君がやるしかないんだよ
──【魔の理を識る者】。
それはユニやトリス、スタッドや碧の杜の2人と肩を並べる正真正銘のSランク竜狩人の1人に与えられた二つ名。
彼──とユニが呼んだ事から性別が男なのだろう事は解るが、それ以外の情報となると職業が基本職の1つたる魔術師であるという事くらいしか狩人たちは知らないらしい。
何しろ彼は、表舞台に決して出てこないのだ。
……出てこられないという表現の方が正しいが、それはさておき。
1つか2つくらいしか情報がないのに、それでも新米から熟練まで、あろう事か狩人ですらない者たちにも二つ名だけは知られているのは、Sランクの中でも飛び抜けた唯一性を持っているからだ。
彼は、魔術師なのに魔術を扱わない。
精霊を利用する魔導師とも違い、魔術を行使する為の技能を持っているのに扱わない。
いや、正確に言えば扱う必要がない。
空想が、そのまま現実のものとなるからだ。
……何を言ってるんだと思う事だろう。
だが、それ以上でも以下でもない。
彼は魔術や技能を使わぬまま、魔術や技能で可能な事以上の事象を内在、及び外在する魔力を用いて引き起こす事ができる。
ユニの強みである〝神経信号の伝達速度〟と同じく、一切の時間差すらなく思い描いたものを即座に実現できるのだ。
まさしく魔術の──否、魔の申し子だと云えよう。
竜化生物を、竜化病に罹る前の姿に戻すというのも世界で彼のみが成し得る偉業の1つであり、この場に彼が居ればミケも容易に助かっていただろうが、そんな事を言っても居ないのだから仕方がない。
「クロマは、【魔の理を識る者】にMPの総量で勝る唯一の狩人──……いや、唯一の生物。 足りない質や技を量で補えば、〝迷宮でPOPした〟という事実を上書きする事も理論上は可能な筈だよ」
「む、無理だろ、そんなん……!」
ユニは、そんな【魔の理を識る者】にしか今のところ不可能な所業を、クロマに代行させようとしているのだ。
事実、ユニの言う通りクロマは【魔の理を識る者】をMPの総量で上回る唯一無二の生命体であり、もちろん空想を現実になんて人外じみた事はできずとも星の心臓と繋がりを持ち、MPが絶対に尽きない彼女なら質も技も何もかも、足りない全てを無限の魔力で補えるのではないか。
ユニは、そう判断したのである。
当然それを聞いていた狩人たちは首を横に振る。
そんなのは都合の良い妄想でしかない──と。
しかし、クロマとの付き合いが長いユニからすればそうでもないようで。
「あの引っ込み思案な性格と、独りじゃ何もできないと思い込んでる卑屈な心さえ矯正できればクロマはとっくにSランクになってる。 これは絶好の機会なんだ。 ラント、あの娘に任せてもいいかな」
「……っ、は、はいっ! お願い、します……!」
ハヤテもそうだが、Sランクと認定するには足りないものが1つか2つしかないという時点で、クロマはとっくにSランクの器ではあるのだから、こんな絶好なる飛躍の機会を逃す手はないと確信するユニからの問いに、ラントは覚悟を決めて頷く。
そして、ユニは再び修練場へ【通商術:転送】で帰還し。
「今のやりとり、聞いてたね? クロマ。 そう、君がやるしかないんだよ。 その鈴猫竜を普通の猫に退化させるんだ。 元々、竜化生物としてPOPした鈴猫竜を」
「ボク、が……?」
鈴猫竜を規模の小さな下級魔術で牽制しつつも、おそらく聴力を高める魔術で会話を聞いていた筈の──表情から一喜一憂しているのが見てとれた為──クロマに改めて指示を出す。
鈴猫竜を、真の意味でに〝ミケ〟にしてみろ──と。
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