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竜化世界で竜を狩る 〜天使と悪魔と死霊を添えて〜  作者: 天眼鏡


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標的変更、役割を果たす時

 ……警戒すべきは、【最強の最弱職(ワーストゼロ)】と上位存在フュリエル


 少なくとも、エルギエル自身はそう確信していた。


 それゆえ【狂奔術:狭窄(アイズユー)】ほどとまでは言わずとも、よくよく見れば眼球の形をしており立派に機能させていると思われる部位で〝自らを殺し得る存在〟にだけ視覚を集中させ。


 可能な限り不要な情報を削ぎ落とす事により、()()()()()()()()まで牽制できればそれでいい、と本気で思っていた。


 ……その判断が最善だったかは、何とも言えない。


 そもそもの前提として、ユニとフュリエルを相手に時間を稼ぐなど、それこそ現役のSランク狩人ハンターでも容易ではなく。


 熾天使セラフィムに昇華して初めてSランク狩人ハンター相当の力を得る事ができるかもしれない、という時点で決して最善とは言えず。


 加えて、追い討ちをかけるように現れた小さな暗殺者アサシン


 生まれついての〝死神〟との、偶発的遭遇。


 運が悪かった──と言ってしまえばそれまでだが、この場においての〝不運〟がそのまま死に直結する事は明白である以上、下等生物と言えど不安要素は取り除かねばならない。


『……忌々シイ事コノ上アリマセヌガ、目的ト標的ヲ変更シマス。 目的ヲ〝時間稼ギ〟カラ〝異分子ノ最優先排除〟、標的ヲ〝【最強の最弱職(ワーストゼロ)】ト熾天使セラフィム〟カラ〝危険度不明ノ下等生物〟へ。 コノ代エ難イ屈辱ハ、命デ贖ッテイタダキマス』


「え……!? 何、が……!?」


 ゆえにエルギエルは、柔軟に目的と標的を変更する。


 何故それを脅威に感じているのかも全く解らない、あの弱く小さく臆病だった筈の下等生物を真っ先に処分する為に。


 そしてエルギエルがそう宣言した瞬間、サレスのみならず全員が注視する中、巨大かつ不気味な天使像が姿を変える。


 うねうね、ぐちょぐちょと、まるで触手の1本1本が意思を持っているかのように絡み合って変化したその姿は──。


「──アレは……〝神殿〟、か……?」


「……ッ、気持ち、悪い……」


 もはや天使としての姿さえ失い、とてもではないが戦闘に向いている形とは思えぬ、神々しくも禍々しい触手の神殿。


 魔界や冥界のものだと言われた方がまだ納得できる、あまりに巨大で不気味なその建造物にユニとフュリエル以外の全員が目を奪われてしまう中、サレスは独り愕然としていた。


(さっきまでと、何もかもが変わって……! というか──)


 確かに、何もかもが変わっているのは間違いない。


 しかし、それはサレスやユニ以外でも見れば解る外見の話であって、サレスが驚愕と絶望を抱いていたのは別の要因。


(──【暗影術:刺殺(バイタルパート)】が、機能しなくなった……!)


 相対した生物の急所を見抜く筈の常時発動型技能パッシブスキルが、エルギエルの変化に伴い機能しなくなった事の方が重大だった。


 これこそが、エルギエルの狙い。


 言うなれば、〝殺されない為の形態〟。


 いくら何でも【人型移動要塞(ニアフォートレス)】には劣るだろうが、それでも迷宮を護る者(メイズガーダー)息吹ブレス程度では傷一つ付かないほどのDEF(物理防御力)MND(特殊防御力)を得たかの存在をサレスの【爪】で殺す事は不可能。


 ……殺意そのものは欠片も衰えてはいない。


 他の技能スキルまで使えなくなっているわけでもない。


「……っ、どう、したら──」


 だが、如何に生粋の殺人者とはいえ殺せない存在モノに対する殺意を維持し続ける事は難しいのか、今の今までに殺人者モードだったサレスが穀潰しモードへ逆戻りしかけていた時。


「おいおいビビってンのか穀潰し! 俺らを忘れンなよ!」


「与えられた役割くらいは、こなさなければね……!」


「っ、皆さん……! でも、アレはもう──」


 ややあって着地には成功していたサレスとフリードの傍に駆けつけたのも束の間、即座に陣形を整えた8人の狩人ハンターたちが少年を鼓舞するも、当のサレスはすっかり穀潰しモード。


 しかし、そこはサレスより狩人経験の長い先達狩人たち。


「……解ってる。 アレはもう、私たちの手に負えるような存在じゃない。 でも大丈夫、きっとマリアさんが生き返らせてくれるから。 貴方は遠慮せずに、アレを殺してちょうだい」


「Cランク風情が……と言いたいとこだが正論だな。 テメェはテメェの役割を果たせ、ホドルムを殺った時みてぇによ」


「……! は、はいっ!」


 完全に自信を喪失した新米を鼓舞する方法も心得ていたのか、8人全員から1人ずつ肩や背中、或いは頭を軽く叩かれた事で状態好化バフに似た鼓舞を受けたサレスは再び前を向き。


(そうだ、今は独りじゃない……ボクにも、仲間が──)


 単独で活動していた首狩人バウンティハンターの時とは違う、たとえこの瞬間だけだとしても同じ志の仲間が居る事に心強さを覚え。


 9人と1匹は、あの醜悪極まる神殿へ挑む覚悟を決めた。











「あ〜……そうなっちゃうか、ちょっと違うんだよなぁ」


『ユニ様? 如何されました?』


「ん? いや、何でもないよ」


『……? そう、ですか』


(それじゃSランク(わたし)には届かない、君はあくまで殺人者──)











(──仲間ごと敵を鏖殺するくらいの狂気がなければ、ね)

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