11話
◆悩み
それから、再び勇はいつもの生活を続ける。そんな中、観たテレビのニュース。最近、犯罪が勇の街に確実に増えていると。原因は、破壊された警察署。仮設の警察署は出来た。死亡した警察官の補充の為、全国から応援が来ているものの、未だに破壊前の機能まで復帰していないとの事。一連のニュースを見終わり、勇は夜の自由時間を部屋で過ごす。「秘密ソルジャージュエル」の録画を見直しながら、呟く。
「警察署が破壊されたのは、バイオレットとオレンジのせいだけど、そのバイオレットとオレンジにも事情があるみたい。どうすればいいんだ」
頭を抱えながら、流れる録画をひたすら見続ける。
「ジュエル、かっこいいよ」
その手に、セイブ・ストーンを取る。
「僕は、守るだけでいいの?セイブ・ストーン」
セイブ・ストーンは、光りもせず、静かに勇の右手に佇んだ。録画では、悲鳴を上げる一般市民の姿。
「いや、守るのが先だよね」
しばらく観ていると、秘密ソルジャージュエルが派手な攻撃を敵に浴びせかけていた。
「わー、いいよね。それに引き換え、僕の力」
勇の頭の中には、涼のウォーターが放つ「セイブ・ウォーター・ソード・レイン」と、晴のファイアが放つ「セイブ・ファイア・クロス・エクスプロージョン」の光景。
「ああいうの、出来ないんだよね。何で、僕だけ?」
鏡をヒントに、「セイブ・ウイング・ミラー・シールド」を編み出したものの、それは、敵の攻撃ありきの攻撃技。自分はひたすらパンチしか出来ず、羽根の盾を守護のために展開するだけ。
「僕もちゃんとした攻撃が出来たら、もっと守れるのに」
再び右手のセイブ・ストーンを見つめ、勇は言った。
「今度、涼か晴のセイブ・ストーンと僕のセイブ・ストーン、交換してもらおうかな?んー、でも、それじゃ、涼か晴が僕みたいになって、戦力変わんないよ。あー、どうしよう」
セイブ・ストーンを握りしめ、勇は言った。
「僕に、何で攻撃の力がないの?何で、僕は、防御役なの?」
ちょうどそこで録画の「秘密ソルジャージュエル」は1話分が終わった。
「寝よ」
勇は、悩みの中の就寝に入った。
翌日の休日。勇は、1人公園に行った。その手には、セイブ・ストーン。
「解き放て!守りの力!!」
しかし、勇は勇のままだった。
「え?セイブ・ストーン、壊れた?昨日握りしめちゃったから?」
もう一度、変身したいと心の中で叫び言った。
「解き放て!守りの力!!」
しかし、結果は同じだった。
「もう!新しい攻撃技、変身して考えたかったのに!!」
仕方なく帰宅する勇。それ以降、普通の休日を過ごす。
◆吐露
そんな休日も終わり、勇は登校。涼と晴がいた。その2人の姿を見た勇は、一瞬だけ苛つく。それに戸惑う勇は、心の中で言った。「え?何この気持ち」と。
そそくさと自分の席に着く勇。胸をさする。親友に抱いてしまった苛立ちを消そうと。
一方、涼と晴は、挨拶がなかった勇に怪訝な顔をした。その瞬間、始業のチャイムが鳴った。
結局、その日の勇と涼、晴の会話はなく、放課後となってしまった。そんな様子に愛が疑問を抱き、言った。
「ねえ!勇くん、涼くん、晴くん、話しようよ!!」
愛は、校庭に3人を連れ、単刀直入に言った。
「今日の3人、なんか変。喧嘩した?」
晴が言った。
「そんなわけねぇだろ」
涼も言った。
「何もないよ?」
勇は、押し黙ったままだった。愛はそんな勇の顔を覗き込み言った。
「どうしたの?勇くん?」
「愛ちゃん、ごめん。涼、晴、ごめん」
一様に首を傾げる涼、晴、愛。その様子に、勇は言った。
「あの、僕のウイングさ、攻撃の必殺技ないじゃん?僕、そういう意味では、弱いなって思って」
勇は下を向く。
「それに引き換え、涼のウォーターと晴のファイアはさ、凄いよね?今朝、羨ましいって言うか、嫉妬って言うか、涼と晴見た瞬間、イラッとしちゃったんだ。どうしていいかわかんなくて、今まで口聞かなかったんだ。ごめん。みんな」
涼と晴は複雑な顔をした。愛は言った。
「そんな。私が『目』になった時に、勇くん、盾をくれて本当に心強かったんだよ?勇くん、目が見えないのに、不安だったでしょ?そんな時に、私を守ってくれたじゃん。そんな勇くんの戦い方、私好きなんだよ?」
「ありがとう、愛ちゃん」
晴が言った。
「お前、忘れてねぇか?俺たちは、攻撃に弱いんだぜ?」
涼が続く。
「僕たちに、時々勇は盾をくれる。あれがなければ、僕たちは戦えない。そう言った意味では、僕たちも弱いんだよ?」
勇は、はっとした。そんな勇に愛が言った。
「弱点カバーしながら、戦ってるんじゃん!いいチームだよ!アースセイバーは!!」
勇の表情から固さが取り払われた。
「そうだった。そうだね。僕たちで、アースセイバーだ!うん!忘れるよ!この事は!!」
涼、晴、愛は微笑んだ。
◆続く戦い
それから、何日が過ぎたか。勇は、自宅にて父親の読みかけの新聞を目にした。そこの雑誌宣伝の見出しに、「さすらいの占い師・洞口芯謎の失踪!!」と書いてあった。
「芯さん?いなくなっちゃった?って言うか、芯さん、有名人だったんだ」
そんな呟きの数十分後に、勇は登校して行った。通学路の途中で再び呟く。
「放課後、芯さんの家に行ってみようかな?」
そんな勇の背後に、帽子を目深に被り顔をサングラスとマスクで隠した人影があった。
通常の授業を受け、勇は放課後を迎える。涼と晴が共に下校しようと誘って来た。それに勇は答えた。
「寄り道付きだけど、いい?」
晴は短く言った。
「あ?」
涼は言った。
「え?どこに行くの?」
「あの、芯さん失踪したんだって。家にいるかな?って思って」
涼と晴は、付き合うと言ってくれた。
芯の自宅アパートに行くための通学路とは違う道を涼と晴の間に陣取り歩く勇。そんな勇に晴は言った。
「まぁ、俺は、芯って奴に会った事ねぇから、思い入れねぇけどな」
「晴、そんな、芯さんって人は勇の大事な人になったんだから」
涼はそう言ってくれた。
「涼、ありがとう。晴、そうだよね?ごめん」
そんな言葉を返した勇の視線の先に、充が。勇は、言った。
「芯さんじゃない人が、いる」
そう言い終わった後、彩の姿も見る。その光景を見た涼は言った。
「刺激しないのも、1つの手だと思うけど、どうする?」
晴は言った。
「確かにな。奴ら、破壊行為してねぇから」
勇は、返した。
「うん、そうしよう」
しかし、充と彩は勇、涼、晴の姿に気づいてしまった。そして、プラネットクラッシャーになり、近づいて来る。晴がため息をつく。
「まぁ、奴らも俺たちの気配、感じねぇわけねぇよな」
涼のため息も響く。
「僕たちの存在そのものが『刺激』なんだ。困った話だね」
勇は、言った。
「バイオレットとオレンジが何かやる前に、倒さなきゃ!」
そして、3人の揃った声が。
「解き放て!守りの力!!」
名乗りの声が、夕焼けに届く。
「はためく翼は強き盾!アースセイバーウイング!!」
「流るる水は大いなる癒し。アースセイバーウォーター」
「荒ぶる炎は確かな希望!アースセイバーファイア!!」
そして、この揃った声で3人は気合いを入れた。
「レッツ!セイブ!!」
一方、プラネットクラッシャーも揃った声をアースセイバーにぶつけた。
「カラミティ!!」
それに対して、ウイングのパンチ、ウォーターの水の洗い流し、ファイアの炎の焼き尽くしが発動する。
しばらく小競り合いが続くアースセイバーとプラネットクラッシャーの戦い。そんな中、ウイングは言った。
「ブルーがいない?」
その声が聴こえたオレンジは答えてくれた。
「あんたらが倒してくれちゃったから、あの子が帰りたくない星に帰すしかなかったのよ?どうしてくれるのよ!!」
ウイングは反射的にこう返してしまった。
「ご、ごめんなさい!」
ファイアはそれに即座に指摘した。
「謝んな!そんな事で!!」
ウォーターも続く。
「その方が都合がいいよ」
ウイングは言った。
「そ、そうだね。無かった事にして?」
ウォーターとファイアは頷き、カラミティ討伐に力を注いだ。そんな中で、オレンジは言った。
「カラミティごと、倒しちゃいましょうね?ふざけたアースセイバーたちは」
バイオレットもそれに乗ってきた。
「いいな、それ。カラミティ!そいつら抑えろ!!」
カラミティは、アースセイバー3人を群がるようにして拘束。それを認めると、バイオレットとオレンジは声を揃えた。
「ターゲット・デモリッション!」
ウォーターは言った。
「その手には、乗らないよ!セイブ・ウォーター・ソード・レイン!」
ファイアは言った。
「させるかよ!セイブ・ファイア・クロス・エクスプロージョン!」
降り注ぐ水をまとった剣と十字の炎の爆発にてカラミティは一掃。飛び出したウイングが叫ぶ。
「セイブ・ウイング・ミラー・シールド!!」
鏡のターゲット・デモリッションの吸収と反射にて、バイオレットとオレンジは倒された。
脅威が去った事で、変身が解けた。勇は言った。
「あ、そう言えば、変身出来た。前、何もない時に変身しようとしたら、出来なかったのに。これって、バイオレットとオレンジがいる時にしか変身させてくれないんだね」
それから、勇たちは芯の自宅アパートに行ったが、表札がなく、芯が引っ越しした事を知らせた。勇は言った。
「本当に、失踪しちゃったんだ」