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 刑事が来たのはそれから2日後の事だった。

 二人組の男だった。一人は四角張った顔をして背が低い。多分私と同年代だ。

 もう一人が二回りは年下の今時のすらりとした男で、そちらは最後まで声を発する事は無かった。

「さて、確認しましょうか。

 先程のお話をまとめると、あなたは金町マチコに母親がいなくなったという連絡で呼び出された。

 通常であれば秘書や運転手もいるところだが、緊急の呼び出しに彼女の狙い通りあなたは一人でやってきた。家の中であれば人目はない。あなたの隙をついて背後から頭を殴打__ちなみに、粉々になった破片から使われたのは居間にあった花瓶とのことです。ここまではいいですか?」

「はい」

「彼女は一発の攻撃であなたを仕留めたと思った。

 まさか、あなたがまだ息をしていてしかも自分の顔を見られていたとは知らず、彼女は金目の物を物色しに、二階へと上った。__二階にはコレクション置き場でもあるんですか?」

「……え?あ、はい。

 以前、彼女にそんなことを言ったかもしれません。

 2階にまでは手が届いてなくて、もしかしたらそう言った物があるかもしれない、その程度に伝えたつもりだったんですけど、彼女はそれを真に受けて2階に行ったのかもしれません」

「そうですね、それで探索中に足を滑らして窓から転落」

「あの部屋は敷居が低くて、それもあって母の寝室を1階に移したんです。

 母はあの部屋から見る景色が好きだったから、大分反対されましたが」

「そうですか、金町さんとはどういうきっかけでお知り合いに?」

「馴染みの店で知り合いまして……まさか、彼女に下心があったなんて」

「今までに複数回結婚をしたという話は?」

「ええ、聞いていました。12年前と3年前にと。

 あまり話したがらないので、いい思い出ではないのだろうと」

「そうですね、どちらも死別ですから」

「……」

「ちなみにその他に3度離婚をしています。

 最初のでは、結婚相手の父親から金を騙し取ろうとしたのがバレて失敗したようですが、その後は上手い事やっていたみたいですね。被害額は相当な額になると見ています」

「……そうでしたか。私は騙されていたんですね」

「何かそういった疑いを抱くきっかけがあったのですか?」

「え。どうしてです?」

「落ち着いていらっしゃるので」

「いえ、そういう訳じゃないですが。

 ……彼女はいつでも完璧でした。そう考えると確かに完璧すぎたのかもしれない。でも、そんなこと私のように経験の未熟な人間には分かりませんでした」

「本当に?少しも彼女について疑わなかったのですか?」

「ええ」

「でもあなたは坂井グループの取締役だ。

 言っちゃ悪いですが、そう言う目的であなたに近づく人間がいると警戒するものじゃありませんか?」

 男の言葉に私は項垂れた。

「私はきっと未熟だったんです。自分が思っているよりもずっと」

「そうですか、しかし私はそうは思いませんね。

 あなたは一から会社をおこして、上場企業にまで成長させた。相当のやり手ですよ」

「はぁ」

「そんなあなたが彼女のようなあからさまに怪しい女性に手の平で転がされていたとは私は信じられないんですよね」

「……何が言いたいんですか?」

「あなたは気づいていたんじゃないですか?彼女が結婚詐欺師だって」

「……」

「彼女がこの段階で危険をおかしてあなたを殺そうとする理由が分からないんですよ。

 彼女は実際的な女性だったはずだ。

 まだ結婚をしているわけでもないあなたを殺したところで、リスクに対して旨味がないでしょう?

 あなたにバレたと思ったなら、さっさととんずらすればいい。

 わざわざあなたを襲う必要はなかった」

「……」

「あなた、本当に彼女に襲われたんですか?」

「……そうですよ」

「あなたが、彼女を襲ったんじゃないですか?」

「違う!本当に私は彼女にやられたんだ!

 振り返ったら、彼女がまるで表情のない顔で私を見下ろしていた!ゾッとした、あんな顔、到底血の通った人間のものじゃない。まるで、、」

「まるで?」

「まるで作り物みたいだった。

 恐ろしかった。この頭の傷よりも、あの顔の表情の方がずっと後を引くと思う。

 いや、きっと死ぬまであの顔を忘れる事ができない。

 それがこんなにも苦しい」

 頭上から男の溜息が聞こえた。私は顔を両手で覆っていた。指の腹とその隙間からシーツが見える。

「私は、きっといろいろと未熟だったんです」


 医師の成宮氏は未だに坂井氏との最後の面会のことを根に持っていた。

 手術は完璧だった。

 術後も申し分なく、リハビリを続ければ元の生活にも戻れるという見立てだった。

 だが、あの男はそれを頭から否定して彼を藪医者と罵ったのだ。

 __あれはどうしようもないマザコンだな

 成宮氏はその時の苦い記憶を思い出す度にそう冷笑することで折り合いをつけていた。

 結局、彼は最期まで誰かに尋ねられることなくその事を墓場まで持っていくことになった。

 坂井隆氏の母親がランクAの準寝たきりであることを。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


僕にとっては恒例の蛇足がありますので、「何が書きたかったのか分からん」「これのどこがホラーなのか?」と言う場合にはもう少しお付き合いください。

__今回は蛇足なしで、本文の中で収めようと思ったんです。でも書き終わって「やっぱこれじゃ分かりづらいわ」となったので結局こうなってしまいました。精進します。


【蛇足】

はい、やってまいりました。自分の書いた作品の解説をするという赤面タイムのお時間です。

あまり長々とやると、僕のライフがごっそり持ってかれるので急ぎます。


結婚詐欺師、金町マチコが自分の恋人で大企業の取締役である坂井隆を殺そうと計画し、失敗。強欲の果てに事故死というのが、中年刑事の口から語られます。

一方で、彼自身はその見解に疑問を抱いていて、「そう見せかけて本当は坂井隆が金町マチコに復讐したのではないか」と疑っています。


ただ、「私」視点からこの事件を見てきた皆さんは彼が犯人でないことをご存知です。

「私」が金町マチコに疑惑を抱いたのはもはや手遅れの時、襲われる直前でしたよね。

あの時になって、「私」は金町マチコこそが母親に嘘の噂を教えた人物。紙幣の換金を必要と思わせた人物で母親から金を騙し取ろうとしたのではないかと疑った。

では、何故「私」はそういう結論になったのか思い出してください。

母親はテレビや携帯などを持っておらず、外出することもない。連絡は「私」を通して伝えられ、金町マチコか「私」がいる状態でしか人に会う事もできない。

「私」はその体制を疑問にも思っていない。

「私」は自分が母親のためを思って行動していると思っている。

「私」は自分が母親の友人関係を、ひいては母親自体を管理・束縛している事に気づいていない。


さて、この作品の何がホラーなのか?と、そう疑問に思った方。

あなたは「私」の異常性に気づきましたか?

むしろ、自分を犠牲にして病気の母親の面倒を見ている孝行息子だと思いませんでしたか?

最後の一文まで気づかなかったとしてもそれはなんらおかしい事ではありません。

何故なら、私達は「私」視点でこの話を読んでいるからです。

客観的に見れば、または相手目線に立てばおかしいと言う事に気づけたかもしれない。

坂井隆の母親目線になってみれば、自分にプライバシーはなく、電話の連絡にしても息子を介している為に、本当に全てが伝えられているのかもわからない疑心暗鬼な環境。

監視され、行動を制限されたら、そりゃ思考力も低下していく。息子は自分を痴呆扱いする。でもそうなのかもしれない。。自分が間違っているのかもしれない。

徐々におかしくなっていく自分に恐怖を抱く。

そういった結果を招いた対象に憎しみを抱くかもしれない。でも、相手は自分の為を想ってやっているのに、そんな風に思う私の方が酷いのかもしれない。でも、、

「私」は自分のしている行為が、「母親」を苦しめている事に気づけない。

「母親」は大切な自分の息子である「私」が憎くて仕方がない。

「私達」は一歩間違えれば容易にそして自分ではそうと気づかない内に「私」にも「母親」にもなれる。

僕はそれってすごく怖いと思うんですよね、だからホラーです。


さて、締めくくりに入ります。

金町マチコが母親と共謀して「私」を殺そうとしたか、それとも金町マチコは今回に限っては利用された被害者なのか、それはもう彼女が亡くなってしまった以上分からないし、正直本題に比べたら些細なことなんです。

それよりも僕を悩ませた問題は、「何故、坂井隆の母親は噂話を息子に聞かせたか?」でした。

金町マチコが自分を騙そうとしている、というのを匂わせる事で事件後に彼女の犯人説を濃厚にするためか?とも思ったんですが、そもそも「私」の殺害計画を立てているのだから「私」に話してもしょうがないじゃないか。

それではっとしたんです。

「私」は最後、関係修繕にはもはや手遅れになってからようやく自分のしてきた事に気づきましたか、本当は彼女はもっと早く気付いてほしかったのではないだろうか?

彼女にとってそれは狂気の一歩手前の最後のSOSだったんじゃないでしょうか?

「私」が自分のしている事に気づいてくれたら、

改善してくれたら、

最悪の手段を取らずに済む、、、最愛の息子を殺めずに済む。

だから、最終通告なんです。

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