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10話

◆探している

 それからというものの、勇は「戦える」という事以外は普段通りの生活を取り戻す。自宅で起床し、学校の日は元気に登校し、きちんと早い時間に帰宅した後、眠りに就く。休みの日は、涼や晴たちと会い、遊んだりした。


 そんな生活をしていたある休日。勇は1人の散歩中こう声を上げた。


「愛ちゃん?」


 その声に「愛」は首を傾げた。しかし、勇に近寄ってくる。「愛」が近寄るにつれ、勇はとあるミスに気づき、呟いた。


「ヤバ、人違いだった」


 その呟きは、「愛」には届かなかった。勇も「愛」に歩み寄り、こう言った。


「ごめん、人違いだった」

 愛より少し年上の雰囲気を醸し出す女性は、柔らかく首を振り、こう返した。


「ううん、気にしないよ」

「えっと、クラスメイトに似てたから、ごめん。あの、僕、安藤勇」

「私、私は、小木環。よろしくね」


 よく見ると、環はかなしげな目をしていた。


「えっと、その、初めて会ったばっかりなのにこんな事訊くのはどうかと思うけど、何かあった?なんだかかなしそう」

「わかっちゃった?私、長い間、お姉ちゃんを探してるの。でも、なんだか急に見つかるような気がしてきた。ありがとう、勇くん」

「そんな!そんな事が!!」


 勇は、最近家族と離れた事を思い出し、こう申し出た。


「ねえ、僕、お姉ちゃん探し、手伝うよ!」

「本当に?」

「うん!僕、出来るかわからないけど」

「ううん、見つからなくても、その気持ち、嬉しいよ!!」


 そして、勇は散歩の目的を、環の姉探しに切り替えた。環と街を歩く勇。そんな勇の隣で、環は笑いながら言った。


「勇くんと歩いてるだけで、お姉ちゃんと会える気がする!」

「そうかな?」


 穏やかにやり取りするが、しばらくすると環は急に座り込んだ。勇は慌てる。


「ど!どうしたのっ?大丈夫?」

「う、うん。ちょっと疲れちゃった。やっぱり、今日は無理みたい。私、長く外にいられないの。だから、お姉ちゃん見つからないの」


 さっきまでの笑顔が環の顔から消え、涙の気配が。勇は、言った。


「そうなんだ。お家帰る?送って行くよ?」

「だ、大丈夫。少し休んだら、家に帰るから、ここでお別れしよう?ありがとう、ここまで付き合ってくれて」

「そ、そう?あ、あの、もし大丈夫なら、また会おう?そして、お姉ちゃん探し、またやろう?えっと、ここで待ち合わせしてさ!」

「うん!そうする!!」


 そして、勇は、後ろ髪を引かれながら環の元から去った。


◆姉

 翌日、登校した勇は、気もそぞろだった。そんな勇の様子に気づいた愛は、話しかける。


「勇くん?今日、なんか変だよ?」

「えっ!」


 勇は、昨日環を愛と間違ったミスを思い出し、挙動不審になる。愛は、眉間に皺を寄せ、言った。


「隠し事は、嫌だよ?」

「えっ、えっとね、その、昨日、女の人に会ったんだ」


 と勇は切り出し、昨日あった事を説明した。すると、愛の表情は変わる。


「その環さんの気持ち、よくわかる。私のお姉ちゃんも、よくいなくなっちゃうから」

「累さん、そうだよね」

「だから、私も環さんの力になろうかな?今度の『お姉ちゃん探し』、私も行っていい?」

「うん!愛ちゃんなら百人力だよ!!」


 そして、数日後の放課後、環との待ち合わせ場所まで勇と愛は行った。すると、環が姿を現す。


「環さん!」

「勇くん。えと、隣の子は?」

「うんと、愛ちゃん」

「はじめまして。私、芽室愛です」


 環は言った。


「本当だね?私に似てる子だ」


 勇は、恥ずかしさから目を泳がせた。そんな勇の傍らで、愛は言った。


「私のお姉ちゃんも、よくいなくなるの。だから、勇くんから話を聞いたら力を貸したくなって」

「ありがとう、愛ちゃん」


 環はそう返した。愛は尋ねる。


「環さんのお姉ちゃんってどんなお姉ちゃんなんですか?」

「私のお姉ちゃんは、強いの。その強さ、私大好きで」

「そうなんですか。私のお姉ちゃんは、私と血がつながってないから、ちょっと距離があって。仲良くないんですけど、やっぱり家族だから放っておけないんです」

「私はお姉ちゃんと血はつながってる。複雑だね」


 そんなやり取りをしていると、視線の向こうに涼と晴が。何故か厳しい顔をしていた。勇は首を傾げた。その勇の様子を見て、涼と晴は表情をいつものように変えた。そんな涼と晴に勇は駆け寄り、尋ねる。


「涼!晴!どうしたの?」


 涼は少々素っ気なく答えた。


「どうしたのって、僕たちも下校中だよ?」

「あ、そうだね?でも、なんかあった?2人、さっき怒ってたような顔してたけど?」


 晴は苦しげな顔をして答えた。


「勇が女の子2人と並んでたから『ふざけんな』って思ってた」

「えっ?えー、あー、確かにそうだね?」


 勇は頭をかいた。そして、笑った。


 しかし、その笑顔は、すぐにかき消される。充と彩の姿を見たからだ。勇は言った。


「まずい!体が弱い環さんがいるのに、こんな時にプラネットクラッシャー!!」


 そんな勇の声を、彩は驚いた表情を浮かべ、聞いていた。そんな彩の元に駆け寄る女性の姿が。環だ。その環は、嬉しそうに言った。


「お姉ちゃん!やっと!やっと会えた!!」

「えっ」


 勇の戸惑いの声が響いた。


◆涙の攻撃

「あなた!何で?」


 彩も戸惑いの声を響かせる。それに環は答えた


「だって、お姉ちゃんに会いたくて、会いたくて!」

「もう!他の星に長くいられないんだから、帰りなさい!」

「嫌よ!あんな、暴力しか知らない星に帰るのなんて!!」

「困った子ね?まあ、いいわ。ついでに地球の破壊、手伝いなさい?」

「うん!」


 すると、そのやり取りを黙って聞いていた充を含めて、彩と環は禍々しい雲に包まれる。そして、いつものバイオレットとオレンジが姿を現す。


「プラネットクラッシャーアースバイオレット」

「プラネットクラッシャーアースオレンジ」


 その傍らに、髪が波打ち、鎖骨辺りまで伸びた環が。その頭頂部には赤いリボンをつけた中くらいの1つのコブ。尖った尻尾を持ち、青いオーラをまとう。


「んふっ。こう名乗っちゃお!プラネットクラッシャーアースブルー!!」


 勇は、動揺した。


「た、環さん」


 そんな勇に涼は言った。


「とにかく、変身だよ!勇!!」

「えっ。う、うん!」


 セイブ・ストーンを構えた勇、涼、晴。勇の手は震えていた。しかし、この声は揃った。


「解き放て!守りの力!!」


 そして、3人も名乗る。


「はためく翼は強き盾!アースセイバーウイング!!」

「流るる水は大いなる癒し。アースセイバーウォーター」

「荒ぶる炎は確かな希望!アースセイバーファイア!!」


 動揺するウイングを鼓舞するような声が響いた。


「レッツ!セイブ!!」


 それを見届けたバイオレットが笑いながら言った。


「今日は、カラミティは必要ねぇな。まさか、『ブルー』が来るとは。『ターゲット・デモリッション』が出来ねぇ代わりの、『ミッドナイト・ティアーズ』をお見舞いしてやれ!!ブルー!!」

「うん!」


 ウイング、ウォーター、ファイアが警戒する中、ブルーは泣き始めた。


「お姉ちゃんと、会えて、とっても嬉しい。手伝ってくれてありがとう。アースセイバー?でも、すぐにお姉ちゃんとお別れしなきゃ。何で、こんな体で産まれちゃったんだろ。嫌だなぁ、星を破壊しなきゃ、殴られる、蹴られる、慰み者にされる。いっぱい、いっぱい、嫌な事される。ジャイアント・キング・デストロイ様に。もう、名前を奪われる星に、帰りたくないよー!!うわあああん!!」


 ブルーの涙は、落ちる事なく空中に舞い上がる。それは、ふわふわとアースセイバーの元へ。そして、ウイング、ウォーター、ファイアの目に。3人は、目のしみる感覚に一斉にまぶたをきつく閉じる。しかし、戦わねばとまぶたを開けた瞬間、3人の動揺の声が上がった。「目が見えない」と。ウイングは言った。


「どうしようっ?バイオレットもオレンジも見えない!攻撃、出来ないっ!!」


 ウォーターも言った。


「こんな状態で、戦えないよ」


 ファイアも言う。


「ヤバい!ヤバいぜ!!」


 そんな光景にブルーは、舌をちょろっと出して、アースセイバー3人を嘲り笑う。


「うーん!いいストレス解消になった!!ありがとう!アースセイバー!!」


 オレンジは言った。


「まったく、全部本当の事だけど、『その事』を叫ぶ事でしか『ミッドナイト・ティアーズ』を出来ないの、どうにかしなさいよ」

「頑張るね?お姉ちゃん。ねぇ、ねぇ、お姉ちゃん、私が『ミッドナイト・ティアーズ』見せたんだから、お姉ちゃんとバイオレットの『ターゲット・デモリッション』も見せてよ!」


 それを受け、オレンジはバイオレットを見つつ言った。


「わかったわ」


 そのやり取りを物陰で見ていた愛は、ふつふつと沸き上がる感情を小声で言った。


「あの人っ、勇が親切にしてあげたのに、許せない!」


 そして、愛は意を決して物陰から「戦場」近くに行った。


「勇くん!涼くん!晴くん!敵は、まっすぐ行った所にいるよ!!みんなが『見えない』んだったら、私がみんなの『目』になる!!」


 程近くに聞こえる愛の声に驚いた声を上げるウイング。


「愛ちゃん!危ない!!」

「いいの!私も、『こういう形』で戦わせて!今日は、今日だけはこうさせて!!」

「わかったよ!」


 ウイングは心の中で、「何が愛ちゃんにあったんだろう?」と言いながら、自らの翼から羽根の盾を愛に与えた。


「愛ちゃん!使って!!」

「ありがとう!!」


 バイオレットは、その様子を見て言った。


「人間を使うとはなぁ!その人間の女から、潰してやる!!」


 ウイングは叫んだ。


「やぁめぇろぉ!!僕の盾!愛ちゃんを守ってぇ!!愛ちゃん!バイオレットは今どこっ?」

「右斜めにいるっ!!」

「わかったよ!!」


 ウイングは飛び上がり、バイオレットの近くに辿り着く。そして、感じた。邪悪な気配を。それに向かってパンチを繰り出した。それは、見事にバイオレットに当たる。バイオレットは怒鳴った。


「くそったれ!!」


 ウォーターとファイアは、その音を頼りにウイングの加勢に行く事に。ウォーターは言った。


「ウイングとバイオレットは、右横だね?」


 愛は言った。


「うん!」


 ファイアは言った。


「行くぜ!!」


 しかし、愛の悲鳴のような声が響く。


「駄目!オレンジが!!」

「ふふっ。あんたらは、私が潰すわ」


 そのオレンジの言葉を受け、ブルーは言った。


「2人相手にするなんて、やっぱり、お姉ちゃんつよーい!大好きっ!!」


 ファイアは舌打ちをし、怒鳴った。


「潰されてたまるかよ!こっちが潰してやる!!」


 ウォーターも言った。


「早いところ、決着をつけよう!」


 ウォーターとファイアも近くの邪悪な気配を感じ、水の洗い流しと炎の焼き尽くしを繰り出す。オレンジは、言う。


「あー、嫌ねー」


 一方、ウイングとバイオレットは殴り合いを続ける。バイオレットは言った。


「払っても払っても集る虫のようだな!アースセイバーウイング!!」

「僕は!悪が!消えるまで戦うっ!!」


 アースセイバー3人は、暗闇の中、邪悪な気配に攻撃を続ける。そんな中、ウイングの目に光が差し込んで来る。


「あ、あれ?見える?光だけだけど」


 バイオレットは驚く。


「何だって?『ミッドナイト・ティアーズ』を破りつつある、だと?」


 ブルーも言った。


「嘘」


 オレンジも続く。


「何ですって?」


 愛は言った。


「頑張って!勇くん!!」

「うん!頑張るよ!愛ちゃん!!」


 オレンジが声を上げる。


「仕方ないわ!やるわよ!バイオレット!!」

「くそ!!」


 そして、バイオレットとオレンジは同時に言った。


「ターゲット・デモリッション!」


 ウイングは、わずかに見える紫と橙色の気配に向かって叫んだ。


「セイブ・ウイング・ミラー・シールド!!」


 ウイングの翼は、全ての攻撃を吸収。ブルーは、初めて見る光景に震えた。そして、言った。


「嘘!嘘!嘘!『ターゲット・デモリッション』が!!」


 それを見て、愛は叫んだ。


「勇くんの翼から、攻撃が!」


 それを聞いたウォーターとファイアは同時に言った。


「セイブ・ウォーター・ソード・レイン!」

「セイブ・ファイア・クロス・エクスプロージョン!」


 アースセイバー3人の総攻撃は、プラネットクラッシャー3人を一瞬にして倒した。脅威は去り、変身が解ける。それと同時に勇、涼、晴の目は元通りの視力を取り戻す。勇は、真っ先に言った。


「危ない中、愛ちゃん、僕たちの『目』になってくれて、ありがとう!」


 涼は言った。


「ありがとう、助かったよ」


 晴も言った。


「あれがなければ、倒されてたかもな。ありがとよ!」


 愛は、笑顔で答えた。


「みんなの力になれてよかった!」


 そのやり取りの横から、勇は倒れているバイオレット、オレンジ、ブルーの元に歩み寄る。涼、晴、愛は首を傾げる。そして、愛が駆け寄り尋ねた。


「どうしたの?」

「あ、いや、あの、僕が家出してた時によくしてくれた人、芯さんっていうんだけど、『倒した後、放っておいていいの?』って言ってたから、何が出来るかって考えちゃって」


 愛は少し眉間に皺を寄せ言った。


「今日だけは、放っておいて?お願いだから。だって、勇くんが親切にしてあげたのに、環って人、酷いよ」

「ああ!だから今日は協力してくれたんだね?うん、わかった!そうするよ!」


 そして、勇は、涼、晴、愛と帰宅する事に。心の中でこんな事を言いながら。「プラネットクラッシャーの星って、酷い星なの?ブルーが言ってた事、本当なの?」と。


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