第14話.好奇心の先に待つもの
それから私とソルフィは色んな屋台を見て回った。
龍桃国の主食だという肉まんじゅうを食べたり。幸国でよく飲まれているという『マッチャ』をミルクで割った物を飲んだり。ズイエリ国のおやつらしい『キュロンク』っていう花びらが入った透明のプルプルした物を食べたり。とにかく食べたり、飲んだり。途中からソルフィの顔色が悪くなっていたけれど、私は初めて知る食文化にすっかり夢中になっていた。
各国の文化が集まっているとだけあって、カロンの屋台は全く飽きないな。次は可愛らしいお姉さんが焼いているトゥローのステーキを食べよう!
「うっぷ……あ、アイロ、ちょっと休憩……」
見るとソルフィの顔はこれでもかと蒼褪め、今にも吐きそうな顔をしていた。
どうやら人混みに酔ってしまったらしい。確かに油っぽい匂いや甘ったるい匂いなどが混じり合う人混みは腐敗した1つの生き物のようだ。幸いにも広場みたいなところに辿り着いたため、私達は休憩することにする。
近くで売っていたレモン炭酸飲料を買って差し出せば、彼は引き攣った笑みを浮かべた。
「……も、もしかして今俺、た、試されてる……?」
「? アンタもこっちの『超スパークリング チア種ティー』がよかった?」
「いっいやいやいやっ、遠慮するよ!? 買ってきてくれてありがとな!」
「アンタの金だから気にしないで」
悲鳴にも似た声を上げる彼にカップを渡し、隣へ腰かける。
辺りを見ると私達と同じような人達がいっぱいだ。1つのクレープを仲良く分け合う男女や、女に膝枕してもらっている男。柔和な笑顔で言葉を交わす老夫婦。見ているだけで心温まる光景だが、建物と建物の隙間にある道はやけに暗かった。
日陰というのもあるが、淀みが漂うところをみるによくない場所なのだろう。華やかな分、闇のも部分も深そうだ。ぼんやり見ていると、ソルフィが申し訳なさそうに言う。
「ご……ごめんな。案内してやるって、行ったのに……な、情けないよな」
「ソルフィはたくさん案内してくれた」
心なしか言葉が流暢になっているのも距離が縮まった証拠だ。私としては目を見て話したいのだが、よほど恥ずかしがり屋なのか目が全く合わない。心なしか頬も赤いし、ひょっとしたら無理して案内してくれたのかもしれなかった。
「楽しいから気にしないで」
お礼も込めて述べれば、彼はホッとしたように笑う。
「……よかった。俺、アイロが初めての後輩だから……な、なるべく力になりたいんだ。俺もみんなにそうしてもらって……嬉し、かったから」
「そう」
「ふ、不安だよな……記憶も失ったばかりか、お、俺らみたいな奴等と一緒に行動、することになって」
遠慮がちに言われたのはそんな言葉だ。気が付いたら闇競売に売られてて、おまけに記憶も失われている。かと思えば国際手配をかけられている連中と半ば道連れ状態で行動することになったのだ。確かに傍から見れば不幸かつ不憫だろう。だが私はオウマ達のおかげでこうして自由の身になれたのだ。そのうえカロンを案内してもらっているし、不安も何もない。
「……アイロは強いな」
素直に思ったことを伝えれば、ソルフィは再び笑う。
「お……俺、頼りないかもしれないけどさ。でも遠慮しないでなんでも言って欲しいんだ。今は不安とかないかもだけど、も、もし記憶が戻ったら……その、嫌なことも思い出すかもしれないだろ?」
「嫌な記憶?」
「たっ、例えばの話! ……どんなに強くっても、辛いときは絶対あるからさ。だから、そん時は……お、俺が支えてやるから」
言っている途中から顔が真っ赤になり、最終的に彼は炭酸飲料を一気飲みしていた。ソルフィの行動は正直意味が分からないが、私を気遣っているのは分かる。街を案内してくれたことといい、他人をおもんばかる優しい人のようだ。
初めての後輩だから、にしてはちょっと甘いかもしれない。でも素直に嬉しい。
「ありがとう、ソルフィ」
つい彼の掌に手を重ねてしまえば、彼は耳まで真っ赤になり――そして、一瞬にして蒼褪めた。
「ごめ……ちょっと、トイレ…………」
「え?」
そう言うなりソルフィは口元を押さえながらフラフラと行ってしまった。
もしかして触れたのがマズかったのだろうか。ちょっとショックを受けつつ、飲みかけの炭酸飲料を口にする。うん、レモンの味とシュワシュワが胃にガツンとくる感じだ。チア種も美味しかったし、彼が戻る前にもう一杯飲もう。
返し損ねたソルフィのお金で今度は『辛さがクセになる! ハバネロスパークリング』を購入していると、不意に生温かい風が吹いた。
それは自然の風というより、何かの息遣いのようだ。通り抜けた先に視線を向けていると、路地裏の闇が私を手招いている。
淀みを見るかぎり、あそこも良くない場所だ。でも不思議と興味を惹かれ、行かなくてはという使命感すら湧く。すぐ引き返せば問題ないだろう。好奇心に心はあっさり傾き、私は誘われるがまま路地裏へ入った。
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