戦利品とともに、王城へ
あけましておめでとうございます。
新年早々色々ありましたが、天眼鏡は元気です。
本年もどうぞよろしくお願いします。
気絶したヴァーバルや取り巻きたちを警察官が連行し、あわや野次馬たちがユニへ握手だのサインだのを求めようとしていたところを竜騎兵が制し──など色々ありはしたものの。
ようやく落ち着きを取り戻した大通りを今、ユニとアズールは2人並んで談笑しながら歩いていた。
その光景を切り取って1枚の絵画とするだけでも、そこらのBランク級の迷宮宝具を遥かに上回る値がつきそうなものだが──まぁ、それはさておき。
「そう言えば、本当にもらって良かったの? これ」
そう口にするユニの手元で展開された【通商術:倉庫】により顕現した亜空間からは、ヴァーバルが手にしていた筈の大鎌型の迷宮宝具、アダマスがチラリと顔を覗かせている。
譲り受けた訳でもなければ、奪い取った訳でもない。
どうぞ、と手渡されたのだ。
まるで、そうするのが当然だと言わんばかりに。
とはいえ実際、アズールにとっては自明であったらしく。
「はい。ドラグハートでは〝陸賊〟や〝海賊〟、〝空賊〟などを討伐した者に、彼奴らが所持していた武具や金銭、何より迷宮宝具などなどの私有権が発生しますので」
「……あぁ、そういう扱いになるんだね」
ユニが彼をどう思っているにせよ、アズールにとって王都の秩序を乱す者は等しく〝悪〟であり、それこそ陸・海・空を我が物顔で暴れ回る3種の賊と同様に、それらを討ち倒した者に賊どもの所有物全ての私有権が発生するというのがドラグハートの法であると改めて断言し。
こうも頑なだと流石に竜騎兵や警察官に薦めるのは、いくらSランクたる己の推薦でも難しいかと半ば諦めからの溜息をつく一方。
「仕方ない、それならしばらく預かっとくよ」
「? えぇ、そうしていただけると幸いです」
まぁ別にいいか、と己の夢についてを除けば割と移り気な一面も併せ持つユニからの、ふとした違和感を抱かせるような言い回しにアズールは僅かに眉を顰めつつも気を取り直すして一呼吸置き。
「……ユニ殿。 申し遅れましたが、これより王城へとご帯同いただく事になります。 もしも済ませておきたい所用などがお有りなら、もうしばらく猶予はございますが?」
「大丈夫、このまま行こう」
「承知しました。 では、失礼して──」
今回ユニが王都を訪れた理由を元より把握していたアズールからの、まるで執事か何かのような所作による王城への同行願いに、これといった用事も思いつかなかったユニはこくりと首肯し、それを見届けたアズールは軽く頭を下げて、その場を離れる。
何らかの迷宮宝具を用いて王城へ連絡するようだ。
……という事を同じ迷宮宝具の複製品を有している為に理解していたユニが、ひらひらと手を振って見送っていた時。
『ユニ様、放置しておいてよろしいのですか?』
現状ユニにしか姿が見えず、声も聞こえない熾天使のフュリエルが抑揚を感じさせない無機質な声音で、さも排除すべき何かを発見したとばかりの静かな殺意を纏わせながら話しかけてきたが。
「協会の監視の事? いいよ別に、敵でもないしね」
フュリエルが気づいている事にユニが気づいていない訳もなく、おそらく協会総帥に依頼された監視役の狩人だろうと看破していたユニからすれば別に敵意や殺意を向ける相手でもない為、無視していいからと話を終わらせようとした。
しかし、フュリエルがふるふると首を横に振りつつ。
『いえ、そちらもですが……』
何やら意味深な呟きを残してから顔を遠くへ向けると。
ユニは、フュリエルの意図を瞬時に悟り。
「……あぁ、そっちか。 どうせ大したEXPにもならないだろうからって無視してたんだけど──……何人くらいかな」
フュリエルが言いたい事、つまり監視役とは違う別の目的を持つ者たちの視線についてを言及していたのだと察したユニだったが。
だとしても排除する為に浪費する時間や労力と対価が釣り合わないからと敢えて無視していたらしく、ちなみに人数は? とのユニからの問いに。
『5匹ですね』
天使という種族は〝生命〟を感じ取る力が強く、それこそ王都程度の規模であれば人間1人から虫1匹に至るまで正確に生者の居所を把握できる為、あくまで下等生物と見下した上での単位で以て5と答えたフュリエル。
「頼める?」
『御意のままに。 では、失礼いたします』
そして居場所や数まで解ってるなら任せていいかと、どうせ大した旨味もないしと割と投げやりな様子で頼んだユニとは対照的に、フュリエルは恭しく一礼してから光とともに姿を消した。
虫を5匹、消す為に。
「お待たせしました、ユニ殿。 女王陛下、並びに大臣の皆様は城内の会議室へご参集されるそうです」
「了解。 急いだ方が良い?」
「いえ、〝急を要さず〟と」
「そっか。 じゃあ、そうさせてもらおうかな」
そんな中、姿を消したフュリエルと入れ替えになるように戻ってきたアズールが同じように恭しく一礼しながら、もう既に陛下や大臣たちは会議室へと集まりつつあるものの、さりとて急ぐ必要はないという女王からの気遣いを間に受けて、ゆっくり行こうかとアズールを連れ立ち、王城へと向かい始める。
……と、ここでユニは『あ』と何かを思って振り返り。
(あの娘は……まぁ大丈夫か、すぐ戻って来るだろうし)
待ってるねとも、先に行くねとも伝えてなかったなぁと思い返しつつも、どうせ数分で終わらせて帰って来るだろうと思い直し。
一瞬、視界の端に映った〝白炎〟を気にかける事もなく。
再び王城へと歩を進め始めるのだった──。