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異世界は壊すためにある!  作者: 加賀瀬 日向
第1章 絡み手繰り合う糸
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第9話.オレ達の名は


 色彩豊かな花々が咲き誇る庭園のど真ん中を、赤い橋が貫いていた。

 空は明るい。だが本物ではないことはすぐに分かった。何故なら目を凝らせばうっすら線が入っていたから。空が偽物だと知れば海のように広がる花々も本物なのか分からなくなり、今の状況すら現実のものか曖昧になりそうだった。


 何処までも続く橋を歩いていくと、唐突に扉が現れる。

 景色の中にポツンとある平面の扉だ。オウマが手を触れるとぐにゃりと視界が歪み、扉へ吸い込まれるように引き寄せられる。瞬きをし終える前に目の前は、打って変わって灰色の材質に囲まれた空間が広がっていた。


 庭の鮮やかさとは真逆の世界だ。温度差で風邪ひきそう。

 空間の中には既に何人かがいた。円卓テーブルに各々腰かけている。その中で私を見るなり腰を浮かしたクライトが、安堵の表情を浮かべながら駆け寄って来た。



「アイロ! よかった、目を覚ましたんだな!」

「おはよう、心配かけてごめん」



 会って1日も経っていないうえにそんなにやり取りを交わした訳ではないのだが、彼は心から心配をしてくれていたようだ。理由は分からないが、心配されるのは悪い気分じゃない。軽く上がった彼の手に軽く手をぶつけ、感謝の意を示す。


「ふん、クライトは心配性なのよ」


 よく見ると室内にはあのプラチナブロンドの髪を持つ少女もいた。鼻を鳴らした彼女は相変わらず冷ややかである。その隣には、彼女の髪に負けないくらい綺麗な髪を持つ少年がいた。


「可愛い……」


 なにか喋った気がしたが、うまく聞き取れなかった。

 前髪が長くて全く目が見えないが、恐らくこちらを見つめているのだろう。彼を見るなり、オウマが意外そうに言う。


「あれ、ソルフィ? 珍しいねぇ、参加するなんて」

「えっ!? あぅ……あ、新しい子が来たって、聞いて……」


 嬉しいと言わんばかりの声に対しけれど、ソルフィと呼ばれた少年は蚊の鳴くような声で答えた。

 光の加減によって橙に変わる朱の髪に縮こまった身体。ビクビクしながら喋るところを見るに極度の人見知りか、対人恐怖症のようだ。新しい子って、私のことだろうか。目が合った気がしたので私は身体ごと彼へ向き直る。


「私はアイロ、アンタは?」

「ひぇっ……そ……そ、ソルフィ……」


 誰が見ても分かるくらい震え上がった少年だが、蚊の鳴くような声ながらも応じてくれた。よかった、ここで怯えて声も出されなかったらちょっと悲しい。自己紹介が終わったことを確認したらしく、オウマはニコニコ笑いながら両手を合わせる。


「ふふっ、ソルフィとさっそく打ち解けてくれたみたいでよかったぁ。他にも仲間はいるんだけれど、今はお使い中だからまた後でね」

「分かった」

「自己紹介が終わったのならさっさと始めましょうオウマ、時間は有限だもの」

「そうだねラーナ。『時は金なり』だ」


 クスクス笑いながらオウマはテーブルへ向かった。私を促したクライトもまた後に続く。オウマ、クライト、ラーナ、ソルフィ、そして私。円卓テーブルに各々が揃ったところでオウマは凪の笑みを唇に灯した。



「さてと、じゃあ半数以下だけど早速始めようかな。まずは改めてようこそアイロちゃん、この度は誠に大変でしたねぇ」



 同情するような口振りだが全くそう思っていないような声色だ。穏やかな微笑みもやっぱり底が読めない。今はひとまず出方を探ろうと様子を窺っていると、彼は右手を軽く振る。


「キミが捕らわれていた場所は各国のお偉いさんがたが集まる闇競売会場、界隈ではちょっとした有名な催し物さ。ちなみに今回出品されていた憐れな商品達は軍警サマが保護し、適正な治療を受けたのち元いた場所に帰されるだろう……彼女は信頼できる」

「アンタがセオリッテって呼んでいた人?」

「そっ、彼女とはちょっとした腐れ縁でね。死んでも俺達を捕まえ殺そうとしてくるとんだお茶目さんなのさ」


 軍警に追われるばかりか殺そうとされるなんて、よほどの罪人でない限りあり得ない話だ。自分を殺そうとする相手のことをちょっとした友人のように話す彼の神経も異常だが、平然とそれを聞くクライト達もまた『普通』ではないらしい。私は今、とんでもない場所にいるようだ。

 でも捕らえられていた人達が無事なのはよかった。

 ホッと胸を撫で下ろしていると、ソルフィが口を開く。


「れ、例の主催者は参加していなかった……司会者に吐かせようとした、んだけど……ぐ、軍警の乱入で身柄すら拘束できなかった。ごめんなさい……お、俺がもっとしっかりしてれば」

「構わないよソル、我等の目的は既に達成された。後は向こうからやって来てくれるのを待つばかりさ」

「アンタ達は何者?」

「よくぞ聞いてくれました!」


 恐らく目的は私だろう。だがその理由を聞くには彼等の正体を聞く必要がある。

 会話に割り込むような形で問いかけた私に対し、待ってましたと言わんばかりにクライトはテーブルへ飛び乗った。



「オレ達こそが各地に散らばった神の欠片(神骸)を集めるギルド、神葬だ!!」



ここまでお読みいただきありがとうございます!

「面白い」、「続きが読みたい」と思った方は、是非ブックマークや評価などよろしくお願いいたします!

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