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臆病な調香師は、震える手で物理無双する。~「使えない」と勇者パーティーから追放されたのに、うっかり最強スパイスでドラゴンを挽肉にして、冷血公爵様に溺愛されました~  作者: 月影 朔
第1章:追放と覚醒、そして最強の顧客

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第16話:開店初日の大盛況

「あわわわ、ポ、ポチぃぃぃ! 助けてぇぇぇ!」


私はパニックになりながら、カウンターの奥へと逃げ込んだ。 ポチは呑気に尻尾を振っている。


「わんっ!(商売繁盛だなママ!)」じゃないよ! このままだと押しつぶされちゃうよ!


「ティア様、こちらに注文が殺到しております!」 「ティア殿、騎士団の者たちが『あの香りを!』とうるさくてな……」


メイドのエマさんと騎士団長のガルドさんが、助っ人としてカウンターに入ってくれていた。 エマさんは手際よく注文を捌き、ガルドさんは(変な声で)客整理をしてくれている。 公爵家の精鋭たちが店員なんて、贅沢すぎる布陣だ。


「えっと、えっと……! みなさん落ち着いてください!」


私は必死に声を張り上げた。


「商品はたくさんありますから! 順番にお伺いします!」


私の声を聞いて、少しだけ客足が止まる。 その隙に、私は深呼吸をして、調香師としてのスイッチを入れた。


「まずは、そちらの奥様。どのようなお悩みでしょうか?」


「あ、あの……実は最近、肌のシミが気になって……」


貴族の奥様が、恥ずかしそうに頬を押さえる。


「シミですね。でしたら、こちらの『若返りのローズ(リバース・ローズ)』がおすすめです」


私はピンク色の小瓶を取り出した。


「肌細胞を活性化させて、ハリとツヤを取り戻します。ただし……副作用として、一日中笑いが止まらなくなる可能性がありますが……」


「あら、素敵! 夫との会話がなくて冷え切っていたところですの。笑って過ごせるなら、むしろ好都合ですわ!」


「えっ、そっちの解釈!?」


奥様は喜んで小瓶を購入していった。 副作用を気にしないどころか、メリットとして受け入れている。 この街の人たち、心が広すぎる。


「次は私よ! 最近、夫のいびきがうるさくて眠れないのよ!」


「いびきですか……それなら『静寂の苔(サイレンス・モス)』ですね」


私は緑色の小瓶を差し出した。


「これを寝室に置けば、周囲の音を遮断して静寂を作り出します。ただし、副作用としてご主人様が一時的に声が出なくなる恐れがありますが……」


「最高じゃない! あの人の無駄口にうんざりしていたのよ。静かになって清々するわ!」


「えええ……夫婦仲大丈夫ですか……?」


そんな感じで、次々と客の悩みを解決していく。 私の作るアロマは、どれも強力な効果を持つ反面、強烈な副作用がある。 でも、みんなそれを「面白い」「便利だ」と笑って受け入れてくれた。


「すごい……こんなに喜んでもらえるなんて……」


私は感動で胸がいっぱいになった。 勇者パーティにいた頃は、「副作用が出るのが怖い」と言って、無難なものしか作れなかった。

でも、ここでは違う。 みんなが私の「リスク」ごと愛してくれている。


「ティア、素晴らしい働きだ」


夕方になり、客足が落ち着いた頃。 ラインハルト様が店にやってきた。


「ラインハルト様!」


「これを見たまえ。今日の売上だ」


エマさんが差し出した帳簿を見て、私は目を剥いた。


「い、一、十、百……ええええっ!? 金貨がこんなに!?」


そこには、私が一生かけても稼げないような金額が記されていた。 公爵様の宣伝効果と、商品の単価(希少素材を使っているので高い)のおかげだ。


「これだけの資金があれば、さらに希少な原液を買い付けることができるな」


「は、はい! ずっと欲しかった『天空の雫(スカイ・ドロップ)』とか、『深海の涙(アビス・ティア)』とか……夢みたいです!」


「ふふっ、良かったな。これでまた新しい実験ができる」


ラインハルト様は優しく微笑んだ。 私は嬉しくて、思わずその場でお金を握りしめて小躍りしてしまった。


「わぁい! これでまた新しい香りが作れるよ! ポチ、見て見て!」


「わんっ!(ママが嬉しそうで我も嬉しい!)」


ポチも一緒になって飛び跳ねる。 店内は笑顔と幸福な空気に包まれていた。


「……君が笑っていると、私も幸せだ」


ラインハルト様がポツリと呟いた。 その瞳は、とろけるように甘く、熱い。


「へ?」


「なんでもない。さあ、今日は祝杯をあげよう。屋敷で最高のご馳走を用意させてある」


「はいっ! ありがとうございます!」


私は元気よく返事をした。 充実感と達成感。 そして、大切な人たちに囲まれている安心感。 今の私は、世界で一番幸せな調香師かもしれない。


こうして、『ティアの小瓶』の初日は大盛況のうちに幕を閉じた。 ティアの新しい人生は、順風満帆なスタートを切った――ように見えた。


しかし。 その頃、遠く離れた王都では、不穏な影が動き出していた。


「……おい、聞いたか? 辺境で魔物が異常発生しているらしいぞ」 「ああ……なんでも、『スタンピード(魔物暴走)』の予兆だとか……」


風に乗って運ばれてくる、微かな血と争いの匂い。 それは、彼女の平穏な日々を脅かす、新たな嵐の予感だった。

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