1話
◆守りたい
「うわぁ!秘密ソルジャースカイ、かーっこいい!!」
何の変哲もない住宅の居間でテレビを観ながら、男児が興奮していた。両親もそれを優しく見守る。
やがて、番組が終わると、その男児は父親にこう言われた。
「勇?テレビ観たから宿題してきなよ?」
「うん!やってくる!!」
この男児、勇は、自室に行き「秘密ソルジャーシリーズ」のグッズに囲まれながら宿題をした。それが終わると、まだ日が高かった事から遊びに出る事にした。
「ねぇ!母さん!公園に遊びに行ってくる!!」
「いってらっしゃい。遅くならないように、帰ってきなさいよ」
「うん!いってきます!!」
その後、たどり着いた「いつもの公園」にて、勇は砂場に目が行った。
「何やってるんだい!!」
同い年と思われる男児2人がいたが、片方の男児がもう一方の男児に殴る蹴るの暴行を加えられていた。勇は、それに割って入り、その最中公園にこんな叫びを響かせた。
「僕は!何かを守れるヒーローになるんだぁーっ!!」
◆成長
それから、何年経ったか。そんな年の4月。ここは、とある高校の2年3組の生徒が学ぶ教室。生徒たちは、新学期を迎えていた。担任の男性教諭が、出席をとっていた。
「安藤勇!」
短髪の髪を分けた髪型の勇が元気に返事する。
「はい!」
担任は次々に生徒の名前を呼ぶ。
「彼島晴!」
肩まで襟足が伸びている髪を持つ男子、晴は大きく返事する。
「はい!」
なおも名前を呼び続ける担任。
「志倉涼!」
男子ながら、おかっぱ頭の涼がはっきりした声で返事する。
「はい!」
更に続々と名前を呼んでいく担任。
「芽室愛!」
ベリーショートヘアながら、女の子らしい愛が通る声で返事する。
「はい!」
その後も担任は36人いる受け持ちの生徒の出席を取り続け、その日の日程を始めた。
やがて、そんな1日は終わりを告げる。勇は、カバンに学習道具を次々に入れていくが、ふと、その手を止める。勇の手には下敷。その下敷を見て、勇はニンマリ。そんな様子を涼は見て、話しかける。
「勇?嬉しそうだね?」
「涼!これ!発売日に買ったんだ!!」
その話に、晴が加わってくる。
「そんなの見てねぇで、早く帰ったらどうだよ?」
「そんなー、意地悪言わないでよー、晴。あの公園で涼をいじめてた時の癖、出ちゃってるよ?ほら!かっこいいでしょ?今度の『秘密ソルジャージュエル』!!」
通りがかった愛が笑いながらこう言い、先に教室を出て行った。
「昔から、勇くんは変わらないね?うん、かっこいいよ」
「ありがとう!!」
◆放課後の道端
結局その後、勇、涼、晴は、3人で下校して行く。勇は言った。
「今日の晴は、いじわるモードだから、僕が真ん中で歩く!」
涼は微笑みながらこう言った。
「勇、ありがとう。けど、大丈夫だよ。もう何年も前の話だし、あの時、勇が僕と晴を『仲直り』させてくれたから、本当に何年も晴とは『喧嘩』してないよ」
勇は晴をまじまじと見て言った。
「本当に?」
晴は眉間に皺を寄せて言った。
「何年も何年も俺の事疑ってんじゃねぇよ!あん時約束した事、一度も破ってねぇのに」
勇は、こう返した。
「なら!よかった!!でも、『監視役』っていう友達関係は続けるからね?」
涼は少し困った顔をして言った。
「そこまで疑わなくても」
晴は言った。
「ま、いいぜ?俺はそれで」
◆異変
晴のその言葉は、夕陽に照らされたいつもの通学路に静かに響く。行き交う人々。それもいつもの風景ではあったが、しばらくした後、進行方向の向こうから明らかに不穏な騒ぎ声が聞こえる。勇は、こう言った。
「気のせい?騒がしくない?駅の方向」
涼と晴は、どちらもその進行方向をまっすぐ見つめ、動かない。勇の問いにも答えなかった。その表情は、固い物であった。そして、人々が勇たちの方向に「逃げて」来る。勇は戸惑う。
「え?何?」
そう言った勇の目に、見たことのない風景が。頭に4本の細いアンテナのような物を生やした目の無い男女が何人もいた。それらは、人々を追い立て、道端の自転車や街路樹など周辺の物を小規模ながら破壊していく。また、口から禍々しい粘液を吐き出し、周囲を汚していった。
更に、その後方に紫のオーラをまとった男1人と橙色のオーラをまとった女1人が佇んでいた。勇は震える声で言った。
「何?何?何あれっ?」
オーラをまとった男女は、太く長い角が頭に生えていた。そして、よく見ると、先の尖った尻尾も見えた。どちらも胸元まで伸ばした髪をなびかせ、冷たい目でその惨状を見ていた。紫の男は2本、橙色の女は1本の角を揺らしながら、少しずつ前進し始める。
勇は言った。
「ど、どうしようっ?」
◆初めての変身
その時だった。強い光が辺りを包む。勇は思わず目を瞑った。しかし、すぐに再び目を開ける。すると、目の前に、茶色の犬を連れた神聖なる若い女性が立っていた。
冠のような帽子を被っていて、肩まで伸びた髪が外にはねている髪型の神聖な女性は、右手の人差し指を勇たちの方向に向けた。それに応えるように、犬が遠吠えを響かせた。その音波は見ることができ、その音波は、無色透明の丸い3つの石となった。その石は、犬の周りに浮遊。犬は、長い耳と尻尾を残した短髪の若い男性になり、その石をその手に収めた。人型の犬は、勇たちに近づき、こう言いつつ、ひとつずつ石を渡していく。
「吾輩は、聖犬チャールズ。これは、セイブ・ストーン」
そして、チャールズは人型のまま、再び遠吠えを響かせた。その音波は、赤、白、黄色の光となり、勇たちを包む。
勇は、驚きの声を上げる。
「えっ?」
赤い光は、勇を変身させた。赤いコスチュームに、黄色いベルトと手袋と靴。短い髪は緩やかに波打ち、襟足がわずかに伸びる。最後に茶色のマントが勇を包んだ。そして、背中に機械じかけの翼の幻影が一瞬現れた。
白い光は、涼を変身させた。白いコスチュームに、赤いベルトと手袋と靴。おかっぱだった髪はどこまでもまっすぐに腰まで伸びる。最後に白のマントが涼を包んだ。そして、背後に水の幻影が一瞬現れた。
黄色い光は、晴を変身させた。山吹色のコスチュームに、白のベルト。そして、檸檬色の手袋と靴。長い襟足は、前髪を残し全て逆立つ。最後に檸檬色のマントが晴を包んだ。そして、背後に炎の幻影が一瞬現れた。
一連の変身が終わると、神聖な女性が勇に言った。
「わたくしは、シールドゴッデス。あなたは、ウイング。地球の守護者となりました。アースセイバーウイング、守りなさい、地球を」
シールドゴッデスは空色の衣服を翻しながら、犬型に戻ったチャールズと共に消えて行った。
◆初めての戦闘
ウイングに変身した勇は、戸惑いの声を上げた。
「えっ、『アースセイバーウイング』?」
しかし、その身に溢れる力の気配に、こう言った。
「なんだか、やれそうな気がするっ!」
ウイングは、走り出した。そして、人々を襲う目の無い男女の元に行く。すると、拳に漲る力を感じる。そして叫んだ。
「やぁめぇろぉっ!!」
ウイングの拳は、目の無い男女を次々に殴打していく。その内に、人々を守りたいという気持ちがウイングの心に溢れる。すると、背中に機械じかけの翼が現れる。その翼の羽根が散らばっていく。それは、ひとつひとつが盾になり、人々と目の無い男女の間に割って入る。ウイングはそれを認めると、声を張り上げた。
「逃げてぇ!!」
ウイングの羽根の盾は、人々を追いかけ、守り続ける。やがて、目の無い男女は、人々への追跡を止め、ウイングに群がり始める。ウイングは、悲鳴をあげた。
「うわあぁっ!!」
その様子に、アースセイバーウォーターに変身した涼が駆け寄って来る。
「ウイング!」
遅れて、アースセイバーファイアに変身した晴も加わる。
「ウイング!」
そして、ウォーターは、水にて目の無い男女の悪しき力を洗い流す。ファイアは、炎にて目の無い男女を焼き尽くした。目の無い男女が全滅し、解放されたウイングは、一息つき、言った。
「2人とも、ありがとう!」
ウォーターとファイアは力強く頷いた。そんな3人に、紫のオーラの男と、橙色のオーラの女が歩み寄って来る。そして、橙色のオーラの女が言った。
「『カラミティ』が、全滅か」
ウイングは、言った。
「あの目の無い気持ち悪いの、『カラミティ』っていうの?それより何より、君たちは誰っ?そして、何でこんな事をするのっ?」
その問いに橙色のオーラの女が答えた。
「私は、プラネットクラッシャーアースオレンジ。私たちは、この地球を破壊しに来たのよ」
ウイングは、震える声で言った。
「は、破壊っ?」
その声に紫のオーラの男は笑った。そして、こう言った。
「そうだ。この星を亡き者にする。覚えておけ?地球の守護者。俺様が、この、プラネットクラッシャーアースバイオレットがそれをやり遂げる」
バイオレットは、ウイングを指差して続けた。
「まぁ、『地球の守護者』が弱そうな男でよかったぞ?」
ウイングは少し怯えた声で言った。
「う。そうかもしれないけど、変身したの僕だけじゃないっ。涼と晴と僕の3人で地球を守るっ!」
バイオレットは、動きを止めた。そして、こう言った。
「何だ?『そんな話』は、『初めて』聞くな?まぁ、いい。付き合ってやろう。どうせ、俺様たちに滅ぼされる運命なんだからな!」
そして、バイオレットとオレンジは、声を揃え言った。「カラミティ!」と。すると、再び目の無い男女がわらわら出てくる。ウイングが叫ぶ。
「さっき、2人が消してくれたのにっ!!」
そんな声にお構い無しで、カラミティたちは、ウォーターとファイアを取り囲む。そして、悪しき力を浴びせかけた。すると、ウォーターとファイアは倒れてしまった。ウイングは叫んだ。
「涼!晴!」
オレンジが笑って言った。
「やっぱり、ウォーターとファイアは、『そういう作戦』を取るのね?」
ウイングはわめくように言った。
「わけわかんないよ!」
バイオレットが言う。
「わからないままのお前でいい。わからないまま終われ」
「そんな、嫌だよ!!」
なおもカラミティは倒れているウォーターとファイアを攻撃し続ける。それを見たウイングはこう声を張り上げ、強い意志のこもったその拳にてカラミティを倒していった。
「卑怯だよっ!!」
全てカラミティはウイングに倒された。バイオレットは言った。
「ふっ、今日はこの辺にしておいてやる」
そして、バイオレットとオレンジは、短髪のスーツ姿の男女に姿を変え、その場を去っていった。