、ここは違う。 失敗してもいい。 屋敷を爆破してもいい(それはさすがにダメだと思うけど)。


「……本当に、作ってみてもいいのかな?」


私は震える手で、ずっと温めていたレシピ帳を開いた。 そこには、「効果は凄まじいが、副作用も強烈」なため、封印していた試作品の数々が記されている。


「うぅ……でも、もし誰かが怪我をしたら……」


まだ、怖い。 長年染みついた「失敗恐怖症」は、そう簡単には消えてくれない。


「ティア様、何かお困りですか?」


声をかけてきたのは、この屋敷を取り仕切るメイド長のエマさんだった。 穏やかで優しそうな初老の女性だが、目には鋭い光が宿っている。


「あ、あの……実は、新しい試作品を作ってみようかと思っているんですが……その、副作用が少し心配で……」


私は正直に打ち明けた。 するとエマさんは、ニッコリと微笑んだ。


「まあ、素敵なご趣味ですこと。それならば、私どもが実験台になりましょう」


「ええっ!? そ、そんな! 使用人の皆さんに何かあったら……!」


「ご心配には及びません。閣下から『ティア様の実験に協力せよ』と仰せつかっておりますので」


そう言うとエマさんは、手際よく他の使用人たちを集めてしまった。 みんな、「公爵様の命令なら喜んで」という顔をしている。

……ラインハルト様の影響力、恐るべし。


「では、まずは私から参りましょうか」


エマさんが名乗りを上げた。

私は恐る恐る、一晩かけて調合したピンク色の小瓶を取り出した。


若返りのローズ(リバース・ローズ)』。

肌の細胞を活性化させ、若々しいハリを取り戻す美容フレグランスだ。 ただし、副作用として「幸福中枢が過剰に刺激され、笑いが止まらなくなる」というリスクがある。


「こ、これは、お肌がツヤツヤになる美容フレグランスなんですけど……その、ちょっと笑い上戸になっちゃうかも……」


「あら、幸福になれる? 『憂鬱になりがちな雨の日でもハッピーになれる』ということですわね? 素晴らしい副作用ですわ!」


(ええっ!? そっちの解釈!?)」


エマさんは躊躇なく小瓶の香りを一気に吸い込む。


カッ!


その瞬間、エマさんの顔が輝いた。 文字通り、発光したのだ。

そして光が収まると――そこには、どう見ても20代にしか見えない、ピチピチのエマさんが立っていた。


「ま、まあ……! お肌が水を弾きますわ!」


エマさんは鏡を見て、頬を紅潮させた。 周囲のメイドたちから「キャーッ!」「エマ様すごーい!」と黄色い悲鳴が上がる。


大成功だ。 効果は抜群。 でも、ここからが本番だ。


「ふふ……ふふふ……あははははは!」


突然、エマさんが高笑いを始めた。


「あーっはっはっは! なんだか楽しくて仕方がありませんわ! あはははは!」


「エ、エマさん!?」


「ごめんなさいティア様、笑いが……あはは! 止まらないのですわ! げらげらげら!」


上品なメイド長が、腹を抱えて大爆笑している。 それにつられて、他のメイドたちも笑い出してしまった。 屋敷中に、楽しげな(そして少し狂気じみた)笑い声が響き渡る。


「あわわ……ど、どうしよう……!」


私がオロオロしていると、今度は騎士団長のガルドさんがやってきた。 筋骨隆々の大男で、顔には古傷があり、いかにも「歴戦の猛者」といった風貌だ。


「なんだこの騒ぎは。……む? エマ殿、ずいぶんと若返られたな」


「あらガルド様、あははは! ティア様のお薬のおかげですのよ! げらげら!」


「ほう……それは興味深い。ティア殿、俺にも何か強くなれる香りはないか?」


ガルドさんは期待に満ちた目で私を見た。 強くなる香り……あるにはある。


剛力のムスク(ヘラクレス・ムスク)』。 筋繊維を一時的に超強化し、岩をも砕く怪力を得るドーピング剤だ。 ただし、副作用として「声帯が収縮し、声が極端に高くなる(裏返る)」という欠点がある。


「あ、あの……これなんですけど……力がすごく強くなります。でも、声がちょっと……」


「構わん! 閣下の命の恩人であるティア殿の香りだ。例え死ぬと分かっていても喜んで嗅ごう!」


(いや死なないでください!?)


ガルドさんは男らしく小瓶に鼻をつけ、一気に吸いこんだ。


ゴクリ。


ムキッ!!


ガルドさんの筋肉が、服を突き破らんばかりに膨張した。 全身から湯気が立ち上り、凄まじいオーラが漂っている。


「おお……! みなぎる! 力がみなぎるぞ!」


ガルドさんは手近にあった訓練用の岩を、片手で軽々と持ち上げた。

そして――。


「ふんぬっ!!」


ベキィッ!!


岩を素手で握りつぶし、粉々にしてしまった。 すごい威力だ。 これなら魔獣とも素手で渡り合えるかもしれない。


「見たかティア殿! 俺は最強だァ――ッ!!」


「「「ブフッ!!」」」


その場にいた全員が吹き出した。 ガルドさんの声が、まるでヘリウムガスを吸ったように甲高く、裏返っていたからだ。

あの厳つい顔から、「キュルルンッ☆」みたいな小動物ボイスが出ている。


「な、なんだ!? なぜ笑う!?」


「ガ、ガルド様……声が……あははは!」


笑い上戸になっているエマさんが、涙を流しながら指差した。 ガルドさんは慌てて口を押さえたが、時すでに遅し。


「な、なんじゃこりゃあぁぁぁ~~っ!?」


甲高い悲鳴が響き渡り、屋敷中が爆笑の渦に包まれた。


「あわわわ……ご、ごめんなさい! すぐに元に戻る薬を……!」


私がパニックになって調香室へ走ろうとした時、背後から誰かに抱きしめられた。


「……最高だ」


耳元で、甘く低い声が囁いた。 ラインハルト様だ。


「ラ、ラインハルト様……!?」


「君は天才だよ、ティア。……見てごらん。君の香りが、彼らに『若さ』と『笑顔』を与えたんだ」


「えっ? いや、これ単に副作用で笑ってるだけじゃ……」


「いいや、違う。これは『祝福』だ。君がいるだけで、死にかけていたこの屋敷が、こんなにも鮮やかに色づいていく」


ラインハルト様は、笑い転げるエマさんと、変な声で慌てふためくガルドさんを見て、心底楽しそうに微笑んでいた。


「し、失敗しても……怒られないんですか……?」


私は恐る恐る尋ねた。 いつもの私なら、こんな大騒ぎを起こしたら、即刻追放されてもおかしくない。


けれど、ラインハルト様は私の頭を優しく撫でてくれた。


「怒る? なぜだ。君のおかげで、この冷え切った屋敷に活気が戻った。みんな楽しそうじゃないか」


「楽しそう……?」


改めて周囲を見渡すと、確かにみんな笑顔だった。 エマさんは若返って嬉しそうだし、ガルドさんも変な声をネタにされて満更でもなさそうだ。 何より、あんなに怖かった「副作用」が、ここでは「愛すべき個性」として受け入れられている。


「……私、ここにいていいんですね……」


「ああ。ずっといてくれ」


ラインハルト様の言葉に、私は思わず涙ぐんでしまった。 初めて、自分の調香が――そして私自身が、肯定された気がした。


「ありがとうございます……!」


私はラインハルト様の胸に顔を埋め、嬉し涙を流した。 その間も、屋敷には甲高い騎士団長の悲鳴と、メイド長の豪快な笑い声が響き続けていた。


こうして、私の辺境でのフレグランス・ライフは、カオスと笑いに満ちた幕開けを迎えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ