竜操士ともまた違う
──〝竜騎兵〟。
それは狩人と並ぶ、れっきとした職業の1つであり、その名の通り竜化生物を駆って戦う兵士の事を指す。
そう聞くと狩人の職業の1つである竜操士と何も変わらないのではと思うかもしれないが、そんな事は決してない。
常時発動型と随時発動型、合わせて5つの技能は竜操士のそれとは全く異なるものばかりであるし。
そもそも竜操士と竜騎兵の間には決定的な相違点がある。
それは、それぞれの従える竜化生物が野生の個体であるか飼育下の個体であるかという点。
地上個体か迷宮個体かを問わず、【竜王術:調伏】にて野生の竜化生物をその場で従える竜操士とは対照的に。
代々国ごとの兵団に受け継がれてきた竜化生物たちを従わせる為に研鑽を積むか、もしくは竜化生物と竜化生物の間に産まれた卵から孵る幼生を育てるかの2択で以て竜化生物を駆るのである。
もちろん、そこには技能も魔術も迷宮宝具も必要ない。
必要なのは竜化生物との〝信頼〟、そして〝絆〟。
魔力で縛っていない以上、半端に信頼を積み重ねた状態では反旗を翻される事も往々にしてあるようだが、それはその竜騎兵が未熟かつ信頼の積み重ねを怠ったというだけ。
『GROOOOWL……ッ』
『SQUEEEEAK!』
『CAW! CAW!』
少なくとも、たった今ユニたちの前に現れた3人が駆る竜化生物にそんな様子は見られない事から、おそらく彼らは優秀な竜騎兵であり、そして優秀な竜騎兵に恵まれた竜化生物なのだろう事が窺えるが。
まぁ、それはさておき。
「おい貴様! 何故、我らの問いに答えない!!」
「答えられん理由があるんじゃないか!?」
「大体いつまでそこに居る!? さっさと離れろ!」
優秀なのは間違いないとはいえ、まだまだ若輩者にしか見えない3人の竜騎兵からの恫喝にも似た詰問や指図の数々に。
『無礼な……』
「いいから」
『……はっ』
ユニへの忠誠心ゆえか、フュリエルは彼らに己の姿が見えていないのを良い事に先程も見せた白く輝く炎を一層強く煌めかせたが、それは当のユニに制されてしまう。
仮にも国に、そして王に仕える竜騎兵を害するような真似はSランクの竜狩人であるユニでも避けたいのだろう。
……実際に戦えば100%勝てる相手だとしても。
その後、纏う白炎の勢いとは対照的な冷酷さが見え隠れする熾天使を御したユニは『はぁ』と面倒臭そうに溜息をこぼしてから。
「君たち、〝レアネスト〟所属の竜騎兵だろう? 〝アズール〟は来てる? 彼に用があるんだけど」
「「「ッ!?」」」
彼らが属する組織の名、更には彼らが属する組織の長の名を何でもない事のように口にしつつ、結界の内側に転移するのではなく外側に触れるようにして転移したのは、アズールとやらを呼び寄せる為だったと暗に告げたはいいものの。
「き、貴様……我らが兵長を呼び捨てにするなど……!!」
「あぁ、そうなっちゃうか……失敗したかな」
「今さら悔いても遅い! 【騎行術──」
彼らが王と同等に──……否、場合によっては王よりも深い忠誠を誓っているかもしれない兵長を、どこの馬の骨とも、そして男か女かもハッキリしない何者かが呼び捨てにするなど許せる筈もなく。
その小さな失態を悟ってか、もしくは別の理由からかテンガロンハットを目深に被り直しつつも特に謝罪する様子はないユニの姿に更なる苛立ちを覚えた竜騎兵たちは、いよいよ以て不審者の捕縛に移るべく技能を発動しようとしたが。
「──……先遣隊、何時まで油を売っているつもりだ」
「「「ッ!?」」」
「何の為にお前たちを先に向かわせと思っ──」
それは、その巨躯に似合わず音もなく飛来する梟を派生元とした竜化生物、〝閑梟竜〟を駆る紺碧の長髪と双眸が特徴的な鎧姿の細身かつ長身の男性の一声で遮られてしまい。
ユニへ向けて技能を発動せんとした先遣隊に対し、『本隊に先んじて偵察を』と命じた筈だと鋭い睨みと声音で一喝しようとした男性だったが、その視界に先遣隊が捕縛せんと試みていた不審者──つまりユニの姿が映った瞬間。
「──な、あ……ッ!? あ、貴女は……!!」
「やぁ、アズール」
「〜〜ッ!!」
「へ、兵長……?」
つい数瞬前まで表情1つ変えずに部下を咎めていた筈の凛々しい兵長が、あられもなく動揺を見せた事で先遣隊3人が兵長が抱いているものよりも更に強い困惑の感情を露わにする中。
「そ……ッ」
「そ?」
「総員、敬礼ッ!! 最大限の敬意を示せ!!」
「「「……ッ!? ッ!!」」」
誰よりも素早く、そして音もなく飛ぶ閑梟竜にようやく追いついてきた本隊と先遣隊を含む全員に向けて、アズールと呼ばれた兵長はユニに対して可能な限りの敬意とともに敬礼せよと命じ。
ほんの1〜2秒ほど竜騎兵たちは思考が停止したが、すぐさま右手を心臓の位置に置く凛とした敬礼ができる辺り、やはり精鋭ではあるのだろう事が窺えた。
『少しは見る目のある人間も居るようですね』
「ちょっと過剰だけどね」
……フュリエルも満足なようで何よりである。