気にせず疾れ、誰が死のうとも
そうと決まれば、話は早い。
「いいか穀潰し! なるだけ限界まで送り届けやるつもりではいるが、ハッキリ言ってアレをまともに喰らやぁ俺らもテメェも即死だ! ひとまず迅豹竜から落ちねぇ事だけ考えろ!」
「そして僕らが何人死んでも振り返らない事。 いいね?」
「……っ、はい!」
「はッ、上等じゃねぇか! 征くぞテメェら!!」
「「「「「「「応ッ!!」」」」」」」
『CHEEEETAAAAッ!!』
要がサレスと解っている以上、一行が為すべき事は与えられた〝護衛〟という役割を果たす事と、マリアが無事に救助される事を信じて命を捨てる覚悟を持つ事、ただそれだけ。
8人全員がそれを心から理解しているからこそ、サレスが先ほどのような冷徹な暗殺者に戻れるように鼓舞し、それを察してかそうでないかは定かでなくとも、ひとまず黒い瞳に決意が宿ったと見た8人とフリードが駆け出していく中で。
『……』
「フュリエル? どうかした?」
『えっ? あぁ、何も──』
フュリエルは、エルギエルではなく別の方を見ていて。
それに気づいたユニが『何か気になる事でも?』と問うたものの、そこまで大した事ではなかったのか、フュリエルはすぐさま気を取り直しつつ視線を元に戻そうとしたのだが。
ユニを相手に嘘や隠し事はできないという事を痛いほど理解していた彼女は、すぐさま首を横に振って気を取り直し。
『──……いえ、〝アレ〟はいつ目醒めるのかと』
「アレって──……あぁ、アレね……」
下等生物を気にするのは癪だが、ユニをして『戦闘不能になる事で真価を発揮する』と言わしめる存在が今後どのような力を見せるのかという事に一部とはいえ意識を持っていかれていると明かしたフュリエルに、ユニは溜息をつきつつ。
「何て言えばいいか……アレは、そう──〝怠け者〟でね」
『怠け者……? どちらかと言えば……』
当然ながら止血もしておらず、あのまま放っておけば間もなく失血死する筈のレイズを、あろう事か侮蔑極まる名詞で呼び表したものの、フュリエルはどうにも疑問が拭えない。
先ほどまでのレイズは、〝怠け者〟というより──。
「〝無能な働き者〟、って印象かい?」
『……えぇ、まぁ』
まさしく、本当にまさしくそう思い浮かべた矢先に心を見透かされた事で多少の驚きはありつつも、これまでも何度かあったではないかと己を諌めて主の二の句を待ったところ。
「そう思うのも無理はないけど……ま、いずれ解るよ。 そのうち嫌でもアレが動かなきゃならない状況に陥る事になる」
『と、仰いますと?』
「そうだなぁ、例えば──」
ユニはまるで他人事のように意味深な発言をし、その状況とは何ぞやとフュリエルが問い返すのと同じタイミングで。
「──うぐ、あ"……ッ」
「ッ!? リーダー!!」
前線に居た【銀の霊廟】のリーダーである聖騎士が、そこそこ強固な筈の盾に【盾操術:剛壁】まで付与した事で得ていた高めのDEFごと巨大な触手で胴体を真っ二つにされ。
あまりに突然すぎる仲間の死に【銀の霊廟】が動じる中。
「彼らの全滅後、死に体の筈の自分が狙われる──とか?」
おそらくは実例になってしまう、ユニの推測が呟かれた。




