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もっと遠くに

 ユニとアズールが王城へと向かっていた、その一方。


 あんな事態があったとはいえ、やはり閑散としたままである事に変わりはない王都に所狭しと建ち並ぶ石造の住宅や建造物などの隙間にできた影を縫うように。


「……ッく、は……ッ! もっと、もっと遠くに……ッ!!」


 20代前半ほどで軽装の女性が1人、息を切らしていた。


 その表情からは、焦燥や恐怖しか感じ取る事ができない。


 まだ日が落ちている訳でもないというのに、この女性は何に怯え、そして何からの逃走を図っているのだろうか?


 ……答えは、すぐに解る事となる──。


(何なの、何なのよ……ッ!! 私たちはただ、首狩人バウンティハンターとして賞金首を仕留めに来ただけじゃない……ッ!!)


 そう、この女性は首狩人バウンティハンター


 ランクはB、職業ジョブはLv64の〝修道士モンク〟。


 武闘家ファイター神官プリーストを派生元とし、高いSPD(敏捷性)MND(特殊防御力)を活かして〝最前線に立ちながら己や味方を癒す〟という無二なる戦法で以て戦う合成職アドバンス


 尤も神官プリーストを派生元とするゆえか、ATK(物理攻撃力)が前衛職にしては低く設定されており、ハッキリ言って近接戦闘も回復力も竜化生物を相手にできるような次元のものではなく、どちらかと言えば正しく首狩人バウンティハンター向けの、延いては対人戦向けの職業ジョブである。


 それでもランクやLvを考慮すれば決して弱卒とは言い切れないだろう彼女が首狩人バウンティハンターとして仕留め、大金を得るつもりだった超高額賞金首。


 それこそが。【最強の最弱職(ワーストゼロ)】──ユニである。


 ユニは間違いなく、この世界中に広く知られている最強にして最高の竜狩人ドラゴンハンターではあるものの、その事実と裏腹に彼女の活躍を疎ましく思う者も少なからず存在する。


 ユニが頭角を現した事で活動の場が狭まった同業者。


 わざわざ高い金を支払う必要もないと判断され、その日暮らしさえままならなくなった傭兵マーセナリー


 何も悪い事などしていないのに──当人たちがそう思っているだけだが──ユニが発見した迷宮宝具が広まったせいで詐欺師ライアー呼ばわれされるようになった魔導師ウィザード


 彼女を独占するドラグハートに敵意を向けるあまり、ユニそのものを始末して、ドラグハートの国力を落とそうと企む他国──などなど。


 そして、そういった逆恨みにも似た憎悪や敵意に懸賞金を付けてやれば、どれだけ陳腐な事情が裏にあろうと首狩人バウンティハンターは動き出し、たとえ悪人であろうとそうでなかろうと始末しにかかる。


 ゆえに竜狩人ドラゴンハンター首狩人バウンティハンターは永遠に水と油なのである。


 ……閑話休題。

 

(Sランクの竜狩人ドラゴンハンター、【最強の最弱職(ワーストゼロ)】……そりゃあ強いんでしょうよ、()()雇われ無頼漢(ギグワークマン)】が手も足も出なかったんだし)


 もう結構な距離を離した筈なのに未だ速度を落とさず走り続けていた修道士モンクは、ほんの少し前に大通りで繰り広げられていた竜狩人ドラゴンハンター傭兵マーセナリーの1対1を振り返り、〝あの〟とまで形容するほどの強者として知られていたらしい巨漢の傭兵マーセナリーが赤子扱いだった事実を見て、【最強の最弱職(ワーストゼロ)】は決して虚構の存在などではないと理解してはいた。


 そう、理解してはいたものの。


(それでも私たちなら狩れる、そう信じてたのに……ッ)


 かれこれ5年近くもパーティーを組み、この過酷極まる世界の酸いも甘いも噛み分け生き抜いてきた自分たちならば、きっと最強で最高の竜狩人ドラゴンハンター相手でも──犠牲なしとはいかないだろうが──仕留められる可能性は高い筈だと全員が信じて疑っていなかった。


 しかし結局は【最強の最弱職(ワーストゼロ)】と矛を交えるどころか、そこへ辿り着く前に自分以外の4人は()()()()()()()()()()のだ。


 何故そうなったのかは解らない。


 だが、誰がそれをやったのかは解っていた。


 だから彼女は今この瞬間も全力で逃げている。


 絶対に勝てない相手だと本能で理解したからだ。


「何で、何でこんな事に──ッ!? 眩し……!!」


 今さらながら後悔し、なみなみと溢れ出てくる涙を無理やり拭いつつ、とにかく王都を出ない事にはと門がある方角へと直走っていた彼女の視界が突如、純白の閃光に支配される。


(何なのよ一体、立ち止まってる暇なんてないのに──)


 目蓋を閉じずにはいられないほどの眩耀で思わず逃走を中断してしまった女性が、まるで光の向こうに居る何かが己に姿を見せる為に光量を絞っているかのような露骨さを感じつつも、まんまと釣られるようにして少しずつ目蓋を開けていくと──そこには。


『たかが人間風情が、あの御方を狩ろうなど言語道断。 決して赦される行いではない、そうは思いませんか?』


「さ、さっきの天使……!!」


 4人の仲間を一瞬の内に消滅させた存在、2重の光輪と6枚の白翼を携えた神々しい熾天使セラフィムが彼女を見下ろしていた。


 ……見下していた、と言った方が正しいかもしれない。

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