待ち受ける者たち
一方、特に問題もなく王城へと辿り着いたユニは。
「ゆ、ユニ殿! どうぞ、お通りくださいませ!」
「あぁうん、ご苦労様」
「も、もったいない御言葉を……!」
やたら畏まってくる王城の門兵を軽くあしらったり。
「ゆ、ユニ様……! 今日も素敵です……!」
「ありがとう。 その髪型、似合ってるよ」
「ひゃ、ひゃい! ありがとうございます……っ!」
すれ違う度に黄色い悲鳴を上げる若い女性の使用人たちに笑顔を向けたり手を振ったりのファンサービスをしたりと、まぁ色々ありはしたが。
「到着いたしました、こちらが会議室です。 といってもユニ殿は確か、こちらに来られた事もあるのですよね」
「そうだね、えぇと……」
無事、女王陛下や大臣たちが今か今かとユニを待ち受けているという会議室へ到着できており。
「あぁそうだ、Sランク昇格の承認の儀以来かな」
「となると……もう2、3年前の話ですか」
「うん。 まぁ、だから何って感じだけどね」
(……やはり、常人とは何もかも掛け離れているな……)
およそ2年以上も前のSランク狩人への昇格の際に渋々ながら招聘されて以来だと、この世界の狩人にとっては全てを懸けて望んでも容易には手に入らない栄誉を何でもない事のように語るユニと、そんなユニと己との間にある思考回路の乖離に改めて呆れ返りつつも。
「ではユニ殿、私はこれで。 このように申し上げるのは見当違いなのやもしれませんが──……どうか、ご武運を」
「はは、あながち間違いでもないかもね。 それじゃ」
王族へ向けるような恭しい一礼とともに、一見すると的外れにも思える戦場へ赴く兵士へ向けるような祈りの言葉を送り、もしかすると展開次第では的外れでなくなるかもしれないと苦笑いしながら手を振るユニを見送るアズールを背に、ユニは会議室の扉に手を掛け。
「おやおや、大臣たちが雁首揃えて私を待ち受けてくれるなんて高待遇だね。 ついでに茶菓子なんかも用意してくれてると嬉しいんだけどなぁ」
「「「「……」」」」
扉の奥の広々としつつも粛々とした空間と雰囲気を敢えてぶち壊すかのように、にこやかで人当たりの良い感じで日常会話を繰り広げようとするも、その空間の中心に設置された純白と黄金色の意匠が特徴的な円卓を囲むように座す4人の大臣たちは全く意に介していない。
男性と女性が2人ずつ、それぞれ年齢も身長も服装も全てが異なる大臣たちは、どう見てもユニに対して友好的な感情を向けているようには思えないほど真剣味を帯びた表情を湛えていた。
……かと思えば。
「ユニ、お前と来たらよぉ……」
「ん、何?」
4人の内の1人、かの【超筋肉体言語】にも劣らぬ巨躯と筋量を誇る壮年の男がドスドスとユニへ近寄っていき、その表情と気迫から見るに身勝手な愚行を犯したユニへ鉄拳制裁でもするのかと思われ。
『ユニ様、如何なさいますか?』
「……」
『……かしこまりました』
あの騒動の現場から王城へ向かい、そして会議室へと辿り着くまでの短時間で、とっくに戻ってきていたフュリエルが眼前の巨漢の強さを感じ取り──流石にSランク狩人や最後の希望には劣るが──命令さえ下されれば私がと敵意を剥き出しにするも、ユニが無言で否定的な視線を向けた事で引き下がったその瞬間。
その男は振り上げていた両手をバシッとユニの細い肩に勢いよく置いてから、ニカッと満面の笑みを浮かべつつ。
「神速の乱破と堅牢な化蠍!! 無敵の要塞と最硬の盾!! 無限の魔力庫と水銀の竜巻!! そんで最強の転職士と閃光の奔流ッ!! お前らの鏡試合!! 最ッ高だったぜェ!!」
『な、何ですかこの暑苦しさは……』
叱るどころか、ユニたち4人の鏡試合を観戦した感想をファンクラブの会員でもないのに興奮冷めやらぬといった具合に元虹の橋全員の活躍を語った上で最高の戦いだったと4人全員を称賛し。
普段から見下している下等生物とは少し、いや随分と異なる茹だるような暑苦しさを誇る人間にフュリエルが思わず気圧される一方。
「……それはどうも」
ユニも勢いに押されて、ちょっとだけ引いていた。
圧倒的強者たるSランク狩人たちとの交流が深い分、フュリエルよりは耐性があったからかもしれない。