【最後の希望】と、他国の──
その後もスプークの饒舌は留まるところを知らず。
「付け加えるならば、あの女の相手はAランクが2人にSランクが1人。 同じSランクである聖騎士はもちろん、あの〝忍者〟と〝賢者〟も単なるAランクではないという事も、あの女の敗北の可能性に拍車をかけている!」
「何様だテメェは……」
ユニと肩を並べるSランクのトリスのみが絶対的な壁となると言うならまだしも、どういう理屈かハヤテとクロマの事までもを『お前たちのような普通のAランクとは違う』と曰い始め、わざわざスプークに言われずともとうに理解していた武闘家は不機嫌な態度を隠そうともせず舌を打つ。
ちなみに忍者は魔術師と盗賊を派生元とする中衛の合成職。
賢者は魔術師と神官を派生元とする後衛の合成職である。
つまり虹の橋とは、前衛のトリス、中衛のハヤテ、後衛のクロマが各々の役割を完璧にこなし、その完璧の中に僅かにも僅かに生まれてしまう針の穴の如き小さな隙を、前衛・中衛・後衛どこでも担えるユニが埋める完璧なバランスのパーティーなのだ。
しかし、Sランクの聖騎士であるトリスはともかく。
Aランクの忍者であるハヤテや、同じくAランクの賢者であるクロマが単なるAランク狩人ではないというのは一体どういう事なのか?
という疑問については、こうして長々と会話を繰り広げている狩人たちや魔導師にとって、もはや再確認するまでもない共通認識となる明確な解答が用意されており。
「貴女なら、それをご存知ですよね? 白の羽衣の〝神官〟殿! 貴女もその1人なのですから!」
それを得意げな顔とともに、それでいてあくまでもボカしたうえで、ここまで一言も話さず沈黙を貫いていた白の羽衣の最後の1人、金色の薔薇の刺繍が特徴的な純白の修道服を召した空色の長髪の美少女に向け、『ハヤテやクロマと同類の貴女ならば』と口にし、それを受けた女神官は緩やかに口を開いて。
「……〝最後の希望〟の事を仰っておられるのですか」
この場に居合わせた誰しもが、そして少しでも狩人についての情報を聞き齧っている者ならば知っていて当然の、ハヤテやクロマ、そしてこの神官も含めた特別なAランクを指すらしい最後の希望という名を静かに、されど確かに底知れぬ実力を感じさせる声音で以て呟いたところ。
「えぇ、えぇ! その通りですとも! Sランクには届かずとも、怪物一歩手前と称して差し支えない魑魅魍魎の類の事ですよ!」
「貴様……!」
「ここは抑えて! 貴方が言ったんじゃない!」
「っ、あぁ、すまない……」
どれだけ強くともSランクには手が届かず、されど化け物である事には変わりないという、あまりにもあんまりな侮蔑の言葉に、つい先ほど『抑えろ』と忠告したばかりの戦士その人が怒りを発露して剣を抜きかけ、それを魔術師が制止するという真逆の展開が繰り広げられていた。
どうやら戦士は神官を憎からず想っているようだが。
……まぁ、それはさておき。
まずは最後の希望について解説しよう。
前提として、最後の希望に名を連ねられるのはAランクの狩人のみであり、その中でも特に優秀で、そして他のAランクとは比較にもならない異質な力を持つ者だけが協会からそう名乗る事を許されている。
ハヤテは、他の追随を決して許さぬそのSPDゆえに。
クロマは、人間の身ではありえぬほどのMPゆえに。
そして、この神官も含めた残りの最後の希望も皆。
その一点特化された絶対的な才能だけを見れば、Sランク狩人さえも上回り得る可能性を有しているのである。
Sランクは怪物、そこは疑いようもない。
普通の狩人では、人類ではどうやっても追いつけない。
だからこそ、彼らは最後の希望と呼ばれるのだ。
世界にたった7人の、実質的な人類の到達点として──。
「あぁ、もう待ち切れませんよ! 私の弟子たちも、その殆どがあの女に浅からぬ因縁を感じていますからねぇ! あの女の醜態を見せてやる事ができると思うと胸が熱く──」
そんな最後の希望に名を連ねるAランクが2人、そしてユニと同じSランクが1人の3on1であれば、いくらユニでも苦戦は必至、敗色も濃厚だろうと声高に、それこそ道行く人々にもユニの無様さが伝わるようにとスプークは叫んだのだが。
それが、彼にとっての仇となった。
「──何でこう学者肌のやつらってのは、どいつもこいつも小煩ぇんだろうなぁ? 〝フェノミア〟」
「仕方ないわよ、〝リューゲル〟。 口先だけでも達者にならなきゃ、取り柄がなくなっちゃうんだもの」
「っ、誰です──……なっ!?」
突如、気持ちよく叫んでいたところへと割り込んできただけでは飽き足らず、あろう事か明らかに己を侮辱する言葉の数々が投げかけられたと悟り、スプークが勢いよく声のした方へ向いた途端、彼と彼が連れていた魔導師たちの表情が驚愕の色に染まる。
「──ま、まさか、貴方たちは……!!」
「嘘だろ、あんたら──」
否、驚いているのは彼らだけではない。
神官を除いた白の羽衣もまた、唖然としている。
何しろ、そこに居たのはユニやトリスと同格の存在。
スプークは、奇しくもここに呼び寄せてしまったのだ。
「──【碧の杜】か!? Sランクパーティーの!!」
「おぉ、よく知ってんじゃねぇか」
「初めまして、魔導師さん。 それと、白の羽衣もね」
個人の狩人としてもユニやトリスと肩を並べ、パーティーとしても虹の橋と同格の功績を持つ、たった2人で構成されたSランクパーティー、碧の杜を──。
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