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臆病な調香師は、震える手で物理無双する。~「使えない」と勇者パーティーから追放されたのに、うっかり最強スパイスでドラゴンを挽肉にして、冷血公爵様に溺愛されました~  作者: 月影 朔
第1章:追放と覚醒、そして最強の顧客

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第15話:開店準備は、ポチが担当

こうして私は、無自覚に世界最強クラスの戦力を二つも手に入れ、新しい生活をスタートさせたのだった。


平和な日常が戻ってきてから数日後。 私は工房で、新作のアロマを前に腕組みをしていた。


「……うーん、やっぱりお金が足りないなぁ」


私が作りたい新しい調合には、希少な素材が必要だ。 でも、今の私の貯金じゃ、とても手が届かない。 ラインハルト様に頼めば、きっとポンと出してくれるだろうけど……。


「さすがにこれ以上、甘えるわけにはいかないよね」


私は首を振った。 衣食住を保証してもらっているだけで十分すぎる。 これ以上の贅沢は、自分の力でなんとかしなきゃ。


「それに、もっとみんなの役に立ちたい」


冒険者ギルドでの一件以来、私のポーションを求めてくれる人が増えた。 私の香りで誰かが救われるなら、もっとたくさんの人に届けたい。


「そうだ! お店を開こう!」


私はポンと手を打った。 自分の店を持って、そこでポーションやアロマを販売する。 そうすれば、お金も稼げるし、みんなの役にも立てる。一石二鳥だ!


「うん、そうと決まれば善は急げだね!」


私は早速、ラインハルト様に相談することにした。


 ◇◆◇


「店を? 素晴らしい考えだ」


ラインハルト様は、私の提案を二つ返事で快諾してくれた。


「君の才能を屋敷の中だけに留めておくのは惜しいと思っていた。全力で支援しよう」


「ありがとうございます! あの、まずは物件を探したいんですけど……」


「それなら心当たりがある。街の一等地に、空き店舗があったはずだ」


ラインハルト様はすぐに手配してくれた。 案内されたのは、大通りに面したお洒落なレンガ造りの建物だった。 広さも十分で、裏には調合室として使えそうな部屋もある。


「す、すごいです! こんな素敵な場所、家賃お高いんじゃ……?」


「君のためなら城でもやる。家賃など気にするな」


「へ?」


「改装費も私が持つ。好きなように使いなさい」


「い、いえいえ! さすがにそれは! ちゃんと借用書を書きますから!」


「……君は頑固だな。わかった、出世払いでいい」


ラインハルト様は苦笑しながら折れてくれた。 よかった、これで心置きなく準備ができる。


「さて、まずは内装だね」


私は腕まくりをして、掃除道具を取り出した。 長年使われていなかったのか、店内は埃まみれだ。 重い家具も運び出さなきゃいけないし、これは骨が折れそうだぞ。


「わんっ!(ママ、手伝う!)」


足元でポチが鳴いた。 黒い子犬モードのまま、尻尾をブンブン振っている。


「ありがとうポチ。でも、重い物は危ないから……」


「グルル……(任せろ)」


ポチの姿が黒い霧に包まれる。 一瞬にして、巨大な影の狼へと変貌した。


「ひぃっ!? ぽ、ポチ!?」


「グルァッ!(これくらい軽い)」


ポチは影の触手を伸ばし、巨大な棚やテーブルを軽々と持ち上げた。 まるで発泡スチロールでも運んでいるかのように、次々と外へ運び出していく。


「す、すごい……! 物理攻撃無効なのに、物理干渉はできるんだ……」


「グルルン♪(ママのためなら、世界の理も捻じ曲げる)」


ドヤ顔で鼻を鳴らす災厄級魔獣。 頼もしいけど、ご近所さんが見たら卒倒しそうだ。


「あ、ありがとうポチ! すごく助かったよ!」


私が頭を撫でると、ポチは嬉しそうに目を細め、元の可愛い子犬に戻った。 内装工事はポチ(物理)のおかげで、あっという間に終わった。


 ◇◆◇


開店準備は順調に進み、いよいよオープン前日。 私は陳列棚に、丁寧に商品を並べていた。


微風のミント(ブリーズ・ミント)』、『安らぎのラベンダー(リラックス・アロマ)』、そして自信作の『潔癖の石鹸(クリーン・ソープ)』。 どれも副作用のない、安全なものばかりだ。


(……大丈夫かな。お客さん、来てくれるかな?)


期待と不安が入り混じる。 宣伝なんて全然していないし、最初は閑古鳥が鳴くかもしれない。


その頃、ラインハルト様は貴族の会合に出席していた。


「おや、ラインハルト公爵。最近、顔色がよろしいですな」


「肌艶も素晴らしい。何か良い薬でも?」


貴族たちが興味深そうに尋ねてくる。 かつては呪いで腐りかけていたラインハルト様の肌が、今では陶器のように美しく輝いているからだ。


ラインハルト様は優雅にワイングラスを傾け、ふっと微笑んだ。


「あぁ。私の専属調香師――ティアのおかげだ」


「ティア……? 聞かない名ですな」


「彼女は天才だ。私の呪いを癒やし、この美貌を取り戻してくれた」


ラインハルト様はここぞとばかりに、ティア自慢を始めた。


「彼女のアロマは至高だ。一度嗅げば、魂が震えるほどの感動を覚えるだろう」


「ほほう……それは興味深い」


「実は明日、彼女が店を開くことになってな。……まぁ、君たちには教えないがね」


「えっ? いや、そこをなんとか!」


「公爵だけ独り占めはずるいですぞ!」


ラインハルト様の焦らしプレイにより、貴族たちの興味は最高潮に達した。 「あの冷血公爵が絶賛する調香師」「呪いすら解く奇跡の技」という噂は、瞬く間に社交界を駆け巡った。


そして翌朝。


「さぁ、いよいよオープンだ!」


私は深呼吸をして、店の扉を開けた。 誰もいない通りを想像しながら。


「いらっしゃいませー……えっ?」


目の前に広がっていたのは、黒山の人だかりだった。 貴族の馬車が列をなし、着飾った奥様方や、強そうな騎士たちが、長蛇の列を作っている。


「「「開店おめでとうございます!!」」」


「ひぃぃぃぃぃ!?」


怒涛の歓声に、私は思わず後ずさった。 な、なにごと!? なんでこんなに行列ができてるの!?


「あ、あの……うちは怪しい店じゃなくて……!」


「いいから売ってください!」 「公爵様が愛用しているアロマはどれですか!」 「私のシミも消えますか!?」


客たちが雪崩のように押し寄せてくる。 私はパニックになりながら、カウンターの奥へと逃げ込んだ。


「ポ、ポチぃぃぃ! 助けてぇぇぇ!」


「わんっ!(商売繁盛だなママ!)」


ポチは呑気に尻尾を振っている。 私の平穏な(?)店舗経営は、波乱の幕開けとなったのだった。

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