9話
◆早朝の
翌日、学校に登校するためには、早い時間に家に帰らねばならない。まだ暗いうちに勇は芯に起こされた。
「おはよう、勇くん」
「おはよう、芯さん」
そして、勇は用意してくれた朝食を済ますと、芯に付き添われ、芯の部屋から出た。日の出を迎えたばかりの朝日が2人の顔を照らした。勇は一言。
「まぶしいなぁ」
「そうだね」
しかし、まぶしさに細めた勇の目に、カラミティの姿が映る。
「えっ」
芯は、怪訝そうに勇の顔を覗く。そして、尋ねる。
「どうしたの?」
「あっ、ぼ、僕の敵っ」
勇は右手でカラミティを差した。芯はその先を見た。早い朝の静寂が、カラミティの発する波動にて、消し去った。人はまばらだったが、その人々は悲鳴を上げながら逃げ惑う。初めて見る事態に芯は驚く。そんな芯に勇は言った。
「ここで、お別れした方がいい!僕、頑張って家に1人で帰るから!今までありがとう!逃げて!芯さん!!」
そして、勇は1人でもカラミティと戦おうと叫ぶ。
「解き放て!守りの力!!」
いつものように変身する勇。
「はためく翼は強き盾!アースセイバーウイング!!」
孤独の戦いと思われたが、追うようにこんなが声が響き渡る。
「流るる水は大いなる癒し。アースセイバーウォーター」
「荒ぶる炎は確かな希望!アースセイバーファイア!!」
ウイングは驚く声を上げた。
「ウォーターっ?ファイアっ?」
降って湧いたような2人に驚きを止められなかったが、ウイングはウォーターとファイアと共に言った。
「レッツ!セイブ!!」
その様子を、芯は遠目で驚き、見た。
「本当に、戦うんだね。勇くん」
そう言われたウイングは、言った。
「バイオレットは!オレンジは!どこなのっ?」
ファイアが言った。
「俺が探す!2人は、カラミティを!!」
ウォーターが言った。
「お願いするよ!」
ウイングが言った、
「わかった!よろしく!!」
ファイアは、それを聞き届けると、飛んで行った。ウォーターは、珍しくパンチを繰り出し、カラミティを攻撃し始めた。ウイングも負けずにパンチをカラミティに見舞う。ウイングは小声で言った。
「ウォーターのパンチ、僕のより上手い?」
ウイングは、ウォーターのパンチを見よう見まねで再現してみる。すると、少ない力でカラミティを倒す事が可能となった。
「珍しいよね?ウォーターがパンチなんて!真似させてもらったよ!!」
「そう!いいよ!!」
守りの力もそうだが、ウォーターが示してくれたパンチは、元々の体からの力も効率よくカラミティに伝える事が可能だった。
次第にカラミティの数が減っていく。ウイングは言った。
「あと、一息っ!!」
そんなウイングの視線の先に、ファイアが追い立てるバイオレットとオレンジの姿が。ウイングは大きな声で言った。
「見つかったんだね!バイオレット!オレンジ!」
ファイアが答えた。
「ああ!あっちのビルの上で高みの見物決め込んでたぜ!早いところこっちも倒そうぜ!!」
ウイングは言った。
「そうだね!家に早く帰って、学校行かなきゃだし!!」
ファイアは笑った。
「確かにな!」
バイオレットが言った。
「アースセイバーウイング!前の作戦の時はいなかったなぁ!怖気づいたかと思ったが!何故復帰した?」
ウイングは、答えた。
「だって、人を、地球を守りたいだもん!!」
オレンジは言った。
「厄介な男が、地球の守護者になったものね!バイオレット!やるわよ!!」
「待て!ウイングの鏡を封じるのが先だ!!」
「くっ、本当に厄介。カラミティ!」
数を減らした筈のカラミティがわらわら出てくる。ウォーターは言った。
「そう出されても、消すだけだよ?」
ファイアが言った。
「やるぜ!」
そんなウォーターとファイアに、ウイングは久しぶりに自らの盾を与えた。そして、ウイングはこう尋ねた。
「ファイア!ファイアもパンチ攻撃出来そう?」
「勿論だぜ?」
「なら、カラミティは僕が全部引き受ける!ウォーターとファイアは、バイオレットとオレンジを!!」
ウォーターとファイアは顔を見合わせ、頷いた。ウォーターは言った。
「わかった!僕はオレンジを!!」
ファイアは言った。
「よし!俺はバイオレットな!!」
3人のバンチ攻撃は、それぞれの相手に確実にダメージを与えた。
カラミティは、悪しき力をウイングに集中させ始める。それにバイオレットはこう命令した。
「カラミティ!それは避けろ!!」
ウイングは言った。
「もう、遅いよ!!今日は、2人と必殺技やりたい!ウォーター!!ファイア!!」
「うん!」
「ああ!」
ウイングは叫ぶように言った。
「セイブ・ウイング・ミラー・シールド!!」
ウォーターは声を上げる。
「セイブ・ウォーター・ソード・レイン!」
ファイアも声を上げた。
「セイブ・ファイア・クロス・エクスプロージョン!」
集められたカラミティの悪しき力をウイングは鏡の翼に吸収、そして、そのカラミティはじめ、バイオレットとオレンジに向けて放出。
ウォーターの水をまとった剣と、ファイアの爆発の衝撃波もプラネットクラッシャーの2人とカラミティを攻撃。
オレンジは言葉を出す暇なく、倒れる。一方、バイオレットは一言を残し、倒れた。
「その鏡を封じられればっ!!」
◆帰宅
脅威は去った。変身は解ける。勇は、言った。
「ふう。こんな事してる場合じゃないのに!家に帰って、学校に行かなきゃいけないのに!!」
涼が言った。
「絶対に来る?」
「もっちろんだよ!」
晴が言った。
「担任には、遅れるって言っとくから、必ず来いよ!!」
「うん!ありがとう!!」
勇は、涼と晴と別れた後、家へと急いだ。そんな勇を芯の声が追いかける。
「勇くん!」
「えっ!芯さん!!何で?何で逃げなかったの?」
「気になったからね」
「怪我してない?」
「遠くで見てたから、大丈夫だよ」
「なら、よかった!」
すると、芯は後ろを振り返り、こう尋ねた。
「あの、君の敵、あのままでいいの?」
「えっ。今まで放っておいたよ?そう訊かれると、何かやらなきゃならない気がしてきた」
「ああ、君にとっての敵なんだから、別にいいのか。あの2人、何者?」
「地球を破壊しに来てるんだって。男の人は、プラネットクラッシャーアースバイオレット。倍賞充って名前で地球に住んでるみたい。女の人は、プラネットクラッシャーアースオレンジ。こっちは、時任彩って名前だね」
「倍賞充、時任彩」
「うん」
そんなやり取りをしていると、勇は芯と共に家に辿り着く。そして、意を決し玄関を開ける。
「ただいま」
その声に勇の両親は玄関に急いだ。母親は勇の姿を見るなり抱きしめた。そして、こう言った。
「ああ、無事でよかった」
父親は、今にも泣きそうな顔をしてこう言った。
「今まで、どこにいたんだ!!」
勇は、言った。
「ごめん、父さん、母さん」
勇は、母親から離れ、芯を紹介した。
「えっと、最初は『知らない人』だったけど、この人によくしてもらったよ」
「はじめまして、洞口芯、占い師です」
父親は、言った。
「無事にここに帰してくれて、ありがとうございました」
母親も頭を下げる。そんな様子を見届けると、芯は言った。
「息子さんの事、聞きました。不安はあると思いますが、僕の占いによると、息子さんは、しばらく死ぬ事はありません。だから、安心してください。戦っても、あなた方の所に必ず帰って来ます」
勇は、その言葉に驚いたが、こう言った。
「そうみたい。だから、戦わせて?父さん、母さん」
父親は頷いた。その横で母親は言った。
「わかったわ。頑張るのよ?」
「うん!それより、学校!学校!!」
その光景を見届けた後、芯は言った。
「じゃあね?勇くん。そして、勇くんのご両親、これで失礼します」
「芯さん!ありがとう!!」
その勇の言葉に続いて、両親も短く深く芯に感謝した。
勇は、芯の姿が見えなくなったのを合図に自らの部屋へ行き、「秘密ソルジャーシリーズ」のグッズに見守られながら急いで制服に着替え、家を飛び出して行った。
「いってきます!!」
そんないつもの挨拶と共に。両親の「いってらっしゃい」の声を背に。
そして、学校に着くと、やはり、遅刻。1時間目の授業中の教室に「飛び入り」で入って行った。
「遅くなりました!!」
そんな声を響かせながら。愛は、ほっとした表情を見せ、呟いた。
「やっぱり、この教室には、勇くんがいて欲しいよ」