認めさせてみろ
ひとたび戦場に立てば、何もせずとも戦況が変わり。
拳を振るえば、たった一撃で全てを粉砕せしめる。
人間の形をした兵器だとさえ呼ばれる男が今、怒りに任せて威圧した目の前の小娘へと視線を戻し、またも様々な観点から苦言を呈すのかと思いきや。
「──と。 まぁ、ここまで色々説教じみた事ごちゃごちゃ言ってきたがな。 俺は許可してやってもいいぜ? ユニの離脱」
「「「!?」」」
「は、はぁ……?」
あろう事か、つい先刻まで『ありえない妄想だ』と切って捨てていた筈のユニの離脱を、まぁ国だの協会の上層部だのは置いておいて自分だけは認めてやってもいいなどという世迷言を曰い始め。
あまりに突然の心変わりに、ハヤテはもちろん何とか意識を保ったまま事態を静観していた狩人や協会員までもが愕然とする中、卓に置いてあったまだ栓を開けていない葡萄酒のコルクを当然のように指で引っこ抜いて呑み干しつつ、あくまでも物理的にハヤテたちを見下しながらスタッドは口を開き。
「俺ぁ腐っても現役のSランク。 おまけに僻地とはいえ、1つの町の協会長だ。 陛下だの協会総帥だのがとやかく言ってきたところで突っ撥ねてやる事も……まぁできなくはねぇ」
「だ、だったら……!」
この広い世界にたった6人しか存在しないSランク竜狩人ともなれば、それこそ下手な貴族以上の権力すらも併せ持っており、そこに協会長という更なる権力が加われば無理を力で通す事も不可能ではない──……と側から見れば何の確証もないのに、どういうわけか自信満々な様子で語る彼に。
ハヤテは怯えながらも僅かな希望を見出し、じゃあ突っ撥ねてくれと頼み込もうと試みたが。
「だがな、タダで認めてやるわけにはいかねぇ。 俺が今から言う条件を、お前ら3人が満たせりゃ俺が全力で国を説き伏せてやるよ」
「「条件……?」」
どうやら、それを叶える為には彼が提示する『条件』とやらをクリアせねばならないらしく、図らずもハヤテとクロマのおずおずとした疑問が揃ってしまう一方。
「捩じ伏せるの間違いだろう」
「はは、言い得て妙だね」
「うるせぇぞ怪物ども──……さて、と……」
言の葉を以て説き伏せるなど、【超筋肉体言語】にこれほど似合わぬものはない、どちらかと言えば捩じ伏せるの方がよほどお似合いだろうと、かたや彫刻のように美しい無表情で、かたや中性的な美貌で微笑みながら目の前の筋肉達磨を揶揄う2人のSランクを怪物呼ばわりしたスタッドは、それはさておきと一呼吸置いてから視線を協会内全体に移し。
「聞け野郎ども!! 3日後の正午、協会の修練場でユニの離脱を賭けた〝鏡試合〟を執り行う! 観覧席も開放すっから、ここに居ねぇ奴らにも教えてやれよ! ドラグハート唯一のSランクパーティー、虹の橋の前途を決める3対1の激闘を!!」
「「「う……っ、うおぉおおおおおおおおっ!!」」」
「は!? な、何を勝手な事言って──」
今度は、【武神術:覇気】で意識を失っていた者たちを強制的に呼び起こす為にただただ大きな声を出し、今日から数えて3日目となる正午に虹の橋の存続を賭けた鏡試合と呼ばれる類の決闘を執り行うと宣言し、それを聞いた狩人たちは最初こそ戸惑っていたが、すぐに歓喜と興奮の声を上げる。
ユニ、トリス、スタッド以外にSランク竜狩人がこの町に居ないのは当然であるものの、何とハヤテとクロマ以外のAランクさえ1人も存在しておらず──Sランクが3人居るといっても僻地なのは事実である為──その殆どがまだBランク以下となっており。
虹の橋が合同でクエストを受ける事も殆どない為、Aランクはもちろんの事、Sランクの戦闘を間近で観られる機会など、ここを逃せば2度と訪れないかもしれない。
誰もがそれを理解しているからこその熱狂の中、勝手に野次馬たちの観戦を許可したスタッドに思うところがあるらしいハヤテが一歩前に出て苦言を呈さんとしたが。
「元はと言やぁ、お前らの身勝手な離脱宣告が原因だろうが。 無理を通してぇなら、こんくらいの事ぁ受け入れて俺にも周りにも──……そんでユニにも認めさせてみろ。 まさか、今さら退かねぇよな?」
「……望むところだ」
「ボクも、それで大丈夫です……」
「〜〜っ! わ、解ったわよ!」
そもそもの話、3人が余計な事を口走らなければこんな事態に陥る事もなかったのだからと責め立てるように──いや、実際に責め立てているのだろう口振りと、今さら拒否なんてできると思うなよという煽り口調により、トリスとクロマが真っ先に受け入れたのを見たハヤテもわなわなと身体を震わせながら返事をして。
「話は纏まった? それじゃあ私は、お先に失礼させてもらうかな。 3日後、楽しみにしておくよ」
「……ふんっ」
その一連の流れを微笑みとともに眺めていたユニは、いつの間にか食べ終えていた料理を前に手を合わせてから立ち上がり、ウェイターに4人分の食事代を支払いながら一時の別れを告げて去っていくリーダーの背中に、ハヤテが気に入らないとばかりに鼻を鳴らす中──。
(一ヶ月ほど前から違和感だけはあったが……やはり見間違いではなかったのか)
トリスだけが、その異変に気づいていた。
(ユニの背後に居る〝あれ〟は──……何だ?)
ちょうど人間1人が間に入るくらいの距離を取り、ユニの背後からふわふわと彼女の後をついていく黒い〝何か〟の存在に──。
『よかった!』、『続きが気になる!』と少しでも思っていただけたら、ぜひぜひ評価をよろしくお願いします!
↓の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてもらえると! 凄く、すっごく嬉しいです!