処罰と威圧
以下が、ユニたちに与えられる処罰である。
◆4人に共通する処罰
・各人が所有している迷宮宝具、最低3つの押収
・虹の橋のファンクラブから受け取っていた入会費や年会費、雑貨の売り上げの一部を、1年間ドラグハートへ寄付
◆トリス、ハヤテ、クロマへの処罰
・1年間、狩人協会を通してのクエスト受理禁止
・1年間、【最強の最弱職】への接触禁止
◆ユニへの処罰
・1年間、伯爵家以上の貴族からの依頼によるクエストに対する拒否権の行使不可
・所有権を取得済みの迷宮、最低5ヶ所の所有権放棄
「──……以上が【最強の最弱職】、貴女と貴女の元お仲間に科せられる処罰となります。 当然ながら拒否権はありません、これだけの愚行を犯したのですから」
「そっか。 まぁ、この程度で済んで良かったよ」
以上、6つの処罰を言い渡し終えたプレシアは相も変わらず無表情ではあるが、やはりどこかユニに対して不満げな様子で睨みつけており、そんな彼女とは対照的に何処吹く風といった様子のユニは己への処罰を〝この程度〟と切って捨てる。
そこらの狩人からすれば、かなり重い──というか今後の活動に支障が出ない方がおかしいほど致命的な処罰である筈ものの。
まぁ、ユニは正真正銘のSランク竜狩人。
そこらの狩人ではないから致命的ではないのだろう。
尤も、〝貴族からの依頼に対する拒否権の行使不可〟だけは少々気に食わない点もあったようだが。
「……私個人としては、もっと重くしてもよかったと思ってるのだけどね。 だって貴女、反省も後悔もしてないでしょ?」
「もちろん。 これは私が望んだ事だからね」
「ッ、貴女ねぇ……! その身勝手な行動のせいで、どれだけの人間が迷惑を被っているか解って──」
そんな中、黙って内務大臣による処罰の宣告を聞いていたファシネはと言えば、ユニと同じく彼女も此度の処罰を〝この程度〟と捉えているらしく、それが罰を受ける人間の態度かとユニへの苛立ちを露わにしていた──。
──……その、瞬間。
──ぞくっ。
「「「「ッ!!」」」」
一瞬、【超筋肉体言語】の【武神術:覇気】すらも遥かに凌駕する人外離れした威圧を感じ取った4人の大臣が瞬時に席を立ち、その威圧を放った者に対して最大限の敬意と畏怖を向けるべく一様に片膝を突く中。
「……」
ユニは、微動だにしていなかった。
……微動だにしていなかったが、それは何も彼女が興味を惹かれ なかったからだとか、ただ単に気圧されなかったからだとか、そういう理由からではない。
むしろ──……そう、むしろ。
ほんの一瞬、時間にしてみれば1秒にも満たないほどの超短時間であるとはいえ、あの【最強の最弱職】が全身を硬直させられてしまうクラスの威圧だったからに他ならない。
それから数秒後、人外じみた威圧感の主が姿を現す。
鎧とドレスを一体化させたような真紅と漆黒の衣服。
睨みつけた者全てを射殺すが如き切れ長の三白眼。
日の光さえ呑み込むような濡羽色と、その内側を濃く染める黄緑色が特徴的な長髪。
そして何より目を惹くのは、ユニはおろかトリスをも上回る長身を誇る女性の身の丈ほどもある金色の〝戦鉾槍〟を、その細く引き締まった右腕だけで持っているという事実。
大臣としても1人の武人としても優秀なサベージでさえ頭を下げないではいられないほどの、その美しさとは裏腹の圧倒的な戦闘力すらも併せ持っているらしい女性は、この会議室に設置されている中で最も絢爛かつ堅牢な造りの大きな椅子に座してから。
「──久しいな、【最強の最弱職】」
ギリギリ女声だと解るほどの底冷えするような声音で以てユニを二つ名で呼ぶ、その高貴な女性こそがドラグハートを統治する女王だと、この国の誰もが知っているというのに。
「1年間ぶりくらいかな、〝ヴァリアンテ〟」
「「「「ッ!?」」」」
サラッと名前で、しかも一国の王を呼び捨てにしたユニを、4人の大臣たちは信じられないものを見たといったような愕然とした表情で見つめるしかなかったとか──。