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竜化世界で竜を狩る 〜天使と悪魔と死霊を添えて〜  作者: 天眼鏡


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真っ当な成長を望まぬ者

 対象とした味方が受けるダメージを【護聖術:仁王(セルフサクリファイス)】で一身に受けようとしていた聖騎士パラディンと、分身や丹力チャクラにて契約を交わした生物を使役する事で幅広く戦場を俯瞰していた忍者シノビ


 まさに、ここからが与えられた役割を果たすに相応しいタイミングだという場面で前衛と中衛の要を失った狩人ハンターたち。


 だが、それでも──……否、()()()()()彼らはひた疾る。


 マリアを始めとした【白の羽衣(スワンクローク)】を救う為?


 陣形の中心に居る生粋の殺人者を護り抜く為?


 ……もちろん、それもあるだろう。


 しかし今、彼らを動かしているのは他でもない──。


 ──はし、れぇッ!!


 己の死を気にも留めない聖騎士パラディンによる、心からの鼓舞。


 彼の仲間たちはもちろん、ともすれば彼らを『雑魚』と見下していた【紅の方舟(ナグルファル)】さえ心を揺さぶられたあの叫びに加え、そこへ追い討ちをかけるかのように訪れた忍者シノビの死は。


 幸か不幸か、一行の戦意に火をべた。


 そして、それはサレスについても同様であったらしく。


(何だろう、この気持ち……もう誰にも死んでほしくない)


 これまでの自分ではあり得なかった〝義侠〟ともいうべき感情が溢れ出し、さも正義の味方かのような思考に捉われ。


(一刻も早くあの天使を殺して、皆を生かすんだ……!)


 殺意こそ弛んではおらずとも、ホドルムへ向けた時のような無差別極まる殺人者の思考が消えかけているのを感じる。


 ……が、しかし。


 そんな少年の至極真っ当な成長を望まぬ者も居た。


(やっぱり単独で当たらせた方が良かったかなぁ)


 そう、【最強の最弱職(ワーストゼロ)】その人である。


(これじゃあ、サレスは〝布石〟にならない……とはいえ私が危機を演出するのも違うよね、どうやっても不自然になるし)


 どうやらユニは、サレスを元仲間の3人同様ユニ自身の夢を叶える為の〝布石〟としたかったらしく、それには仲間殺しさえ厭わぬほどの異常性──もっと言えば、Sランクに到達し得る〝超常の殺意〟を持ってもらう必要があるようで。


 今のままでは単なる〝味方想いの暗殺者アサシン〟止まりの半端者になってしまう、そう解っていてもユニが割って入ってしまうと手を抜こうが抜くまいが一瞬で終わらせる事になる為。


(……癪だけど、〝アレ〟に期待するしかないか──)


 こうなってはもう、あそこに倒れたままの()()()()()()の覚醒に頼る他ないと如何にも不満げな表情で溜息をつく中。


「──(い")……ッ!? てぇなぁクソぉ!!」


「腕が……!! 【神秘術:治癒(ヒールスペル)】──」


 とっくに脱落した聖騎士と肩を並べて最前線を駆けていた魔剣士キャバリエの右腕が、ごく僅かな隙間から現れた触手に喰われ。


 魔剣士キャバリエの要であるところの【剣】だけは咄嗟に持ち替えた事で失わずに済んだものの、これほどの重傷を負った仲間を放置するわけにはと神官プリーストが回復技能(スキル)を発動せんとするも。


「──MP(魔力)の無駄遣いはすんじゃねぇ! 俺たちはもう何が何でも【輪廻する聖女(セイントオブオラクル)】を救うしかねぇんだよ! 回復なんざ二の次! 全MP(魔力)を防御と迎撃と移動に費やせ! いいな!?」


「〜〜ッ、了解……!」


 当の本人からそう言われてしまえば、了承する他ない。


 事実、彼らはすでに満身創痍。


 HP(体力)ではなくMP(魔力)が底を尽きかけ、能力値ステータスには表れない精神力も限界寸前まで削られている以上、部位欠損のみならず次の瞬間には新たな犠牲者が出てもおかしくない極限状態。


 ……否、次の瞬間どころか──。


「──……ッ!! 危ねぇ!!」


「え……」


「ぐ、あ"……ッ」


「あ……ど、どうして……!」


 逃げ場の一切ない攻撃を仕掛けられ、その狙いが死霊術師ネクロマンサーにあると真っ先に見抜いた武闘匠バトルマスターが彼女を護る盾となり。


 ともすれば気の合う方とは言い難かったくらいの仲だったのに、どうして庇ってくれたのかと疑問を抱いたところ。


「お前の技能スキルは、要の1つだ……その点、俺ァ愚直に戦う事しかできねぇ……解ったら、さっさと先に征きやがれ……」


「ッ、でも……!」


「征きましょう! 本当の意味で死なせない為に!」


「〜〜……ッ! 後で、説教だからね……!?」


「……生き返れりゃあ、な……」


 死霊術師ネクロマンサー召喚士サモナーとともに一行の脚としての役割を全うしているからこそ彼らはフリードの速度に負けずサレスを護衛できているのだという事を武闘匠バトルマスターは深く理解しており。


 その2人と同じか、それ以上の要とも言える強化術師もまたそれを察し、説得を受けた死霊術師ネクロマンサーは涙ながらに駆ける。


 永遠の別れとなるかもしれない──と、そう感じながら。


(……ショセン有象無象。 脅威と成リ得ルハ、アノ矮小カツ悍マシキ下等生物ノミ。 昇格ノ刻モ近イ、コレナラバ──)


 一方、1人ずつとはいえ確実に戦力を削る事に成功し続けているエルギエルは位階昇格の方が先に訪れるかもと余裕を抱いており、もはや最優先とするまでもと楽観視していた。


 ……が、その瞬間──。


『──……ッ?』


 またも、エルギエルの肉体がぐらついた。


 しかし、それは先ほどのものとは明らかに違う。


 傷を負ったから? 恐怖を覚えたから?


 ……否、断じて否である。


 ほんの一瞬とはいえ、エルギエルの全身を襲ったのは。


(何ダ、今ノ感覚ハ……コノ私ガ下等生物ノヨウニ──)











(──……『気怠イ』、ナドト感ジヨウトハ)


 ()()()()()()()()ような、奇妙な感覚だった。

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