第28話.冒険の始まりだ!
ダンジョン、それはシキ大陸に点在する洞窟である。
洞窟は複雑怪奇な道で出来ており、終点にはご褒美のごとくお宝が眠っているという。しかしながら当然、ただでお宝は手に入らないのだ。そこへ辿り着くまでにはトラップギミック魔獣、さらには階ボスと呼ばれる強力な魔獣などがおり、挑戦者達の行く手を阻む。またダンジョンの中にはダンジョン自体に意思を持つ場合もあるらしく、そのダンジョンは定期的に内部が入れ替わるのだ。
だがけっして怖気づいてはいけない。何故ならそれらを制覇して初めてお宝は君の手に渡り、そして栄えある名誉を手にすることが出来るのだから。さぁ、未来の英雄たちよ。ダンジョン攻略へ出発だ!
……と、オウマから解説まがいの説明を受けてなお冒険心がくすぐられるのだから、私は生粋の冒険者なのだろう。私は目の前にある洞窟を期待の籠った眼差しで見つめる。
「ダンジョン探索、まさにハンターらしい活動だね!」
「どちらかというと冒険ギルドなんだけどねぇ」
苦笑しながらもオウマの目は入り口を舐めるように見ていた。
どうやらトラップがないか確認しているらしい。彼が安全確認をしている間はヒマなので、周囲の景色を楽しむ。
フラジェリーの辺境ということもあり、アリギエ領地は王都と比べてかなり田舎だ。ここに来るまで多くの自然で溢れていたし、手入れされていないことが一目瞭然。民家も見当たらなかったことから、何処か住みやすい場所に固まって存在しているようだ。ちなみに道中では何匹かの魔獣に出会ったが、どれも取るに足りないスライムだった。
「フラジェリーのスライムって、なんだか他のスライムよりロイヤル感あるね」
気紛れに拐って来た黄金スライムをムニムニしていると、隣にいたロベリアが頷く。
「実際、良いもん食べてんだろうなぁ……」
「突っ込みを放棄するなローベ、アイロもどっから持ってきた!? ダメだろ、スライムは集団行動する魔獣なんだから!」
クライトが慌ててスライムを回収し、ごめんなと言いながら森へ返した。ペッタンペッタン逃げていくスライム。またね、立派に生きろ。
「ダンジョンにもスライムはいるの?」
「いるぞ。ただそこら辺でペッタンペッタンしているヤツよりも硬くて攻撃的だが」
「何処だっけ……龍桃国にはスライムダンジョンがあって、毎年多くの死者が出るらしいぞ。内部には果敢にも挑んだ冒険者たちの残骸があちらこちらにあるとか」
「なにそれ、行ってみたい」
是非ともソルフィに先陣を切らせてみたいものだ。一部の界隈がとても盛り上がりそう。
下らないやり取りをしていると突如として爆発音が響いた。顔を向けると、入り口がものの見事に爆散している。
「え……ちょ、えぇええええっ!?」
状況を把握したクライトが叫んだ。
1拍遅れてロベリアの爆笑が響き渡る。私はというと恐らく犯人であろう、目を逸らしたオウマを無言で見つめるだけだ。
「…………オウマサン?」
「な、なななんのことかな? 俺は何もしていないんだからね?」
「わざとらしい」
こいつ、あろうことかダンジョンの入口を爆散させやがった。
お陰でぽっかり大口を開けていた入口は瓦礫に埋もれてしまった。どうしてくれるんだろう。思わず半目になってしまうと、彼は苦笑する。
「あはは、ごめんごめん。ノックしたら壊れちゃった」
「お前の国では扉を破壊することをノックと呼ぶのか?」
途端にロベリアも半目になった。来訪者のたびに扉が壊されていたら修理費がバカにならないだろう。そんな風習の国があったら逆に見てみたいものだ。当たり前だがそんな風習はないらしく、オウマは軽く手を振ってみせる。
「まさか、そんな情熱的な国ではないね。でもこれから行くダンジョンは意思があるって話だろう? だから入った瞬間バクーッて可能性を捨てようと思ってさ」
「でも入れなくなったよ?」
「地下にあるなら穴を開ければよくない?」
笑顔で凄まじいことを述べるオウマ。
流石は万華だね。なんて皮肉を言う暇もなく、私達の目の前にあった入り口はグニャリと歪んで消滅した。驚く間もなく、浮遊感を覚える。下を見るとぽっかり穴が開いていた。
「どぅえぇぇぇぇっ!?」
「わぁっ!?」
言葉通り、ダンジョンが穴を空けてくれたのだ。
私とクライトの声がハーモニーを奏でるが、なんの役にも立たない。私達は真っ逆さまに奈落の底へと落ちていった。
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