己が役割を全うせよ
『コレヨリ狙ウハ強者ノミ! 縛リ、貫キ、薙ギ払エ!!』
「来るぞ! 備え──」
次の瞬間、巨大かつ不気味極まる天使像から放たれたのは今までとは比較にならぬほどの触手の弾幕であり、足掻きと呼ぶにはあまりに激しい攻撃を前に一行が武器を構えるも。
「──……!? 僕たちを、素通りして……!?」
「雑魚は眼中にもねぇってか……!!」
幸か不幸か、その弾幕は彼らを完全に通り過ぎる。
魔剣士が見抜いた通り、眼中にもなかったのだ。
彼らの向こうに立っている、或いは宙に浮かんでいる絶対強者たちの存在を思えば構っている余裕などないのだから。
……幸か不幸か、と言ったが。
「っ、好都合、です! 皆さん、征きましょう!」
「穀潰し風情が指図してンじゃねぇぞ!」
「言われなくても解ってんだよこっちは!」
「す、すみません……! でも、今は──」
そう、これが不幸なわけはない。
舐められてはいるのだろうが、目的が目的である以上。
見下されているぐらいが、ちょうどいい筈で。
「──いがみ合ってる場合じゃない、それは僕たちだって解ってる。 指示通り、あの天使の喉元まで君を送り届けよう」
「一端の口を……まぁいい、しくじンなよ穀潰し!」
「は、はいっ! お願い、フリード! ボクを運んで!」
『CHEEEE……ッ、TAAAAAAAAッ!!』
「強化術師の状態好化、最初から全種全開でいきます!」
「【霊障術:骸骨】! 脚に自信がないなら乗りなさい!」
「征くぞ野郎ども! 迅豹竜に遅れを取んじゃねぇぞ!」
「「「「「「「応ッ!!」」」」」」」
サレスのみならず全員がそれを理解しているからこそ自責する事も苛立つ事もなく、ただ役割を果たす為に動き出し。
「さて、何人が生き残れるかな──っと、フュリエル」
『お任せを』
どうせ殆どは後々【輪廻する聖女】に生き返らせてもらう事になるだろうけど、と興味なさげに彼らから視線を逸らした途端、ちょうどエルギエルが放った弾幕が肉薄してきた。
もちろん自分で処理できるが、いくら処理したところでユニのLvは上がらず、当然ながら戦闘意欲も上がらない為。
『荼毘に付せ、造反者よ──【聖なる光槍】、〝渦潮〟』
『……ッ!!』
「マジかよ、あの馬鹿げた物量の触手を……!!」
「一瞬で、灰も残さず焼き切った……!?」
「位階が2つ違うだけで、あれほどの差が……ッ」
さらっと任せたフュリエルが顕現させた光槍をくるりと緩やかに回転させただけで発生した白炎の渦は、エルギエルが放ったもののみならず待機させていた触手までもを焼滅させ。
前進しつつも弾幕の行方を見逃してはいなかった一行の目に映る光景に、敵ではないと解っていても畏怖する一方で。
(ヤハリ座天使相当デハ足リヌ!! 時ヲ、稼ガネバ……!!)
解ってはいた事だが、相手は最高位の熾天使。
1つ位階が上がったところで、まだ適う相手ではない。
身命を賭した時間稼ぎが必要だ、そう確信したエルギエルが通用しないと理解したうえで再び触手を放たんとした時。
『……? 今、何カガ──』
視界の端を、何かが通ったように見えた。
残像を残すほどの高速でありながら、音も立てずに。
だが何も起こっていないならいい、ユニたちをその場に留める事だけ考えるべきだと思考を切り換えた瞬間、位階を更に向上させつつあったエルギエルの身に、異変が起きた。
『──ッ!? ナ、ンダ……!?』
そう呼ぶには異形が過ぎるが、他に言いようもない。
身体が、ぐらついたのだ。
少し前に戦った【白の羽衣】でさえ傷一つ負わせられなかった、そして今はもう第2位階の智天使相当に成りつつあるエルギエルの悍ましい巨躯が、何らかの要因によって。
ユニとフュリエルは、その場から動いていない。
では一体、何が──困惑するエルギエルの聴覚が。
「……あれ、おかしいな」
『……!?』
そして視覚が、異変の要因である小さな存在を認めた。
縮小化の効果を持つ迷宮宝具を外し、迷宮を彷徨う者相応の体躯を取り戻したフリードを駆る、矮小極まる少年を。
その少年が装備する、血と粘液に塗れた鋭い【爪】を。
「修正、しなきゃ……急所の位置と、タイミング……」
『何ダ、コイツハ……! 音モナク、ドコカラ……!』
「次からは気をつけるといいよ、エルギエルとやら」
「この場で君を殺せるのは、私たちだけじゃないんだから」




