第22話.花の都と7つの色
フラジェリー王国は花と技術が溢れる街である!!
シキ大陸の中でもっとも国内面積を誇るこの王国は、王都を中心として大きく4つのエリアに分かれている。それぞれのエリアが自然と技術を見事に調和した景観を持っており、ひとたび足を踏み入れれば新しい世界が開けること間違いなしだ。
さらに王都にはシキ大陸に存在する国々の中で12人しかいないとされる天才達、『十二華』の拠点ともいえる研究所がある。
フラジェリー王国の国王、ロゼ・フラジェリーは彼等へ惜しみない支援をすることによってこの国の。ひいてはシキ大陸の文化水準を向上するべく尽力しているのだ。
「だからこんなにゴテゴテしているんだ」
「スチームパンクマニアがいたら垂涎ものなんだけどねぇ」
翌日。
私とオウマは仲間と合流するべく、フラジェリーの王都へ降り立っていた。
「フラジェリーって変わった国だね」
パタン。案内所でもらった観光ブックを閉じ、顔を上げる。
私達がいるのはロゼッタ広場というところだ。白の石畳が不規則に敷き詰められた道は歩くたび、靴がコツコツ音を奏でる。カロンの広場と似ているが花に彩られている分こちらの方が豪華だ。私の肩に乗るピーシャも物珍しいのか、キョロキョロ辺りを見渡している。乳白色の毛並みがいつもより白く見えることに疑問を感じて視線を上げると、国王が住むという立派なお城が大きく見えた。
白と金で彩られた、如何にもお城って感じの城だ。白の城壁が光を反射して眩しい。目を細めながら城から目を逸らし、隣に佇むオウマを見る。
「拠点で待ち合わせかと思ってた」
「これから合流する仲間……ロベリアっていうんだけれどね? わりと自由な奴なんだよ。なんでも海の幸ドリアが食べたいからって、店の指定をしてきた」
「食べ物は大事」
国際手配された奴のセリフとは思えないが、その店のドリアが食べたいのなら仕方ないのだ。他のドリアでは満たされない、本能からの望みなのだろう。私はその本能を尊重する。
「おっと、キミも本能に抗えないタイプか」
「事情は分かったけど、合流するのが私でいいの? 今後の作戦を決めるのなら、クライトやラーナの方がいいと思うけれど」
「キミじゃなきゃいけない理由がある」
取り出した懐中時計で時間を確認すると、オウマは歩き始めた。
「まず忘れがちだけれど、俺達は国際手配中だ。当然、フラジェリー王国にも悪評は広まっている」
「うん」
広場を抜ければ途端に細い道がいくつも分岐していた。左右には囲うように石造りの建物が並ぶ。黒や灰が多いにも関わらず王宮に見劣りしないのは、壁から綺麗な花が咲いているからだ。
どうやって咲いているんだろう。はぐれぬようオウマの袖口を握り締めながら、意識半分で話を聞く。
「そしてこれは『黄』の偽善に満ちた悪意だと思うんだけれど……何故か聖騎士さん達は俺達がもっとも凶悪だと信じて疑わないのさ。そうなると彼等は優先的に俺達を狙うから、必然的にエンカウント率が高くなる」
「うん」
「となると髪色が目立つクララやソルは一発で覚えられてしまうんだ。ソルはともかく、クララの髪はシキ大陸唯一無二だろうしねぇ」
「ふーん」
確かにクライトの髪は珍しい模様が入っていた。自分で作っている訳じゃないのなら遺伝子を調べたいくらいである。
私達が通り過ぎた店の前では店員さんが楽しそうに水やりをしていた。
水を浴びて嬉しそうにキラキラする花は一見すると普通の花だ。が、よく見ると茎はネジのようにグルグルしている。店員さんが持つジョウロには歯車が幾つもついていた。さらにその隣では剥き出しのパイプからピンクの煙が吹き出している。カロン中立国とはまた違った街模様だ。キョロキョロ辺りを見渡していた私は、ふと聞き流せない言葉があったことに気付く。
「……黄ってなに?」
「あぁ、万華の1人のこと。万華はね、虹にちなんだ瞳を持っているんだ」
トントンと、オウマは軽く己の下まぶたを叩いてみせた。藍色の瞳をまじまじと見つめ、虹の瞳ってなんだろうと思う。
赤、青、黄、緑、橙、そして紫。それがこの世界における虹の色だ。けれど万華は7人いるとされており、そのうちの1人がオウマである。でも彼の瞳は藍色だ。虹にはない色だけれど、もしかして条件が揃えば虹色に輝くのだろうか。
疑問が顔に出ていたらしい。彼はクスッと笑った。
「あぁ、この世界で虹は6色なんだっけ? でも俺がいたところは虹は藍色も含めて7色、だから万華も7人なんだ」
「アンタの故郷って幸国?」
曖昧に笑われた。もしかして私の言い方が面白かったのかもしれない。
「ふーん、でも万華って仲が悪いんだ」
偽善の悪意って述べるほどだからそうなのだろう。口にすれば彼もまた軽く肩を竦めた。
「半々かなぁ。赤とは結構仲良しだし、緑は嫌いじゃないけど黄色の狂信者みたいなものだしなぁ……」
「私の目は紫だから、私は紫?」
「そうなるね」
「もし私が万華なら、オウマの味方が増える?」
「おや、味方になってくれるのかい?」
「アンタは助けてくれたから」
なにがあろうとそれだけは変わらない事実だ。彼がよほどそぐわない道を歩まぬ限り、彼に寄り添いたい気持ちはある。私の言葉にオウマは蕩けるような笑みを浮かべた。
第3章、開幕です! ここまでお読みいただきありがとうございます!
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