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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

the wrong impression

作者: 楓絽



知ってる。

先輩には好きな人がいて、いつもその人のことを追いかけてるんだって。

……こんなに辛いなら、先輩が僕を見てくれないのなら、好きになんてならなければよかった。


会わなければよかった。


どうして僕はここに来てしまったの?

どうして先輩はここにいたの?

……どうして?




……いつも世界は僕の思った通りに回ってくれない。

もし神様がいるのなら、こんなにも辛い試練を与えるあなたを




殺してもいいですか?








出会いはロマンチックさのカケラも無かった。普通に部活の先輩後輩。

バスケ部の二年の先輩である、徳永トクナガ タクマ先輩に僕、竚木マツキ 智哉トモヤは一目惚れしました。

先輩を見た瞬間、今までバスケ一筋だった僕の人生は大きく変わった。素敵だった。そこだけ空気が変わって見えた。こんなに素晴らしい人を今まで見たことがない。

初日にあった練習試合では集中できなくて顔面でボールをキャッチ。すごく笑われたのを覚えている。まぁ、先輩が笑ってるのを見て僕は幸せな気分になったんだけど。






あれから半年。




「徳永先輩!副キャプテンになったって聞きましたよ。おめでとうございます!!」



「んー、あぁ、竚木じゃん。ありがとね。でも、侑真がキャプテンなんだよー。密かにキャプテンの座を狙ってたのに!」




『内緒だぞー』と言いながら去っていく先輩。先輩が見えなくなってから、そっとため息をつく。僕は少し先輩と話ができただけで満足。すごく幸せ。

……な、はずだった。最初はホントにそれだけでよかった。一言喋っただけで夜も寝られなかった。

だけど人間欲深いもので、月日が経つにつれて、もっと話がしたい、もっと知りたい、もっと……。欲求だけが増えていく。




それに先輩は一つ嘘をついている。先輩がキャプテンになりたかったなんて嘘だ。先輩はずっと新しくキャプテンになった紅夷アカイ 侑真ユウマ先輩を押してたんだ。ホントは徳永先輩のほうがバスケ上手なのに。

それでも徳永先輩が紅夷先輩を押した理由。







それは……徳永先輩は紅夷先輩が好きだから。







僕はいつでも徳永先輩を見ていた(うわっ、なんか変態っぽい)。だから、わかったんだけど、徳永先輩はいつも紅夷先輩を見ていた。その目は愛おしいものを見るような優しい目で、すぐに僕の入り込む隙間は無いと悟った。徳永先輩が名前で呼ぶのは紅夷先輩だけだったし。

だけど、僕は先輩を諦めきれない。だって紅夷先輩には他の高校に彼女がいるんだもん。前に試合の応援に来てたのを見た。すごく綺麗な人だった。

だから、徳永先輩が紅夷先輩を諦めない間は、僕が徳永先輩を諦めきれないでいることが正当化されてるような気がした。




「おまえも不毛な恋をしてるよな。相手は泣く子も見とれる、あの徳永先輩だぞ。身の程知らずにもほどがある。いくらちょっと可愛い顔してるからって、ハードルは高いぞ。さっさと諦めろ。」




横から人が気にしてることをウザったいくらい、ズサズサと言ってくるのは僕の親友。

小学校からの付き合いで僕の悩みを唯一打ち明けた人。信頼はしているんだが、デリカシーに欠ける。相談相手間違ったか?

トップシークレットをこんなところで話しやがって、誰かが聞いてたらどうしてくれんだ!?



「はぁ…。」




もう一度ため息をつく。何を言ったって無駄だ。こいつはそういう奴なんだ。

それに彼の言っていることは正しい。僕は元々そっち側の人間ではない。初恋は女の子だったし…何の進展もなく終わったけど。半年も一人の人を想い続けたのは初めてだった。いつもはすぐに諦められたのに。それだけにこの恋は……辛い。




「悪い、言いすぎた。でも見てると痛々しいんだよ、おまえ。」



「大丈夫。もう諦める。」



「それ聞いたの八回目。」



「………。」



心配そうに見てくる親友を置いて僕は部活へと向かう。



「諦める。」



今度こそ。


そして僕は用意しとくんだ。いつか先輩に恋人ができたと知った時のために、





とびっきりの笑顔と





『おめでとう』の言葉を。









秋になると日が落ちるのがだんだんと早くなる。部活が終わると辺りは真っ暗だった。だけど、試合が近いところはまだ練習を続けている。

サッカー部に所属している僕の親友も、まだグラウンドを走り回っている。

僕は家が学校から近いため歩いて登下校している。自転車でもいいんだけど、歩くほうが好き。何となく。










「あれー、竚木?今から帰るの?こんな真っ暗ななか帰ったら、お母さんが心配しますよ〜。」




心臓が止まりそうになるとはこのことだと身をもって体験した。この声の持ち主を僕が間違うはずがない。




「徳永先輩、からかわないでください。子供じゃないんですから。」



「こんなにちっちゃいくせに小生意気な!さぁ、帰るぞ。」




僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でながら先輩は言うけど、190cm近くある先輩から見たら誰でもちっちゃく見えると思う。

こんなこと誰にでもするってわかってるのに、胸がときめいてしまう。僕だけなんじゃないか?と思ってしまう。




「ほら、早くしろ。置いてくぞ。」




笑いながら僕の腕を引かないでください。泣きたくなる。だって、諦めるって決めたんだから。そんなふうにされると決心が鈍るじゃないですか。

いっそ告白してスッキリしたほうがいいんじゃないか?と思ったこともある、ひょっとしたらOKしてくれるかもしれないって。




だけど、やっぱり振られたら?




気持ち悪いって思われたら?




僕はもうバスケ部にはいられない。先輩を失って、バスケも失ったら…僕にはもう何も残らない。

それなら今のままでいい。それ以上は何も望まない。

だから………せめて、あなたを諦める強さを僕にください。




暗い道を所々にある街灯が照らしている。よく考えてみなくても先輩と一緒に帰るなんて初めてだ。しかも、二人きりで。…先輩の家ってこっちなのかな?




「先輩の家ってこっち方向なんですか?」



「……いんや。さっきの通りを左。でも、こっちからでも帰れるから。」



「えぇっ!?早く言ってくださいよ!大丈夫です、一人で帰れますから。」




ワタワタとする僕を見て先輩は、また頭をぐしゃぐしゃと撫でる。また期待してしまう。この人は無意識だろうが僕の心臓はさっきから高鳴りっぱなしだ。心臓の音が先輩に聞こえるんじゃと心配するくらいだ。




「『可愛い後輩を夜道に一人で帰らせるようなことはするな!』これは祖母ちゃんの遺言だ。まだピンピンして農作業してるけど。」



「縁起でもないこと言わないでください。先輩だって帰りが遅くなったらご家族が心配しますよ。」



「大丈夫。俺一人暮らしだから。」




……初めて知った。家の方向も、一人暮らしだってことも。でも、そんなこと気にならないくらいの衝撃を僕は受けることになる。




「なんなら今から泊まりにくる?」




…………はぁ!?何言ってらっしゃるんですか、この人は。こっちは並んで歩くだけでいっぱいいっぱいなのに。心の準備ができていません!!

そんな僕の様子を気にもとめずズルズルと引っ張って行く。先輩はやると言ったらやる人だ。しかも、そのほとんどが思いつき。それでも、先輩がすることは楽しくて、周りの空気が明るくなる。先輩を知れば知るほど先輩を好きになっていく。




着いた場所はマンションで、それはそれは立派な造りだった。最上階は首が痛くなるほど見上げなければ見えない。

外がそれだけ凄ければ中も凄いわけで、とりあえず超広い、家具も立派。一人で住むには広すぎる。それに先輩の性格からは考えられないほど片付けられている。




「ごめん、麦茶しかなかった。」



「あ、お構いなく。すいません、お邪魔しちゃって。ちょっと家に電話してきます。」



「いいのいいの、こっちが無理矢理引き連れてきちゃったんだし。それに、家には連絡しといたよ。泊まりの許可もとった。よかったね、明日休みで。部活もないし。」




僕にとってはよかったのか?なんか早死にしそう。心臓の過労で。部屋には僕と先輩の二人きり、当たり前なんだけど。




「あのさぁ、おまえ俺に何か言うことあるんじゃない?」




話かけられただけで心臓がドクンと跳ねる。絶対また寿命が縮んだ…。言うこと……なんかあったっけ…?

本気で悩み始めた僕に痺れを切らしたのか、先輩はこう続ける。




「例えば、最近悩みがあるとか。」




悩み……そんなのいっぱいありますよ。主に先輩のことですけど。まさかそれを言えってことですか?無理ですよ。僕は言わないって決めたんだから。

もしかして先輩は僕に何か悩みがあると知ってて、それを聞くためにわざわざ家に招いたんですか?だとしたら、言ってもいいんですか?





「なに?俺に言えないの?」




寂しそうな顔をして言う先輩に胸が締め付けられる。

言ってしまいたい。先輩が好きですと、初めて会った時からずっと好きでしたと。でも………、僕は弱虫だから。なかなかその一言が言えない。拒絶されることが怖い。




「……ごめん無理して聞いて、誰でも言いたくないことはあるよね。あ、お腹すいた?なんか作ろっか?」



「……っ。」




だめだ。今ここを逃したら、もう一生言えない。




「………き…です。」



「ん……?なに?」




作業を止めて真っすぐに僕を見てくる先輩。そんな先輩の顔を見てられなくて、僕は俯いたまま話す。




「…っ、先輩の…こと…が………好…きです。」




途切れ途切れで、しかも後半にいくほど声が小さくなってみっともない。だけど、そんな僕を真っすぐに見つめてくれる先輩。

僕は先輩の目を見て今度はハッキリと言う。




「先輩のことが好きです。」




これで僕は部活にいられないかもしれない。だけど、気持ちは晴れやかだった。返事を待つため目を閉じる。

すると、なにか柔らかなものが唇に触れた。頭が真っ白になって、よりギュッと目を閉じる。するとなにかが唇の間からヌルリと中に入って来て僕の舌を弄ぶ。息ができなくて苦しいけど、今僕の人生の中で一番幸せ。




「ふっ、…はぁ、ぁっ」




息をしようとするたびに出る声は自分のものじゃないみたいで凄く恥ずかしい。




最後にリップ音をたて唇が離れると先輩が意地悪な顔をして言う。




「やっと言ってくれた。」




………やっと?

その言葉に含まれた裏の意味を悟り、僕は赤面する。

えーと……と、言うことは…?僕の気持ちはバレてたということ?

〜〜〜〜〜。

いたたまれない。穴があったら入りたい。




「ずっとその言葉を待ってた。」



……ずっと?そんなわけない。だって先輩は




「先輩は紅夷先輩のことが好きなんじゃないんですか?」



自分で言って悲しくなってきた。先輩は優しいから、僕のことを噂で聞いて同情してくれているのかもしれない。

ふと、先輩を見ると先輩は不思議そうな顔をしていた。……あれ?なんか間違った?




「なんで、俺が侑真のことを好きってことになってるの?」



「……だって、ずっと……先輩が紅夷先輩を見てたから。」




そう、ずっと見てきたからわかる。確かに先輩は紅夷先輩を見ていたのだ。

僕が必死に言葉を紡いでいると、目の前の先輩の肩が震えている。



「……くっ、あははははっ。ありえない!!俺が?侑真をっ!?」



ひーひー言いながら笑う先輩を見て、僕はホッとしたやら呆気にとられたやらで涙がでてきた。そんな僕を見て先輩は笑いすぎて目の端に涙を浮かべながら、僕の涙を拭ってくれた。




「ごめっ。だけど、いくらなんでも妹の彼氏に手を出そうとは思わないよ。」




……彼氏?…妹の?

いや、でもっ……じゃあ……ん?えっと、………つまり、先輩には妹さんがいらっしゃって、その妹さんが紅夷先輩と付き合ってる?

えっ……じゃあ、あの紅夷先輩を見てたのはどういう意味?




「あのね、今侑真は俺の実家で暮らしてんの。で、お邪魔かなぁと思って、というより一人暮らししたかったんだけど、なかなかタイミングがなくって。ここだ!と思って出てきた。侑真のこと見てたのはぁ…、だって面白いでしょ?親友が将来義理の弟になるかもしれないんだよ?

それに、見なかったっけ、俺の妹。あの時言ったような気がしないでもないけど。」




妹だって言ってたっけ?んーどうだろう。確かに、あの時は紅夷先輩に彼女がいるって頭の中がパニックになってたけど!

それでもって、その彼女さんはそれはそれは、とてもとても綺麗だったけど!!




「聞いてません!」




確実に聞いてない!そのことを聞いてたら……聞いてたら?

もっと早く先輩のことを諦めてたかもしれない……。




ありえないって思ってた。早く諦めたほうがいいと思ってた。だけど……もし、…もし今の状況を信じてもいいのなら……










「徳永先輩、大好きです。」










今、この思いは届きますか?










「俺も智哉のことが好きだ。誰よりも愛してる。」




神様……死んじゃえなんて思ってごめんなさい。あなたやっぱり素晴らしいです。



喜んでもいいですか?



今、ここでどっきりでしたなんて言われたら、僕は死んでやる。

嬉しすぎて流れてきた涙を指で拭ってくれる。もう少しこの幸せの余韻に浸っていようかと思った時、目の前の世界が歪んだ。咄嗟につぶった目を開けると先輩の顔はさっきと変わらず目の前にある。だけど、その背景が変だ。………なぜに天井?




「ゴメンネ、もう我慢できない。」




そう言って僕のシャツのボタンを外してくる。これってピンチじゃない!?大人の階段上るの早過ぎ。さっき両想いになったばっかりじゃないですか!?甘い空気は何処へ!?




「先輩、ちょっとまって…まだ、心の準備が……。」



「好きな人の家に泊まりに来たんでしょー?だったらそれくらい覚悟しないと。」



「だって、それは先輩が無理矢理……そうだ、先輩!お腹すきました、ご飯にしましょう!!」



「うん、そうだね。俺も腹減ったんだー。」




そう言いながら僕の頬を撫でてくる先輩。…嫌な予感がする。




「だから……いただきま〜す!!」










朝目が覚めると身体中が痛い。昨日は、あのまま見事に美味しく(?)いただかれてしまった 。思い出しただけでも恥ずかしくて気絶しそうだ。

夢だったのではないかと疑いそうになるが、この痛みと目の前ですやすやと眠る先輩が、これは夢じゃないってことを証明している。




先輩の柔らかい茶色い髪をそっと手ですいてみる。

さて、先輩が起きたら何を話そうか?まずは『おはようございます。』、その次は腰が痛い?

そしたら、先輩はどんな反応をしますか?




先輩は料理できるんですか?




好きなものはなんですか?




家族はどんな人ですか?






これから、いっぱい先輩のことを知っていける。




一番近くにいることができる。











自然と笑みがこぼれる。












今なら笑顔で言えるよ












『おめでとう』













僕。






















―・―・―・―・―・―・―・―






おまけ









「先輩はいつから僕が先輩のこと好きって知ってたんですか?」




昨日からずっと気になってたことを聞いてみる。なんだかんだで聞く余裕なかったし。(いろんな意味で)




「えー、昨日?」



「は、……?きの…ぅ?………ま、さか。」「そのまさか。昨日たまたま智哉と友達が話してるの聞いちゃって、俺のこと『諦める』なんて言うんだもん。思わず拉致っちゃった。

まぁ、前から視線は感じると思ってたけどね。」




拉致ちゃったって、そんなに軽く言う言葉じゃないですよ!とか、見てたの気づいてたんですか!?とか、頭の中を掠めたけど、それよりもちょっと前の言葉に僕は真っ赤になって先輩の顔を見ることができない。




「っっ!!……せ、先輩、今……名前っ!」



「何?付き合ってて、しかもヤることヤって今更苗字呼び?

ほら、智哉もいつまで先輩って呼ぶつもり?」



「ヤることって……」




ずっと俯いている僕に痺れを切らしたのか、先輩は僕の顎を掴み無理矢理上を向かせる。

その時見えた先輩は悪戯っ子のように笑っていて、また恥ずかしくなって視線を外そうとすると、先輩がすっと耳元に唇を寄せて




「ほら、言えって。」




耳を甘噛みされて言われると、ただでさえ赤かった顔が余計赤くなる。このままでは流されると思い、勇気を振り絞って口にだす。




「た、逞………先輩。」



「……まぁ、今はそれで許す。」



なんとか難関を越えた僕は心のなかでそっとため息をつく。




「明日部活の時宣言しなきゃな。『智哉は俺のものだ!』って。」



「やめてください!恥ずかしいじゃないですか!!」




そんなことしたら、目茶苦茶目立って影で何を言われるかわからない。

だけど、こんな言い合いをしているのも楽しくって、夢みたいで、宣言されるのも逆に先輩は僕だけのものだ!って言ってくれてるみたいでちょっと嬉しかったりした。……そんなこと言ったら、ホントに宣言されそうだから言わないけど。




あと、やっぱりまだ慣れないから心の中では今も先輩呼びなのは先輩には秘密だ。







.

学園物があんなかんじなので、胸がキュンってなるようなのが書きたかったんですが……、何じゃこりゃ状態ですね。

楽しんでいただけたら幸です。ホントは先輩視点を入れて2章にする予定だったんですが、そうすると完璧裏に入るなと思ってここで終了としました。

それでは、まとっちゃんでお会いしましょう。

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