離脱を望んでいるのは
今さらですが──
ユニ→18歳
ハヤテ→17歳
クロマ→16歳
トリス→18歳
スタッド→45歳
──です。 参考までに。
ここは、協会長室。
その名の通り、協会長が執務をする為に用意された一室。
商家、貴族、他所の協会長など狩人協会内では来賓を招く事のできる唯一の場である為、下の受付や酒場に比べれば幾分か綺麗で丁寧な造りとなっている。
何であれば、『蛮族どもと同じ空気を吸うなど』と狩人へのクエストの依頼を申し込みに来たのに狩人と顔合わせすらしたくないという高尚なお考えを持つお貴族様の為、2階なのに裏口から直接この部屋へ続く通路があるとさえ囁かれる特別な一室だ。
ゆえに基本的には荒事など起きようもない、そんな一室にて──。
「──何を考えてるんですか協会長!!」
「……声がデケぇよ、〝ハルシェ〟」
ハルシェと呼ばれた青髪ショートの眼鏡っ子が、ばんっと大きな音を立てて執務用の机を叩きながら、どっかりと椅子の背もたれに身体を預ける巨漢に先の一件についてを問うべく叫んだ事で、スタッドは鬱陶しそうにしつつも葉巻に火を着ける。
マッチではなく、指2本による強すぎる摩擦によって着火していたが、そんな事は日常茶飯事である為かハルシェは特に突っ込まず。
「そりゃあデカくもなりますよ!! 全くもう、脳筋というか単細胞というか独活の大木というか……!!」
「おい上司だぞ一応」
「こんな厄介事呼び込んでおいて敬ってもらえるとでも!?」
「……それもそうだな」
一応、1つの町の協会長とその秘書という上司と部下の関係にこそあれど、あのような事態に陥らせておいて何が上司かと本心から辛口に罵る彼女の勢いに押され、スタッドは気まずげにがしがしと栗色の短髪を掻く事しかできない。
事実、騒ぎを止めるどころか虹の橋内の決闘にまで至るように煽ったのは紛れもない彼自身なのだから。
「いいですか協会長! Sランクに認定された竜狩人パーティーは、ドラグハートには1つだけ! 世界って広い範囲で見ても2つしかないんですよ!? もしユニさんが離脱なんてしたら、『Sランクパーティーの保有国』っていう他国への大きな優位点を失う事になるんです! そんな事、国が許すと本気で思ってるんですか!?」
そんな彼に対し、ハルシェは改めて今回の事態の重さを理解させるべく、この世界にSランクの竜狩人パーティーが2つしか存在せず、4人揃って虹の橋であると認定されている以上、ユニが抜ければSランクの竜狩人パーティーは世界にたった1つとなってしまうのだから、ドラグハートがその最悪の事態を【超筋肉体言語】の一言なんかで受け入れる筈がないと豪語する。
実際、現状Sランクの竜狩人パーティーを保有しているドラグハートともう1つの国は、その事実だけで他国からの侵攻を完全にシャットアウトしていると言っても過言ではなく。
その莫大なアドバンテージをわざわざ捨ててしまう事を許容する阿呆が国の中枢に、そして王座に就けるわけがない。
「ったく、解りきった事を長々と……」
「っ! 誰のせいだと思って……!!」
などという事はスタッドとて解っている事であり、単なる脳筋では知識も必要とするSランクになる事などできないと知っていてもなお『長々と』など愚痴られてしまっては反論せざるを得ず、またも怒りを発露させて身を乗り出す中。
「──なぁ、ハルシェ。 お前、本当に解ってんのか? この下らねぇ茶番劇を真に望んでんのは誰かって事を」
「はっ? 誰って……そんなの、あの3人に決まって──」
突如、気まずさも一切なくなった真剣味を帯びた表情と低い声音で以て、そもそも『ユニの離脱』という国とっての最悪の事態を最も望んでいるのは誰なのか理解しているのかと問いかけてきた上司に面食らいつつも、あの幼馴染3人以外に誰が居るというのかと呆れたように答えんとしたのだが。
ふと、ハルシェの口と思考が停止する。
そんな当たり前の事を今この場で彼が問うだろうかと。
もしかしたら、あの3人ではないのではないかと。
他の誰かが望んだがゆえの事態だったのではないかと。
まさか、まさかとは思うが──。
「──そのまさかだ、ハルシェ」
「っ!? まだ何も言って……!」
と、ハルシェの脳内をよぎった憶測はどうやら間違っていなかったらしく、それを年の功から見抜いていたスタッドは己の竜狩人として得物である、メリケンサックのように両手に装着するタイプの【銃】に装填する大口径の弾丸を4つ机に立てて並べた後。
「ユニの離脱を望んでんのは──ユニ自身だ」
「な……っ!? ど、どうして……!?」
その内の1つをかつんと指で弾いて倒し、その弾丸こそがユニであると暗に示したうえで、ユニこそが自身の離脱を誰よりも、あの3人よりも強く強く望んでいるのだの明かし。
あの4人の事を養成所時代から知っていたハルシェとしては、どうしてそんな事になってしまったのかと問わずにはいられず、養成所より更に前となる孤児院時代からあの4人を知っているスタッドに問いかけてみたところ。
「あいつと、あの3人が目指すもんが違ぇからだ」
「目指す、もの……?」
返ってきたのは、何ともふわっとした答え。
確かに『方向性の違い』で解散するパーティーもないではないが、あの虹の橋がそんなありふれた理由で道を違える事があるのだろうかと、ますますハルシェの中で疑念が強くなっていく一方。
「……あいつには、〝夢〟があるらしい。 どうすれば叶うのかも、どれくらいの時間が必要なのかも解らねえ夢が。 その夢とやらがどんなもんなのかは俺も知らねぇが、そんな途方もねぇ夢にあいつらを付き合わせるわけにはいかねぇとでも考えたんだろ多分」
「じゃあ、ユニさんは最初から……」
「虹の橋に籍を置き続けるつもりはなかったんだろうな」
そもそもの前提として、ユニには竜狩人でなければ叶う事のない──否、竜狩人lだとしても叶うかどうかは今となっても解らない夢があり。
その夢が人間という種の短い一生では叶わない可能性がある以上、あの3人を仲間として縛り付けておくわけにはいかないと、いずれは離れねばならぬ時が来ると悟っていたからこそ誰よりも強く離脱を望んでいるのだと。
今回の事は、ユニが言い出すよりも3人の不平不満が爆発するタイミングが先に来てしまっただけなのだと語り終えるとともに1本目の葉巻を吸い終え、2本目に手をつけた彼に対し。
「……本部や国は、認めるんでしょうか」
いかなる理由があろうとも、いち支部の協会長でしかない彼が許したところで狩人協会を統括する本部、及びドラグハートがユニの離脱など本当に許すのだろうかと、ハルシェが改めて独り言のように呟いたのを聞き逃さなかったスタッドは。
「竜狩人協会の上層部だの国の中枢に巣食う腐った貴族だのは反対するだろうが、最終的にゃ認めざるを得ねぇんじゃねぇかな。 そりゃあ多少の処罰は下るかもしれねぇが、あいつは今の女王陛下に心底気に入られてっから」
「そう、ですか……はあぁ……」
Sランクパーティーの保有という優位点や、それらが国や自分たちにもたらす圧倒的な利益を手放す事を、協会の上層部や己の物欲を満たす為だけに国の中枢にしがみつく腐敗した貴族が良しとするとは思えぬものの。
ユニは何故か当代の女王陛下にやたらと気に入られている為、結果的には意外と何とかなってしまうのではというのが彼の推論であり、何の確証もないとはいえ彼の瞳や声音に嘘や動揺を感じ取れなかったハルシェは全てを諦めたように深い深い溜息をこぼしてから。
「……まだ何一つ始まってもいないのに、ドッと疲れちゃいましたよ。 で、私は何をすれば?」
「あぁ、まずは──」
まるで、クエストを2つ3つほど休みなく連続してこなした時のように疲れきった顔を浮かべながらも、すぐさま有能な秘書の顔へと戻った彼女からの指示出し要求に、スタッドもまた協会長としての真剣味を帯びた顔と声音で指示を出し始めた。
鏡試合の為の修練場の貸切。
危険防止の為の〝魔導師〟の派遣要請。
怪我人、及び死者が出た場合に備えた回復職の確保。
国内、及び他国への迅速な広報。
当日ここに来られない者の為の投影、及び記録の準備。
そして、残る1つ──。
「──万事了解です。 ちなみに国への報告は?」
「俺がやる。 当然の責務ってやつだ」
「まぁ、そうですね。 では、私はこれで」
「おう、頼んだぜ」
ある意味では最も重要とも言えるドラグハートへの事の経緯も含めた報告については、スタッドが担わなければならないと自分自身が一番よく解っているのだろう事を表情から察したハルシェは恭しく一礼して執務室を後にした。
「……はあ"〜ぁ……」
その後、スタッドはハルシェとの一連のやりとりだけで2、3歳ほど老けたような気もしなくはないその疲弊しきった顔で溜息をこぼし。
(……これで満足か? ユニ)
13年前、まだ5歳だった頃から今と同じ〝夢〟を抱いていたらしい、子供らしさとらしくなさが共存する歪な表情を浮かべて笑うユニの姿を思い浮かべながら、またも紫煙を燻らせた。
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