四
明季が慌てて家から逃げて三、四日くらい経ってから、父と何も話していなかった。父との関係がこんなに冷たくなったのは、私たちの間に何かの矛盾があるのではない。もしそんなものがあるなら、父が私への片恨みであろうか。
母と同じ病気に罹った事を知った日から、「私も一年足らずこの病気で死ぬだろう、お母さんみたいに」と思った。このマイナスな考え方は既に呪いのように私を蝕んで、例え病気が快方に向かった今の私もそう思い続けた。
十七年前から産まれた父との血の繋がりは、今私の端から壊死した血液が増殖していた。自分の血族がこんな見るに堪えない姿になったのは、誰でも不快になって、十七年の時間を無駄にするという敗北感があるだろうか。しかしこの長い十七年の間に犬を飼っても、その犬に深い感情を持つのだろうか。
やさしい男はまだ持病のある娘を飼い続けた。何故かというと、この十七年の間に託した感情を容易く捨てたくないということであった。
そのため、かつて優しい笑顔で私のわがままを聞いてくれて、今は無口になった父には、すでに恨む理由さえなくなった。
私は血のついた上着を水に濡らさせた。今は一ヶ月前のように、咳をする時たくさんの血を吐かなかったけれども、父に見られたくない。血の跡をきれいに落として、干物をしに行く時、玄関に立って出掛けようとする父の影を見てしまった。
「いってらっしゃい、お父さん」と私が少し躊躇って父に言った。
靴を履き替えている父は急に立ち止まった。そうして数分後、いつもより掠れた父の声が聞こえた。
「おまえのクソ親父のせいだ。今のおまえがこんなに苦しくなったのは全部おれのせいだ」と父がいった。すると、父は振り向かず家を出た。
もういい、いいんだよ、お父さん。もうこれ以上自分を責めないで。
明るく元気だった貴方の娘は、もうとっくに私に殺された。今の貴方のそばにいるのは、腐った血肉で築かれて、貴方の娘に似ている形骸だけだ。貴方が一番責めるべき人は、この私なんだよ。