深淵より出でし〝白〟
図らずも壊滅を招いてしまった数人の竜騎兵たちを。
頭ごなしに責める事など、誰にもできないだろう。
……何故? と思う者も居るかもしれない。
この数名が警告していれば、もしかしたらアズールやシエル以外にも迷宮からの帰還が叶った者が居たかもしれないのに。
だが、それでもやはり彼らを責める事などできはしない。
どうせ警告などしたところで。
何の意味もなかっただろうから──。
★☆★☆★
どちらが先に必殺の一撃を放つ事ができるかという、竜騎兵たちと迷宮を護る者との駆け引きの中。
先んじたのは、まさかの竜騎兵たち。
『総員!! 斉射ッ!!』
『『『応ッ!!』』』
『『『GOOOOAAAAッ!!』』』
アズールも含めた86名、及びその竜騎兵たちが駆る竜化生物86匹全員が魔力の充填を終え、【騎行術:飄石】によって各々の武器に纏わせた息吹を武器の形のまま投擲し、それに合わせて竜化生物たちも改めて全力の息吹を放つ。
しかし当然、迷宮を護る者も負けてはいない。
『〜〜ッ、S"HIIIIIC"AAAA……ッ!!』
普段は迷宮を彷徨う者の統率の為に迷宮中へ伝播させている分泌物質の生成に使用する魔力の一部を削り、あと5秒は必要な筈だった魔力の充填を一瞬で終わらせ。
眼前どころか口内へ侵入寸前だった86名と86匹、合わせて1 72の魔力と迷宮を護る者の〝特殊な息吹《特殊》〟が今、衝突──。
──……する事は、なかった。
何故なら、2つの力が衝突するよりも早く。
『何だ……ッ!?』
『F"Iッ!?』
深淵の更に奥、漆黒の闇しか存在しない筈の奈落から。
あまりに強く大きく、そして見惚れるような美しさすら兼ね備えた魔力を誰より早く感じ取ったアズールと迷宮を護る者。
アズールが顔ごと、そして迷宮を護る者が視線だけを向けて何事かと確認しようとした──……その瞬間。
『──WHITE』
『『ッ!!』』
『『『……ッ!?』』』
小さな小さな、されど確かに全員の鼓膜を揺らす鳴き声が響き渡ると同時に、【|騎行術:飄石【ライダーズスリング】の発動に集中していた部下たちや竜化生物たちはもちろんの事、『何かが来る』と覚悟していたアズールや迷宮を護る者さえも目を見張る中。
〝それ〟はポッカリと口を開けて、あまりにも強く、あまりにも大きく、そしてあまりにも美しい純白の光を吐き出した。
『ッ、回避──』
もはや〝壁〟と称した方が正しいのではと思えてしまうほどの圧力で押し寄せてくる膨大な威力と規模を併せ持つ息吹に、それでも完全に生の可能性を諦めてはいなかったアズールは、この距離だと全員の生還は不可能でも何人かくらいはと願ったがゆえの指示を出すべく力の限り叫ぼうとしたが。
『『『────ッ』』』
……時すでに遅く、アズールが指示を出すよりも早く決死の回避行動を取っていたシエルと、あの白い光についてを報告こそせずとも嫌な予感だけは抱き続けていた為に前もって躱す事ができていた3名の部下を残し、それ以外の82名と86匹は断末魔すら上げる事もできずに光の中へ呑み込まれて──その命を散らした。
その後、多量の淡水を押し除けて直線状に進んでいた為に巻き起こってしまった激流の影響で、せっかく回避できた部下の内の1人は手綱から手を離してしまい、溺死してしまっており。
どうにか助ける事もアズールとシエルならできたかもしれないものの、あいにく──兵長としてはどうかと思うが──それどころではなかったのだ。
『あ、アレはまさか……そんな、偶然が……ッ』
何せ、その純白なる息吹が放出された先にいた存在は。
少しでも竜化生物と関わる事のある人間であれば誰もが知っていて、されど7〜80年という長いとも短いとも言い切れない生涯では遭遇する事さえないかもしれないという稀少種だった。
──……〝突然変異種〟。
それは、およそ100万分の1ほどの超低確率で地上や迷宮を問わず出現する可能性のある竜化生物側の〝異端者〟。
……いや、〝異分子〟と言った方がいいかもしれない。
現状では7種が確認されており、この世界において最も多くの竜化生物と遭遇し、そして討伐してきていると言っても過言ではないユニでさえ、その内の4種としか相見えていないというのだから、どれだけ稀少かという事は解ってもらえるだろう。
そして、その4種との戦い全てで【最強の最弱職】が幾度となく追い込まれ、いくつもの〝切り札〟を晒さなければならなかったというのだから、どれだけ理外の怪物かという事も解ってもらえるだろう。
その一角が今、アズールと3人の部下の前に現れ。
『……CA、AAR……ッ』
この迷宮の主である筈の迷宮を護る者さえ、一回りどころか二回りも三回りも小さなその迷宮を彷徨う者に対して最大限の畏怖を示すように頭部に相当する部位を垂れ、敬服してみせていた。
ただ現出するだけで、その場の全てを支配する〝白〟。
『──? WHITE?』
『『『『ッ!!』』』』
人は、その白き存在を──。
★☆★☆★
『──……〝白色変異種〟か』
そう名付け、恐れた。