1人、また1人と死にゆく中で
触手の薙ぎ払いによる、胴体の両断。
それは、誰がどう見ても手遅れという他ない即死。
「おい嘘だろ!? まだ数分と経ってねぇってのに……!!」
「【神秘術:治癒】、いや【神秘術:蘇生】を──」
だとしても仲間を放ってはおけない、と【銀の霊廟】が。
最序盤で戦力を減らすのはマズい、と【紅の方舟】がそれぞれの理由から彼を助けるべく動き出そうとしたその瞬間。
「は、あ"……ッ、しれ……!!」
「リー、ダー……!?」
完全に上半身と下半身がお別れし、もはや焦点も合っていない黒ずんだ瞳でこちらを見つめる聖騎士が何かを叫んだ。
マリアを助けられなかったら、これが遺言になるかもしれない──そう思った【銀の霊廟】が全力で耳を傾けた時。
「疾、れぇッ!!」
「「「「……!!」」」」
聞こえてきたのは、たった一言の〝鼓舞〟。
誰が死んでも振り向くな、と背中を押したのだ。
元よりマリアを救えるなら、この命は捧げる気でいた。
これが遺言になるとしても、そんな事は関係ない。
だから、気にせず疾れ。
類稀なる殺人の才能を持つ少年を、あの天使の喉元へ。
「〜〜ッ!! 征くぞお前らァ!!」
「「「……ッ、応!!」」」
そんなリーダーの意志──もとい遺志を誰より先に感じ取った武闘匠は、『色恋に現を抜かすヤツは早死にするって言っただろ』と舌を打ちつつも【武神術:覇気】を残った仲間を我に返す為に使い、それに呼応した4人が再起する中。
「……早々の脱落は褒められたモンじゃねぇが、ちっと見直したぜ【銀の霊廟】。 〝弔い合戦〟なンて陳腐なセリフを吐かねぇのも気に入った。 残るは7人、1人でも多く──」
中衛として広い視野で戦場を見渡しながら高速で駆けていた【紅の方舟】の忍者は、これまで散々こき下ろしてきたCランクの竜狩人たちの思わぬ根気に感心するとともに、先達として少しはカバーしてやるかという老婆心が湧き上がりかけていた時、彼の背後から忍び寄っていた一本の触手が。
「──え"、あぇ……?」
「ひぃ……ッ!?」
「「……はッ」」
後頭部から顔面を通り抜けるように、彼を一瞬で貫いた。
先ほどの聖騎士同様、明らかな即死。
一番近くに居た【銀の霊廟】の強化術師などは思わず悲鳴を上げたが、【紅の方舟】の他2人はあまり驚いていない。
何故なら今、触手に貫かれたのは──。
「ッと悪ぃな、そいつは分身だ! ついでと言っちゃあ何だがコイツを喰らってけ! 【忍法術:五行】──」
忍者の技能、【忍法術:同形】による身代わりだからだ。
そして次なる攻撃を繰り出す為に触手が引っ込もうとした瞬間、それを隙と見た彼は高速で印を結び技能を発動する。
「──【火遁:熱隊矢】ッ!!」
触手と同じとまではいかないが、中々の本数の火矢。
1本1本が並の迷宮を彷徨う者の息吹と同等かそれ以上の威力を持っており、これだけでも彼の優秀さが見て取れる。
彼は、それが人生最高の火遁であると確信し。
「はッ、天使ともあろう者が人間に騙されるとはな!」
「人間を見下してっからそうなんだよ高慢野郎が──」
他2人も、彼の火遁が今までで1番の火力だと太鼓判を押した上で散々自分たちを蔑んできた天使を嘲笑おうとした。
……が、しかし──。
「「「──……は?」」」
彼が放った火矢の弾幕は、いつの間にか消えていて。
『……〝白炎〟ハ、アラユル位階ノ天使ニ許サレタ唯一ノ権能。 聖ナル炎ハ、ソレ以外ノ炎ヲ邪ト看做シ──浄化スル』
それが触手の1本1本に纏わされた白炎に触れた事で浄化され無力化されたのだと知った時には──……もう、遅く。
「ッ、はは……こりゃあ、敵わねぇわ……」
「馬鹿野郎! 見惚れてねぇで避け──」
彼が放ったものとは比較する事さえ馬鹿らしくなるほど巨大な1本の矢──もはや破城槍と称しても遜色ない白炎の塊が放たれた結果、先の火遁が〝最高〟でも何でもなかった事への絶望より先に、迫る白炎の美しさに魅入られてしまい。
魔剣士の叫びも虚しく、忍者は白炎に呑み込まれ。
『──残スハ8匹。 ソレヲ置イテ逃ゲルナラ止メマセヌガ』
「〜〜ッ、サレス!! 死んでもコイツを殺すぞ!!」
「は……はいっ!」
思わず蔑称も忘れて呼んでしまうくらいには期待していた事を知ってか知らずか、サレスの【爪】にも気合いが入る。
対照的に、少しずつ心が冷えていくのとはまた別に。




