黄金竜の世代
魔術師と、賢者。
最初期から誰もが選べる基本職と、魔術師及び神官のLvを30まで上げなければ解禁すらされない合成職。
技能によるMP消費量が魔術師の方が圧倒的に少ない事や、INTやSPDに限って言えば魔術師の方が上という事を踏まえれば完全下位互換とはならないが、やはり基本職と合成職の間には筆舌に尽くし難いほどの大きな壁がある。
もっと言うと、賢者は就いた直後から自然と内在するようになるMPの総量の大きさや、【賢才術:万能】による〝手札〟の豊富さから〝最高の後衛職〟として位置付けられており。
基本的には魔術師が賢者を凌駕する事は殆どない。
その壁を超える為に重要となる要素こそが──。
──〝適性〟。
狩人のみならず、この世界を生きる全ての人間と切っても切り離せない、生まれ持った才能を示す値。
クロマにおける魔術師、神官、賢者の適性はS。
無論、【魔の理を識る者】も同様だ。
では、どこで圧倒的な差が生まれているのか?
ユニにもある、〝能力値に表れない強み〟である。
クロマの強みであるところの〝共感覚〟や〝星の心臓との繋がり〟とて、この世界の誰にも真似のしようがない唯一無二の強みではある筈なのだが、それでも【魔の理を識る者】のみが辿り着いている境地に彼女が至る事はできない。
「──む、無理だよ、そんなの……! ボク、まだAランクだよ!? あの【魔の理を識る者】にしかできない事がボクにできるなんて、そんな……!」
それを誰より自覚しているのがクロマ本人であり、
……ただ、それだけが理由かと言うとそうでもない。
もう1つ、絶対に無視できない理由があった。
(そう……そうだよ、ボクにできるわけない──……世界に10人しか居ないSランクの中でたった2人、ユニと肩を並べるあの魔術師の技術を真似るなんて、ボクには……ッ)
そう。
Aランクの中に最後の希望と呼ばれる最上位の狩人たちが居るように、すでに全狩人の頂点に立っている筈のSランクの中にも頂を超え、まさに竜が如く飛翔する者たちが居る。
狩人という職が存在を確立してから、ただの1度も 2桁に到達する事はなかったSランク狩人の人数が、ユニとトリスの加入で10人となった事は狩人協会のみならずドラグリアにとっても歴史的な快挙であり。
元より広く周知されていた最後の希望と同じように、Sランクにも更なる最上位の強者して名を連ねさせ、それを公にする事で殉職者が絶えない狩人という職への志望者を増やしたり、Bランク以上に昇格して以降『もう充分だ』と停滞してしまう者たちを奮起させたりと様々な思惑が交差する中。
協会によって選定された3人の狩人はドラグリア全土で──。
──〝黄金竜の世代〟と呼ばれるようになった。
その内の1人が【魔の理を識る者】。
そして、【最強の最弱職】──ユニもその1人である。
もう1人は残念ながら【魔の理を識る者】と同じく、この場には居合わせていない為──……まぁ、おいおい。
間違いなく世界最強の1人に数えられるSランク最上位の魔術師にしか成し得ない技術を模倣するなど、いくら星の心臓との繋がりという絶対的な唯一性を持つクロマでも不可能だ。
それは、この場に居る全員の共通認識である。
ただ1人、【最強の最弱職】を除いて。
「言ってしまえば知恵の輪の要領さ、クロマ。 どれだけ時間をかけてもいいから、ゆっくりと竜化の因子を解いていけばいい」
「ち、知恵の輪って、簡単に言うけど……っ」
それを証拠にユニの瞳や声にはほんの少しの動揺も見られず、クロマなら絶対にできると信じて疑いこそしないものの、多少なり助言は必要だろうと知恵の輪を解く要領で──と告げたが、クロマは全く以て納得している様子はなく。
「っ、ていうか! 仕組みが解ってるなら、ユニにもできるんじゃないの……!? それなら、ユニがやった方が──」
何ならユニがやった方が絶対良いし、あの男の子の為にもなる筈だという、ユニ以外の者からすれば正論としか思えぬ反論を投げかけるクロマに対して、ユニは首を横に振り。
「それじゃあ意味がないんだよ。 私が居なくなった後も、そう言って逃げ続けるのかい? 『ユニがやれば』、『ユニが居れば』って」
「っ、それ、は……」
「ねぇ、クロマ──」
何の為に、そして誰の為に、あの男の子の望みを叶えるのか──それをまだ理解できていなかったクロマを諭すべく、ユニは己が離脱した後のクロマ自身の振る舞いについてを言及するとともに、ずっと誰かの陰に隠れ続けるままでいいのかと真剣味を帯びた表情で問うも、まだ煮え切らない様子のクロマに。
「──私の指示が、私の言った事が1度でも間違ってた事があった? 思い当たる節がないなら、信じてごらんよ。 私を信じる君自身を」
「……!」
これまでパーティーを組んで活動してきた中で、もし1度でもユニの指示が間違っていたと思う事があったなら辞退してもいいが、そうでないならユニの指示には信が置けるという事という事の何よりの証明であり。
そんなユニを信じる自分を信じてあげてほしいという、いかにもな美辞麗句にも今のクロマは感銘を受けてしまうほど精神的に磨耗していたようで。
「……っ、やる……やって、みる……!」
「その意気だ。 じゃ、頑張ってね」
震える手をカドゥケウスを強く握る事で誤魔化しつつ、ようやく覚悟を決めたクロマに微笑んだユニは、その小さな背中を軽く押して一歩前に進ませた。
まるで、親が子供の成長を願うかのように──。
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