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一瞬の攻防:裏

 ユニが【通商術:転送(ポータル)】で転移してから数秒後。


「……はッ!? な、何を考えてるんですか協会長ギルドマスター!! お前は自由だとか好きに生きろとか年長者っぽいセリフ吐いてましたけど、その前の攻撃は明らかに要ら──」


 突然の事態に呆気に取られ、『ちょっ』という制止かどうかも解らない言葉以降、一言も喋る事ができなかったハルシェは我に返るやいなや、まだ震えの残る身体を押してでもスタッドが犯した愚行を叱責しようとしたのだが。


 ──ズンッ!


「──……な、い?」


 という鈍い音を立てて、スタッドが崩れ落ちるように片膝をついた事でハルシェの叱責はピタリと止まり。


「ッぐ、げほッ……! あンの野郎、最後の、最後に……ッ」


「ぎ、協会長ギルドマスター!? どうされたんですか!?」


 決して少なくはない量の血液を口から吐き出したのを境に、ハルシェから憤懣やる方ないといった具合の表情は消え、ただただ目の前の上司を心配する部下としての面持ちで駆け寄っていく。


 この状態でも巨躯に感じる彼が手で押さえていた部位を、『診せてください』と口にして確認しようとしたところ。


(……ッ!? 何、この傷……!!)


 そこには、スタッド用にオーダーメイドされた事務服の左脇腹辺りを服の上から内臓に至るまで、さも鋭い槍のような武器で貫いたが如き深い深い傷があり。


「見ての通りの重傷だ……悪ぃが、治してくれるか……」


「は、はい! すぐに……!」


 傷の深さもそうだが、それ以上に相当な痛みを感じているらしいスタッドは脂汗を流しながら、Bランクの神官プリーストでもあるハルシェに治癒を依頼する。


「あ、あの……協会長ギルドマスター? 一体、何がどうなって……何が原因で、いつの間にこんな酷い負傷を……?」


 治すのはもちろん構わないし、そもそも治さないなどという無情な選択肢を採るつもりは最初からなかったものの、おそらくユニが原因なのだろう事は解っていても、それ以外が何も解らないままではスッキリしないハルシェからの神妙な声音での問いかけに。


「……アイツの、【武人術:反撃(カウンター)】だ」


「え? ふぁ、武闘家ファイター技能スキルの?」


 ユニが発動した、武闘家ファイター随時発動型技能アクティブスキルによって傷つけられたのだと未だ重々しい表情と声音で答えるスタッド。


「……ですが、アレは〝受けた物理攻撃のダメージを無効にして跳ね返す〟技能スキルだった筈。 寸止め、したんですよね?」


 しかし、ハルシェの知識にある【武人術:反撃(カウンター)】なる技能スキルは彼女の言葉通り使用者が発動後に受けた物理攻撃を1度だけ無効にし、その物理攻撃で受ける筈だったダメージを同じ威力を持つ物理攻撃で跳ね返す力であり。


 間違いなく寸前で拳を止めていた筈のスタッドが何故、物理攻撃を反射した末のダメージを受けているのかが全く解らず、もしや自分の目がおかしかったのかと確認するかのように質問した。


「……少なくとも俺は、()()()()()()()()()()


「? どういう……」


 すると、スタッドは『あぁ』と頷きつつも明らかな不甲斐なさを漂わせる表情で以て、〝寸止めするつもりだったが、それは叶わなかった〟と暗に答えたものの、どういう意味なのか要領を得ないハルシェはまたも疑問符付きで問い返すしかなくなる。


 そんな部下からの問いに、だいぶ痛みが引いてきたのか表情にも声音にも余裕が出てきたスタッドは深く息を吐いてから。


「あの野郎……俺が寸前で拳を止めるのを見抜いてから、わざわざ半歩だけ前に出て威力を殺し切る前の正拳にテメェの鼻先を掠らせやがったんだ」


「……まさか、【武人術:反撃(カウンター)】の発動条件を満たす為だけに?」


 困惑を露わにするハルシェの言葉通り、ユニはスタッドの真意がどうであれ【武人術:反撃(カウンター)】を成立させ、スタッドに灸を据えてやる為に敢えて拳が当たるギリギリの位置へ前進したのだと説く。


 そう、あの時ユニが立っていた位置ならスタッドの思惑通りの寸止めになっていた筈なのに、1秒にも満たない一瞬でユニが彼の思惑を見抜いたがゆえに起こった事態だったのだ。


 だが、ハルシェにはまだ疑問があった。


「……しかし、解せませんね。 掠った程度の一撃を媒体とした【武人術:反撃(カウンター)】で、ここまでの大きなダメージは出せない筈ですが……やっぱり、これもユニさんが何か……?」


 たかだか鼻先を掠めたくらいの物理攻撃のダメージを跳ね返したところで大したダメージにはならないというのは誰もが知る事であり、ならば何故スタッドは腹筋を貫かれ内臓を破壊され、片膝をつき血反吐まで吐く羽目になったのかという疑問がだ。


 こちらについても、おそらくユニが施した何らかの策によるものだろうと事は解っているのだが、その詳細が解らないと首をかしげるハルシェの問いに、スタッドはやはり無言で首肯しつつ。


「アイツもお前と同じように考えたんだろうな、『これじゃあ碌なダメージは与えられない』ってよ。 だから、わざと俺に状態好化バフを、そんでアイツ自身に状態悪化デバフを付与してダメージを上乗せしやがったんだ。 タチ悪ぃぜマジで」


「あの、一瞬で……」


 あの1秒にも満たぬ一瞬で、ハルシェと同じ考えに至っていたユニは〝強化術師エンハンサー〟の技能スキル状態好化バフをスタッドに、そして〝暗殺者アサシン〟の技能スキル状態悪化デバフを自分に付与する事で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のダメージを、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のダメージへ昇華させたのだと明かす。


 ……詳細な事の顛末は、こんな感じ。


          ★☆★☆★


 ユニへ声をかけて足止めすると同時に【武神術:捨身(ノーガード)】を発動。

            ↓

 机を踏み潰しつつ接近、寸止め前提で拳を振るう。

            ↓

 ユニが持ち前の動体視力で彼の意図を看破。

            ↓

 強化術師エンハンサーに転職、【増強術:攻勢(アタックアップ)】でスタッドのATK(物理攻撃力)に更なる状態好化バフを。

            ↓

 続けて暗殺者アサシンに転職、【暗影術:相殺(スタッツダウン)】で自分のDEF(物理防御力)状態悪化デバフを付与。

            ↓       

 半歩だけ前に出つつ【武人術:反撃(カウンター)】を発動。

            ↓

 威力を殺し切る寸前の拳に鼻先を掠らせ、条件を満たす。

            ↓

 当てる気すらなかった彼の正拳は、ユニ最大の強みである〝指〟の力を前面に出した左の〝手刀〟になって反射され、そこらの盾や鎧より頑強である筈のスタッドの腹筋を軽々と貫通。


           ★☆★☆★


 そして、今に至る。


「……っし、もう充分だ。 あとは筋肉操作マッスルコントロールで治せるからよ」


「そ、そうですか」


 その流れを誰より理解できていたからこそ負傷度合も正確に伝えられ、ハルシェの治療も効率良く進められてはいたが、外傷はともかく内傷についてはスタッド自身が損傷した部位の筋肉を操作して治した方が早いと告げた事で治療はここまでとなった。


 ……普通、そんな事は絶対にありえない。


 技能スキルや魔術で治した方が早いに決まっている。


 しかし彼の場合に限り、そもそも普通の人間とは肉体の構造そのものが──正確には筋肉そのものの質が全く異なっている為、自分で治した方が早いというか、それが最適解まであり。


(やっぱり、この人もSランク(化け物)ではあるのよね……)


 抜けているところもあるが、やはりスタッドもユニやトリスと同じSランク、普通の人間では辿り着くどころか目指す事さえ満足にできない境地に至った化け物なのだと改めて戦慄しながらも。


「……というか、どうするんですかコレ。 修繕費は協会長ギルドマスターの給料から天引きするとしても、しばらく使えませんよ」


 だからといって、その化け物が執務室である協会長室マスタールームを自らの手で破壊したという事実を秘書の立場としては突っ込まないわけにもいかず、『全額、協会長ギルドマスター持ちですからね』と溜息をこぼし。


「わぁってるよ。 ったく、昔っからそうだ。 アイツらに関わろうとすると碌な事にならねぇ──……まぁ、つっても」


 そんな事は言われなくても解っていた彼は、ハルシェに負けないくらいの深く大きな溜息をこぼすとともに、ユニを始めとした虹の橋(ビフレスト)──……失礼、〝元〟虹の橋(ビフレスト)関連で過程も結果も彼にとって良好だった事など殆どないと愚痴をつきながらも不敵に笑い。


「一矢は報いてやったがな」


「え?」


 とても重傷を負わされていた身とは思えないドヤ顔を浮かべて要領を得ない呟きをこぼす上司に、何度目かも解らない疑問を抱くハルシェだった。











 一方、虹の橋(ビフレスト)の拠点を去って独り別の宿に部屋を取っていたユニは、その長身が収まり切るくらいの大きな姿見の前で。


「……いったいなぁ、もう」


 少しだけ赤くなっていた鼻先に回復の魔術をかけ、1度だけ物理攻撃のダメージを無効にする筈の【武人術:反撃(カウンター)】を、あろう事か高すぎるATK(物理攻撃力)で無理やり貫いてヒビを入れられていた鼻骨を一瞬で治療しつつボヤいていた。


 あの〝力馬鹿ちからばか〟め、と──。

『よかった!』、『続きが気になる!』と少しでも思っていただけたら、ぜひぜひ評価をよろしくお願いします!


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