たった2人のSランクパーティー
──碧の杜。
それは、ここドラグハートに次ぐ国力を持つと云われる大国、〝ウィンドラッへ〟に籍を置く、たった2人のSランクパーティー。
ちなみに、ウィンドラッヘの国力が他国と比べて優れているのもドラグハートにおける虹の橋と同じく碧の杜の功績が大きいのだが──……まぁ、それはさておき。
先述した通り、碧の杜を構成するのはたった2人の狩人。
武闘家と商人を派生元とすし、竜化生物を技能で手懐けて戦う前〜後衛の合成職、〝竜操士〟のリューゲル。
神官と盗賊を派生元とし、死者の魂を技能で喚び寄せて戦う中・後衛の合成職、〝死霊術師〟のフェノミア。
……たった2人の、Sランク狩人である。
パーティー申請に必要な人数は『2人以上』、つまりソロでなければいいのだから特に問題はないのだが、当時は随分と国内の狩人協会や王侯貴族は2人のパーティー申請を受けて荒れに荒れたという。
まだ2人がSランクではなく、Bランク狩人だった時。
すでに国内で頭角を現し、Sランク確実だと囁かれていた2人を周知していた国や協会は、『別々のパーティーのリーダーを担わせれば、2つのSランクパーティーが誕生するかもしれない』と考え、それを2人に伝えようとした矢先のパーティー申請。
何故そんな事をと、どうして先に相談してくれなかったのかと、今からでも考え直してくれないかと国からの使者や協会はそれぞれ違う場所と時間で2人に詰め寄ったが、2人の答えは全く同じものだった。
『あいつ以上の理解者が居るとは思えねぇ』
『あの人以上の理解者が居るとは思えない』
そう、国や協会の思惑を大きく超えたところで2人は強く相互理解を深めていたのだ。
結局、無理を押し通して未来のSランク狩人の不興を買うよりも、あれだけ無茶を言ったのに活動拠点としてウィンドラッヘに留まってくれた事を喜ぼうという結論に至り。
それから僅か半年後、ウィンドラッヘに1つのSランクパーティー、互いの髪と瞳の色から着想を得た碧の杜が誕生したのである──。
──……そんな他のパーティーにはない変遷を経ている2人だから、などという理由でスプークを始めとした魔導師たちや神官を除く白の羽衣は驚いているわけではない。
結論から言えば、この2人がこの場に居る事そのものがある種の異常事態なのだが、それが何故かと問われれば。
「な、何故……っ、何故〝首狩人〟がここに!?」
「そうだ、アンタら竜狩人じゃねぇだろ!」
そう。
2人は間違いなく狩人ではあるが。
竜狩人ではない。
その名の通り、国や〝首狩人協会〟が懸賞金を懸けた悪人の〝首〟をクエストという形で狩りに行く、〝首狩人〟。
竜を狩る物たちと、首を狩る者たち。
狙いは違えど同じ狩人である事に変わりはないし、そもそもドラグハートにも首狩人協会の支部はいくつか設置されているのだが。
何故ここに、というスプークの声に同意するような武闘家の発言からも解る通り、2つの組織と、それぞれに所属する狩人たちの関係は決して良好だとは言えない状態にある。
最も大きな理由としては、首狩人が標的するものが必ずしも悪人の首だけではない──という点にある。
基本的に竜化生物の討伐クエストは専門家である竜狩人に依頼されて然るべきなのだが、そうでない場合もあって。
例えば各方々の町や村などを襲撃し、多くの人命を奪った竜化生物の討伐を依頼された竜狩人が、その竜化生物相手に返り討ちに遭ってしまった場合、依頼人はいち早い解決を求めて首狩人協会に依頼する事があるのだ。
もちろんそういった事は日常茶飯事である為、普段は人間相手に振るっている力を竜化生物相手に振るう為の訓練も積んでいるし、クエストとして受ける分には報酬も出るのだから断る理由もない。
だが竜狩人協会としては報酬は得られないわ信用は失うわで堪ったものではなく、そうでなくとも上述した場合以外でもクエストのブッキングが発生してしまう事態もごく稀にあり。
同業者であり、商売敵。
正直、竜狩人協会だけが一方的に損を被る形となっている現状、両者の間にある壁を取り払う事は難しいだろう。
そんな首狩人の中で最高峰の実力を誇るSランクが2人。
表面上では苦言を呈そうとしても、どう足掻いたところで永遠に敵う事はない絶対強者を前にして、武闘家だけでなく神官を除いた白の羽衣全員が慄きつつも警戒を解かぬ中。
「お久しぶりです、碧の杜の御二方。 今日こちらには虹の橋の鏡試合を観に来られたのですよね?」
「そりゃな。 そうでもなきゃ、こんな僻地まで来ねぇよ」
「招待されたからにはねぇ? 元々興味もあったし、ちょうど良かったわ」
一歩前に出た神官だけが全く慄く事もなく挨拶するとともに2人の目的を確認したところ、リューゲルは退屈そうに欠伸をかましつつ、フェノミアは虹の橋のファンクラブが営んでいたグッズ販売で買った『ユニ様LOVE♡』と書かれた団扇で扇ぎながら神官の言葉を肯定する。
属する組織は別だとしても、やはり同じ高みに立つ者のたちの前途は気になってしまうようだ。
「ま、お前らが俺らを嫌ってんのは解るけどよぉ。 今日は同じ目的で来てんだ、仲良く観戦といこうぜ? なぁ?」
「……そう、ですね。 行こうか、皆」
そんなリューゲルが戦士の肩をポンと──ポンというにはあまりに強い圧が掛かっている気もするが──叩きつつ、せっかくだから普段の確執は水に流して一緒に観ようぜと白の羽衣を誘い、比喩抜きで断ればただでは済まないと確信した戦士からの号令に、一行が無言で首肯して歩を進めようとしたその時。
「お、お待ちください! であれば我々も──」
ドラグハートにはない〝魔導結社〟と呼ばれる組織から竜狩人協会へ派遣された以上、与えられた役割がある事は解っているが、それでもユニ以外のSランク狩人との知己を得ておくのは悪くないという下心満載のスプークが名乗りを挙げたものの。
「──お呼びじゃねぇよ、犯罪者一歩手前の屑どもが」
「〝詐欺師〟に改名でもしたら?」
「な、な……っ!?」
2人から返ってきたのは、あろう事か己が最後の希望に向けて放った侮蔑と似た罵倒と、魔導師を名乗る事さえ烏滸がましいと知れという明らかな悪口であり、スプークが突然の誹謗中傷に呆気に取られている間に、2人と白の羽衣は改めて観覧客が集まりつつある竜狩人協会の修練場へと向かう。
「さぁ、観に行こうぜ。 ユニの独壇場を」
虹の橋を纏めるリーダー、ユニの独り舞台を観る為に。
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